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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
大賢者と試練
68/98

新章です。

この章は色々と転換の章でもあります。


この章のどこかでタイトル(備忘録)が出ます。出すつもりはなかったのですが上手く結実した感がでたので採用しました。


次章の8章でエンドを迎える予定ですが上手く勢いが出ればいいな。

補完話もあるので8以降も書く予定です。



  7章 大賢者と試練

   1


フローラが城へと滞在し始めてからおれは大賢者への転職するためにはどうすべきかを調べていた。

転職条件を満たした以上、賢者の職をクラスアップすることを本気で考え始めたのだ。

だがそれは困難を極めた。国の書には書かれているものが一つもなかったのだ。

大賢者時代の記憶があれば簡単だったのだろうが封印されたままの今の俺では難しいのが実情だった。

そこで俺はこの世界でも最古の歴史を誇る最小の国へと行くことにした。

そう、聖地エジャルナだ。

実はあまり知られていないのだが大賢者は賢者の職と司祭の職の上位に当たる職なのだ。

魔法系の最上位職。それが大賢者だ。

因みに武系の上位職である聖騎士と騎士、武神にも最上位職はある。英雄という職だ。

俺の王者の職はこの英雄職の別名でもある。別名なのは俺がイヴ神の御子扱いだからだ。

通常は英雄と呼ばれる俺のこの王者職は通常の型を通った転職ではないため別名になっている。

故に英雄スキルは持っていない。ステータスの数字にのみ反映されている職だ。故に賢者の後に記載されているのである。

とはいえ職に持っているので武系のスキルは比較的習得しやすい特徴があるのだが持っていなかったのは先代覇王と先々代の大賢者が武系に興味がなかったという事だろう。

司祭からの転職は教会務めでなくなってしまう印象が強く、忌避されがちで世間に知られていないのが実情だった。


その聖地エジャルナへの旅を俺は初め、一人で行くつもりだった。

だが当然だが傍を離れたがらない奴らがいる。そして一人旅などさせられないと言い出す奴も。

前科がたくさんある俺なので強く言い出せるはずもなく結果としていつものメンツが同行することに。

だが同行したところで試練を受けるのは自分であり一人で試練を踏破しなければならない。

心配なのはわかるがこればかりは避けられないことだ。

大賢者の転職には試練があるということは知ることができたのだ。

「…………」

俺はといえば一人で行くことを諦めてはいないので一人で行かせまいとしてキバたちが俺を玉座に縛り付ける手段に出ている。

どこかへ移動しようものなら必ず誰かが同行するという徹底のしようにさすがに辟易していた。

玉座のひじ掛けに置いた手の指をコンコンとならしているおれは、かなりイラついていた。

因みに颯は同行することを考えているのか一階に置いて準備中だ。

魔力はすでにフルにしているので問題はないが今回は使う気はない。

イラつきから使い魔疎通と共有を一時的に遮断しているせいもありキバたちは必死だ。

「………………」

「リュウ様…お考えを直していただけませんか。我らは心配なのです」

「………。心配なのはわかるが過保護すぎる」

「ですが」

「黙れ」

おれは立ち上がる。

「リュウ様」

「一人にさせろ。部屋に戻る」

俺はそう言い放ち自室に戻り、窓のないベッドルームに入るとキバたちを締め出して鍵をかけた。

「…………」

おれは部屋でジッとする気はない。

収納から作った魔術人形を取り出した。

この魔術人形は大した機能はないが一つだけ特化している機能がある。偽装が特化しているのだ。こんなこともあろうかとロビンを配下に加えてから得たロビンの知識とおれの魔術を掛け合わせて作った俺特製の偽装人形だった。

