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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
大賢者と試練
71/98

2ー3


俺はといえばイヴに引きずられるようにイヴァースへと連れ込まれる。

着ている薄衣のローブは紐で結んであるだけなのでイヴの手であっという間に剥かれる。

「着ていてはだめなのか?」

「だめ」

「……あ、そう…」

全裸で過ごす習慣はない生活をしていたのでどうしても羞恥がのぼるがイヴはお構いなしだ。

再びベッドチェアに座らされると今度はイヴが馬乗りに俺の上に乗ってきた。

「イヴ?」

寝そべる形になる俺の胸元に手を置いて神力を込めだした。

いきなり押し込められる神力に俺は違和感と軽い圧迫感が上り、息が上がりだした。

それでも注ぎ込まれる神力に流されるように意識が混濁しだした。

「く、…あ…」

押し込まれた神力に活性化するように俺の中から浄化の力が零れだす。

イヴとおれは同じ輝きに満たされ辺りを覆いだす。

イヴァースは浄化の力で辺りが輝きに包まれる。

共鳴するように泉や樹木も同じ輝きを発していたがおれはそれどころでなく擦り切れそうになるにもかかわらず落ちそうにない意識を保つので精一杯だった。

「…イヴ…だめだ。こ、れ、以上…は…」

イヴァース全体が神殿を覆うように浄化の光で包まれる中、浄化と共に回復もイヴァースを突き抜け聖地エジャルナをも覆いつくすほどの力が外へと拡散されていった。

千年ぶりの御子の帰還はそれまでにエジャルナに溜めていた膨大な負の力や魔素の乱れをも整調するにはかなりの浄化が必要だったようだ。

イヴの力を注ぎこまれ引き出されるように浄化の力が活性化し拡散した後、俺はさすがに意識を留めることができなかった。

魔力切れからの体調不良ではなく純粋に疲労からだった。

さすがにやりすぎた意識がイヴにあったのか俺はイヴァースから神殿の一室に運び出されて安静にすることになった。


翌日俺は神殿の一室で空腹から目が覚めた。

派手に腹が鳴ってしまい起き上がる。

ベッドの上で胡坐をかくように座ると着ている服が薄衣一枚だったことに気がつく。

 ああ、そうか。浄化の途中で意識を失ったんだっけ…

ベッドの横に水差しが置いてあったので、のどを潤して腹を少し宥めた。

ホッと一息つくと起きたことに気がついたのかタテが部屋に入ってきた。

「お目覚めになられましたか」

「ああ、腹減って目が覚めたよ」

「リュウ様、お着替えもお持ちいたしました」

「ああ、助かるよ。イヴに服を剥かれて何にも着ていないから足元が涼しすぎて…」

「かわりにいつもの服をお預かりしてもよろしいですか?」

「ん?聖別か」

「はい」

言われるまま服を手渡して、おれは衣を脱ぎ、渡された衣服を手に取る。

その時ノック音の後に確認もせずにクリスが入ってきた。

「きゃ!」

クリスは俺を見て軽い悲鳴を上げた。

「悲鳴を上げたいのは俺のほうだ。さっさと入るなら扉を閉めろ」

呆れるように俺はクリスを見た。

「あ、ごめんなさい」

クリスはそう言って慌てて扉を閉める。

「随分と運がいいのか悪いのか。着替え初めに乱入とは…」

「ど、どうして何も着ていないのよ…」

「どうして、といわれてもな。イヴに昨日、全部剥かれたからな」

言いながら俺は下着をはいた。

「だって昨日は…」

「ローブの下は全裸だったんだよ」

「あ…」

「ところで何かあったのか?」

クリスは首を横に振った。

「ううん。今日のリュウは何か予定が入っているのかなって」

「いや、予定はないな。ただ、調べ物があるから神殿の中を少し歩きたいとは思うが…」

「調べもの?」

「ああ」

俺はそう言ってイヴから渡された本を手元に召喚した。本の中を軽く捲って確認する。

「大賢者への試練の門というのがこの神殿の中にあるはずなんだ。それをもう少し調べる必要がある」

「試練の門…ですか?」

「その本は?」

クリスが手に持っている本に興味があるようだ。

「大賢者のススメという本だ。試練を越えなければ大賢者にはなれん。これにはいろいろと書かれてあるんだ」

「そんな本があるんだ…」

「この地にだけあるんだろうな。試練の門も聖域と対になっているという話らしいからエデンにもあるんだろうがここのほうが管理はされていそうだしな」

「試練の門かぁ…。やっぱり一人でしか行けないのかしら」

「いや、天職の間のあるフロアは条件に該当する者しか入れないようだが門からその天職の間までは同行者がいてもいいらしいな。だが同行者がいても試練はあるらしいから心技共にともに熟練者が望ましいと書いてある」

本を脇に置いて俺は服を取る。

その時クリスは何を思ったか俺の首に腕を回してきた。

「なんだ?」

おれはクリスのその動作から軽く屈む。

そのまま唇を奪われて息が乱れる。とっさにクリスの腰に手を添えた。

クリスが満足したのかしばらくして口を解放するとクリスは首に腕を回したままジッと俺を見て言った。

「リュウが誰を愛していても私たちを邪険に扱わないことは知っているから私たちは平気よ」

「クリス…?」

「私たちは全員、傍に居たいからいる。確かに悔しいけどそれでも私は、私たちはあなたを愛しているの。貴方以外ではこういう事をしたくないとさえ思っていることは同じなの。それを忘れないで」

