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世界樹から解放された俺だったが一月以上もの間拘束された上に食事もろくにとっていなかったので体は衰弱しきり、手足もろくに動かすことも困難だったのでロビンソンの屋敷の主寝室と同じ広さと警備の備えた客間の住人と化した。
いくら自己栄養生産スキルがあり周囲の魔素から栄養素を補助できるので食事いらずでも動かなければ体力と力は落ちる。
自力で歩くこともおぼつかない体だった。
解放されたその日のうちにロビンソンの屋敷に入った俺はそのまま城から女官を連れてきたキバによってその身は入念に綺麗にされ、屋敷に常備してあった肌着に着替えさせられて寝具の住人になる。その日は結局重湯を軽くとってから意識が失うように眠った。
リュウの奪還を知ると、当然のように心配した側室らが入り浸る。その中には里から帰還していたリューイも混ざっていた。
心配した側室らが一番に気にしたのはその体の年齢だった。
何しろ十歳の子供の体なので戻れるのか心配したのだ。
過去で状態を見る時間はなかったのでその心配は俺にもあったので窓で確認をしたのだった。
リュウ=クドウ=マリノス *
職業=賢者45・王者31
HP=18689-658
MP=19532-7460
力=2756-200
素早さ=1998-150
集中=2841
魔力=6774-20
魅力=68759
運=8500
特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔力操作・魔道具作成・使い魔召喚・使い魔疎通・使い魔共有・息吹(限定)=MAX・覇剣術・弓術=中級・竜魔法(限定)=初級〉
呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済・時空=上級・召喚=中級・独自魔法=超級Ω〉
スキル〈鑑定β・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納Ω・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・魅了・完全防御・魔物浄化・転身・魔法合成・多数詠唱無方陣最速化・竜化(限定)・飛行(限定)〉
固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証・叡智の結晶・覇王の覇道記・叡智の魔術記(現在使用不可)〉
EXスキル〈超回復・超吸収・自己栄養生産〉
〈称号〉
覇王を継ぐもの・竜王の後継者・獣王に認められしもの・世界樹の神子・ハイエルフの始祖・アルフ神の器・女神の愛を得る者・神の卵・輪廻を統べる者・異世界を旅するもの・時をかける者・大賢者の卵・ドラゴンスレイヤー・獣を狩るもの・魔を消すもの・聖を滅する者・全能の魔法師・聖人・魔人王・教皇の友人
勝手に称号も出る。
どうやら称号が加わると表示されるようだ。
膝の上の猫のエリーゼも窓を注視している。
両サイドにはステラとクリスが陣取り、背後に座って俺を後ろから抱きすくめているのはリューイだった。何度言ってもみんな離れないので俺が折れた結果の配置だった。
「称号が増えているわね」
「本当ね。世界樹の神子って…」
「それよりも時をかけるものという称号があるぞな。時とは時間の事かのう?」
「そうだろうな。あの時、獣人国宝物庫で出来上がった呪文がタイムリープ呪文という代物だがこれは設定した時を遡り帰還するまでその身の時間を止める結界が働く呪文だからな」
「それって今回のきっかけだった呪文という事?」
「危険なのではないのかのう?」
「危険なことはないんだ。本来なら帰還呪文もセットになる呪文なんだが今回は世界樹がその呪文を取り込み消してしまったようだからな」
「その場に残そうとして?」
「ああ」
俺は窓を注視していた。
「さすがに能力が半減以下の数字は凹むな…。魔力が一番下がり切っているか…」
「大丈夫よ。動けるようになればほとんどは元に戻るわ」
「ああ、何としても元に戻してやるさ。魔力もやっと鍛錬できる程度に回復したからな」
「それよりもその姿じゃ」
「ああ」
おれは状態を確認するのにさらにタップした。
自己栄養生産のスキルがまたも入っていたのでそこで切る。今回大活躍したスキルだった。
そこには状態異常に時間遡行マイナス5年と書いてあった。