魔力を込めればその魔力の持ち主の気配と姿を写しあたかもそこにいるように偽装できる仕上げだった。

人形をベッドに横たえて、ふて寝しているように見せかけて自分に隠匿魔法を掛けつつ人形に魔力を込めた。

そのまま転移魔法で城を出た。

行先はカイエルからはるか南にあるエジャルナにも比較的近い覇王遺跡だ。

ウィリアムの記憶からの転移だった。

転移してすぐ認識ずらしのメガネをかけてバイクを取り出した。

メガネの上からゴーグルをかけてバイクを動かし移動した。

 ひさしぶりの一人旅は気楽でいいな。前もって準備していた甲斐があったな


連合国内の街は立ち入るつもりはなかった俺は連合国の南東にあるエジャルナへ順調に移動していた。

広い連合国内でカイエルは比較的連合国内においてもやや北に位置するので領内は南に広い。

ブルーヴェル港町は最北端でそのカイエルからブルーヴェル港町の間の距離よりも倍の距離がカイエルとエジャルナにはある。

因みに遺跡からエジャルナへは、実距離は近いのだが移動となるとかなりの距離がある。

というのもエジャルナと遺跡の間には大きな渓谷が横切りそれを大きく迂回することになるからだ。

昼過ぎに城を出たので夕方まで移動に費やした。

夜になると移動は危険なので少し道をそれてバイクから降りた。

バイクを仕舞い四隅に野営用の結界を張ってそこにテントを広げる。

カイエルで調達していた食材を使い軽く調理をして食事をとるとその日は休んだ。



その頃の城はといえば、大騒ぎになっていた。

夜になり食事の時間になってもなおリュウが部屋から出てこないので心配になり鍵を開けたキバが身代わりの偽装人形に気がついたのだ。

使い魔スキルを遮断されていることもあり脱走に気がつかなかったのである。

「確信犯だね。身代わりまで置くなんてすごいな」

海は感心していた。

手際が良すぎたからだ。

「心配ではないんですか海様は…」

「それは心配だけどさ」

覚も頷いた。

「心配は心配ですけど隆さんはこの世界でもトップクラスの剣士で賢者ですよ。そう簡単に隆さんを害せる存在がいると?」

「それに転職は基本一人で受けるものでしょう。私たちが同行して何かできるとも思えないわよね」

「隆さんなら大丈夫。信じているから」

「ここの所、リュウは一人きりになることが無かったから鬱屈していたのかもしれないわね」

ステラが最近のリュウの様子に心当たりがあった。

「でもやっぱり一緒に行きたかったわ」

クリスが寂しそうにつぶやいた。

「そうね」

「キバさんも心配なのはわかるけどリュウ君は元々一人で何もかもしてきたから大丈夫よ」

「そうだな。十二歳になる前にはすでに村の近隣の魔物は狩りつくしてしまったからと国境を超えることもしばしばあったくらいだからな。よほどの事でもない限りは大丈夫だろう」

