3ー2
仮面の男はその場を後にして即座に部下を連れて転移し魔導国から姿を消した。
転移した先、カイエルに戻った彼はほっと息をついて仮面を外した。
出迎えた男に声をかけられる。
「うまくいきましたか、リュウ様」
俺は笑みを浮かべた。
「ああ、彼らは間違いなくここに来るだろう。俺に気がついたからな。さほど時間は掛からないだろう。後は頼む、フィニアス」
「はい、おまかせを。覇王様」
おれは城下町に設置してあった転移用の部屋を出る。後ろからタテとキバが付いてきた。
「しかしどのような運命なのか…まさか召喚された勇者たち全員が覇王様と面識があるとは思いもよらないでしょうな。かの魔導王は…」
「そうだな。俺は運がいい。一度勇者召喚を行えば三百年は待たないといけないという教会の情報が無ければ再びの召喚に気をもんでしまっていただろう。おまけに召喚されたのが弟とその親友たちだったというのも喜んでいいのか悪いのか…」
「喜ばれないのですか?」
「素直には喜べんな。元の世界には帰れない以上失踪した感じになっているはずの向こうの世界を思えば…な」
転移室と城は比較的近い距離なので歩いて城へと戻る。
「たしかに…。彼らのご家族は心配しておられるでしょうしね」
「ああ、だからこそ放置はできなかったな。洗脳される前に保護できたのは大きい」
「ですね」
城へ戻るとキバが城の兵たちに出迎えの準備を整えるように指示し離れた。
歩く俺はタテを引き連れ玉座を通る。
「着替えをされますか」
「………。そうだな。王らしく出迎えるか」
「了解いたしました。浴室の準備は整っておりますので…」
「……。二階の浴室か?」
「はい、大丈夫ですよ。側室様達には事情を説明しておりますしこの時間は陛下の時間ですのでご安心を」
「ああ」
二階には側室たちや城に常駐する使い魔たちが使う大きな浴室がある。男女別に分けられたこの浴室は時間によって使う者が限定されているのだ。
側室たちが使う時間と使い魔たちや兵が使う時間で分けられている。
男女別なので俺が使う場所も男用なのでおれ以外では使い魔や兵たちしか男はいない。
そのうえ、おれはもっぱら三階の自室のシャワー室を使うことが多いので二階の浴室はよほどのことがない限り兵たちに開放している。
そんな俺が二階の浴室を使えばなぜか側室たちが乱入してくるので落ち着かない。それも三階のシャワー室を使う理由にもなっている。
だからこそ、タテが安心であることを伝えたのだ。
タテに背中を流してもらい、埃を落とし玉璽に着替えて身だしなみを整え、浴室を出ると兵が一人やってきた。
「勇者たちがカイエルに到着しました。現在不審なものがないか調査しておりますが見立てでは軽く意識の阻害を受けておられたようです」
「やはり受けていたか」
「はい。本人たちは気がついていなかったようでございます。しかしそれも手配した教会の司祭様によって事なきを得ております。じきにフィニアス様が伴い登城されるものと」
「わかった」
玉座に向かう。
「徐々に意識を奪う気だったようだな」
「そのようですね」
謁見の間にある玉座に座りしばらくたつと兵が入ってきた。
「フィニアス様が勇者様達をお連れに登城されました」
「通せ」
「は」
扉を二人の兵が開け放つ。正面にはフィニアスがいた。
後ろから四人の見知った者が付いてきた。
前世で毎日のように俺の家に遊びに来ていた弟・海とその親友の覚。海の幼馴染の麗奈と優美だった。見慣れた姿に嬉しさがこみ上げる。
だが俺は彼らから放たれる呪詛に気がつく。
「止まれ、フィニアス!」
「は?」
俺は警戒心から立ち上がり声を荒げた。
「彼らから離れろ。フィニアス!」
フィニアスは俺の警戒心から事態を察したのか彼らから離れた。
「魔導王も悪辣な真似をする!」
「どうされました?」
