3ー1
この章はマトモなバトルが書けなかったことが悔しかった章です。
とは言え色々後に響く章でもあります
(何がとは言いません…)
3
床に巨大な魔方陣が描かれたその上に4人の男女が困惑の表情で立っていた。
その四人は皆同じ服を着た男二人女二人の組み合わせで女性陣を守るように立っていた。
いずれも若者と呼ぶにふさわしい若さで十代後半と思われた。
一人の男は背と共に体格もよく筋肉もそれなりについていた男で格闘技でも習っていたのかそれらしい構えをとっていた。
もう一人の男は周囲を見回しながら自前なのか大きな細長い袋を握りしめていた。まるで竹刀でも入っているようだった。
後ろの女性二人は何が起きたのかわからない様子で困惑の表情を浮かべていた。
そんな四人に笑みを浮かべて声をかけた人物がいた。
魔導王と呼ばれるマリス魔導国の王その人である。
「異世界にようこそ。我らの勇者様!」
「勇者?」
「我が世界を魔王よりそのお力でお救いください」
「魔王?」
「はい。どうか切にお願いします。もう勇者様におすがりするしか方法がないのです」
「異世界転移…か。まさか本当にそんなことがあるとは思わなかったよ」
ひそひそ声で男同士が相談している。
「どうする。こいつら信用できるのか?」
「わからないよ。でもここでは右も左もわからない。とりあえず警戒しておくに越したことはないけど頼るしかなさそうだ」
「だな」
「事情はよくわからないんだけど俺たち元の世界に帰れますか?」
「今は無理です。魔王がそれを許すとは思えません。ですが魔王を倒していただければ必ずお返しいたしましょう」
「…信じてもいいんですね?」
「もちろんですよ。我々の勝手な都合で呼んでしまったのですから返すのは当たり前です」
にこにこと魔導王は気味が悪いほど笑みを浮かべていた。
男二人はその様子から不審に思った。
どう見ても腹黒い男だったからだ。そんな腹黒そうな男が笑みを浮かべる。
それだけで十分だったが、それだけでなく勇者の一人には鑑定スキル持ちがいた為である。鑑定すれば魔導王が敵認識されたためだった。
彼らはその後この世界の仕組みとステータス窓などのレクチャーを受けその日は歓待を受けた。
しばらくは能力あげをすることにした一行だった。
ここを出るにしてもそれなりに準備もいる上に身を守る術がないと出られないからだ。
そんな四人はバランスの取れたPTで騎士と聖騎士、賢者と司祭の職だった。
上位世界から来ただけあり始めから上位職につき、全員が道具収納と言語自動翻訳をもっていた。
あまり知られてはいないが異世界移動の際には必ず言語自動翻訳と道具収納はもれなく習得される仕組みだった。
上位の世界からの移動な為にスキルや特技呪文などの習得にもさほど苦も無く習得できるため一行は一般的な水準からみても勇者にふさわしい能力を持っていた。
近場にある迷宮と呼ばれる魔物発生源に魔導国の数少ない騎士たちや近衛魔術師たちにガードされながらも基本的な戦闘になれた頃、そんな四人はほどなく疑問がのぼる。
いつまでたっても討伐するはずの魔王の詳細が知らされないからだった。
知っていたのは大まかなことだけだった。
この世界の大半を統治していること。
幾度も転生していること。
魔王らしく世界でも屈指の強さを誇ること。
悪しき一族魔人族の王であること。
それだけだった。
名前も知らされないのだ。疑問に思うなというほうが無理だろう。
やがて彼らは独自で魔王について調べることになる。
途中でこの世界に居る住人の種族を知ることになる。
初め、一行は人と呼ばれる知的生命体は人間、ヒューマだけと勘違いした。
それも仕方ない事ではある。魔導国はほぼ、ヒューマしか住んでいなかったためだ。他種族は居るにはいたが全員奴隷なので勇者一行の目には城にいる限り見ることはなかった。
他種族が奴隷として劣悪な環境にあり、人種差別が激しいことを魔王について調べるにつれ理解した一行だった。
その魔王の名を知るにはさほど時間は掛からなかった。
名前を知った四人はさすがに驚いた。知り合いと同じ名前だったからだ。
名前と魔王と呼ぶその存在のこの国にはない他国の印象を聞いた。情報をもたらしてくれた他国の商人にお礼の銀貨を手渡し別れた後、どうするかを決めかねていた。
なぜか、それはあまりにもこの国で聞いたことと違いすぎたからだ。
魔王と呼ばれたその男は他国では知るものなどいない英雄であり、生きた伝説の勇者ともいえる存在だったからだった。
入り組んだ小さな路地裏のその場で思案していると背後から不意に気配を感じた。
振り向くと見覚えのある王城の兵士が血だまりに埋もれ死んでいた。
そのすぐそばに殺した本人と思われる背の高い黒髪の仮面をつけた男が立っていた。
手には短剣が握られている。その短剣は酷く高価そうだった。
だがそれ以上に仮面の男はこの場の誰よりも強い気配を醸し出していた。
仮面は目元を隠すようにしていた。
「召喚された勇者だな?」
「君は誰だ」
