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フローラがロビンの屋敷に訪れた翌日、予定通り俺は城を訪れ明日で自国に戻ることを日巫女に伝えた。
もちろん城に着て行った服は貰った着物だ。
その際にフローラから聞かされた提案を聞くことになる。
その件に関しては実は本国のフィニアスに報告と共に意見を求めた。
フィニアス曰くそれもアリだという。
婚姻という名の側室としてエルフの王族、それも王の後継者である姫巫女が相手となればエルフの日巫女の血統に覇王の血筋が入るというのは願ってもない事でありそれを口実に鎖国を解き外交と共にエルフとの交易も再開できるからだ。
実はエルフとの交易は国としてはうまい話なのである。
唯一の交易国として潤うからだ。
判断は俺に一任してくれた。
何よりも俺自身のことだからだ。
フィニアスには申し訳ないがこの日巫女からもたらされた姻戚話は、おれは受けるつもりはない。
姫巫女・フローラのことは確かに少なからず俺の中では好意に値する感情もある。
クリフ時代の感情だ。
だが同時に俺の中には拒否する感情も確かに存在するのだ。
その理由は既に理解している。
彼女は俺と世界樹の花からもたらされた子孫だからだ。
その拒否感は半端なものではない。彼女自身が強烈な想いを俺に寄せているのなら今までのように折れるが今のところそうではない。
なので、日巫女のその提案に対する俺の答えは決まっている。
「その話は非常に魅力的な話ではあるがお断りを申し上げる」
「なぜじゃ?」
おれは冷ややかに正面に座する日巫女を見た。
「では、聞くが貴殿なら己の孫から求婚を受ければどう答える?」
「それは…」
俺の言いたいことに理解したようだった。
「倫理的な、道徳的なものだ。俺の中で貴殿を含めてハイエルフは全て俺の子孫。そのような相手に子を残すような行為をする道徳など持ち合わせてはいない」
「そうか…」
そう言いながらも日巫女はしつこそうだと俺は思った。
諦めた目ではないな……。もしかして記憶があることを知っているのか?
「なんにせよ貴殿らは俺の子孫という認識はしているのでな。困ったことがあれば相談には乗ろう。間にロビンソンを経由してくれれば良い。これで失礼する。行くぞタテ、キバ」
「「は」」
俺はそうしてエルフ郷を後にした。
ロビンに後を任せてゲートを使いカイエルに戻ると城下にあるゲートから出ると使い魔を通して連絡がいっていたのかフィニアスを含めて衛兵たちが出迎えてくれた。
「リュウ様。おかえりなさいませ」
「御心配申し上げました。御無事で何よりです」
出迎えてくれた一同が深々と頭を下げた。
「フィニアス。みんなも心配をかけてしまってすまなかった…」
「事情は聞いております。そのお姿についてもいずれ元に戻れるそうですね?」
「ああ、後三日ほどで元に戻れるはずだ」
「それは良かった」
おれは城に向かう。フィニアスも斜め後ろをついてきた。
「日巫女殿から姫巫女の婿にという打診を受けたことは昨日報告したがそれは断った」
「やはり断りましたか」
「ああ、あまりいい気分にはなれん。自分の子孫とだなんて御免被る。国としては受けたほうがよかったのかもしれんが…。すまんな」
「いえ、予想はしておりましたので問題ありませんよ」
「そうか」
「獣人国へ先日リュウ様の発見と近日の帰還の報告の使いを送ったところでした」
「そうか、先方には悪いことをした」
「それに関しては事前にリュウ様に異変が起こるということを報告していたのがよかったのでしょう。冷静な対応をしていただいたので両国内があれたということはありませんでした」
「俺が行方知れずということで国内が荒れたのではないのか?」
