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リナが消えた朝、エジャルナへ再び移動を開始した俺は無事何事もなく夕方に到着した。
冒険者カードでエジャルナに入った俺は時間が時間なのでひとまず安めの宿を一日だけ取り、夕食は出ないのでギルドの酒場で腹を満たすことにした。
転職を調べるのは明日にするか
酒場のおすすめの日替わりディナーときつい酒を頼んで食事を楽しみつつも、リナの事を考える。
不思議な少女だったな。この国の言葉を使っていなかったのに気がつかなかったとは…
そう、別れた後、気がついたのだ。言語自動翻訳があるせいで気がつかなかった。俺たちは彼女の言語で話していたのだということに後から気がついた。
もっと早くに気がつくべきだった。この世界で言語は一つだけの共通語だということに
そしていなくなってからいろいろと気がついたことがある。
あの時は夢心地で夢の出来事と思っていたのだがどうやらそうではなく彼女は別れ際にかなり濃厚なキスを俺にしていた。
しかも首筋に痕に残るほどのキスまでされていた。そこまでされてなお俺は起きなかったのだ。
不覚すぎるだろ……俺…!
思い出してしまい頬が熱を持っていることを自覚していた。
酒をあおる。
香里菜以外でこんな不覚をとるなんて…
ふと気がついた。この感情には覚えがあることに。あってはならない感情だった。
おれは……
頭を抱えてしまった。この感情の意味することに気がついてはいけないものだった。
己の中で否定すればするほど感情は肯定してくる。
気の迷いだ!
俺はリナの事を考えるのをやめてから熱を持った頬を軽く叩いて気を取り直し、無理に食事を終え酒場を出ようとした。
出ようとした俺と入ってきた人たちはお互いを見て驚いた。
「兄さん…?」
海たちだった。
リュウが城を出た翌朝、海たちはゲートを使い最寄りの町まで行きそこから颯で移動すること三時間、海たちは颯を使いエジャルナに到着した。
観光と言えども覇王の側室様御一行である。
それなりの宿に泊まってひとまずエジャルナの街にそれぞれ良い食事処を探すなりギルドに行くなりとそれぞれ個人行動をしたその日、タテはエジャルナにリュウが来ているのかを調べていた。
結果としてリュウは来ていなかったことが判明した。
「俺たちが早すぎる移動なんだよ。きっとまだ移動していてこっちに向かっているんじゃないかな」
そう言ったのは海だった。
「ゲートはすごいよな。長距離がゼロになるんだから」
「だからこそ通れる者は限定する必要があるんですよ。私たち使い魔やリュウ様の身内設定されている側室様達や海様たちは基本、警戒度はありませんが同行者は違いますので注意する必要があります」
「そうだね。テロされたらとんでもないからね」
海たちはその後ギルドで受けていた依頼を遂行することになるのだがその魔物の討伐に丸一日費やすことになる。
このエジャルナ周辺の魔物はそれなりに強い魔物がひしめきあっており聖地という名のせいなのか魔物が少ない印象が強いのだろう、冒険者は少なかったのだ。
それだけでなくこの聖地周辺に町はあまり多いほうではないため来にくいという事情もある。
海たちが討伐に精を出している頃、聖地ならではの特徴で図書館には転職の事が載っている書物もあるのだが一番多いのは回復呪文の魔導書の多さだ。
そんな魔導書を読みふけっているのが側室たちである。
いろいろと勉強になるのかリューイ達も混ざっているからうまくやっているのだろう。
翌朝さすがに本読みに飽きたのだろう側室たちはショッピングに出たようだった。
海たちは引き続き討伐に出ていた。腕が鈍るとリューイとエリーゼも伴っていた。
そうして夕方頃討伐を終えてギルドに報告のために酒場に入ろうとして出てきたリュウと遭遇したのである。
指輪の効果を切り、したたかに酔っていた俺は、驚きはしたものの酔いがさめたわけではないので海の肩を軽く叩いて素通りしようとする。
そんな俺を引き留めるのはエリーゼとリューイだった。
「どこへ行くのじゃ」
腕を握って引き留める。
「どこって宿に帰るんだよ。離せよ」
振りほどこうとするものの酔っている上にリューイの握力は自分よりも強いので振りほどけないでいると海たちも前方をふさぐ形で遮った。
立ちふさがった海に軽くイラついた俺は海に向けて息を吹きかけた。
その息の匂いに海の眉根が寄る。
「兄さん、酒臭いな」
「ひひひ、強い酒を飲んだからな。酔いたいから酔ってる」
いい加減に腕がうざくなったので強引に腕を振りほどく。
そんな俺の両肩を握りリューイは強引に抱き寄せてきた。
俺は酔っているので簡単に拘束される。
「そんな状態で放っておくわけにはいかん」
「兄さん、なんでそんなに深酒をしたのさ?」
「…………酔いたいから酔っただけだ」
俺は頭の端で酔いすぎだと警告が湧き上がるがそんな警告はすぐに消える。
「それよりもリューイ…」
「なんじゃ?」
「お前、いい匂いがする…」
「へ?」
驚くリューイを楽しそうにおれは腕の中でもっとよく見たいと体の向きを強引に変えると勢いよく首に腕を回した。
背丈はリューイが高いので少しかがむことになるリューイはあまりにも大胆なリュウに驚いていた。
