7-2
「リュウ様到着しました」
おれはその場にいた一同を見る。
「兵たちを連れて制圧にかかるぞ」
エルナはやる気満々のようだった。
「結界後に索敵用の魔石を渡すからそれを目安にしてくれ」
「うん」
「颯はいかがしますか?」
俺は少し考える。
「格納しておく。町の前だし置いておくことはできん」
「目立つものね」
制圧後は避難先の建物に集合することにした。
颯から出ると視線を感じた。警戒しつつ全員出たことを確認すると颯を収納した。
俺は街の規模を確認した。
「比較的大きな町だがこれなら問題はないな」
掌を町に向けて魔力をこめる。
『ライトニングイビルシールド』
聖結界を張りその魔物情報を魔石に込めると海たちに手渡した。
「結界と連動しているからそれを確認しつつ討伐だな」
「うん」
魔物の数がそれなりにいることを確認する。
魔物の数の3分の一くらいの数で冒険者もいるようだった。
善戦していても数で圧倒されつつあるようだった。
「俺たちは先に行くよ、兄さん」
「ああ、頼む」
海たち勇者4人は早々に町へと入っていった。
一息つく前に使い魔召喚を発動させるために使い魔の一覧を出す。
「少し数がいるな」
上限を30名に設定して任意に使い魔の兵たちに通達した。いけない者もいるので任意だ。
一覧を眺めて埋まるのを待っているとかなり早く埋まった気がした。
「随分と招集が早く集まったな」
ひとり呟くように感心していると背後からキバが納得の感想を漏らした。
「覇王様の兵としてもっと役に立ちたいと最近は士気が上がっていたので当然の結果かと」
「そうか…ありがたいな…」
彼らの想いを聞いて軽く笑みが浮かんだ。
『召喚ゲート』
魔力を込めた掌を地面に翳した。
地面に魔方陣が現れる。
その魔方陣は輝き立体的な門を作り出した。
数が多いと召喚方法が変わるため、いつものように単独の召喚とはいかないのだ。
この召喚方法は初めてだった。
門から使い魔の兵たちが現れる。
全員門をくぐってくると早々に隊列を組んで俺の前に並び跪いてきた。
「………」
俺は妙に気恥しくなり頭を掻いた。
「リュウ様…」
「そうやって並ばれると慣れない…な」
「魔物討伐の任をうけましてございます」
「メンツを3つに分ける。理解しているな?」
「「は」」
「すでに隊は編成しております」
「ん、助かる。一隊はエルナ姉さんと共に魔物討伐に向かってくれ」
「は」
「よし、いくぞ!」
エルナが声をかける。
手慣れたものですでに顔なじみになっているエルナが一声を上げた。
「姉さん、数が足りない時は早めに連絡してくれ。それと、一区切りついたら彼らからおれに報告をしてくれ」
エルナは頷いた。
「もう一隊は町の人たちを守る。クリス達と共に拠点防衛だ」
「は」
想定しているのだろう。守備に長けた者たちが多い隊だった。
「残りは俺たちと敵のあぶり出しにかかる」
「は」
「では私は彼女らと町の人たちの元へ向かいます」
俺は頷く。
「頼む」
「気を付けてね、リュウ」
「お互いにな」
クリス達は大尉と兵を連れて街に入っていった。
「さて、吉と出るか邪と出るか。監視があるところを見ると釣られたのは俺のほうなのかな…?」
「そうだとしてもお守りいたします」
キバが言いきった。
「どちらにせよ、結界内に入れば監視はきかないからな」
「はい」
街に足を踏み入れた。
街に入ったと同時に腕の紋章が熱を持った気がした。
「なにかしら用意があるようだな」
「そうですね。穢れていたイグニアと同じ気配がします」
「器を欲するか…?」
「かもしれませんね」
「そうだとしても今の俺は(邪神の器)ではないからな」
「そうなのですか?」
「ああ、昨日少し窓で確認したら名が変わっていた。確か(アルフ神の器)だったかな…」
「それは…」
「ああ、多分この間の聖泉での聖別がきっかけなんだろうな。紋章にも色がついているしな」
おれはそう言いつつも結界内の魔物を調べる。
「一番気配の強い魔物がいいな。調べる糸が太ければたどるのも容易だ」
気配が強い魔物と実力のある強い魔物は同じではない。
