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目を覚ますと俺が最後に起きたようだ。やはり悪夢で途中に目が覚めたのが大きかったようで心配された。
というのも俺はいつも比較的早起きだからだ。警戒心から目が覚めやすいせいでもある。
「珍しいわね。リュウが起きるのが遅いのは」
おれは軽く伸びをして眠気を吹き飛ばす。
「嫌な夢を見たからな。あまりよく眠れなかったんだよ」
「嫌な夢?」
黙っていたほうがいいのか悩んだ。このままの調子だと頻繁にスキルが夢の形を取りそうだったから。
「悪夢としか言いようのないものだな…思い出したくもない」
「ごめんなさい」
俺は首を振った。
「気にするな」
その後俺たちは身支度を整えて食堂に降り朝食を取った。
その日は魔物討伐に精を出した。西側にいた主を海たちが倒したうえ、浄化スキルを強めに出したおかげで首都の周囲の魔物は比較的早くに弱体化することに成功したようだった。
皆のレベルも技術的にも上がってきてたので連携を取ることも視野に入れられるようになった。
俺はといえば弓を使って補助に回っていた。
本当は動きたかったのだが動けない理由があった。
視られていたのである。
覇王だから見られていたのかどうかはわからないが俺にやたらと視線を送っていたのだ。明らかに俺が狙いなのはわかったので手を抜くしかなかった。
「兄さん今日は補助ばっかりだったけど動くんじゃなかったの?」
俺はタテを見た。タテは軽くうなずいていた。
「ちょっとな…」
「ここではだれが聞いているかわかりませんので…」
キバが引き継いだ。一同はその言葉に驚く。
「え?」
俺は海の肩に手をのせて密着した。
「俺は見張られているんだよ。今もなおずっと監視されてる」
耳打ちするような小声で言った。
「!」
ギルドに魔物討伐の報告に立ち寄り入ろうとしてこちらに慌てて走ってくる獣人の女性がいた。
「エリーゼ様!」
声をかけてきた。狐耳の獣人はどうやらエリーゼの知り合いらしかった。
「フレア?」
「知り合いか?」
「ええ、わたくしの乳姉妹で侍女を務めておりますのよ。軟禁されたときに引き離されてしまって…」
「そうか」
「エリーゼ様。御無事で何よりです」
「うふふ、フレアを見るのが久しぶりですわね」
「覇王様、エリーゼ様の呪いを解いてくださり感謝申し上げます。実は大事なお話がありまして…」
「急ぐことか?」
「いえ、御用があればそちらを優先していただいたほうがよろしいかと思います」
「そうか、ちょっと待ってくれ。ギルドに報告しないとな」
「はい」
ギルドに入ると相変わらずにぎやかなはずの酒場が静まり返る。
気にしていてはきりがないので構わずカウンターに進みカードと依頼書と討伐証明の牙を出した。
「討伐報告だ。手早く頼む」
「は、はい」
いつものようにカードを通し討伐完了の判を依頼書に押すのを見ていると受付嬢が席を立ち背後の部屋から一枚のカードを出してきた。諸登録をしているようだ。
「討伐完了です。今回の討伐でBランクへの昇進が確定しましたのでカードが変わります。討伐ランクもAまで受けることができますので注意してください。貴公子様の昇進おめでとうございます」
受付嬢が銀のカードを差し出した。
今まではCランクで鉄だった。
「Bへの昇進を果たされましたがAランクへの昇進条件のAランク魔物討伐もすべて果たされておりますので後は総合計の魔物頭数をクリアすればすぐにAランクへの昇進もできます」
「そうか、ありがとう」
俺はカードを受け取りしまうとギルドを後にした。
「討伐頭数が一番の難題なんだよな…」
「普通、逆のような気がするんだけど…」
「はは、そうだろうな」
時間は夕方だったこともありひとまず宿おすすめのレストランへと行くことにしたのだった。
レストランに入るとキバがVIP用の窓のない個室を取ってくれたので落ち着いて食事にありつけた。
一通りの食事の後、俺は部屋に結界を張る。隠蔽効果の高い結界だ。