「あ、やばい。兄さん、ダメだよ。こんなところで!」
海は事態を即座に把握した。
そんな海の静止をもろともせずに俺はリューイの唇を奪った。
「……!」
さすがにリューイは驚きされるままになる。
熱烈なキスをして抱擁を解くと俺は何かが違うと眉根をしかめた。
「なんか違う…」
「え?」
リューイは驚き俺を拘束できずにいた。
「兄さん、だめだってば!」
慌てる海を見て俺は海の頬を両手で抑えるとそのままキスをする。
さすがに事態に慌てるのはエリーゼも同じだった。
「いけませんわ。リュウ様は深く酔いすぎていますわ。キス魔になっているのですわ」
エリーゼが慌てて引きはがしたがそれでもおれは違和感しかない。
「これも違う」
エリーゼたちの制止も振り切り俺は覚ににじり寄る。
さすがに身の危険を感じた覚は後ずさるが少し遅かった。
再び覚の頬をガッツリと抑えてキスをする。
だがこれも違った。
「こんなに硬くない…」
さすがに周囲がにぎやかになるのでリューイとエリーゼが二人がかりで俺を拘束しにかかる。
ズルズルとおれは引きずられて海たちの宿にと連れ込まれた。
俺はといえば酔いが回りすぎてされるままになっていた。宿に着くころにはすっかり落ち着いてしまい睡魔が襲っていた。
「…………」
宿に着いて海たちがリュウを連れているのをタテは驚いた。
さすがにタテは一瞬驚いたが即座に自分を立て直して夢心地になっている俺を抱き上げる。
抱き上げてそのまま武器や靴をはがしてベッドに寝かせたのである。
翌朝俺は起きぬけにひどい頭痛と共に吐き気を催した。
急いで飛び起きトイレに駆け込むとそのまま吐いた。
吐き気がなくなりホッとする間もなく頭痛が襲う。
さすがに頭に手を抑えて呻いた。
そんな俺に声をかけてきた。
「飲みすぎですよリュウ様…」
さすがにその声に驚いて声のほうを見上げるとタテがそこに困り顔で立っていた。
「え」
周囲を見ると見たことない部屋にいることに驚く。
「ここ何処だ?」
「私どもが泊っている宿です。昨日海様たちがリュウ様を連れておいでだったので驚きましたよ」
そこで思い出した。
そうだ、ギルドの扉で海たちに会ったんだっけ…
さすがに頭痛がひどすぎるのだが吐き気があったこともあり飲み薬のオールはさすがに飲めそうもないので魔法を自分にかけた。
『キュアオール』
頭痛がやんだのでほっと一息ついた。指輪の効果を入れた。
「さすがに酒が強すぎたな…」
とはいえ飲まずにはいられなかったんだが…
床に直に座っていた俺は立ち上がる。
慌てて飛び起きトイレに駆け込んだこともあり辺りを見回す。
大き目のベッドには真ん中が空いており、空いていた両脇にクリス達が眠そうに瞼をこすっていた。
酔っぱらって眠ってしまった俺を囲むようにいつものように眠っていたのだろう事が予測できた。
さすがにベッドに行く気にはなれなかったので一人掛けの椅子に座る。
少し自己嫌悪に陥った。
椅子に座り頭を抱える。
おれは酒に逃げたかったんだ…
そう事実から目を背けたかった。
どんなに目を背けても己の心をごまかせない。
香里菜………。君に逢いたい………。逢って違うと思いたいんだ…
香里菜を想うほど逢いたくなる。
同時に湧き上がる思慕と哀惜。
そして同じような想いで湧き上がるリナへの想いだった。
自然と涙がこぼれた。一度こぼれた涙は止まらなかった。
変わりたくない想いまでも上書きされそうで堪らなかった。
声も上げず泣いた。
そんな俺の様子がおかしいのはタテも気がついたのか聞いてきた。
「なにかありましたか…」
おれは下を向いたまま首を横に振った。
言葉にはできないものだった。
なぜだ……。一日同行しただけのどこの誰とも知らない少女だろ…
否定したかった。
心には今もなお香里菜がいるにもかかわらず同じ想いで同じ場所に彼女が住みだした。
そんな声も上げずにうなだれて泣いている俺に目を覚ましたステラが俺の頭を抱いてきた。
「泣かないで…」
温かかった。だが心の奥に湧き上がるこの心を静めるには至らなかった。
同時に申し訳なくてステラの抱擁すら外した。
首を振ることしかできなかった。
一言だけしか言葉にできなかった。
「……今の俺には君にふさわしくない……」
「ふさわしいなんてそんなもの必要ないわ…」
俺は首を横に振った。
「俺が嫌なんだ…。君らを苦しめたくない……。今は誰も俺を埋められないから…」
またも涙がこぼれた。
周囲にリューイ達全員が寄ってきていたことは知っていたがどうすることもできなかった。
しばらく無言が続いた。
そして俺の口から絞り出すように一言だけ本音がこぼれた。
「…………香里菜に……逢いたい………」
今ほど香里菜に逢いたいと強く思ったことはなかったかもしれない。
本当に死なれた以来の感情だった。
転生と側室の彼女らのおかげで塞がれた心の傷が再び生々しく開いてしまった。
その時イヴから声が聞こえた。
【リュウ…安らぎを求めるのであればおいでなさい…】
イヴからの召喚は初めてだった。
「………イヴ………」
初めて顔を上げた。上を見ると光があった。
俺は縋りつきたくて手を翳し応じた。
おれは召喚されその場から消え、イヴァースへと誘われた。




