外伝 星
ステラ物語。補完のような外伝です
外伝 星
その日ステラ=ルーシェは自身の屋敷のある首都カイエルより南西に位置する第二の首都ともいえるエリナージュに居た。このエリナージュの街はヒューマでも少数民族が領主となっている特殊な治世が敷かれている独特の街だ。
この街はステラにとって故郷ともいえる街で生まれた街だった。
育ちこそカイエルなのだが生まれはこのエリナージュであるにも理由がある。
この街の領主はステラの母だからだ。
母はこの街の絶対主ともいえる立場で町に住む者誰もが敬意を払う人物だ。
今回この街に来たのには理由がある。
母に呼ばれたのだ。
大事な話があるという。
ステラはこの街に立ち寄った後、父の代理としてヴェリアス王国との国境の街に視察に行くことになっているので中継地としてこの街に寄ったのである。
父の代理の視察とは名ばかりで魔物に領地が襲われている可能性がありその調査と討伐を任されたのだ。
簡単な調査だというので女性一人でも大丈夫という。
そしてステラはひと際高台にある大きな邸宅に足を踏み入れる。
門を守る兵に止められたがステラと分かるとにこやかに門を開けてくれた。
「お嬢様おかえりなさいませ」
「ありがとう。いつもご苦労様です」
屋敷に入り落ち着く暇もなくステラは母がいる場所を執事に聞き会いに向かう。
母の居る応接にと入る。
応接間という名の仕事部屋だ。
この部屋は母の居る場所と大きく布で遮られているため母の姿は見えない。これはいつもの事だ。母は自分と会う時すら布越しだ。
「お母様、お久しぶりです」
「ステラ、やっと来たわね。元気そうで何よりだわ」
「おかげさまで元気よ。今日大事な話があるというから視察ついでに遠回りをしてここに来たの」
「視察っていうとヴェリアス王国の国境の町の視察ね?」
「どうしてそれを……って聞くまでもないか…」
「もちろん視たからよ。それよりもね、フィニアスさんに先週覇王様のご誕生なされているという予言をしたのを覚えているかしら?」
「もちろんよ。首都カイエルではお祭り騒ぎになっているわ。お母様が予言したことでね」
そうステラの母は予言師というレア職なのだ。
この街の繁栄もこの予言によって安定的な平穏と繁栄をもたらしている最大の理由だった。
「大事な話というのはそれの事でもあるのよ」
「覇王様の?」
「そう、つい三日前に新たな予言を見てしまってね。貴方の大事なことでもあるから呼んだのよ」
「私に関係するの?」
「ええ、いい事?そのまま伝えるから覚悟して聞きなさい」
ステラは頷いた。
《太陽と星めぐり合う時更なる安寧がこの大地を広く覆うだろう。太陽は瞬き、星は太陽を安らぎへともたらし互いを輝かせ、その輝きは太陽をあるべき場へと誘う。太陽あるべき場へ座するとき世界は揺らぎを収め安定せしめる。そは神の御意志》
「…………。お母様。抽象的過ぎてよくわからないんですけど…」
「仕方ない子ね。ステラ、あなたの名前の意味は何かしら?」
「えっと、古語で星…でしたっけ?」
「そうよ」
「じゃあ、この言葉の中にある星って私の事?」
「ええそうよ。そして太陽は転生されているはずの今代の覇王様。その事に気がついたのが三日前の予言だったのよ」
「え」
「ステラ、貴女は覇王様と縁があるのよ。この予言はね、貴女が生まれたときに紡ぎだされたものなのよ」
「それって…」
「ステラ。貴女は今代の覇王様とめぐり逢い結ばれる運命を持っているのよ」
「私みたいな半人前がそんなはずないわ」
ステラはそんなことを言われても信じられなかった。
それもそのはずで母の予言師の血を引いているのにも関わらずステラは予言師の職を受け継がなかった半人前なのだ。
ステラのその声に母は遮っていたカーテンを大きく開ける。彼女はステラに近寄り見上げた。