仮面の男は少し笑みを浮かべる。
「こんなものをしている奴が答えると思うか?」
「思いませんね。でもなぜ彼を殺したんですか?」
「こいつはお前らの見張りだ。魔導王直属の陰兵。生きているだけでも厄介なのでな」
「僕らに何か用ですか?」
それを聞いた仮面の男は手のひらを上に翳し結界を張った。
それに反応したのは賢者の女性だった。
「遮音結界…?」
その反応に少し仮面の男は笑みを浮かべた。
「忠告する。貴殿らは早々にこの国を出たほうがいい」
そう言って袋を投げてよこした。
「なんでそんなことを言うんだ。これは何?」
「それは旅に必要な道具が入っている。この陰兵によって貴殿らが覇王様の情報を手にしたことは魔導王に知られた。このまま城に戻れば貴殿らは洗脳され自我を失い覇王様の敵として送り出される。それは覇王様の望むことではない」
「まさか、そこまでするものなのか?」
「この国は世界の問題国。強い選民思想と身分差別の激しい国だ。この国くらいなものだ。奴隷に人権がないのはな。貴殿らも見たはずだ。この国の奴隷の扱いを」
「そ、それは…」
かれらも思い当たっていた。この国の奴隷は家畜扱いでヒューマ以外の種族も奴隷以外では見かけないのだ。不自然すぎた。その奴隷への態度に忌避感を抱いていた一同だった。
「それともう一つ教えておく。貴殿らは二度と元の世界には帰れない。ゆえにこの国の者は勇者を道具としか見ていない。仕えない道具と分かれば殺すだろう。過去の勇者たちが抹殺されたように」
「そ、そんな…」
そう言いつつも彼らは心当たりがあった。当てがられた城内で誰と相手をしてもよそよそしくまた、警戒されたままだったのだ。不用意な言葉をしないようにしているようだったのだ。
「われらが覇王様より伝言と貴殿らに贈り物を預かっている」
さらに彼は投げてよこした。
それは腕輪だった。無骨な腕輪だったが受け取った彼は一つだけ見覚えのある絵が刻まれているのを見つけた。
見覚えのあるその絵は彼の死んだ異母兄がくれたアクセサリーのネックレス飾りが彫り込まれていた。
「それは覇王様が直々に作られた特別な腕輪。手にした時点で貴殿にしか持てないものとなり貴殿らの母国語で転移といえば覇王様のおられるカイエルへと一度だけ周囲の者たちを巻き込み転移することのできる魔道具だ」
「!」
「なぜそんな高価なものをくれるんだ?」
受け取った男とは別の男が聞いてきた。
「新庄麗奈・森優美・山田覚・そして工藤海。異世界より転移してきた勇者よ。我らが覇王様は貴殿らの世界より女神イヴ様によって連れ戻された転生者だ。特に工藤海。覇王様は君のことを酷く心配しておられた」
「!」
一同が驚いた。
「ゆえに覇王様は貴殿らと争うことをお望みではない。同郷のものとして迎えたいとお思いだ」
腕輪を受け取った海は仮面の男を見た。
海は気がついた。なぜ仮面をしているのか。その理由と正体を。
正体に気がついたとき確認するように口が開く。
だが仮面の男は口に人差し指を当てた。
その口元には笑みが浮かんでいた。
海はそのしぐさも知っていた。見覚えがあった。
「この場は誰が聞いてもおかしくはない。うかつなことは言わないほうがいいぞ、海」
それまでの声色とは違う日本語で紡がれたその声で四人はそれが誰なのか察した。
あまりにも聞き覚えがありすぎた。たとえ今はもう聞けない亡くなった人の声だったとしても。
その時、彼の背後から声が聞こえた。
「これ以上は危険です」
「ああ」
彼はその場を飛んで屋根に飛び移る。
「まって!」
「またな」
そう言って仮面の男は彼らから姿を消した。
だが同時に周囲から魔法の戦闘音が聞こえだす。戦闘の音のするほうを見ると先ほどの仮面の男が一人複数の魔術師を相手に戦っていた。
否、それは相手にならない戦闘だった。
複数の魔術師を相手にしているにもかかわらず物ともせずに魔法をかき消し、また反射させて魔術師を撃ち倒していた。近くに数少ない騎士が現れ仮面の男に肉薄し剣を振りかぶるが男はひらりと軽く躱し蹴りを入れて吹き飛ばす。その一瞬の隙で彼は腰に差した獲物を抜いた。
海はその男が持つ獲物に視線がいった。見慣れた武器だったからだ。
そう、本来ならば自分の本当の武器である刀だったからだ。
剣の隣に差した自分の持ち物である木刀を無意識に握った。
どんなに探してもこの世界にはなかった武器。それが刀だった。
その武器を見て海は予想が確信へと変わる。それは他の三人も同じだった。
遠巻きに眺めていると獲物を握った男はひと振りでその場にいた騎士三人を不能にした。
圧倒的な強さだった。
その視線を感じているのか一瞬だけこちらを見た。視線が合ったことにも気がついた。
だが男はこちらを見ただけで立ち去って行った。
彼らはその後すぐに手渡された魔道具を使い、魔導国から離れた。
元々着の身着のままで転移してきた身だったため荷物も少なくまた、道具収納があるため身軽なのだ。なによりも彼らも覇王と争うつもりはなくなっていたからだ。