今回街中で暴れている魔物の一番の強い魔物はゴーレムだろう。
だがゴーレムは木偶人形という異名があるほど意志は弱い。つまり気配は弱いのだ。
操る魔力糸はこの意志が強ければ強いほど抵抗感も強くなるので気配も強くなるというわけだ。
強い意志の持った魔物は味方に引き入れるための魔物浄化が成功しやすい。
魔物浄化を施し味方という使い魔を増やすということに関してはスケルトンが一番簡単だ。
スケルトンは元人間だ。
生前に強く未練を残したものは魔力の恩恵を授かりスケルトン化しやすくなる。
つまり意志が強ければ強いほど強者のスケルトンが出来上がる。
俺の使い魔の兵の一部も元スケルトンだ。
「スケルトンがいるという話ですので……。兵を増やしますか?」
「利害が一致すればな。未練にもよるしな」
「利害とは…。スケルトンからすれば魔物浄化はある意味でやり直せる第二の人生をリュウ様からいただくに等しいわけですから飛びつきますよ、普通は……」
俺は笑った。
「かもな」
「スケルトンはやはりねらい目です。兵を増やすにはもってこいですから」
タテとキバは頷いた。
「どちらにせよ強い気配は間違いなくスケルトンだろうしな」
めぼしい強い気配の持つ魔物を調べ俺はキバたちを連れて移動した。
途中で遭遇する魔物は兵たちによって討伐される。
目当ての魔物を見つけると拘束の呪文を唱えた。
『ダークネス・チェイン』
床にへばりつくように拘束すると俺は続けて呪文を唱えた。
『ラインクロス・ムーブ』
『サーチ』
町の一角にいる人の印に白い付箋が付いた。
「ギ・ギ……」
スケルトンは拘束から出ようとがいていた。
魔物化してしまえばスケルトンには声帯がないので言葉はできない。
しかしこちらの言葉は通じるのだ。魔物にもよるが理性のある魔物もいる。だがそのことはあまり人には知られていなかったりする。
周辺にいた他のスケルトンも襲い掛かってくるがお構いなしに足を拘束する。
俺はため息交じりの声が漏れた。
「お前ら、よほど無に帰りたいらしいな。魔物化してしまえば神の輪廻から外され普通は世界に取り込まれる形で無に帰る」
「それも終わりの一つです」
「人に戻りたくはないのか。世界で唯一、俺だけがお前らをひとに戻せる手段がある。聞く気があるなら大人しくできないか」
その言葉にスケルトンは動きを止めた。
だが人に戻せると聞いてもなお信じられないのか警戒心はそのままだった。
「我らも元はお前らと同じ魔物化してスケルトンになっていた。生身はいいぞ。この体をくださった主に感謝してもしきれないほどの大恩だ」」
後ろの兵たちがヒト化から魔の者に転じた。その姿は紛れもないスケルトンだった。
実は魔物浄化しても元の魔物だった姿は魔の者として残る。故に魔人族の配下として忌み嫌われたのだ。
さすがに動きが止まった。
「俺の配下という形で人に戻せる。魔物浄化をお前たちに施せば、生前の姿を取り戻すことができる。ただし、俺の配下・使い魔として使役されるから俺には何もかもが筒抜けだ。居場所から体の状態、思考までも筒向けになる。使い魔解除すれば簡単に無に帰るから反逆はできんぞ」
「使い魔といっても我らが覇王様に絶対の忠誠を捧げることになるがそれでも比較的信頼を得られれば自由の身だ」
「人に戻り俺に忠誠を誓えるというのなら拘束を解くから跪け。いやなら好きにしろ。ただし無に帰るだけだ」
おれは一息ついてキバたちを見た。兵たちは人に戻っていた。
キバたちは頷いていた。
襲い掛かられても迷惑だからだ。
『解除』
俺は拘束を解いた。
その場にいたほぼすべてが動かず跪いていた。
だが例外もいる。
そいつらは襲い掛かってきたがキバが軽くあしらい無に帰した。
数名は逃げにかかったが兵たちは逃がさなかった。
打ちもらすことなく無に帰す。
「人に戻してやるが、反逆防止にこの町の襲撃がおさまるまで保険をかける。お前らを使役していた奴らを捕らえるからそれを手伝え。忠誠が真実ということを証明して見せろ」
おれは手のひらに力を籠める。
スキル魔物浄化だ。
