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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
5章 器と覇王
48/98

ボリュームが出てしまいました

切りどころに困った感じです(^^;



意識が浮上すると目の前に光り輝く本が浮いていた。スキル覇王の覇道記だ。

「兄さん!」

「リュウ、良かった目を覚ましたのね」

おれは周囲を見回すと夢にいた全員が俺を心配げに見ていた。窓の外は朝日がさしていた。

横になったまま、目の前に浮かんだままの本に手を翳す。すると俺の中から透明な紙が大量に外に現れる。俺を中心に紙は白く輝き、宙に浮いていた。

おれは身を起こしベッドに座る。

目のまえに浮いている本の表紙を持つと本は勝手に開いた。

輝きを纏いながら本は周囲の大量の紙を吸い込むようにして張り付いていく。

おれはそれをジッと見つめていた。

やがてすべての紙が本に収まると本は勝手に宙に浮き閉じる。やがて金に輝く綴じ紐が本を十字に結んだ。

俺の手の中に表紙が上になって収まる。

すぐ横にいたクリスが表紙の文字を読んだ。

「覇王の覇道記…?」

「スキルだ。先代覇王ウィリアムの人格と記憶、感情が本という形を取って固有化スキルになっているんだ」

「それって…」

「自叙伝というやつ?」

海が聞いてきた。

「まぁ、そうだな。本人の記憶がつづられているからこれ以上に正確な覇王伝は存在しないことになる」

本を消して、おれは窓を開けた。

 リュウ=クドウ=マリノス *

  職業=賢者30・王者26

   HP=13689

   MP=17532

   力=2456

   素早さ=1898

   集中=2241

   魔力=5874

   魅力=32415

   運=8500

  特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔力操作・魔道具作成・使い魔召喚・使い魔疎通・使い魔共有・息吹(限定)=MAX・覇剣術・弓術=中級・竜魔法(限定)=初級〉

  呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済・召喚=中級〉

  スキル〈鑑定β・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納Ω・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・魅了・完全防御・魔物浄化・転身・竜化(限定)・飛行(限定)〉

  固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証・叡智の結晶・覇王の覇道記・叡智の魔術記(現在使用不可)〉

  EXスキル〈超回復・超吸収・自己栄養生産〉


「やっと封印が解けて解放されたな…。後は叡智の魔術記…か」

 あれ、この*ってなんだ?

タップしてみた。


 〈称号〉

   覇王を継ぐもの・竜王の後継者・獣王に認められしもの・邪神の器・女神の愛を得る者・神の卵・輪廻を統べる者・異世界を旅するもの・大賢者の卵・ドラゴンスレイヤー・獣を狩るもの・魔を消すもの・聖を滅する者・聖人・魔人王・教皇の友人


おれは見た途端に呻いた。

「称号なんか出やがるか…」

窓を開けたまま直視できなかった。頭を抱えてしまう。

「イタすぎる…」

「うわぁ。すごい称号が並んでるよ」

「すごいわね。女神の愛を得る者って…。女神ってイヴ神のことよね…」

「うふふ、獣王に認められしものがあるわ。お父様に認められたからついたのですわね」

「開けるんじゃなかった…」

おれは窓をとじる。

その後俺は丸二日も眠っていたことに驚きつつも身支度を整え朝食を取りそのまま一同を連れて宿を後にした。


颯を北門に近い場所に出し運転をタテに任せて乗り込む。

行先は首都ハリーの北東に位置する幻魔の樹海だ。

太古からある有名な魔物の闊歩する森で悪名高い。

だが悪名高くとも森に生息する魔物は強いが何故だか森からは一歩も出ないことでも有名でありそれなりに高レベルの冒険者が更なる強さを求めてやってくることでも有名なのだ。