タテが俺の前に立ち守るように声をかけてきた。
「呪詛だ。どうやらこの城に入って初めて効果が出る呪詛のようだな」
「なんですと!」
フィニアスも声を荒げる。
彼らもことの事態に不安な顔を浮かべていた。
「心配いらん。今、解呪してやる。その場を動くなよ」
彼らを安心させようと声をかけた。
「ギリギリの位置だったな。これ以上近づけば呪詛が発動し命もろとも爆発していただろう」
杖を出し手に持った。叡智の魔導だ。
床に増幅を敷く。
『ディバイン・ヒール』
最高級解呪呪文を繰り出した。
その呪文のすごさに驚いたのは司祭の職を持つ優美だった。
彼らの体と周囲が光の洪水に溢れた。
光が収まると何事もなかったように静かになる。
彼らを視て呪詛が完全に消えたことを確認する。
「覇王様…」
フィニアスだった。
「心配いらん。呪詛は完全に消した。もう何もない」
それを聞いたフィニアスは心底ほっとしたのか大きな息をついた。
「申し訳ありません。我らの落ち度でした」
「いやお前らのせいではない。あの類の呪詛は発動し効果が出始めるまで見つけることは困難だ」
「では…」
俺は頷く。
「この覇王城に入城、が条件だったのだろうな。魔導王も悪辣な真似をしてくれる!」
おれは気を落ち着かせるように杖をしまい玉座に座った。
おれは手招きをした。
「そんな遠くじゃ話はできんだろ」
笑みを浮かべる。
フィニアスは彼らを見て俺に近づいてきた。
一礼しおれの玉座の隣、タテとは反対側に立つ。
「あの…」
さすがに声がかけ辛いのか言葉が出ないようだった。
そんな四人を見て笑みを浮かべた。
「改めて自己紹介をしよう。俺がこの国、ウィリアム覇王連合国の覇王リュウ=クドウ=マリノスだ。今回の来訪は魔導国よりの亡命と受け取って構わんのだな?」
四人はお互いを見合い頷いた。
「はい」
「今回我が国と険悪な関係を持つマリス魔導国が異世界召喚を行い、勇者を召喚した。目的は俺の討伐と消滅だ。君らはそのための道具としてかの世界より異世界移動という名で落とされてこの世界にやってきた」
「落とされた?」
「そうだ」
俺は頷く。
「君らが住んでいた世界はこの世界よりも上位に位置する世界だ。故に天井の水を落とすがごとく、この世界に落ちてきたのだ。上位の世界故にこの世界の住人よりも大きな容量を持ち優秀なので勇者と呼ばれたのだ」
「帰れないって本当なんですか?」
「事実だ。女神イヴに聞いたことだから間違いない。水が地面に落ちれば拾えないのと同じだ。かの世界への帰還は落ちるよりはるかに難しい」
俺は付け加える。
「返せるなら、返してやりたいけどな」
「……」
「今回の召喚でやってきたのが俺の前世の世界からの召喚と聞かされた時、引き込むと決めた」
「どうして…ですか」
おれは首をすくめる。苦笑した。
「かの魔導国とは険悪な関係だ。すぐに目的が俺の命と気がつくさ。同郷ということを有利に使って部下を使い、引き込む予定だった」
「部下…。でも…」
「ああ、予定を変更したのは召喚されたのが前世と関りを持つお前らだったからだ。あの国の異常さに気がついたとき、俺という転生者の存在を気がつかせれば引き込むのは難しくはないと思ってな」
「そうなんだ…」
「周囲には断固として反対されたがな。なにしろ、敵国にほぼ単身で乗り込もうというのだから当然の反応だったが押し切った。その甲斐があったというものだ」
おれは嬉しさから笑みを浮かべる。
「……。兄さんなんだよね…?」
おれはその言葉に応えられなかった。しばらく沈黙が流れる。
「君の兄、工藤隆はかの世界でその生涯を終えた。ここにいる俺は彼の魂と記憶、そして人格と技能を引き継ぎ新たな生をこの世界の創造神イヴによって授かった存在だ。君の兄ではない」
「でも、兄さんだ!」
「海…」