「マイナス5年か。5歳若返っているということだな」
そこをさらにタップすることができるので見るとカウントがあった。
51/60 DAYと書いてあった。
「どういう意味かしら?」
「60日の時間遡行で51日経っているということだな。時間遡行中は時間が止まる結界があるから帰還後にカウントされたということだな」
「つまりこの可愛いリュウは後数日そのままという事ね」
「可愛いと言われるのは気に入らないがこの姿は後9日そのままなのは事実だな」
そう言って俺は窓を消した。
「ふふふ、どこまで若返ったのか気になるではないか」
「リュ、リューイ。どこ触ってるんだよ…」
もぞもぞとリューイがおさわりを始める。着ている服がエルフの着物一枚なので酷く簡単に剥かれる。あっという間にリューイの指は急所にたどり着く。
「よせって…」
施される愛撫に抗うように首を横に振る。
「よいではないか。皆、リュウの居ないこのひと月ほどは寂しい想いをしていたのだぞ…」
耳朶をかまれた。その感触にびくりと反応してしまった。
世界樹に拘束されていた3千年、肉体は時間停止していたので変化はないがそれでも精神は眠っていただけなので、それなりに長い時間を過ごしていたリュウにとって刺激的だった。
徐々に体温が上がりだす。
「うふふ、体は素直じゃないの、リュウ」
さすがに抗うが力も半減した上に子供のような体格ではうまく抗えないでいると肯定するように両脇のクリス達も混ざってくる。
さすがに顔が朱に散った。
「だからって……ん…」
クリスは頬を抑えるとそのまま言葉を封じるように唇を奪ってきた。
リューイに煽られ、いいようにもてあそばれた俺は四人の側室たちにおいしく頂かれてしまった。
煽られた末に疲れ果てて意識をさらわれた俺は翌朝に後頭部の柔らかな温かい感触に目が覚める。
身動きをしようとして俺を上にのせるような形で眠っているリューイに気がついた。肩先から首にかけるように腕に包まれていることに気がついた俺は身動きをやめた。両腕には別の体温と柔らかいものにしがみつかれているようだった。
太もも付近には別の重しを感じるのでエリーゼと判断するには難しくはなく完全に身動きできない状況に目が覚めるまでそのままにいることにした俺は側室たち全員が俺の居ない孤独で寂しかったのだと痛感したのだった。
しばらくして一同は各々目を覚ました。
「すまなかったな…酷く心配をさせてしまった…」
「妾たちはまだ良いほうじゃ。リュウの母殿が心配しすぎて倒れてしまわれた。申し訳なく思うのならば早う元の体調に戻って元気な姿を皆に見せてたもれ…」
「母さんが…?」
「ええ、今回もここがエルフ郷でなければ自分も行くと言っていたのよ。面倒を見ると言い張っておいでだったわ」
「制止して引き留めるのに苦労致しましたよ」
そう言って部屋に入ってきたのはタテだった。
「タテ…」
「皆さま、リュウ様のお身体を禊いたしますのでお連れ致してもよろしいですか?」
各々俺にキスを降らせて離れてくれた。
タテに抱えられてうまく歩くこともできない貧弱な自分の体を見つめてため息が出る。
「これが俺の体とは…情けないな……」
俺はまずは歩く練習を始めることにした。
痛みはあるものの立つことはできるので伝い歩きのように壁に手を付き机に手を置き歩き出した。
壁伝いに客間から出てゆっくりと食堂に向かう。
背後にはタテが控えていたが俺の意志を尊重して見守るだけにしてくれたのはありがたかった。
意識的にスキルの超回復を入れていたからこそ無茶ができた。
この調子なら2.3日もすれば戻るか…
食堂の入り口の扉の前に立つとタテが開けてくれる。
「あ、リュウ様。歩かれても平気なんですか?」
丁度昼食時だったので食堂にいたのはロビンソンだった。
「ああ、動かないと動けないままだからな。痛むが動きたいんだ」
「やはりリュウ様のお持ちの異世界の知識は素晴らしいですね」
「?」
「リュウ様ほど人体に詳しい方はこの世界ではほぼいませんよ」
「何を言ってる。おれは基本的なことしか知らんぞ。専門的な知識など門外漢だ。まぁ、親代わりだった人を看病したことがあるからその程度の知識だぞ?」
「いえいえ、この世界ではその基本的な知識すら発見されていなかった事ばかりですから私からすればリュウ様の知識は素晴らしい知識の宝庫です。おかげで魔術人形の開発が凄く進みました。生をやり直すきっかけと共にこのような知識までいただいて感謝しております」