運転を任せたのにも理由がある。

細かな打ち合わせと事情を説明する必要があるからだ。

今回の依頼はその森ではなくその森の周囲にある平原の一部に森の奥地にしか生息しないはずの魔物が出現しているという。

それも即湧きしているのではなく奥地からの直通の道が出来上がったのだとかで何も知らないで森の外に出てくるのだという。

森の中の魔物は樹海内ならばおとなしい魔物が多いのだが外に出ると狂暴化し手が付けられなくなるので手を焼いているのだという。

それだけならば普通の冒険者でも対応できるのだが直通の道を封鎖するには奥地に行く必要がある。

王の書簡ではその直通の道がどうやら人為的に作られたらしく高ランクの空間魔法が使われているとのこと。

獣人族は基本前衛に特化した種族で術系は総じて魔力が低い種族な為、国内の獣人族の仕業という線は低いらしい。

どうやらマリス魔導国の関与が濃厚らしい。

王はその関与の証拠集めとあぶり出しに手を取られるという。

それだけでなく高ランクの空間魔法を打ち消すだけの使い手となるとマリス魔導国以外ではエルフの国のお抱え術師か覇王しかいないのだという。

エルフ国は現在鎖国中で依頼どころではないのだ。

その空間魔法のことも関与が疑われている理由になっている。

個人的には確実に俺を狙った者の犯行だろう。

首都で俺を監視していたことと一致するのだ。

幻魔の樹海で覇王が死んだとなれば魔導国とて疑われないだろう。

だが、おれはそれだけではないような気がしてならない。

なにか確証があるわけではないのだが今回の紋章の件と関りがあるような気がしている。

魔導国でさえも隠れ蓑にしているのではと思っている。

魔導国と覇王が敵対しているのは有名すぎるからだ。


一通り一同に状況の統一を図り、やるべきことを再確認した後、しばらくして目的地に到着したというタテの報告があがる。だが移動に時間を食ったので翌日に持ち越しになった。