クリスが何を言いたいのか知ったのか俺は気がついた。

クリス達は気がついたのだ。俺の中に特別が存在してしまったことに。

「クリスティーナ…おれは…」

「満たされない想いが辛いなら幾らでも私たちが溺れさせてあげる。一時の逃げが必要なら私たちを使っても構わないの。必要としてくれるなら」

俺はさすがに驚いていた。

「嫌なのは拒絶されることなの。距離を置かれることなの。みんな誰よりも傍にありたいの。泣きたい胸が必要ならいくらでもかまわないの。みんなリュウを心配してる」

クリス達は俺が思う以上に俺に心寄せてくれていたことに驚きながらも嬉しかった。

同時に俺を癒したいと思ってくれていることにも、特別がいても構わないと受け入れている心を痛いほどわかった俺は少し心が軽くなった気がした。

「……ありがとう……」

それだけしか言えなかった。

「気に食わないのはこのキス後なのよね…」

「え…?」

腕の中のクリスが軽く低い声で言って首筋に痛みが走るほどのキスで吸い付いてきた。

その時思いだした。いまだに彼女のキス後が首筋に残っていることに。

さすがに頬が真っ赤に染まる。

「ク、クリス…」

首筋にじんわり痛みを感じているとクリスは俺を見上げてきた。

その目はいたずらをしたような小悪魔な目に見えた。

「貴方は私たちのものよ。一人だけ後をつけるなんて気に入らないわ」

あまりのクリスの激情に驚きながらも嬉しい感情が上った俺だった。

「不覚を取った証をそんな風に言われると困る…」

真っ赤に染まっている俺を満足気に見てクリスは言った。

「不覚を取った?」

「………。眠っているうちにつけられたんだ。不覚以外、何でもない…」

「眠っているうちにって…、それ凄いわね…。羨ましいわ」

「羨ましいって…。そんなこと感じる必要はないな」

「どうして。私たちはあまり熟睡してるリュウを見たことはないわ」

「そんなことはない。最近は皆と眠っていても警戒はしてないこともあるから」

「そうだと嬉しいわ」

クリスはやっと腕から離れた。

俺はこれ以上何かされる前にと渡された服を着こんで身だしなみを整えてから食事のためにと部屋を出た。

クリスも俺の腕を取って一緒に向かう。

「ちょうど昼食でよかったわ」

「そんな時間だったのか。イヴに浄化をギリギリまで使われたから疲労から意識が飛んだからな」

「聖地を抜けて周辺地域にまで浄化が及んだという話よ。それだけでなく回復呪文効果まであったというから凄いわ」

「そうか。俺はとてもそれどころではなかったからな…」

そんな雑談をして食堂に入ると海たちや他の側室メンツもそろっていた。

俺の姿を見るなりクリスが腕を取っていたのを見てあからさまにほっとした顔を浮かべた優美たちがいた。

「兄さん」

おれは安心させようとして笑みを浮かべる。

「心配いらん。情けない話だ。誰よりも彼女らを信じていなかったのは俺のほうだったというのはな」

用意されていた席について昼食をとる。

ほっと一息入れていると神官がやってきた。

「?」

「教皇様よりお伺いいたしておりますが御子様は大賢者への転職のためにこちらに来られたということでよろしいのでしょうか?」

「ああ、用意が整い次第試練に向かうつもりだが試練の門がどこにあるか知っているのか?」

神官は少しためらいを見せた。

「それが…、この千年以上大賢者の条件を満たしたものが現れなかった為管理が行き届いておりませんので地下にあるという事しか伝わっておりません」

「!」

さすがに驚いた。

「場所がわからないと?」

「はい、教皇様も引き継いでおられなかったようでございまして…」

「………。この神殿内をくまなく調べ歩いても構わないのか?」

「それは構いません。御子様の散策出来ない場所などこの神殿にはありませんが一部の場所は御子様以外立ち入れない場所もございます。ですがそのような場に試練の門はあることはないでしょう」

「だろうな…」

「門探しというわけね」

「そうなるな…」

 広い神殿地下となるとかなりの広範囲になるな。だが聖域と対になるのもだから最古の地下というとある程度は絞れるか

「神殿用に地図とかなさそうだから地味に探すしかないか…」

「地図なら神殿外に持ち出しと複製はできませんが簡易なものでよければありますがお使いになられますか?」

「あるのか?」

「はい、物が物なので高レベルの司祭と教皇様にしか手にできないものですが…」

「簡易でもかまわない。目安にしたい」

「わかりました。お持ちいたします」

「でも俺のために持ち出しても平気なのか?」

「教皇様よりできるだけ要望は応えるようにと仰せつかっておりますので…」

「助かる」

おれは自然と笑みが浮かんだ。


俺とその側室や部下たちと共有している客間に移動していた俺に神官がやってきた。

ほどなく神殿内の大まかな地図が俺の手元に持ってきてくれたのだ。二人がかりで持ってきてくれたその地図は薄手とは言え今でも貴重な魔術紙で書かれてあった。

持ってきてくれた神官に疑問があることをぶつけてみた。

「この地図。結構古そうだが…?」

「神殿内部は五百年前の大改築以来大きな変化はありませんので、大改築時のものだそうです」

「凄いわ。五百年前のものという事ね」

「そんな貴重なものをありがたい。魔術紙というだけあり複製も持ち出しもできないということに納得がいくな」

「地下入り口をお探しという事でしたので一階部分だけをお持ちいたしました。不要になりましたら扉の外の神官に声をおかけください」

「ありがとう。心使い感謝する」

「いえ、千三百年ぶりの大賢者が誕生するかもということで神官一同期待いたしております」

「いい報告ができるように頑張らねばな…」

「うふふ、そうですわね」

持ってきてくれた神官か退室するとおれは地図を丹念に見つめ調べた。





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