エリアーナと父エルドが言った。

「それにリュウ君はああ見えても私たちと同世代の精神年齢だから本当に助けが必要ならキバさんたちを呼ぶはずよ」

「私どもは………リュウ様を心配するあまり信じていなかったのですか…」

キバは愕然としたのだった。

「そうかもしれませんわ。使い魔共有でしたっけ。リュウ様と繋がっていたからこそ見えていないこともあっただけですわ」

「せっかく用意したのじゃし、エジャルナに行ってみるかえ?」

「観光ってことかしら?」

「いいですわね。ほぼ女性だけでの旅もよろしくてよ。エジャルナに行けば会えるかもしれませんし」

「じゃあ俺たちが護衛ってことで」

「タテさん、颯の予備魔力はあるんですよね?」

「もちろん予備に二つ持っておりますのでエジャルナへは問題なく往復できます」

「タテさんたちはどうしますか?」

「部下を三名連れて同行いたします。きっとリュウ様なら守れとおっしゃるでしょうし」

「そうしてくれ。私は城に残ります」

キバがそう言った。

そうして一同はエジャルナに近い町までゲートで飛び、颯を使い移動したのだった。


リュウは野営をした翌日順調に移動して平原から森へとバイクを走らせていた。

その道中、バイクに設置されているサーチの板に不審な人の集団があった。

不審というのは人同士で敵対していても戦闘扱いになることがあるからだ。

その敵対している者たちは明らかに一対大多数で不審以外何でもないからだ。

それもほぼ光点が重なっている状態なのも気になった。普通は立っているだけならこれほど重ならないからだ。

リュウは気分が悪くなった。何をしているのか理解したからだ。

 これだけ重なっていると一方的な暴力以外何でもないな…

バイクを停止した。

見て見ぬ振りができそうもなかった。

 香里菜…。君が見たら自己満足だというかな…

バイクを仕舞うとその集団のほうへと足を向けた。

やがて男達の耳障りな声が聞こえてきた。

はやし立てる声と下品な笑い声と布が破ける音だった。

近くの大きめな石を拾った。

勢いよく明らかに馬乗りになっている男の後頭部に向けて石を投げた。

鈍い音が響き馬乗りになっていた男は衝撃で気を失い横に倒れる。

周囲の男たちはさすがに俺に気が付いていきり立ってきた。

「お前らこんな朝っぱらから何してんだよ。見たところまだ子供じゃないか。そんな子供相手にその気になるなんて、よっぽど日照続きなのか?」

俺は呆れた声で言った。

「てめえには関係ねえだろうが!」

「こんな優男気に入らねえよなぁ!」

「一人で騎士のつもりか!」

「殺っちまえ!」

男たちは俺が一人と気がついて優位と思ったようだった。全員が武器を抜いた。

一斉に俺に向かってきた。

だが所詮は盗賊とさほど変わらない武器捌きである。リュウの完全防御の前にはかたなしだった。

俺は修羅を抜くことなく全員叩きのめした。

「な、なんだコイツ。やべえよ。逃げろ!」

男たちは慌てるようにその場を逃げた。

男たちが逃げるのを確認してから俺は暴行されていた少女を見やる。

まだ十二歳前後のような黒髪の少女は破かれた衣服を寄せて隠すように怯えていた。

収納からあまり使っていなかった大き目のタオルを少女の肩にかけるように渡した。

「危なかったな」

「………。貴方はしないの?」

「あんな盗賊みたいなやつらと一緒にするな。子供に手を出すほど女に飢えていない」

「……ありがとう」

「しかし荷物は奪われたのか?」

というのもこの少女。周囲に荷物らしきものが一つもなかったのだ。

「あまり荷物は持たないようにしてる」

「替えの服はあるのか?」

「大丈夫」

「そうか立てるか?」

「…………」

見ると少女の脚はまだ震えていた。

おれはいたわるように姫抱きに抱えた。

「少し移動しよう。ここは死角で危険だ」

「あ、あの…」

「怖いなら下ろそうか?」

少女は横に首を振った。

「………。そんな状態で放置なんてできるわけがないだろ」

「ありがと」

か細い声で少女は言った。

しばらく歩いてそれなりに見通しのいい場所に少女を下ろした。かなり汚れているので野営キットをだして火を熾して水を温めてタオルで湿らせて少女に渡した。

「これで汚れを落とすといい。かなり汚れているからな」

少女が汚れを落としているうちに時間が時間なので昼食にすることにしたリュウだった。

熾していた火で昼食用のスープを作っていると背後から汚れを落としたのか少女が着替えてきた。

タオルを持っていた。

「もう少しで昼飯ができるから待ってな」

タオルを受け取り、スープを見つつ、水魔法でタオルの汚れを落とし水分を乾かしてから仕舞った。

少女は俺のすぐ隣に座った。

「一人か?」

頷いた少女を見ていると不思議な気分になった。

なぜだか、傍にいるのが当たり前のような感じがあった。そして同時にそれが嬉しかった。

程よく煮えたのでスープをすくい一つは少女にパンと渡した。もう一つは自分だ。

少女はジッとスープを見つめていた。

「毒なんて入ってないぞ」

そう言って俺はスープを飲む。

「どうしてここまでしてくれるの?」

「どうしてって…。放っておけなかっただけだ。気にするな、ただの自己満足だ」

「自己満足…?」

「昔にな、さっきのお前のように男に遊ばれた女性が居たんだ。お前のように未遂でなかったから酷く傷ついていたことを知っていると見て見ぬふりはできんよ」

「…………。その人、立ち直ったの?」

「……。いや、その前に死んだよ」

「………………。ごめんなさい」

「きにするな。昔の事だ」

「でも…」

「気にしないようにしているんだ。君は未遂だった。それで充分だろ」

「ありがとう」

しばらく無言だった。

黙々と昼食を終えて一息つくと俺は聞いた。

「君、どこへ向かおうとしていたんだ?」

「…………」

「俺はな、あっちにある聖地エジャルナへ向かう途中だったんだが最寄りの町まで送ろうか?」

「………いいの?」

「移動ついでだからな。君、名前は?」

「………リナ」

俺は名を聞いて嬉しく思った。少しは警戒を解いてくれたらしいことに。

「リナ、ね。いい名だ。俺はリュウだ」

リナはその名を聞いて少し驚いたようだ。

「覇王と同じ名前…」

「はは、偶然だよ。どこにでもある名さ」

そうして俺たちは一時の同行者となった。


少女を後部に乗せ俺はバイクで移動していた。少女は俺の腰に腕を回してしがみついていた。

おれは背中に少女の体温を感じ安心して身を任せてくれていることに嬉しく思っていた。

「このあたりに町はないからな。少し時間がかかるか…」

 不思議な子だな。このあたりに町はないのにもかかわらずほぼ手ぶらで一人。それもどうやら人とあまり接触していないようにも見える。バイクにもすぐに慣れた様子だし…

そうして街に着くよりも先に目的地のエジャルナに近くなったところで再び野営をすることになった。


夕食を食べ終えてからリナをテントの中に入れて自分は外で休むことにしたのだがそれはリナが強固に反対した。結界があるので問題はないのだが、持ち主を外に出して休むことなどできないと譲らなかったので仕方なく同じテント内で休むことになった。

その夜不思議な夢を見た。とても幸せだった夢だったが翌朝の俺の記憶には残らなかった。

ただ、幸福な気持ちになったことだけは覚えていた。


翌朝目が覚めたらリナという少女は消えていた。

寝具は残されていたので夜のうちに俺から離れたのだろうと思われた。

俺といえば驚いていた。出て行ったことに気がつかなかったのだから。

そして黙っていなくなられたことに残念に思った。

気を取り直しておれはエジャルナへと向かうことにした。




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