翌日、外に出ると少し冷気があるのか涼しい空気だった。

気温保全の利いたコートを着る俺でこれなのだからほかのメンツが気になった。

「少し涼しい…か?」

「ちょっと空気が冷たいね、兄さん。俺たちは平気だけど慣れてないと厳しいかも…」

女性陣を見ると寒そうにしていた。

「ふむ」

おれは収納からこんなこともあろうかと気温保全の付与をしているコートを数着出した。

「女性は体を冷やすとまずいからな、着てろ」

「あ、コート?」

「ああ、気温保全が付いてるから多少は和らぐはずだ」

エリーゼたち獣人以外の女性陣は皆着込んだ。

「男用もあるから遠慮はするなよ」

「貰っとくよ。持っていればいつでも着れるだろうし」

「だな」

「我々は大丈夫ですのでお気になさらずに」

「ああ」

それぞれに手渡した。

「準備がいいわね」

「獣人国は寒暖差が激しいと聞いていたからな。寒さだけじゃなく暑さにもある程度は効くから少し前から用意していたんだ。旅には必携だしな」

「確かにね」

「フード付きなのは嬉しいかも」

「吹雪や砂漠とかも想定しているからな」

おれは目的の森を見た。

かなり変わった樹木が立ち並ぶ樹海の名にふさわしい森だった。

視線を森に向けていると俺の中から不快な感覚が湧き上がる。

 早急に終わらせるほうがいいらしいな…

視線を森に合わせるだけで不快に感じるのだからこのまま何もしない状態で入るのは相手の思うつぼのような気がした。

『ホーリーブレイクシールド・キャンセラー』

最高級の聖属性結界を自分に張った。自分が解かない限り継続する効果がある。

「兄さん、結界?」

「ああ、どうも嫌な予感が消えないからな。ここは俺にはよくない気配がするから念のためだ」

「皆さんは大丈夫ですか?」

キバが聞いてきた。

一同は頷いた。

「ならいい。不快に思ったら遠慮はするなよ。クリスは上級結界が使えるな?」

「うん」

「私も使えます、隆さん」

優美の言葉に俺は頷いた。

「俺が無理でも上級でも効果はあるはずだ」

視線を森ではなく少し外し手前の平原を見る。

異形な魔物が闊歩していた。

その魔物の奥のほうに黒い空間呪文らしい塊が浮いていた。

「あれを何とかしないと調べられんな」

「僕たちが行くよ」

「頼む。フォローは任せろ。無理そうなら俺も加わるからな」

海たちは頷いて異形の魔物に先制攻撃の炎の魔法を打ち込んで飛び出していった。

「車はここに確保しておく。護衛をよこしておくほうが安全だな」

「はい」

海たちの戦闘を見守っていると善戦しているようだが少し火力が足りないようだった。

タンクの役割をしている覚の消耗が激しいのが見て取れた。

初戦でこれでは後が持たないなと思い、弓を出した。

構えてガードクラッシュ効果魔法を弓に乗せて魔物の頭上に打ち込んだ。

それは効果的に魔物に効いたのか海が止めを刺した。

「森の入り口で手こずるわけにはいかないからな」

空間呪文らしき黒い塊に近寄る。

掌を翳し鑑定を行うとやはり空間呪文だった。

「お粗末な魔法だな。意図的に一方通行なのはともかくとして安定していない劣化したゲートだな」

呆れるように呟いた俺に同意したのは麗奈だった。

「始めたばかりの私でももう少し安定しているんだけどコレは酷いね」

「そうだな。麗奈のほうがよほどマシだな。消すには一方通行だからこちらからでは無理だし、通行止めにしておくか」

『ブロック・タイム』

塊の周囲を時限付きで切り取った。

「すごい…」

『ラインクロス・ムーブ』

塊に向け呪文を放つと白い線が森に向かって放たれる。

『サーチ』

目の前に透明なマップが現れる。

俺はマップに触れると奥のほうに白いマーキングが付いた。

「かなり距離があるな」

収納から魔石を取り出しサーチを一時的に刻んで記録した。

「準備が整ったから入るか」

「はい」

一同は同意して森に向かう。

「覚君、前に行くぞ」

「はい」

エルナと覚が先陣を切った。

海も続いた。マップをキバにもたせ森に入る。

傍にエリーゼとキバが従い後ろから術師の4人が続き最後にタテがいた。

車の番には召喚した使い魔たちが非常事態に備えていた。

森に入ってその異常さに気がついた。

それまでずっと感じていた視線が遮断されたのだ。

「!」

驚いて一瞬足が止まった。

ミドルサーチをかける。

周囲を遠巻きにしている魔物が多数いたのだが人は周囲には見かけなかったのだ。

「どうしたの?」

クリスが俺の異変に気がついて声をかけてきた。

それで前を進んでいたエルナたちも足が止まり振り返る。

おれは注意深く辺りを警戒していた。

「この地は外からの魔力を遮断するといいます。透視の類の呪文が消えたのは当然でしょうね」

キバが答えをくれた。

「それでか…監視の気配がきえたのは…」

「それって聖地エジャルナと同じだよね」

「そういえば、そうね」

「魔力を遮断する効果というのは確かに聖地エジャルナと同じですわね」

「そうなのか?」

「ええ、聖域イヴァースから満ちるイヴ神の神力によってあらゆる力は無効化されるそうですからこの地も何かあるのかもしれませんわね」

おれは顎に手を置き少し考えるがらちが明かない上に情報が足りないことも事実なのでできることをやることにした。

即ち、この森にある空間ゲートの封鎖だ。

「考えてもらちが明かないからな、前に進もう。すまんな、足を止めた」

一同は再び前へと進むが不思議なことに魔物の襲撃はパタリとやんだ。

「森の中では魔物はおとなしいと有名だったがこれほどとは思ってなかったな」

「だな、こちらとしては拍子抜けだ」

エルナが残念そうに呻いた。

「周囲でこちらをうかがっているのは見て取れるんだけど襲ってくる様子はないね」

海が周囲を見ていった。

「順調なのはいいんだが、良すぎると心配になるな」

「おそらくですが我々魔人族がいるためだと思います」

進みながらも聞いた。

「何か知っているのか?」

「はい、我ら魔人族にしか伝わっていなかった事実が一つあります」

キバの後を続けるようにタテが言った。

「この幻魔の樹海は元々魔人族の聖都と呼ばれてた成れの果てだと聞いたことがあります」

「魔人族の聖都?」

「はい。今のヒューマたちでは知るものは少ないですがこの世界は二柱の神によって作られたということはご存じですか?」

「そんな話は聞いたことがないな。神といえば女神イヴしかしらないぞ」

エルナが言った。

「今の時代では女神イヴだけが創造神とされていることは事実だな。普通の認識ではそうなるが…」

「リュウ様はご存じなのですか?」

「今朝のスキルでウィリアムから聞いたな。確か男神アルフ…だったか?」

「はい、男神アルフ。この地はそのアルフ神の聖域エデンがあるとされている場所なのだとか」

「聖域…ね。降臨の場ということか。聖地エジャルナにあるイヴァースがイヴ神降臨の場と同じで」

「はい。幻魔の樹海が元は聖都イグニアの聖域エデンだったという事実と共に聖域エデンの管理として魔人族の都だったということが伝承で伝わっていたのです」

「なるほどな魔人がいるからさけていると?」

「可能性はあります」

「あり得る話だな。北のエデンと南のイヴァースというわけか。イヴァースがヒューマにとって聖地なのは事実だしな。しかし興味深い話だな」

 邪神を崇めていたという魔人族の噂とタテたちの言う男神アルフ。もしかして邪神とはアルフのことかもしれないな。称号に邪神の器などというものが付いている以上は気を付ける必要があるか