「そうですね。民たちが陛下をご心配してカイエルに来るものの多かったのですが、海様たちのご活躍と普段の陛下がいつも通常通りを望む方というのが民たちでも知れ渡っているようでして通常の生活を送る者が多かったんです。陛下はそう望まれるだろうと思ったようで大きな暴動はありませんでした」
「無事の公報は任せるよ」
「はい、明日には領主からの通達という形で領土内に公報予定です」
そんな意見と報告をしつつ城に入るとすぐ入り口に見慣れた姿が目に入る。
「リュウ君!」
いきなり視界が遮られた。
感触から抱きすくめられていることに気がつく。
相手は震えていた。それだけでとても心配をかけていたことを実感した。
「母さん……ごめんなさい。大丈夫だから」
「リュウ君の大丈夫ほど心配なものはないのよ…」
おれはただ、抱きしめられて抱き返すしかできなかった。
「エリアーナ」
「うん…」
父の声に母はやっと抱擁を解いてくれた。だが離れる気はないらしい。
父を見た。少しやつれているように見えた。
「ごめん…心配かけて…」
頭を撫でられた。
「お前が無事だったらそれでいいさ。それにしてもその姿…」
「ああ、これか…。時間魔法の暴発の余波で5歳遡行したんだ。大丈夫、戻れるから」
「そうか、それならいい」
「いつ頃までその姿なの?」
「後三日ほどはまだかかるんだ」
「そう…、それなら元に戻るまでお母さんがちゃんと面倒をみてあげるわね」
「え、いや…、大丈夫だから。時間が巻き戻っているだけで体調は元に戻ってるから自分でできるって……」
おれは母さんに大きく抱きかかえられてしまう。
「か、かあさん!」
助けを見るように父を見るとすまなさそうに苦笑していた。フィニアスも同じ顔をしていた。
それで気がつく。予想の範囲内なのだろうということが。
そしてその後三日間、俺は自分の身の回りを一切させてもらえなかった。
それでもほぼ二か月近く城を留守にしていたということもありそれなりに忙しい毎日を送る羽目になった。
そんな三日間だったが実は海たち四人は城にはいなかった。
この二か月の間、覇王連合国内の辺境の地で魔物討伐を主に転々としていたのだ。
時折帰還はしていたもののリュウの行方不明状態は自分らにできることはなく、自分らにできることをしようと考えた末に領地内の強力な魔物討伐くらいしかないと判断したのだという。
フィニアスの報告では彼らのおかげで連合国内の民たちの不安はある程度払拭されたのだという。メンツの中に俺の前世の兄弟がいるという事実が広まりつつあるのだという。
そのおかげだろうか辺境の地にあっても海たちは歓迎されるのだとか。
予定では俺が城に帰還してから三日後の今日、帰還してくるという。
三日目ともなれば母エリアーナの不安も払拭されたのか身の回りのことも落ち着いてきていた。
そんな帰城後三日目の夜、二か月の間にため込んだ決裁書整理を終えてリビングでくつろいでいた俺はやっと城の中でも平穏を取り戻した実感をかみしめていた。
それは側室四人も同じだったのかゆったりとした時間が流れていた。
いつものように長椅子で側室たちに囲まれて座っていたのだが夕方を過ぎ夕食も終えたというのにも関わらず海たちは帰城していなかった。
予定では今日帰城のはずだが少し遅いのが気になっていた。
「海たちはいつもこんなに遅いのか?」
「いえ、いつもなら夕食前には帰城しているのですが…」
何事もなければいいんだがな…明日帰ってこないようなら動くか
夜も更けていよいよ日付けが変わろうかという時間が近づいてきた頃、海たちが城は寝静まっていると思ったのか静かな帰還だった。
なので俺たちも帰還に気がつかなかった。
いつもならこの時間はすでに夜の時間であり、ほぼ自室でゆっくりしている時間だったのだが今日は別だった。
日付が変わる頃にこの時間遡行の呪文効果が切れるからだ。