「何かしたわけでもないのに褒められると困るな……。でもロビンの食事………、それ米か?」
「え、そうですよ。御存じでしたか、エルフ郷での一般的な食事ですね。米とミソスープと野菜の漬物は」
「懐かしいなあと思ってな……」
「ああ、そういえばこの米料理とミソスープは始祖の知識を発掘して改良した料理が始まりと言われていますからリュウ様が起源でもありますよ」
「え」
俺はさすがに驚いた。
「他にも始祖の知識を発掘し改良した文化はたくさんありましてね。この木材を使った建物もそうですしエルフの伝統的な種族衣装もリュウ様が起源なんですよ」
「まじか…」
「はい」
にこやかにロビンは笑った。
背後のタテがさらに言ってきた。
「今回このエルフ郷にゲートがつながったことで城の料理長らが興奮いたしましてね。以前よりリュウ様の知識の中にあった料理レピシを実践できると言って、帰ってこられた時のためにと完全再現を目指していたらしいんですよ」
「料理長のジェフが?」
「そうなんです。この料理は城の料理長の努力の結晶でしてね。元からあるエルフ郷の味とどう違うのか試食してほしいと言われて出されたものなんです」
「ジェフがここにいるのか?」
「はい、リュウ様がこの屋敷で静養されると知るとすぐに来ていろいろと始めたようで…」
「困った奴だな…。城は放ってきたんじゃないだろうな」
「それは大丈夫です。部下たちは優秀なので任せられるまでになりましたので」
そう言って答えたのは食堂の奥の厨房から出てきた料理長のジェフだった。
「ならいいけどあまり任せすぎにはするなよ?」
「もちろんですよ。でも、ここに送り出してくれたのは部下たちの希望でもあるんですよ」
おれは案内されるままゆっくりと食堂の奥の上座に座る。意外と食堂と客間は洋風の間なのでテーブルと椅子だった。
「そうなのか?」
「はい。皆、リュウ様に喜んでいただきたい一心なんです」
椅子に座るとすぐに食事を女官が運んできた。
目の前に並べられる料理を見て軽く驚いた。
どう見てもお粥とみそ汁だった。
「これ…」
「いつも重湯では口飽きるとおっしゃられておいでだったのでリュウ様の知識から病人用の食事の、この料理を作ってみました」
「これをわざわざ作ったのか?」
「リュウ様に喜んでいただけるならとみんなで思いまして…。お気に召しませんでしたか?」
俺は首を横に振った。言葉にできないほど嬉しかった。
その感情はさすがに使い魔たちに伝わってしまったようだ。
タテやロビンソンが笑みを浮かべた。
ジェフにも伝わったのか嬉しそうに笑っていた。
「リュウ様、温かいうちに召しあがってください」
「……ああ……」
置かれていた箸を手に持って俺は久しぶりの和食を堪能したのだった。
それから数日後、普通に走ることができるようになったころロビンソンからエリクサーを投与するまでは完全なエルフ姿だったのだと聞かされた俺は窓を入念に調べた結果、本当にエルフ姿を持っていることに気がついた。
クリフの時は人形の影響の姿と割り切っていたのだが、そうではなく俺の姿を投影していたのだと聞かされれば気になるというもの。
転身スキルを使いエルフになってみると本当にクリフの姿そのままだった。
そう、長い耳先が真っ白な髪を割りながらも髪は長く垂れ下げ、人形時よりも長かったその髪は腰にも差し掛かろうかという長さにもかかわらず痛みがあまりない艶のある髪だった。
逆行している自分の年齢である少年の姿はそのままに、ヒューマ時代の名残か蒼い瞳は変わらない色を姿見の鏡は映している。
色素の薄い肌はビスクドールのような整った姿を強調しておりどこをどう見ても一般的なエルフで、それも美形の部類に入る姿だった。
歩く練習を始めた頃から元の冒険者用の服を着ている俺だったが魔力の持ち主に合わせる形で伸縮しているこの服は基本黒が多い服だ。白い肌が浮き出るように見えた。
「なんか服が似合わない気がする……」
ぼそりと呟いた。
「……そんなことはありませんよ、リュウ様」
傍にいたタテが否定してきたがその顔は複雑な顔だ。
姿見で自分を眺めていると開いた扉から黄色い声が飛んできた。
見るとクリスとステラとエリーゼがこちらを見ていた。
「その姿エルフよね?」
「あ、ああ…。今日ロビンからこの体で変化していたと聞いてな。調べたら本当にエルフ姿を持っていたんで試しにと変えてみたところだったんだ。だけど…」
再び姿見に映る自分を見る。
「悪くはないんだけど浮いて見えるわね…」
