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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
三章 竜人姫と賢者
35/98

9



次の日二人の姿は空にあった。翌朝身だしなみを整えたリューイはリュウの背に鬣を掴みながら騎乗していた。

なぜそんなことになったのかといえばリューイが全力の姿の自分が見たいといったからだ。

それはリュウにとっても好都合だった。

全力の竜化がどれほどの大きさになるのか知っておくべきだったからだ。

漆黒の鱗で覆われたその姿はリューイの予想以上の大きさで飛行していた。

太陽に煌めくように金の角が反射しその存在感を発揮していた。

「風を切るのがこれほど楽しいとは思わなかったな」

「そうじゃろう。今度わらわと空のデートをしようぞ」

「悪くはないな。もうじきに村に着く。降りる準備をしておけよ」

「ああ」

北の山を飛び出しさらに北に飛び飛行を楽しんだリュウは村に向かうために向きを変える。そんな村はリュウの飛行スピードにかかればすぐにつく距離だった。


村にいた村人は北の方角から飛来する黒い物体を確認していた。

恐ろしいほどの巨体で村の上空にやってきたそれは村の敷地を覆うほどの巨体だった。

村の上空に滞空したその物体を見て村人は思わず叫んでしまう。

「ドラゴンだ!」

そんな叫び声と共に恐怖に落とされようとしていたところをそのドラゴンから飛び降りてきた存在を見て驚く。

「リューイ様!」

「慌てるでないわ。心配はいらん」

「リューイ殿。リュウはどこだ」

そう聞いてきたのはエルナだった。

笑みを浮かべたリューイは空を見上げる。

近寄ってきたキバが確認してきた。

「あれはリュウ様ですな?」

「ふふ、そうじゃ」

空の黒いドラゴンを見てキバが呟く。

「さすがはわれらが覇王様。竜化してもあれだけの強さと美しさを誇るとは感服いたします」

見上げていると黒いドラゴンは全身を大きく震わせ淡く輝きだす。

竜化を解いたリュウは落下しながら全裸な自分に収納から即座にいつもの服を着こむ。姿は竜化を解いたが転身ではないので竜人姿だった。

ほぼ以前と変わらない姿だったが耳の裏の上部に金の角が両サイドに飛び出していた。身長もヒューマ姿よりも二十センチほど高い。


音もなく地面に降りた。

「ふぅ…」

着こんだ服を確認して一息を入れた。

視線が自分に集中しているので居心地が悪い。無意識に首の裏を摩った。

そんな沈黙を破ったのはクリスだった。

「リュウ…?」

「ああ」

「本当に…?」

ステラが聞いてきた。

おれは頷いた。

「竜人姿で違和感があるかもしれんが…」

二人は感極まり飛び出しリュウの胸に飛び込んできた。

胸にしがみついてきた二人を後頭部で触り宥める。

「心配させてすまなかった。寂しい想いをさせたな」

腕の中で震えて泣く二人を抱きしめる。

自分もやっと帰還できたことに改めて実感し目を伏せた。

辛くなかったといえばうそになる。

転変という生死の境をさまよったのだ。

だがそれも試練だと思えるリュウが確かにいた。

しばらくお互いの体温を確かめ合った。



村の広間に位置する場所に臨時の拠点が設置してあった。

その拠点に移動していつものように長椅子に座ると両脇にもたれるようにクリスとステラが座る。すぐ後ろの背もたれにもたれるようにリューイが立ってこちらを見ていた。頭の角に触るのをやめない。

「こそばゆいからやめてくれリューイ」

「いいではないか」

頭を振ってもやめないので諦め正面のキバに視線を移す。

「ある程度昨日のうちにタテから簡単に聞いているが詳しく報告してくれるか?」

「もちろんです」

「まず初めにこの村を含む領地問題ですがリューイ殿と村人との意見を汲みわが国の領地としてエリル皇国と教会、およびヴェリアス王国に通達し協議を行い現在フィニアス殿が外務官を使って事務作業に当たっております。じきに完了するかと」

「なにか言ってきたのか?」

「いえ、万事滞りなく進んでいますので問題はありません」

タテが目の前に飲み物を差し出してきた。

ステラがそれを取り手渡してきた。

「悪い」

一口飲んでホッとした自分がいる。

「相変わらず警戒を解くのが下手だなリュウは」

そう言ってきたのはエルナだった。

「悪かったな」

「魔物討伐だがな。少しまずいことになってる」

エルナが言ってきた。

「まずい事?」

「ああ、北の山を中心に北部はお前の影響から魔物は弱体化が進み粗方討伐が完了したんだが南で最後の抵抗をしているグループがいてな。どうやらこのあたりの魔物の主のようなのだ」

