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周囲に居た魔物たちは人に戻っていた。
それを歓喜し抱き合って喜びあい。落ち着くと浄化をした俺のほうに集まってきて傅いた。
おれは意識こそ残っていたが力を根こそぎ浄化にもっていかれた為、立ち上がることすらできなかった。
乱れた息の中傅いていた者たちを見ていた。
そんな彼らに声をかけたのはキバだった。
「あなた方は魔人族ですね?」
「そうです。聖都イグニアにある聖域エデンを守護する者…。我らの呪いを解いていただき感謝してもしきれません」
「そこのお方はアルフ神様の御子ですね」
おれは息が上がっているので答えられなかった。
「そうです。この方はリュウ様。我らの魔人王と戴く御方です」
周囲の人たちはどよめきながらも歓声を上げた。
「私の名はキバルグ=フェニックスといい、今代の神官長の役目を負っているものです」
一段とどよめきと歓声が大きくなる。
魔人王と神官長の帰還がそれほどまでに歓びをもたらしたのだろう。
一部の者は涙さえ流して喜んでいた。
だがおれはそれをゆっくり見ているわけにはいかなかった。
徐々に意識が摩れそうになっていたからだ。
道具収納から浄化した後用にと前もって作って持っていた最上級回復薬エリクサーを取り出す。
震える手でそれを手に取る。
それに気がついたのは俺を抱えていたタテだった。
「エリクサーですか」
俺の手の中にあったその回復薬をタテは受け取る。
おれを抱えなおして瓶を開けた。
そのタテの手から薬を奪ったのはエリーゼだった。
「わたくしが…」
そう言ってエリーゼは薬をひとくち口に含むと口移しで俺に飲ませる。
時折俺の意識が飛んでいたせいでもある。
おれは意識が飛んでいたこともあり気がつかなかったのだが回復薬を口移しで飲ませていたのはエリーゼだけではなかったらしい。
代わる代わるエリーゼとクリスとステラが飲ませたらしい。
三人は俺を酷く心配していたようで回復楽を見て介抱したかったようだ。
エリクサーの効果は抜群だった。
完全に切れていたおれのMPを最低限度に回復させ、MPゼロに引きずられるようにHPもかなり減っていたのをそれなりに回復させたのだから。
飲んでからしばらく経つと俺は意識が回復した。
目の前にステラたち三人が俺をのぞき込んでいた。
「よかった。目を覚ましたわ」
「蒼い顔だったのに、少し赤みが差してきたのは良かったですわ」
「いつの間にエリクサーなんて手に入れたのよ」
俺はクリスのその言葉を否定した。
「手に入れてなんかない。浄化後用にとあらかじめ作ったんだよ。数本作って持ってる」
「作ったの?」
「伝説の神の薬エリクサーを?」
酷く驚かれた。
タテが聞いてきた。
「作ったということですが予備に一つ私が持っていてはいけませんか?」
「なぜだ?」
「リュウ様の意識がいつもあるとは限りませんので…」
「………。そうだな」
おれは収納からエリクサーを一本取り出しタテに手渡した。
「材料が手に入りにくいんで元から持っていた材料では数本しか作れなかったんだよ…」
「材料を持っていたほうが驚きなんだけど…」
「大賢者時代の材料だ。特殊な材料ばかりだな」
「どんな材料なの?」
「……七色の神水・世界樹の葉と創世の果実、もしくは存続のクルミだな」
絶句された。
「世界樹って、あのエルフ族の神木よね?」
「そうだな」
「創世の果実って果実なの?」
「果実ですね。たしかこのエデンの庭にある湖の水で育った果実だったかと」
「ああ、穢れが浄化された今ならどこかに実っているかもな」
「存続のクルミはイヴァースに実る木の実として有名ですわよね」
「ああ、創世の果実を使うなら七色の神水はイヴァースのを使わないといけない。逆に存続のクルミを使う時はエデンの七色の神水を使う必要がある。材料によるが効果も誤差がある」
「神の薬の名にふさわしい材料ね」
「さっき神水は数本瓶詰したからな、しばらくはもつだろう。クルミはそのうちイヴァースに行く予定だから手にはいるだろうし、問題は葉なんだよ」
「鎖国中だしね」