掌に込められた力は目の前にいたスケルトンの集団に向けて解き放つ。
スケルトンたちの体が輝きだして収まるとスケルトンの集団は人や獣人そして一人ずつだがエルフと竜人もいた。全員がその姿を取り戻していた。
さすがに真っ裸の集団がそこにいたので目のやり場に困った。
彼らは涙を流し喜んでいた。生きた体を実感して自分の体を見まわし触っていた。
意図的に兵たちの着ている服と同じものを取り出し、使い魔共有を使い装備させた。
「その姿は一時的なもので全員同じ姿だ。種族だけは戻ってはいるが、忠誠を示せたものにはあとで希望する姿に変える褒美をやる。性別さえも自由にできるからな」
「十人ほど配下が手に入ったのはありがたいですね」
俺は兵の一人に先ほどのサーチを込めた魔石を手渡した。
「囲い込んで生け捕りだ。任せる」
「は」
浄化を受けた使い魔は俺の魔力がある限りだが、ある程度は自動回復機能が備わっているので無茶ぶりが効く。
各々スケルトンの時にもっていた古い剣を手に取り先輩兵の指導の下捜索にかかった。
それなりに人数が増えたこともあり見つけるのにさほど時間はかからなかった。
俺はといえば窓を出し使い魔にしたメンツを注視していた。
裏心のあるやつは注視していれば窓にも出るのですぐにわかるからだ。
「…今回のスケルトンは女が多いようだな。何かあるのかな?」
「そうなのですか?」
「ああ、名前が女の名前が多いからな」
「やる気は上々のようですね」
「それにしても疑問だったんだが既存の使い魔の兵は男ばかりだったがウィリアムの意図的なものか?」
「はい」
「そうか…」
「ウィリアム様は浄化した魔物が女と知ると使い魔を解除して即座に消してしまわれたので…」
「女性嫌いも半端なかったようだな。今回の女性兵は側室たちの護衛にするにはいいかもしれんな」
「エルナ様とも相性はいいかもしれませんね」
「やる気は上々。裏心あるやつもいないようだし女性兵は後で特技等調べて配置換えするか」
「女中たちがもう少し人が欲しいと言っていたのでいいかもしれませんね」
「元人間という時は常識を教える時間が少なくて済むのはありがたいかもな」
雑談をしつつ移動していた。
「目標の人物を捕らえました」
「ほう、早かったな」
捕らえた場所に向かうと使い魔にしたばかりの竜人が取り押さえていた。
「お前らよくやったな。行動は逐一見させてもらった。落ち着いた後で全員に褒美をやろう」
『ダークネス・チェイン』
拘束呪文を施し近寄る。
「さて、聞かせてもらおうかな。君は何者だ?」
「………」
「ふふ。まぁ、普通には答えるはずはないよな。拷問は趣味じゃないんだがどうしたものかな」
「リュウ様。私にお任せください」
「何か手があるのか。キバ?」
「はい魔人族にのみ使える魅了呪文があります」
「ほう、やってみろ」
「はい」
キバはそう言って拘束していた男に近寄る。
『チャームアイ』
魅了の呪文を唱えた。
「君たちは何者だ?」
「……闇教会の司祭…です」
キバたちはその言葉に驚いていた。
おれはそれを見つつキバたちを落ち着かせて言葉を促す。
「なぜこの町を襲ったのですか?」
「覇王を祭壇におびき寄せるためです…」
「祭壇?」
「………我らが邪神アルフ様を覇王の身にご降臨していただくための祭壇がこの町に存在するためです…」
「他にもいるのですか?」
そこまで尋問した時だった。
町の敷地内の地面に黒く輝いた線のようなものが浮かび上がると地響きが轟く。
「!」
俺は腕の印に違和感をもった。軽く熱を持っているようだった。
だがそれだけで痛みなど無く共鳴をしているのだと判断した。
「リュウ様…」
腕を見ていた俺を、心配げに声をかけてきたのはタテだった。
「心配いらん。共鳴をしているようだが聖別されたおかげだろうな。何も起こりそうにないな」
「え」
「大丈夫なのですか?」
「ああ、腕に熱はあるがそれだけだ。意識が飛ぶ様子もないし痛みもない。恐らく印が上位のものに変化したおかげだろうな」
「それは良かった」
「ああ、しかしどうやら今の地響きのせいか、魅了が切れたようだな」