「俺と血がつながっていなくても異世界の住人だとしても俺にとって大切な俺の兄さんだ!」
海は拳を握り力説してきた。
「お前…。相変わらずブラコンだな…。俺がいなくなって少しは成長したかと思えば…」
苦笑するしかできなかった。変わらない海に嬉しかった。
「隆さん、コイツのブラコンなんて治りませんよ。隆さんが死んでから恐ろしく沈んで少し立ち直ったと思ったらこの転移ですからね」
「そうか…」
「そうよね。立ち直ってもらうのにどんだけ苦労させられたか…」
「兄さんが死んでから辛かった。どこにも居場所がないような感じがして。でもどんな形であっても今、兄さんは生きてる。おれはそれだけで…」
海は肩を震わせた。そんな海に覚が肩を叩いて慰めた。
おれは彼らの変わらない態度に笑みを浮かべる。
「我が国は君らを俺の賓客として迎えよう。城の一室に部屋を用意させる。今後のことはゆっくりと考えるといい。必要なら装備や武器も用意させる」
俺は言って指を一つ鳴らした。
すると背後からキバがやってくる。手には四つのアクセサリーが載った箱を持っていた。
彼らの前に差し出す。
「これは?」
「それはこの城に滞在するのに必要なものだ。この城は高い警備が敷かれていて関係者以外は誰も入れない仕組みになっている。それは俺の身内設定されているものでそれがあれば覇王関連の施設には出入り自由になる。半面敵に奪われれば大変な事態になる。魔力を込め持ち主設定を行い肌身離さずつけろ」
「魔力を込めるなんてどうやるんだ?」
覚が聞いてきた。
苦笑を浮かべる。
「この世界で技や呪文は覚えたか?」
「はい、それは…」
「技や呪文を唱える時と同じだ。手に持ち集中し力をこめる。技や呪文と違うのは解き放たなくてもいいということだ」
彼らはそれぞれの気に入ったものを手に取り始める。
勇者だけあり、物覚えは良いらしい。すぐに習得したようだ。
アクセが光るのですぐにわかるのだ。
「なんか特技を覚えたわ」
「ええ」
「うん。魔力操作ってなんだろ」
「皆、覚えたのか」
「魔力操作は読んで字のごとく魔力を操ることでMPがあがる大事な基礎鍛錬だ」
「MPがあがるの?」
「ああ、毎日五分ほど繰り返せば効果は確実に出る。それだけでなく呪文の威力も上がる」
各自がアクセを身に着けたことを確認して俺は玉座のパネルを出した。
城に設定するためだった。
「なんかコンソロールパネルみたいだね」
海がそう言ってきた。
「間違ってはいないぞ。城を管理設定する場所だからな。以前のやり方だと手順が面倒だったからな。改修したんだ」
設定を終えパネルを閉じた。フィニアスが声をかけてきた。
「リュウ様。私はこれで」
「ああ、ありがとうな」
自然と笑みが浮かぶ。
「いえ、リュウ様のその笑みは久しぶりに見ます。それだけで十分ですよ」
「心配をかけたな」
フィニアスはお辞儀をして城から降りていった。
「城を案内してやるよ」
そう言って玉座から立ち上がる。4人に近づいたとき海が言いにくそうに俺に声をかけた。
「あの…さ。あの時の兄さんの声をもう一度聞かせて欲しいんだけど…。ダメかな?」
「前世の…、工藤隆の声か?」
「うん」
「……ふむ……。いいぞ。だけど俺がいいというまで目を瞑れ」
「目を瞑るのはどうして?」
「いいから」
おれはせっかくなので転身を使うことにした。
4人が各々目を瞑ったことを確認すると転身を使い前世の姿を完全再現した。
「いいぞ」
目を開けた4人は驚き声を失った。
「にい…さん……」
海は感極まったように俺の姿を見るなり泣き出しこらえきれずに俺に抱き着いてきた。
前世姿になると俺の背は海よりも少し低いのでさすがに暑苦しく感じた。
四人ともさすがに思うところがあったのか声も上げずに静かに泣いていた。
次回投稿は30日に投稿します。
1日は外伝予定です