「せっかくだしフレアといったな。話を聞こうか?」
「あ、はい。実は国王陛下より書簡を預かっておりまして…」
「ほう?」
「それを目に通される前に覇王様に報告しておくべきことがあります」
「なんだ?」
「明日予定されていた国王陛下との謁見が取りやめになって二週間ほど延期したいとのことです」
「取りやめとは穏やかではないな。何か理由があるのか?」
「はい、実は国王陛下は今回覇王様に依頼した討伐の詳細を調べさせていたらしいのですが妨害にあってしまってケガをなされてしまい謁見が難しくなったのです」
「エリーゼの言っていた反対派というやつか。覇王との懇意にしたくないようだな」
「フレアはこう見えても諜報部にいたほどの高い隠密行動が得意でわたくしの国でも手練れになるのです」
「なるほどな。それのせいなのかな。俺の気配に動じもしなかったのは」
「もちろんですわ。わたくしの侍女となるため高度な鍛錬と動じない訓練もしてきたのです。動じては侍女としては優秀ではありませんことよ」
「これがお預かりした書簡です。陛下からはエリーゼ様から離れるなと厳命を受けておりますので同行させていただきます」
俺は頷いた。
フレアは言ってキバに封筒を差し出した。
キバは軽く調べると不審を感じなかったのかそのまま差し出してきた。
受け取り裏を見ると国王の判が押されてあった。
「確かに国王殿の封印のようだな」
タテが封筒を切る道具を差し出し俺は受け取り封を切った。
ざっと目を通す。
「なるほどな。かなり不穏になっているようだな。二週間と延期したのもすべての決着後ということか」
「はい、陛下は今回エリーゼ様の解呪の報告を貴国より受けてそれはお喜びになられておられました」
「了承したと報告をしてもらえるかな」
「はい、ありがとうございます」
フレアは深々とお辞儀をした。
「殿下、一度城に報告に戻ります。合流は宿でよろしいでしょうか」
「ええ」
「明日、朝準備が整い次第、北へ出発する。詳細はその時にしよう」
「了解しました」
張っていた結界を解くとフレアは城に戻っていった。
俺たちは宿に戻り明日に向けて各々自由に過ごした。
その夜、予想通り俺は再び自身がウィリアムになる夢を見た。
その夢は悪夢ではなかった為、深く寝入ってしまった。起きれなくなっていたのだった。
そう、おれはスキルという名の夢に囚われていた。姿もウィリアムに変わっていたという。
ウィリアムの一生を早送りで見ているような夢だった。だがそれでも時にリアルなその夢は俺を苦しめた。
ウィリアムが覇王という名で世界に通じるようになってしばらく経ち覇王城建設に着手していたウィリアムは警護のスキをつかれ誘拐されてしまう。
ウィリアムは術師のように耐久力も低く弱かったので魔封じをされるとなす術がない事を知っていた奴らだった。
ウィリアムを誘拐したのは邪神を崇める邪教徒で邪神を下ろせる器を探しウィリアムに目を付けたのだ。
暗い牢獄に囚われていた。脱獄防止に両手を縛られ邪神を下ろすためには器の意志を弱める必要がありウィリアムは拘束呪文を毎日のようにかけられていた。
意識ももうろうとしていて自分が何をされているのか理解できていない日が続いた。
邪神を下ろす準備が整ったのかウィリアムは大きな広場に連れてこられていた。
妙な浮遊感を感じながら俺は連れてこられた場所に敷かれている魔方陣を眺めていた。
所々違いはあるもののその魔方陣は俺の腕に刻まれていたあの紋章に酷似していた。
合図とともに魔方陣がウィリアムを包む。
それはウィリアムに激痛をもたらした。
その激痛はリアルの俺にもダイレクトに伝わり意識のないまま暴れたらしい。
ひとしきり暴れた後取り押さえられるとアクセ越しに紋章が黒く輝き天井に投影されたという。
その紋章は禍々しさが感じられたという。
ウィリアムに激痛をもたらしたその魔方陣はウィリアムの全身にそのまま描かれる。やがて収まるように右手首に集約されるように紋章が浮かび上がる。黒く輝きに満ちたその紋章は高い神子の器として刻まれたようだった。