非常時用の対応のためタテとキバも傍を離れずいるのでリビングで書を広げてくつろいでいた。
傍には相変わらず全員側室たちがリビング内におり、時折眠気が誘うのか欠伸をするクリスの姿が面白くも可愛いと見ていた。
「眠いのなら先に休んだほうがいいぞ?」
「嫌」
おれは苦笑を浮かべる。
「困った奴だな。俺に付き合う必要はないのに…」
「付き合うもないのじゃ。少しでもはよう元のリュウの姿が見たいのじゃ。それは皆同じ想いでの」
「……そうか」
見ると他の三人も同じなのか頷いていた。
そんな会話をすると海たちが俺たちに気がついたのかリビングに入ってきた。
「珍しいね、皆さんがこの時間にここにいるなんて…」
「うむ、理由はあるぞ」
「遅かったな、随分な夜に帰ってくるなんて何かあったのか?」
「え」
海たちは俺に気がついていなかったようだった。
おれは椅子から立ち上がり海に近寄る。
「兄さん…?」
「ああ」
「本当に隆さん?」
「だからそう言ってる」
「その姿…」
「ああ、呪文の暴発でな、五歳若返ってしまったんだ。もうじき切れる時間が迫っているんでな。こうして待機中というわけだ」
「それで皆さんここに…」
「ええ」
優美は俺の姿を見て安堵したのか興奮したのかいきなり抱き着いてきた。
「隆さん…本当に本物ですよね…!」
さすがに大胆な優美に慌てる。
「優美…?」
優美は軽く震えていた。
俺は宥めるように頭を撫でる。
「本物だよ。心配したか…?」
優美は抱き着いたまま頷いた。
「そうか…悪かったな。心配かけたようだ…」
軽く魅了の香りが漂っている優美に驚きつつも、離れそうもないのでそのままの体制で海に聞いた。
「予定よりずいぶん遅かったが何かあったのか?」
「隆さん、聞いてくださいよ。海の奴、現地の領主の娘さんにべたぼれされて引き留められたんですよ」
「ほう……」
俺は興味津々にその覚の言葉に耳を傾ける。
「ち、違うよ。そんなんじゃないったら…!」
「いいじゃないか。海にも春が来たか…?」
「そ、そんなんじゃないよ。言い寄られるなんてことされたことがないから対応に困っちゃって…」
海は軽く頬を朱に染めている。
「まぁ領主の入り婿というのも選択肢の一つだな。そんなときは遠慮せずに相談しろよ」
「兄さん!」
「冗談だ」
くっくと、笑っているとやっと優美が真っ赤になって離れてくれた。
「隆さん……。わたし…やっぱり…」
「………。困った奴だな。自由にしたのにわざわざ、束縛されに来るなんて優美はやっぱり変わってるよ…」
「そ、それは隆さんだからよ…」
俺は呆れてため息が漏れる。
「わかってんだろうな。俺は誰か一人の存在にはなれんぞ?」
「もちろん…わかってます。隆さんの心には香里菜さんしかいないことくらいずっと前から知ってます。きっと誰が相手でも香里菜さんを消せないことくらい…」
「それは違う」
「え」
「いつまでも後ろは向いては歩けない。おれはな、優美。転生して決めたんだ。新たにくれた生を前向きに生きると決めたんだ。生きていると新しい想いも生まれる。だから俺にはこんなにもたくさん大事な存在が増えた」
俺はクリス達を見た。
いつくしむように一人一人を見て笑みを浮かべる。
優美を再び見つめる。
「たしかに優美の言うように俺のここには香里菜が今もここにいる」
おれはそう言って自分の胸をに手を当てる。
「ここにいる香里菜は優美の言うように消して消えないだろう。恐らくあれ程の想いを俺は多分、別の誰かに注ぐことは無理だ。そんな軽い想いで香里菜を愛してはいない。今も俺の一番は香里菜だけだ」
部屋が静まり返っているのを知りつつ俺は覚悟を決めていた。