見ると拘束されている男は何とか逃げようと画策しているようだった。
「どうなさいますか?」
「無論、拘束して獣人王に献上しようか」
「は」
キバたちは収納から出した紐で拘束し呪文を唱えられないように口を布でふさぎ無力化させた。
「もう少し人数が欲しいな」
おれはそう呟いた。
それは他の者も同じだったのか新たに使い魔にした者たちが二人ほど拘束してやってきた。
「見つけました」
「!」
「はやいな」
「魔力糸をたどるのは容易ですので」
浄化したメンツに一人だけいたエルフがそう答える。
「吾輩には弱いヒューマを取り押さえることはたやすい事だ」
一緒にいたのは同じように一人だけいた竜人だった。
「二人は相性がいいようだな」
「それぞれが特化している分野が違うおかげですね」
「そうか」
おれはそう言いながら捕縛した奴らを入れる檻を取り出した。
「まさかこれを使う日がこようとは思わなかったよ」
「懐かしい檻ですね。ウィリアム様が作られた特製の檻ですか」
「ああ」
早速捕縛した奴らを檻に入れる。
この檻は特製で魔法が無効化される耐物理のかかった檻だった。しかも持ち運びがしやすいようにと空間魔法で縮小する機能がある。
当然持ち運ぶために縮小してその檻はキバが持った。
「ところで主殿に聞きたいことがあるのだが…?」
「なんだ?」
「主殿は竜王君でおられるのか。それにしてはヒューマの姿をしておられるし疑問に思いましてな」
「………。どうして竜王と思うんだ?」
「竜の覇気が尋常でないのでな。竜の覇気など竜王君の纏いしものだ。そうそうあるものでもない。里におられたリョーマ殿と同じくらいかそれ以上にも感じるのでな」
「リョーマ殿?」
「うむ。竜王の名を継承していたお方だ。吾輩が里を出る前に狂暴な魔物との格闘の末お亡くなりになられた黒龍王だ」
「……そうか。だがあいにくとおれはまだ竜王ではないな。称号に後継者とあるから里に行くとどうなるかはわからんがな」
おれは転身を使って竜人になると彼は驚いていたが俺の姿にすぐ納得したのか頷いていた。
「元々がヒューマだからな。この姿は竜の涙によるものだ」
「おお!竜の涙か。ということはお前さん、リューイの伴侶か」
「………」
さすがにリューイの名が出たので驚いた。
「不思議でもないぞ。竜の涙を使えるのは里には王の血筋以外では無理だからな。世代的にリョーマの娘のリューイの伴侶と想像に難しくはない。元気そうなのだな。リューイは」
「知り合いなのか…」
「リューイの父リョーマとは家族ぐるみの付き合いでな。親友殿の一人娘には何かと手を焼いたのでな」
「そうか…。あいにくと彼女は今、里に産後のための里帰り中だ。そのうち帰ってくるから逢えるだろう」
「そうかそれは楽しみだな。なんにせよ吾輩リャンをよろしく頼み申す。使い魔になった以上、解除されれば死というのは知っておるでな。何よりも竜王君に仕えることができるのなら是非もない」
かかかと極上の笑みを浮かべていた。
「主様は魔力の練度が並のエルフよりも高くていらっしゃる。我らエルフ族は魔力の高さに重きを置く種族なので主様のような高さの魔力保持者は珍しくも敬意を持ち得る。何よりもヒューマなはずなのに自然たちに愛されているのがようわかる。私の主としては申し分ない」
「忌避感はないと?」
エルフの彼は頷いた。
「私はロビンソン、生前は魔法開発に精を出していた研究者だ。よろしく頼む」
綺麗なお辞儀をして見せたロビンソンだった。
「魔法研究者か。城の魔術兵たちが喜びそうだな。城の地下には研究用の部屋もあるしな」
「城というと覇王城ですか」
「ああ、書庫にはそれなりに魔術書もそろえてはいるがロビンが気に入るかはわからんぞ。エルフ族の知識には及ばないだろうしな」
「いえいえ、噂には聞いたことがあります。覇王城の書庫には一族でも一目置く種類の蔵書があると」
「まぁ、保存するにはあの城ほど都合のいい場所はないだろう。主がいなければ時間さえ止まるからな」
「楽しみです」
「気に入ることを願うぞ」