「ああ」
おれはタテの腕からゆっくりと身を起こした。
「…これなら歩けるか…」
立ち上がってみる。
「大丈夫ですか」
「ああ、ひとまず颯に戻ろう」
「兄さん、これ…」
「ああ、悪いな」
海から修羅を受け取り鞘に納める。
「了解です」
「キバ、少しうれしそうだな?」
「はい。同族が増えるのはうれしいです」
「そうか…イグニアのあった樹海はもともと獣人国でも特殊な扱いのされている土地らしいから彼らが滞在することはできるだろうが協議を獣人国と教会とでする必要があるかもしれんな」
「はい、見ての通り樹海の影も形もありませんし…」
そう、樹海と名ついた森は形を変えていた。
聖都イグニアの名にふさわしい普通の森が広がる美しい自然に囲まれた都市が出現していたのである。
樹海の木々はすべて穢れだったのである。
「エデンの封印は時をも封印していたというイヴの話だからな。聖都イグニアと言われていた時代の町そのものが穢れから逃れるために封じられたのだろうな」
「リュウ様のおかげでその穢れは浄化されましたので封じ縛られる理由がなくなったのでしょうね」
「時をも封じられていたからな。樹海の魔物が復活するという話の理由も納得できるな」
「はい」
「おそらくこの事態はイヴから教皇に伝わっているはずだ。教会が騒ぐだろうな」
「教会の直轄地になるかもと?」
「その可能性もある。どちらにせよキバ、お前が窓口になると思うぞ。何しろ扉を開けられる神官長の力を持っているのだからな」
「それはできれば避けたいのですがね…。私はリュウ様の使い魔ですので」
「穏便に済ませるには教会の直轄地に入りつつ管理を覇王名義で認めさせることだが…」
「難しいかもしれませんね…」
「フィニアスとも相談するべきだろうな…」
「はい、それとゲート用の魔道具ですが目立たない扉の右手側の奥のほうに設置いたしました」
「ああ」
イグニアの神官たちは俺たちを歓待したかったのだが封印が解けた直後でもあるために町は機能していなかったので渋々諦めたようだった。
それでも町の外に専用の馬車代わりの颯があることを知るとたいそう喜んだ。
森の外に出るとすぐそばにあった颯の内部に入る。
歩ける程度には回復はしていたが、それでも気が抜けたのかソファに倒れるように座り込んだ。
さすがに心配して隣の部屋にベッドを用意してくれた。
さすがにひとり横になるのは気が引けたがそれ以上に自分の体は正直だった。
一同に休めるうちはしっかり休むように伝えて隣の部屋の奥に用意してくれたベッドで休んだ。
さすがに部屋が狭くなるので仕切れないが衝立を用意してくれたようでゆっくり休めた俺だった。
結局おれは翌日まで眠っていたらしい。クリスとステラが同じベッドで休んでも猫になったエリーゼが乗っても気が付かないほど熟睡したようだった。
翌朝おれはゆっくり休んだこともあり、すっかり体調も良くなっていた。
起きたのが早朝だったのだがもう寝る気にはなれなかったので起きることにした。
静かにベッドを抜け出し身だしなみを整えて寝室にしていた部屋を出る。
この寝室代わりにしていた部屋には海たちやエルナたちも寝ていたので物音を立てずに移動した。
喉が渇いてしまったのでリビングにしていた部屋に入るとキバとタテが椅子に座っていた。
俺の存在に気がついて声をかけてきた。
「リュウ様、起きて大丈夫ですか?」
「ああ、すっかり平気だ。それよりも水をくれるか?」
「はい」
飲み物を飲み干してゆっくりした時間が流れる。
窓の外を見るとまだ夜が明けて間がないのか薄暗かった。
せっかくなので収納内に収めたエリクサーの素材が揃ったこともあり調合をすることにした。
収納に納めていた調合用の道具と素材を取り出す。
簡易的なものだが出先で作るには十分な道具だった。
「フィニアスには感謝しないとな。こんないい調合用の道具をくれたんだから…」
慎重に素材の量を測り分量を用意する。
葉をすりつぶし神水に混ぜる。分量のクルミを砕き粉末にして神水に混ぜる。ゆっくりと水を揺らし沈殿していた葉とクルミの材料をなじませていた。
しばらく揺らしたまま漏斗と数本の空き瓶を取り出す。