首を振って思考にはまりそうになるのを中断する。

「もうじき目的の場所に着きますね」

そうキバが言った時だった。

おれは不意に修羅を引き抜いた。

同時にうっそうとした奇形の樹木が立ち並ぶ樹海で魔物が襲ってきた。

正面からではなく側面から俺を狙っていた。

修羅を手に魔物の爪を防ぐ。

派手な音が辺りに響き渡る。

魔物の重量から俺は押し込まれ樹木に背をしたたかに打った。

狼系の魔物らしく素早い動きで俺から距離を置くとおもむろに大きな雄叫びを上げた。

樹海の外で見る普通の魔物だった。

その雄叫びに乞おうするように周囲に一回りほど小さい狼の集団が現れる。

それを見たエルナたちは武器を抜いて応戦しだした。

いきなり乱戦になってしまったのだ。

「こいつら、樹海の魔物じゃないな。普通の魔物だ!」

エルナが言い放った。

「ああ、外から持ち込まれた魔物だろうな」

乱戦になり襲ってきた小物の狼を両断すると俺は頭の狼の背後を見た。

そこには黒い服を着た正体不明の人間がいた。

脇には使い魔専用の召喚門が扉を開けていた。

「あれだな…」

「私が行く!」

そんな飛び出したエルナを補助しファイアアローを数発撃ち、先制したのはクリスだった。

ステラがエルナに防御をかける。

着弾後すぐにエルナが肉薄した。

エルナの剣が召喚者を直撃し打ち倒す。

その直後に別の方角から一回り以上大きなゴーレムと思われる魔物が俺に肉薄してきた。

タテが気がつきゴーレムの進路を阻む。キバが俺の前に立ちふさがる。

だがゴーレムは一体だけではなかった。背後から数体ゴーレムが現れキバたちに襲い掛かる。

キバたちは俺にゴーレムを近寄らせまいとしていたが数が多すぎた。

俺は二体のゴーレムの攻撃をかわしつつ確実に倒すことにした。

監視の目もないので気にする必要はない。

『ハイ・エンチャント・ブレイブ』

少しゴーレムと距離を置いた俺は武器強化を修羅に施す。

ゴーレムは撃たれ強い装甲を持つことでも有名で武器攻撃は効き辛い。


だがどんな魔物にでも弱点はある。


このゴーレムも武器攻撃が効きずらい上に術師からどうやらマジックガードを受けているようで魔法も効かない状態だった。

だがゴーレムの弱点は知っていた。

非常に重い攻撃を繰り出してくるゴーレムを回避しつつ関節を狙いゴーレムの右腕を切り落とした。その衝撃からゴーレムは軽くひるんだ。

その一瞬の隙をも俺は逃がさず両足を膝から切り落とし無害化する。

「一体目!」

二体目のゴーレムの攻撃が俺めがけて飛んでくる。軽く体を横にずらし回避して足元の関節に修羅で両断する。

「2体目!」

三体目が背後から肉薄していた。太い拳を俺めがけて振り被っていた。

さすがに回避できず衝撃を和らげることしかできなかった。

受けた攻撃の衝撃から横に吹き飛ばされる。

体制を整え地面に降りた先がまずかった。

狼の集団の中だった。

「ち」

俺は修羅を振って薙ぎ払い周囲に居た狼の集団を一撃で瞬殺するとゴーレムが俺に肉薄してきた。

不意を突かれた形になった俺はゴーレムに反応が遅れた俺よりも二回り以上も大きいゴーレムにとってはおもちゃのような大きさである。

大きな両腕で拘束されてしまう。

「!」

身をよじるが強い力で拘束されていて身動きが取れなくなった。手から修羅が滑り落ちた。

タテたちが拘束された俺を見て動き始めゴーレムに対抗しているが拘束を解くまではいかないようだった。

徐々に込められる力が増しているようで全身が嫌な音が響いた。

「ち…、くそっ」

全身に激痛が走る。

感覚から何本か骨を砕かれたようだった。息が上がり、力も上手く入らない。

ゴーレムは俺を拘束したまま移動を始める。

移動を阻害している海たちも見えたが圧倒的な防御力のためかうまくいかないようだった。

 まずい…!