「魔物の主か」

「ああ、そいつがかなり強くてな。何度かやりあったんだが私では決定打に欠けている」

「………。そうだな。今の力を試すいい機会かもしれんな」

「頼めるか」

「もちろんだ姉さん」

「リュウ様。もう一つ報告がありまして…」

キバが続けた。

「なんだ?」

「フィニアス様が今回の一件でたいそう心配されましてタテだけでは護衛に不十分と判断されたのです」

「は?」

「今後リュウ様が我が国を出られ旅に出られる際には自分も同行せよと」

「まじか…」

「はい。自分も今回同行していなかったことに悔しく思っております。守りに特化したタテではリュウ様をお守りしお救いすることができない可能性もありますので攻撃に特化した自分がいればと判断いたしました」

「………。帰ったらフィニアスに絞られるな……」

天を仰ぎたくなった。

「そうね。お父様の説教は長いわよ。覚悟したほうがいいわ」

「領地問題に進展があったので正式にこの村にゲート用の魔道具を設置いたしました」

「そ、そうか」

帰った時のことを思ってげんなりしていると外から兵が慌てて中に入ってきた。

「報告します。例の魔物が大群を引き連れてここに向かってきていると!」

「何!」

「来たか…数は?」

「およそ五十体以上いるものと思われます!」

「俺の姿で活性化でもしたかな…」

「かもしれませんね。ドラゴンの襲撃を受けたと思ったのかもしれません」

立ち上がり指示を出す。

「ちょうどいい。主は俺が相手をするからほかを頼む」

エルナとキバは頷いた。

そんな俺にタテは跪いて両手で剣を差し出した。修羅だった。

「お前が持ってたのか。ここに来る前に探してたんだが見当たらなかったんで、もしかしてとおもったんだが…」

「乱雑に置かれてありましたのでお預かりしておりました」

「助かったよ。腰にないから落ち着かなかったんだ」

言って受け取ると修羅は手に戻ったことで歓喜しているようだった。

宥めるように鞘に口づける。

腰に差してやっと身が引き締まる気がした。

外に出ると村の南部方角から土煙が上がっていた。

背後にクリス達が付いてきた。

「タテは二人を頼む」

「は」

エルナとキバは兵を引き連れて村の外へと出て先行してきた魔物たちと戦闘を始めた。

おれは三人を連れて村の入り口へとゆっくり向かいふさぐように立った。

しばらく様子をうかがっていると魔物の大群の奥のほうにひと際背の高い魔物を見つけた。

「あれだな。二人は村の侵入を防いでくれ。それとエルナたちの砲台になってくれるとありがたい。状況に応じてフォローしてくれ」

「わらわはどうしようかのう」

「リューイは兵たちのフォローに回ってくれ」

「あいわかったぞ」

「わかったわ。リュウのフォローも任せて」

「きをつけてね」

俺は二人を見て頷いた。

「行ってくる」

 さぁて、露払いを少しでもしておくか

指先に魔力を込める。

『ファイアアロー』

遠距離型の魔法を唱えた。

十数発の炎の矢が味方をすり抜け魔物に命中していく。それを確認する前に飛び出し俺は主の方角へと走り始める。

それを阻むかのように魔物が立ちはだかるが腕を使い薙ぎ払いながら魔物を蹴散らしていく。弱い魔物は蹴散らしただけでこと切れる。

走りながら自分の撃った呪文が辺りを炎に変え、さながら地獄絵図のような絵をしていた。

主は俺に気がついたようだった。

俺の進行を阻もうとするように炎のブレスをはいた。

だが俺はものともせずに口元に指を置き、お返しに氷のブレスを軽くはいた。

ブレス同士が衝突し一瞬拮抗する。

だが威力は俺のほうが上だったのかあっという間に炎は氷に押されてかき消える。

だが勢いは収まらず主の下腹を凍り付かせた。

さすがに軽くはいただけのブレスなのにもかかわらず威力がありすぎて驚かされた。

「!」

走る勢いは止まらないので足元に滑り込み蹴り上げる。

勢いよく宙に浮く。

片手を地面に置いて体制を整え主を追うように飛ぶとあっという間に追い越してしまう。

「さすがに…驚く。これは!」

