6-2
しばらくして朝食を終えてゆっくりとした時間が流れていた。
「リュウ、さっきエリクサーが二種類あるって言ってたのが気になるんだけど…」
「あ、私も気になっていたんです隆さん」
ステラと優美が聞いてきた。
「伝説の神の薬というだけあって二種類もあるなんてきいたことがないから気になって…」
「エリクサーについてどこまで知ってる?」
「あまり深くは知らないけど、あらゆる異常をかき消し治して体力と魔力を完全に治すだったかしら」
「わたしがしっているのはそれと死者をも蘇らせると聞いたことがあるわね」
クリスが補足した。
「おおよそわたくしたちもそのような情報でしかありませんわね」
「ふむ…」
「違うの?」
「いや、二つの効果が混ざって伝わっているなと思ってな」
「混ざっている?」
「エリクサーは使った素材で効果が二種類に分かれるんだ」
「素材で?」
「ああ、昨日使ったものはクルミを使ったイヴァース素材のいわゆるイヴ薬ともいわれたものだ」
「イヴ薬…」
「ああ、最近では普通にエリクサーと言われているものはエデン産の神水が手に入らないことから神水をもイヴァース産のものを使った物をエリクサーと呼んで流通させているらしいが俺からすれば劣化版だな」
「そういえばエリクサーを使った者から聞いたことがありますが異常こそ回復したらしいのですが体力や魔力まではあまり効果が少なかったと言っておりましたわね」
「イヴ薬の劣化版ではそうだろうな」
「劣化版…」
クリス達も知ってはいたが劣化版とは思っていなかったのか驚いていた。
「俺が昨日使った物はイヴ薬と言われるものでな、HPとMPをそれなりに回復させてあらゆる異常を元に戻す効果のあるエリクサーだ。投薬後はHPとMPが丸一日減らなくなる効果もある。材料も葉とクルミとエデンの神水が使われているものでさっき作ったエリクサーもそれだ」
「蘇生しないの?」
「蘇生はイヴ薬ではできない。できるのは改のほうだな」
「改?」
「そうだ、エリクサー改。エリクサーの上位薬だな」
「エリクサーの上位薬ですって?」
おれは頷いて先ほど作ったエリクサーと一つの小さな小瓶を取り出す。
俺が作ったエリクサーは薄い緑色の液体であり、小瓶に入ってる液体は赤色だった。
「ああ、とは言え知らなくても無理のない事だ。材料がエデン産でこの5千年は穢れから作ることができなかった幻の神薬とまで言われていた」
「これは?」
「俺が持っている大賢者時代に手に入れたエデン薬と言われるエリクサー改だ。いまはこの一瓶しか持っていないがな」
「こんなに小さい…」
「色が赤いわね」
「小さくとも効果は抜群だ。なにせこの一瓶飲み干すだけでHPとMPは全回復しあらゆる穢れと異常のすべてをかき消す効果がある。それだけでなく死亡一日以内であればこれを投薬すれば蘇生をも可能になる神の薬だ」
「昨日言っていた果実で作るというエリクサーか」
エルナが聞いてきた。
「ああ、今朝調合してエリクサーを作っていたのもエリクサーの調合に慣れておきたかったというのもあってな」
「どうして…」
「もちろんこのエデン薬を作るためだ。上位薬だけあってそれなりに慣れていないと劣化版になるんだ」
「作る気なのね?」
「ああ、今日はできればその果実を探しに行くつもりなんだ。イヴァースの神水はウィリアムが大量にもっていたおかげでクルミともどもかなり持っているんでな。葉があるうちに作っておきたいんだよ」
その日おれは再びエデン入りをして調査した結果、奥のほうにたくさん果実が自生していることを確認して数個果実を手にした。一つは獣人国王への土産だ。
この果実、普通の果実と違い、かなり重く大きい。大きさでいえば地球のスイカのように大きいので収納がなければかなり持ち運びに苦労するだろう。
ちなみになぜか監視のような視線はいまだ続いていたので明日はそいつらを引っ張り出そうと画策していた。
というのもエデンのことで教会とフィニアスとの協議でこの地の待機状態になっていたため、することなど魔物討伐以外ではあまりないのだ。
イグニアの復興の手助けというのも一つの手ではあるが教会との協議もあり表立って手伝うことができないでいた。
なので窓を開けて呪文を調べていたのだが監視の反撃用の呪文を発掘したのだ。
無知は罪というが今回それを実感してしまった俺だった。
監視を紐づけすることもできるので空間魔法であぶりだして捕らえることもできる。
属性は実は光になるのだから不思議だ。
海たちはといえばこの地に一番近い街に繰り出していた。
元樹海の一番近い町ということもあるのかそれなりに繁栄している街で冒険者ギルドもある。
ついでなのでギルドにも今回の樹海の変化を報告しに行ってもらっているのだ。
もちろんいい魔物情報があれば受けることも視野に入れている。
俺自身一人ならゲートなど必要せずに転移呪文を海たちに向けてできるので距離は関係ない。
ちなみにエルナやクリス達側室メンツは周囲の魔物相手に実戦的な術の実験をしに出ている。
外でないとできないこともあるからだ。
俺はといえば颯で待機状態だ。エデンで果実を収穫した後はフィニアスの報告待ちなこともあり暇を持て余していたので呪文検索というわけだった。
海たちのこともあり調合をするわけにもいかない。その上監視もまだあるので外で鍛錬というわけにもいかないのだ。
ちなみに海たちと共にキバが同行している。事情を説明するにしてもキバがいたほうがことはスムーズに運ぶと考えた結果だった。
タテは俺の護衛なので颯にいるが。
さすがに暇を持て余ししすぎて俺は颯の中の長椅子で転寝をしていた。
体調は元に戻ってはいても気は張っていたらしい。
そんな時間を過ごしていた時だった。
おれは転寝からハッと目が覚める。誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
周囲を見回しても変化はない。
だが今もなお呼ばれている気がする。
リューイ?