「そうなんだ。この姿…シンプルなデザインは似合わない気がする…。かといって派手すぎるのは嫌だしな…」
「リュウ、破軍を着てみてはどう?」
ステラだった。
「破軍か…」
言われるままに破軍を収納一覧から選択して着てみる。
「…………。似合わないわけじゃないんだが…、しっくりこないな」
「そうね」
その後、いろいろ収納から取り出し着てみるがどれもしっくりこなかった。
「むう…。後はもう着物しかないな…」
「キモノ?」
「正装ですか」
「正装?」
「エルフにとって着物は正装です」
いろいろエルフ姿で服を着ていると知ったロビンが入室してきての第一声だった。
ロビンに視線を送ると背後のエルフの女官の手には大きな四角い箱を持っていた。
「それは?」
「実は日巫女様がリュウ様にと」
「おれに?」
「はい、今回の一件でお詫びを兼ねてぜひ着ていただきたいと特注でおつくりになられていたリュウ様用の着物です」
おれはその着物を見る。
「魔道具か。上等なものだけど魔術付与がされていないな」
「はい、リュウ様が魔力にも特化なされているのは日巫女様も知っておいでですのでリュウ様本人が付与するのが一番良いだろうといわれて未付与のままなのです」
俺はそれを聞いて着物を手に取って見る。
どうやら俺の知識を基に作ったという話は事実のようで完全に和服だった。とはいえかなり派手な柄が描かれているが。
「貸せ」
「着付けを手伝わせます」
「………いらん。一人で着れる」
「え、ですが…」
「順番に渡してくれればいい。着慣れている」
「は、はい」
おれは周囲の視線も構わずに着ていた服を仕舞い下着姿になる。
手渡される順番もたしかにそのままだった。
手慣れた手つきでサクサク着ていると感心しているのか皆無言だった。
懐かしいな。忘れていたと思っていたが覚えているものだな…
最後に収納から修羅を取り出した。
取り出すのも久しぶりだったせいか修羅は機嫌が悪かった。
「…………」
機嫌を治してほしくて鞘と柄にキスを落とした。
マシになったのを確認して腰に差した。その腰の感覚も修羅には久しぶりだったせいもあり機嫌は途端によくなる。
今の自分には少し大きい腰の修羅の微調整をして着終わるとタテが姿見を正面に置いてくれた。
「お似合いです。リュウ様」
タテが一言呟いた。
自分の髪が下ろしたままなのが気になり収納から紐を取り出し一纏めに後ろで結んだ。
……いい感じだ。少し派手な柄が気にはなるがまぁいい…
「どうだ?」
クリス達に聞いてみた。
「…素敵…」
「見とれちゃうわ……」
「懐かしいお姿ですわ……」
三人ともどうやら見とれているような感じだった。
「しっくりきたな。ロビン、日巫女殿にお礼を言っておいてくれ。とても感謝していたと」
「はい」
にこやかに笑ったロビンだった。
「魔術付与をどうするかだな。せっかくだしセット装備に設定して後で考えよう」
その後この着物の付与は結局、状態保全と防魔と防衝、防汚を付けた形になった。
日巫女より着物を貰った翌日、クリスは疑問に思ったらしい。
もうすっかり体調は元に戻ったのだからなぜ城に戻らないのかと。
それについてはやるべきことが残っていたので滞在しているのだがあまり言いたくないことだったので理由は告げなかった。
ハッキリ言えば人待ち状態だ。
彼女の性格からしてそろそろ限界だからここに来ると思うんだがな…
そう人待ちとは姫巫女フローラが来るのを待っていた。
何故待つのかといえばクリフとの線引きをはっきりさせておくべきだからだ。
そんな中で予想通りフローラが昼を過ぎてから屋敷を訪ねてきた。
俺に聞きたいことがあるという。
やっと来たかといった感じだ。
その時間俺は体の鍛錬を終えてクリス達全員とゆっくりしていた時だった。
ステータスも鍛錬と超回復スキルのおかげで元に戻っていた。
「わざわざここまでお越しいただいたことに感謝申し上げる、姫巫女殿」
「え、ええ」
「俺に聞きたいことがおありとか?」
「ええ、そうなのだけどそれよりもこの郷にはいつまでご滞在の予定ですか?」
「ああ、そのことについては明日城に伺う予定でしたのでちょうど良かった」
「といいますと?」
「すっかり体調も良くなりましたので明後日には自分の城に戻るつもりでした」
「そうですか…」
フローラはどうやらかなり聞きづらい件のようだ。
「そういえばロビンから聞いたのだが目が覚めるまでの間に姫巫女のお持ちの魔術人形に自分の自我が移っていたそうですね」
パッとフローラの顔が明るくなる。