ウィリアム自身は誰かの走馬灯でも見るように一瞬で通り過ぎる過去を見た。
なぜか懐かしいとウィリアムは思ったように俺にも懐かしさがあった。
そのままウィリアムの意識のないまま儀式は進み邪神を下ろす間際にキバたち魔人族の襲撃によって儀式は中断されウィリアムは救い出された。
その逸話を見たとき俺は確信した。
この紋章は邪神の器の証なのか
やがてウィリアムはその後覇王という名にふさわしい旗頭として世界を統一することになる。
だが統一した直後よりウィリアムは刻まれた紋章の影響からか不治の病を得る。
病はウィリアムを弱らせやがて死を覚悟したときウィリアムはイヴに呼びかけ神界へといざなわれる。
それは俺へとつながることだった。
真っ白な空間へといざなわれそこがイヴの住まう神界と気がついたとき背後から気配を感じて振り向くとクリスやステラたち皆がそこにいた。俺の姿は工藤隆の姿だった。
『リュウ』
『兄さん…』
時間停止したような感じでイヴとウィリアムが立っていた。
『ここは?』
ここは神界。別名を転生の間という神々が住まう世界。ここはウィリアムの過去だ
そう思った俺はウィリアムと同化した。
「イヴ…。おれはもうじきこの生を終える。その前にどうしてもあなたに言っておきたかったことがある」
「何でしょうか?」
「それを聞くのかい?」
「………」
「おれはいままであなたの願いをかなえ、心に寄り添いたかったからこそ頑張って走ってきた」
「はい。感謝しています」
「貴女の言う魔物を浄化し貴女の願いのためにくだらない女を相手に子も残した」
「………」
『くだらない女……?』
クリス達が驚いているようだった。
「それも全部、貴女に振り向いてほしかったからだ!」
「ウィリアム…。それは不毛な想いです。捨て去りなさい」
「捨てろというのか…?」
「はい」
ウィリアムは震えていた。
「………。この想いが…不毛だというのか。この想いがあったから俺はどんなことにも耐えられたというのに…!」
「そのような想いは不必要です。その想いは神ではなく人に向けるべきものです」
「おれは、卑しい男娼奴隷だ。そんな俺が女を本気で愛せると思っているなら大きな間違いだ!」
『ど、どういう事なの?』
ウィリアムは酷い女性嫌いだった。嫌悪すらしていた。数多いた妾は全て義務だったから相手をしていたんだ
『!』
「俺が愛しているのは貴女だけだ。貴女を愛しているんだ…イヴ…」
ウィリアムは涙を流していた。
「捨て去りなさい。そのような想いは不要です。さあ、下界に降り生を全うしなさいウィリアム」
しばらく無言だった。
やがてウィリアムはうつむき呟く。
「俺は…かなえたいと思ってなかった…。叶えられると思ってない。ただ…受け入れてほしかった……。知ってほしかった…ただそれだけだったんだ…」
ウィリアムは意志が込められるようにうつむいていた顔を上げイヴを見た。
「知ってほしかっただけだ。なかったことになんてされたくなかった!」
ウィリアムはそう叫ぶとイヴの顔を両手で引き寄せて奪うように唇をむさぼった。
その行動にイヴは驚き拒絶して引き離した。
「ウィリアム…。神力を奪って何をする気です!」
「認めてほしかった。そうすればおれはもう一度世界に降り生を全うしただろう。でも貴女は認めてはくれなかった。俺なんて道端の石ころのような存在なのだろう」
「それは違います!」
「違わない!君は失われた半神を求めて俺を見つけた。だったら君の隣に並びたてる存在となる」
「ウィリアム……。まさか貴方…」
ウィリアムの全身が大きく輝きだす。
「おやめなさい!」
「君の隣に並びたてる存在になるには上位の世界に転生して神力を得る!それまでまっていて」
「いけません。異世界転生など行えばあなたの生は…!」
「死などとうの昔に覚悟はしている。全生命力を転生に注ぐだけだ!」
『異世界転生ですって?』
「だめです、ウィリアム!」
その声が最後だった。白い世界は暗転し真っ暗闇になる。
真っ黒な空間から写真を切り取ったかのような映像が流れていく。
『こ、これは…兄さん?』