竜人に転身した。
すると声なき声が明確に頭に響いた。
立ち上がる俺をタテは伺ってきた。
「どうなさいました?」
「……リューイが産んだらしい。出かけてくる。今日は恐らく戻らないかもしれん。そう言っておいてくれ」
言いながらおれは服を脱ぎ上からマントを羽織る。
「は、了解しました。キバのほうから連絡があり魔物は海様たちで何とかなるそうです」
颯から外に出るとちょうど実験からエルナと側室メンツが帰ってきた。
「リュウ?」
「どうした」
「リューイの元へ行く。わるいな」
クリスの頭に手を置きステラの肩を叩く。エリーゼの頭も撫でて俺は颯から距離を取る。
竜化しドラゴンになると背の羽根を使い、宙に浮き飛んで塒に向かった。
獣人国のこの場所からエリル皇国を通り過ぎて塒に向かうには距離がある。そしてスピードを出すにはそれなりの大きさになる必要があった。
この時の竜化は近くの町でそれなりに騒ぎになったらしいことを後に海たちから聞くことになる。
皇国を通り過ぎる以上少し高度を上げて飛行していた。
しばらく風を切って空の飛行を楽しんでいると見慣れた塒のある山が見えてきた。入り口にゆっくりと近寄り竜化を解きつつ着地した。
いつもの服を収納から取り出し着込むと奥にある建物に入っていく。
いるのなら二階のベッドルームだろうな
ゆっくりと二階に上がるとリューイがそこにいた。腕の中には創世の果実よりも大きいサイズの黒い卵を抱えていた。
かなり疲れているようだ。
「リューイ、大丈夫か?」
「わらわは大丈夫ぞな。すこし疲れておるだけじゃ…」
「無理はするな」
そう言って俺は抱えた卵ごとリューイを抱きしめる。
もたれるようにリューイは俺に寄りかかる。
そっと黒い卵に触れると温かく鼓動が感じられた。
「しかし大きいな。竜化して産んだのか?」
「うむ」
おれは卵という形をとっているせいかあまり父親という実感はわいてはこなかったがそれでも自身の中で何か共鳴のようなものが卵から感じていることは理解していた。
「少し其方が来るまで休んでおったから平気じゃ…」
「頑張ったなリューイ…」
俺は感謝を込めてリューイの頬にキスを落とした。
「うむ、ようやっと里に連れて帰り良い報告が爺様にできる」
「里に連れていくのか?」
「うむ。卵の育つ環境は里が一番良いのでな。子のうちはしばらく里で過ごす必要がある」
「そうか…」
「ふふ、心配せんでももう意識はあるでな。父親と認識しておるわ」
「あんまり実感わかないな…」
「ふふ、父親とはそういうものじゃそうじゃのう…。じゃがのう、そなたにそっくりな黒龍になるぞな」
「なぜわかるんだ?」
「卵の色でわかるのじゃ。黒いじゃろ」
「ああ」
「リュウには悪いが明日には里に戻るつもりじゃ。そのまま体が落ち着く一月ほど里にいる予定をしておる。体を落ち着かせるにも里が一番なのでな…」
「そうか」
「リュウのお披露目は卵が孵ってからになるな。爺様達にも報告せねばならんしのう。それまではわらわのことは気にせんでもええぞな」
「でもそれだと…」
「気にするな。もとより人からの子種自体良い印象はないのでな。説得するにも時間が欲しいのじゃ。もっともリュウを見れば一族は納得するだろうし心配はしとらん」
「そうなのか?」
「うむ、我ら竜人族はもとより強者を求む性質があるでな。リュウを見れば反対するものなどおらんようになる。角も持っておる上に黒龍であるならばなおさらの」
「そういうものか?」
「うむ」
その日俺とリューイは卵を傍に抱え、ゆっくり時間を過ごした。