相変わらず、わかりやすいな
「覚えておいでなのですか?」
期待のまなざしを向けていたその目に少し罪悪感がこみ上げたが表情には出さなかった。
「いえ、申し訳ないが全く記憶にはありませんので」
「そ、そうですか……」
明らかに酷く落胆したようだった。
「聞きたいことというのはその事ですか?」
「え、ええ」
「かなり仲よくしていただいたようでロビンに冷やかされましたよ」
「実は母様にそれを知られてしまいまして…」
「何か問題でも?」
「はい……。どうやら母様は始祖様である覇王様にわたくしの相手をと考えているようでして…」
「すこしロビンから聞いているのですが日巫女は代々女性が務めるものだそうですね」
「はい」
「次代に変わる際には必ず母であることも必須だそうですね。なんでも選ばれた男を数名集め、子を宿すまで覆面をして日替わりで相手をするとか?」
姫巫女は真っ赤になった。
俺のそばにいたクリス達はさすがにそれは初耳だったのか驚いていた。
「はい……。本来ならばそうなるはずだったのですがどうやら長老衆と日巫女様の総意で始祖様をこのまま放逐するわけにはいかないと決定させたようなのです」
「それは……」
さすがにそこまで頭が固い連中だったのかとおれは呆れた。
「私にはそれを拒否することはできません。ですがあの時の記憶が覇王様にあるのなら…と」
「受け入れることもたやすいとお考えですか…」
「はい…。何よりも当事者であるはずの覇王様になにも言っていないこともいけないだろうと思いまして今回、無断でこちらに…」
俺は考えた。
「この世界の種族決定は母体にあり父親にはない事は世界中でも知られている事実ですからハイエルフの貴女がヒューマの俺の子を宿したとしても生まれるのはハイエルフになる。その事実から俺を種馬にしようと…」
「はい」
フローラはさすがに俺を見つめることができなかった。
「受けるの?」
クリスが聞いてきた。
「わからん……。だが可能性はゼロではないな。どちらにせよ決定権は俺ではなく姫巫女だろう」
「わたくしですか?」
「ああリューイと同じ形だな。種族としての維持を目的という形は同じだな」
「なるほどね…」
クリスは納得したようだった。
「俺に決定権はない。あるとすればそれは姫巫女が本気で俺を必要とするか否かということだな。それに俺はその気になればハイエルフになることもできるからな」
「始祖だものね。どのエルフよりも濃いエルフという事ね」
「ああ、そういう意味でもリューイと同じなんだよ。決定権は俺ではなく複数の妻を持つ俺の元に来るだけの覚悟と気持ちがあるのかということだ」
「この世界でも珍しい一夫一妻制だもの、エルフたちは…。そういう意味ではむずかしいわね」
ステラが率直な事実を述べた。
「今の俺には彼女らだけではない。他にも妻がいる。そして彼女らは全員が納得して俺の傍にいるという事実も姫巫女殿は覚えておくといい。その上で決断をすればいい。5人目になるか否かは姫巫女次第だな」
「そ、それは…」
「俺からすればそれは難しいだろうな。今この状態に嫌悪感を抱いている以上俺の元には来ないほうが賢明だ。日巫女殿の唯一の後継者の姫巫女殿の相手をするには重すぎる。それにそんな中途半端な気持ちで来られても迷惑だ」
自分の抱いている嫌悪感に気がつかれていた事へ驚いたフローラだった。
「……そうね。私たちは全員、リュウ以外の人とはお断りな気持ちがあるもの。その想いはみんなが理解して実感しているから認め合っていられる事実がある。そんな気持ちもない人にリュウの傍にいてほしくはないわ」
あまりこの姫巫女とクリスの仲は良くはないようだなと思った俺だった。
宥めるように隣にいるクリスの頬にキスを落とす。
「これ以上側室を増やしたくない気持ちはわかるがそれくらいにしておけ。醜くなる」
「……ん、もう…」
それを見たステラが腕を引っ張る。
俺はさすがに笑った。
「手間のかかるやつらだよ…お前たちは…」
ステラにも頬にキスを落とした。
二人して俺の肩に寄りかかる。俺のほうが背丈は小さいのだが触れていたいのだろう。
そんな二人の気持ちを汲んで二人の寄せてきた頭を抱きしめた。
「とにかく話は理解したんでこちらからも手は打たせてもらう。それでいいかな姫巫女殿?」
「……はい」
どうやら最後のこの二人の空気に自分の割って入る場所はないと実感したようだ。
二人に感謝しないといけないな。淡い初恋の思い出で終わらせることができそうだ。