「だけどな、香里菜はもういない。死んだんだからな。でも、さっきも言ったように俺は生きてる。誰か一人を愛することはできなくても愛しむことはできるんだ。だから俺は側室たち全員に言った。おれは誰か一人のものにはなれない。この先にもお前のように俺以外はいやだというやつは出てくるだろう」
「隆さん…」
「そいつらを俺は拒絶できない。おれはな、この世界に転生してそういう使命をこの世界の創造神より受けた。広くこの世界に俺の子孫を多く残せと。この世界の安定の鍵が俺という存在で成り立っている以上、拒否はできないんだ」
「彼女らはこの言葉を受けてもなお、俺を選んだ。選んでくれたからこそその想いにはできるだけこたえたい。そんな俺でもいいのか?」
優美は真剣な目で俺を見ていた。
そして頷く。
「隆さんがいいの…。忘れようとも思ったこともある。でもできなかった。隆さんが事故で死んだときも捨てられなかった。忘れられなかったの…」
「そうか……。辛かったか…」
俺は優美を見上げた。そっと頬を撫でる。
その時、いきなり頭にイヴの声が響いた。
【時間遡行五年、期限切れまで後五分…】
「!」
俺は驚いた。
そんな中でクリス達が言葉を優美にかけた。
「やっと優美は素直になったわね」
優美が驚く。
「え、…気がついていたの?」
「もちろんよ…ねぇ?」
「うむ」
「じれったい限りでしたわ」
おれは一同のその言葉に驚く。
「お前ら…」
「いつ優美が加わるのか待つにも疲れたわ」
「でも、カリナって誰?」
クリスが俺に聞いてきた。
俺は真顔になり彼女らに向き合う。
「………。香里菜、工藤香里菜。工藤隆の妻だった女性だ」
俺は彼女らに爆弾にも似たものを落とした覚悟だった。
だが彼女らの反応は俺の想像の上をいった。
「やっぱり、そう…かぁ…」
「妻か、やはりそうじゃったか…」
「驚かないんだな、皆…」
「驚いたというよりは納得したわ」
「納得?」
「ええ、前から皆で話していた事なのよ。リュウの心の奥には今も誰かが住んでいるって…」
「平等すぎたのじゃ。妾たちを平等に愛しんでくれるには心に誰か、ここにはおらん特別が居るのじゃろうとな。それも二度と会えん者が、と」
「詳しく説明できなかったのは辛かったですわ。リュウ様のことを思えばわたくしから言っていい事ではありませんし…」
「そうか……。言わなかったことはすまない。言っていい事ではないと思ったんだが…」
「妾たちは覚悟して傍に居るのじゃ。気を使いすぎじゃぞ…もっと信頼してたもれ」
クリスもステラも大きく頷いていた。
「………。おれは本当に幸福者だな…」
おれは本当に嬉しかった。きっと嫌われると思っていたからなおさらだった。
【時間遡行解除まで六十秒…】
「!」
おれは体に緊張が走る。ゆっくりとみんなと距離を取る。
「隆さん?」
「寄るな!」
「え」
【時間遡行解除します】
そのイヴの言葉の後に俺の体は瞬く間に閃光に包まれる。
直後に全身に湯気のようなものが立ち上り激痛が走る。さすがに立っていられずその場に跪き両手をこらえるように体を抱える。
ともすれば激痛から声が漏れそうになるのを必死で抑える。
激痛から息切れを起こし荒く息を繰り返しながら痛みが治まるのを待った。
手足が…全身の骨が急激に伸びている…か
背に手の感触が残る。
「リュウ様!」
タテの声だった。
さすがに答えられなかった。
しばらく痛みに堪えていると徐々に痛みは引いていった。
おれは擦り切れそうになる意識を繋ぎながらも徐々に引く痛みを実感していた。
やがて閃光は収まり湯気も収束していくと床に跪き体を抱えるようにしている俺の姿が周囲に露になる。
その姿は周囲の一同を驚かせた。
元には戻っていたのだが全身血まみれ状態だったからだ。
痛みが引いて俺は危機意識から超回復のスキルをいれる。
そのまま安堵から擦り切れそうな意識を手放した。
意識を手放して傾いていくリュウを抱き留めたのはそばにいたタテだった。