ステラの母はステラとは似ても似つかないステラの半分ほどの背丈と小柄な体格で肌の色は少し茶色がかった肌が一番に目に付いた。大きく太い耳も相まってとてもヒューマには見えなかった。
いわゆるドワーフ族と呼ばれる姿だった。
「ステラ。貴女は半人前じゃないわ。たとえその姿がヒューマに見えても貴女は立派なドワーフよ。自信を持ちなさい」
「でも…」
「フィニアスさんと出会ってすぐ私は自分の宣託を受けたわ。ドワーフ族の族長の血を持つ私の子はドワーフの中のドワーフとして先祖がえりをして生まれると」
「先祖返り…?」
「ええ、ドワーフ族は元々ヒューマ族から派生した種族。大地の力を最も効率よく受け止める力を欲して今の姿にとどまった。世代を繰り返し元々のヒューマの姿を失ってしまったのよ」
「そんな話は初めて聞くわ?」
「族長の一族にしか伝わらない秘伝ですからね。知らなくてもそれは当たり前の事よ。そんな半人前だからとこの街から出してフィニアスさんの元へ行かせたんじゃないんだから」
「半人前だからこの街に居られなかったんじゃないの?」
「違うわ。確かにその姿からヒューマにしか見えないのも事実だけれどあなたが生まれて知った予言を思えば首都のフィニアスさんの元に居たほうが予言の相手とめぐり逢うのも難しくはないと判断したからよ」
「そうだったの…」
「半人前と思っているあなただけれどステータス窓の種族は嘘をつかないわよ?」
「お母様…」
グッとステラの手のひらを握る。
「私はステラの未来を応援しているのよ。もうじき出会えるわ。きっと貴女は新たな覇王様と恋に落ちる。行きなさい、覇王様とうまくいったら必ずいつか報告するのよ?」
「はい」
ステラは母の笑みにつられるように笑った。
その日は母との久しぶりのひと時を楽しんだステラだった。
その後、ステラは父の依頼の調査の街へと向かうのだった。
向かった町は到着後にその報告以上の被害と魔物の多さに自分一人で実態の調査は無理との判断をくだす羽目になったステラだった。
増援の待機中に事態は急変することになる。
領主の一人娘が病気療養中だった娘の母のための特殊な薬草を取りに町の外へ出てしまったのだ。
街の外はオーガたちが増殖しており娘がとりに行った薬草の群生地も増殖が最も多い場所だったのだ。
当然大量のオーガが増殖しているため必要な薬草が手に入らず当然だが母は病気を悪化させていたのだ。
もう病が重篤していたため命の危機にも晒されていたのだった。
母親の命には代えられないのか娘は薬草を取りに町を飛び出したのだった。
ステラはそれを聞いてすぐに後を追った。
町のすぐそばの薬草群生地はステラも把握しており最短のその場に向かうと彼女はそこにいた。
「今はすぐそばの群生地でも危険です。戻りましょう!」
「まって薬草が見つからないのよ」
「いくら私でも取り囲まれれば守り切れません。今はそれほど増殖していて危険なのよ!」
そんな押し問答をしていると目的の薬草を遠く発見して慌てるように採取した彼女は戻ろうと踵を返したその時、一本の矢を足に受ける。彼女はそのままオーガのこん棒によって大きく打たれ気を失ってしまう。
「きゃ!」
悲鳴を上げて気を失った彼女を助けようとステラは近寄り矢のとんできた方角を見るとそこには十匹以上のオーガがそこにいた。
獲物を見つけてにじり寄るオーガを確認したステラはけん制のために魔法をオーガたちに向けて繰り出した。
それはオーガたちに警戒をさせたようで近寄るのを躊躇わせることに成功したが同時にステラたちは取り囲まれてしまった。
このままではいけないわ。でも彼女を放ってはいけないし…
どうすることもできず近寄らせまいとしているしかできなかったその時、側面からの衝撃でオーガが数匹吹き飛ばされる。その衝撃でオーガは倒れた。
ステラは何が起こったのか理解できないうちにステラの前に黒髪の男が自分たちを守るように立っていた。
その手には見たことのないような形の剣を握っていた。
「大丈夫か?」