神水の色の変化を慎重に見つめて揺らしていると徐々に色がエリクサー特有の緑色へと変化していく。
「ふむ、こんなものかな」
漏斗を使い空き瓶に分量分ずつ注いでいく。
ふたを閉めて一息ついた。
エリクサーが5本完成した。
しげしげとそれを持ち眺める。鑑定すると上級の出来だった。
「二度目ともなると完成度が増したな」
持っていたエリクサーを置くと道具を洗浄して今度はポーションつくりに取り掛かった。
作るポーションはハイポーションと呼ばれる上級物だ。
手慣れた作業で作り続けた。
立て続けにオールやキュアなどを作っていると作業していた机がいっぱいになっていく。
気分よく夢中で作業していた。
「どれだけ作ってるのよ、リュウは…」
「え」
夢中になっていたので結構時間が経っていたことに気がつかなかったようだ。
視線を作業していた机からかけられた声の主を見る。
クリスとエルナが呆れていた。後ろには海たちもいる。
「悪い…」
調合を終わることにした。道具を洗浄してしまう。
後に残ったのは作ったエリクサー5本、ハイポーション10本、ハイキュア10本、オール薬15本だった。
エルナがハイポーションを手に取り感心していた。
「ハイポーションというだけでも驚きなのにかなり性能がいいらしいな」
「エリクサーまであるよ。相変わらず凝りだすと止まらないんだから兄さんは…」
俺は頭を掻いた。
「エリクサーを作りついでに他のも作ったんだが、作りすぎたか…」
そう言ってエリクサー三本と人数分のポーションとキュアとオールを残して仕舞う。
エリクサーを海とエルナとキバにそれぞれ渡した。
「残りは一人一本ずつ持っていてくれ」
「隆さんいいの?」
麗奈が聞いてきた。
「もちろんだ。その為に作っていたんだから」
おれはしばらく座っていたこともあり固まっていた体をほぐすためにも立ち上がる。
大きく伸びをして肩をほぐした。そこまですると珍しく腹の音が鳴った。
窓の外を見るとすっかり明けていた。
「集中しすぎたかな。一食抜いたからさすがに腹は減るか」
「朝食にしましょうか」
「ああ、わるいな占拠してしまったようだ」
「というよりもどうしてこんな時間に調合なんてするのよ」
「ああ、少し早起きしすぎたんでな、皆が起きるまでの時間つぶしのつもりだったんだよ」
「時間つぶしって…」
おれは何か不満顔のクリスの頭の上に手のひらをのせる。
「食事は多いほうが楽しいだろ」
「うん」
不意にクリスが俺にしがみついてきた。
「どうした?」
「どこも異常ないわよね?」
「ん?」
ステラも腕を握ってきた。
「心配だったの」
「大丈夫だ。それに何か異常があったとしても昨日飲ませてくれたエリクサーで解除されてる」
「本当ですわよね?」
おれは開いた手でエリーゼの耳の裏を触る。気持ちがいいのか耳がぴくぴくと下に伏せるように動いた。
「もちろんだ。エリクサーの効能は二種類あるが昨日飲んだものは体力と魔力を回復させ、あらゆる異常は全て解除し元に戻す効果があるものだからあったとしても解除されてる」
「大丈夫ですよ。イヴ神様が神泉を使い、禊をリュウ様に施されましたのであの時点で聖別がなされましたので邪気に関しても身には残ってはおりませんよ」
「あれってそういう意味だったの?」
「はい」
キバがにこやかに答えた。
「皆さま朝食のご用意が整いました」
フレアが侍女らしくタテたちを手伝っていた。
「簡単なものですので口に合わないものがあるかもしれませんね」
「出先だから上等なものは期待していませんよタテさん」
「うんうん。野宿じゃないだけでもありがたいよね」
海たちがそう言って頷いていた。
「当然ですよ。リュウ様に快適に過ごしてもらうのに必要なものはそろえていますので問題ありませんよ」
「すばらしいです。私も見習うことが多いです」
フレアが二人を絶賛していた。
「手が増えたことはわれらもうれしいですよ、フレア」
食事をとりつつ感心していた。
「うまくやっていけそうだな」
「はい、大丈夫ですよ。フレアは優秀な方ですのでこちらも助かっています」
「御心配ありがとうございます」