走馬灯とも言うものだ。ウィリアムの後に二度転生したというからその時のものだな
やがて暗闇の中から一点の光が現れ近づいてくる。
その光をくぐるとそこは地球の病院だった。
ベッドに横たわる女性とそのベッドのわきに備えられた小さなベッドをのぞき込む男性がいた。
「空さん名前は決まったの?」
「もちろんだよ。陸とかいて、りくというのはどうだい。海と書いてかいと言う字もあるけど、美紅?」
美紅と呼ばれた女性は笑みを浮かべた。
「空さんから生まれた陸ね。空と陸と海か、安直すぎない?」
「そうかな…?」
「せめてもう少しひねったほうがいいわ。りく…りう…りゅう。りゅうでどうかしら?」
「りゅう…ね。良い名前だな。でもそれも結構安直だぞ。それに漢字に困らないか?」
「空さんがいいりゅうの漢字を探してね」
「はいはい、美紅。この子はどんな子に育って欲しいかな。どんな子に育つかな…」
「そうね、私と違い、健康な子であってほしいわ。もちろん人の痛みに分かち合えるような優しくて強い子ならどんなにいいか…」
「大丈夫。美紅の子だ。優しい子になる」
「そういうのなら空さんの子だもの。強い子になるわよ。きっと」
空と呼ばれた男性は小さなベッドに横たわる赤子を大事に抱えた。
「今日からお前はりゅうだ。工藤りゅうだぞ!」
景色は再び暗闇に包まれた。
『兄さん…。優しそうな人だったね』
母さんの姿なんて初めて見たな。写真すらなかったから…
『兄さんは義母さんの望みをかなえているよ。絶対にね』
そうだといいな。先に戻っていろ。もうじき覚めるから
暗闇から一筋の光が皆に注いだ。
彼らはその姿を消した。
しばらく無言で立っていた。
何か言いたいことがあるんじゃないのか、ウィリアム?
周囲がゆらりと揺らめく。
『ああ、気がついていたんだね』
ウィリアムが現れた。
『君に言っておきたいことがあってね』
なにを?
『君をここに招いてから思い出したことがあるんだよ』
思い出したこと?
『イヴが探し求めている半神のことだよ』
半神?
『この世界はね女神イヴと男神アルフによって作られたんだよ。イヴはずっとこの世界に消えた半神の男神アルフを探しているんだよ』
男神アルフ…
『姿形や声は俺がそっくりらしいんだけど、性格が俺は似ていないらしくてね。酷く残念がられたんだよ』
なぜそんな話をする?
『イヴ曰く、男神アルフは自分を大切にしない性格らしくてね。何かを守るためには平気で自分をさらす癖があるんだってさ。おまけに集中しだすと周りを顧みないんで放置されることもしばしばあったらしい。その性格が災いしてこの世界に紛れ消える羽目になったんだから』
ウィリアムは笑みを浮かべていた。
『君の姿は全く男神アルフに似てないんだけど、どうしてだろうね。性格はそっくりらしいね。イヴを見ているとよくわかるよ』
どうしてそう思うんだ?
『俺は君が羨ましいよ。イヴから口づけを貰えるなんて俺やほかの存在からは決してあり得ないことだから』
意味が分からん…
『はは、神の口づけは祝福の意味もあるけどそれ以上に神力を移動させ、相手に分け与えることができるんだよ。俺の場合、何かをイヴからしてもらう時や、祝福は手を握ってもらってた』
俺はさすがに驚いた。
『口づけなんで絶対にありえないんだよ。だから君が羨ましい。だって口づけを貰えるほど君の神力は異世界転生したときの俺よりもずっと多く強いから』
神力なんてそんな力がどんなものなのかさえ、俺にはわからん
『だろうね。頭にイヴから声が聞こえるだろう。あれは神力でイヴと繋がっているから聞こえるんだよ。普通の人は声なんか聞こえない。習得した特技とかはステータス窓が現れるだけ』
!
『君はかなり特殊だということを知ってほしかったんだよ。俺でさえ、イヴに声を届けることなんて出来ないんだからさ』
わざわざそれを?
『そうだよ。もう目覚めたほうがいい。俺からはもう君と接触できないから俺に用があるならスキルを使いなよ』
本か
ウィリアムは頷き闇に消えた。
同時に意識が揺らぎ落ちた。