張りの通ったその声に驚いたが慌てて返事をすると回復持ちと気がついているのか彼女の回復を促してきた。
彼はその間にオーガたちを片付けると言ってきた。
ステラはさすがにオーガの多さに危険だと主張するが彼は何でもないというように言った。
「心配はいらん。多数は慣れている」
守りながらの討伐になれているのか彼はステラたちを守りながら取り囲んでいたオーガたちを殲滅してのけたのだった。
オーガの殲滅を完了したのか彼は剣を仕舞いこちらを見ていった。
「襲われたのか?」
ステラはそれには否定した。出血が多すぎて意識が戻らないことを言うと彼は町まで送ると言ってくれた。それもステラのケガまであるのか聞いてくれたのは嬉しかったステラだった。
その後領主の館まで送ってくれた彼はオーガの増殖が速すぎることに疑問を持ったのかサーチとレア呪文のシーラまで使って調べてくれた。
カイザーオーガの発生と確認できたのは大きかったが同時にカイザーオーガはBランクの魔物でステラでは手に負えない魔物だった。
そこで彼がCランクの冒険者と初めて知る。早期討伐がカイザーオーガは必須な為、彼に討伐依頼を出すことになった。
ひとりで討伐するつもりだったのかステラの同行には少し拒絶してきたが彼が心配でもあったので押し通した。
討伐準備をして同行していると彼の纏う空気というのか気配というものにステラは居心地がよく強者の気配からか妙に安心感があった。
ステラの援護があったとはいえカイザーオーガを瞬く間に討伐してのけた彼は歓待に慣れていないのか街に戻るとギルドで報酬を受け取るとすぐにステラから離れた。
それがまずかったのか領主の屋敷に戻ると彼がいないことで領主に残念がられ、愚痴をこぼされた。
手に入れていた薬草を使い、領主お抱えの調合師が専用の薬を作り危篤状態だった女性の容態が快方に向かい安定したことも領主が残念がった理由でもあった。
翌日ギルドにいた彼を探して見つけると行先が自分の街のカイエルと知る。
そんな彼の醸し出す空気がステラには心地よく、また惹かれていた。
そんな自分の感情に気がつくのは彼と再会したときにおこった衝撃で実感することになった。
淡い恋心が魅了スキルで増幅されるのである。
その後ステラは母の言った今代の覇王様が彼であることに嬉しく歓喜していた自分にも気がついた。その歓喜から想いが口に出た。
彼もまんざらではないのかステラを拒絶しなかった。
自分が覇王であることには気がついているのか、知られたくない様子だった。
だが同時に今代の覇王であるならばなおの事自分が振り回してはいけないと思った。
だからこそ彼から離れなければと思った。
彼の傍から離れるにはかなり勇気が要った。
だがそれは彼の告白と共に全身で彼の体温を感じ驚くことしかできなかった。
彼を見つめているとそれは当然のように顔が近寄り唇が塞がれた。
その時間はとても長く感じた。
彼も自分と同じように好いてくれている。その実感が唇の温かさと柔らかさにその身は歓喜に打ち震えた。
唇を解放されはしたものの彼も離れたくなかったのかしばらくそのままお互いの体温を感じていた。
同時に自分の事を話さなければいけないことにも気がつく。
自分の身元に彼は驚いたが、それだけだった。
元首の父に臆することもなく自然体で自分と交際をしたいと父に言ってくれたのはとても嬉しかった。
同時に自分の中で彼以外の男性とそういう事をする気には考えられなくなっていた。
かれはとても魅力的でほかの女性も放ってはおかないだろうことはすぐに予想がついた。
それでもよかった。彼の傍に居られるならと…。
やがて彼を慕う女性が集まると納得がいった。
皆自分と同じように彼以外では考えられないと言い切った人たちばかりだった。
だからこそなのだろう。彼が受け入れるだけの強い想いを彼にぶつけた者だけが傍に居られた。
次回投稿は新章 世界樹と忘却の河です