焦りから俺は全力で魔法を繰り出していた。

『アルティメット・ブラッディエナジーレイン!』

唱えた瞬間に俺の周囲におぞましい気配の漂う真っ赤な雨が降り注ぐ。

周囲に居たすべての魔物がこの雨に打たれるとうめき声をあげて絶命していく。

最上級の魔吸収魔法を唱えた。

この呪文は敵認識されているモノの全ての生命力と魔力を奪い術者を軽く回復させる機能がある。

もちろん俺を拘束しているゴーレムにも効果がある。

拘束していたゴーレムは抗うように持っていた俺を振り回し前方へと大きく投げ飛ばした。

飛ばされた俺は大きな扉に衝突しかけるも間一髪体制を整えることに成功して衝突しかけた扉に足から受け身を取った。

そのまま地面に着地したがさすがにダメージが大きすぎた。

全身の服が真っ赤に染まるほどの大きな出血をしていた。

魔吸収魔法で傷はふさがっていたがそれだけだった。

着地した途端に立っていられなかった。

 血を出しすぎたか。平衡感覚がおかしい

床には俺の血で軽く血だまりができていた。

『ミドルヒール』

俺は即座に回復呪文を唱えて癒しにかかる。

砕かれた骨は修復したが失った血は戻るわけではないので平衡感覚はおかしいままだった。

さすがにふらつくので立ち上がれなかった。

そんな俺に呼応するかのように周囲の樹木がざわつき始める。

「リュウ、無事か?」

エルナが珍しく慌てた様子でこちらに駆け寄ってきていた。

だが俺は周囲の樹海の様子に異変が起きていることが心配になった。

背後にある扉のすぐ横に空間ゲートが存在していたのを確認するとふらつく足取りで近寄り、すぐにそのゲートを解除して消し去る。

「リュウ様!」

「傷はふさいだから痛みはない。だが少し血を出しすぎたようだ。ふらつく」

心配するキバを宥めるように言ったその時だった。

背後にあった大きな扉がいきなり開く。

「!」

さすがに驚いた俺は扉の中を見る。

扉の中は普通の樹木が立ち並んでいた。奥には広い草原のような広場が広がっているようだった。

それだけでなく空気が緊張していた。


俺に不快感が広がる。


危険を感じて俺は扉から離れようと動き出す。

だが平衡感覚がおかしいので走ることができなかった。

その時右腕の紋章から激痛が走った。

痛む腕を握りながらも扉から離れるとさらに空気が緊張しエルナや海たちはおろかクリス達ですらも動けなくなった。

 まずい事だけは確かだが魔力を使いすぎた。転移するだけの魔力が足りない。ゲートを消すにはそれなりに魔力を使うのが痛い

「リュウ様!」

そんな中キバとタテだけは少し動けるのか必死な様子で近寄ろうとしていた。

扉の奥からうごめく音が辺りに響きだす。

それはやがて地響きとなって床が揺れる。

さすがに揺れる床で移動が困難になってしまい立ち止まってしまうと奥から聞こえていた地響きの正体が判明する。

樹海の四方からと扉の奥からおびただしいほどの大きな植物のつるがうごめいて近寄って来ていた。

「!」

周囲を見回し明らかに俺めがけてかなりの速さでうごめいていた。

うまく動かない体では逃げ切れなかった。あっという間につるで拘束されてしまう。

「まずい!」

 このつる、魔力を無効化する力がある!

俺を覆う結界に阻まれるのかつるは淡く黒く輝きだした。

身動きをしてつるから脱出しようと試みるもそれ以上につるが巻き付いてくるのでうまくいかない。全身がつるに拘束される。

やがてつるの効果から結界にひびが入るのか聞こえた。

「リュウ様!」

キバの声が聞こえるがそれどころではなかった。

やがて結界は限界を超え派手な金属音が響きかき消えた。

その瞬間に俺の全身におぞましい不快感が襲う。まるで全身につるが侵入しうごめくような気持ち悪さが襲った。

「ぐ……あ、うううう…」

さすがにうめき声があがる。

結界が消えたことでつるは動き始める。

不快感から抵抗できなくなってしまった俺は不快感から意識を守るように気を失ってしまう。

つるはリュウを拘束したまま扉の奥に消える。

扉が轟音を響かせ閉じるとそれまでの緊張した空気はかき消え、つるも消え去ってしまった。


しばらく静寂が辺りを包んだ。




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