主の頭めがけ握りこぶしを両手で組んで叩き落すように殴る。

勢いよく地面に落ち轟音が響いた。

おれは背の羽根を出し滞空して様子を見た。土煙が主の姿をかき消していたためだ。

土煙が消えたそこには軽くクレーターが出来上がっていた。

「!」

自分の両手を見た。

ここまで力が上がっていると思わなかったのだ。

「力の竜人族とはよく言ったものだな。これは…」

呪文の威力はさほど変化がなかったのでいつものように動いた結果だった。

クレーター脇の地面に降り自分の背丈以上もある黒い羽根を仕舞った。

まだ主は動けなかった。

じっと主を見つめていると背後から押された。

見ると主の配下の魔物なのか俺の背に爪を立てていたのだ。

皮膚と鱗の強度が強すぎて傷一つ付かなかった。だから押されたと感じた。

「まじか…。これじゃあ、まるきり化け物じゃないか」

自分に呆れた。

おれに爪を立てていた魔物を見やる。

何度も爪を立て切り刻もうとしているのだが傷一つつけられなかった。

何度目かの爪を食らうよりも先に魔物の太い腕を片手でつかむ。

強く引っ張り腕を持ちながら地面に叩き落す。それだけで気絶したのか動かなくなった魔物を引きずり周囲の魔物めがけ振り回した。

それだけで周囲の魔物は吹き飛ばされ身動きできなくなる。

持っていた魔物が死んでいるのを見て掴んでいた手を離したその時クレーターの主が飛び出してきた。

突進してくるのだがそのスピードは酷く遅かったので軽く避ける。

傍から見れば魔物の速さはかなりの速さだろうなと気がつく。

避けられた魔物はその勢いのまま配下の魔物に衝突した。

「これじゃあ、オーバーキルだな。強すぎる。武器も使ってないのに…」

仕方ないので即座に転身してヒューマ姿に戻った。

いつもの感覚が戻ってきたことを知る。

主を見るとすでにフラフラだった。

修羅を鞘から抜いた。

「久しぶりにあれをやるか」

いつものように肩に平行に修羅を構え左手を刃のない腹に添える。腹に添えた指に魔力を込める刀身に輝くばかりの光と共に冷気が漂う。

主は俺を見つけて突進してきた。さすがに早く感じる。

振りかぶってきた爪を紙一重で躱し目の前には魔物の胴があるので突きを深々と差し込む。

「奥義・雪月花」

いつものように呟いた。

突いた刃をそのままに縦に落とし込むように真二つに魔物を割き切った。

切り口からパキパキと音をたてて魔物が凍り付く。やがて魔物の体は美しい氷細工の花の中に包まれてしまう。修羅の血糊を振り払い鞘に納めた。

魔物を見ずに離れていく。

やがて氷に魔物の体が耐えられなくなったのか氷の花は大きな音をたててヒビが入り魔物の体ごと粉々に砕け散った。

周囲を見回して粗方片付いたのを確認するとホッと息をついた。

そのまま浄化のための集中に入る。範囲こそ小さいが効果はそれなりの浄化を行わなければ再び魔物が再活性することもあり得る地域なので気は抜けない。

『浄化』

おれの目の前に光の玉が現れるとはじけるように周囲に飛び散る。

光は村を中心に浄化の力が染み渡るように台地中を満ちた。

それを見届けたかのようにリューイが近くに降りてきた。

「クレーターを作ってどうするのじゃ…」

苦情をよこした。

おれはさすがにばつが悪く頭を掻いた。

「あれ程力があるとは思わなかったよ。土魔法で直す」

「そうしてくれ。しかしさすがはリュウじゃのう。惚れ惚れする」

力いっぱい後ろから抱きすくめられた。ヒューマに戻ると身長は逆転するので抱えられることになる。

さすがに苦しく息ができなくなる。

「や、やめろ。く、苦し…」

「ちょっと何してんのよ!」

助けが入る。クリスだった。

「おお、すまん」

解放された俺はさすがにせき込んだ。

うずくまっていると背中を誰かが摩ってくれた。見上げるとステラだった。

息を整えていると後ろのクレーターを見てエルナが笑った。

「すごいな。クレーターができているじゃないか」

「素晴らしい力ですな。さすがはリュウ様だ」

キバと共に絶賛していた。

「化け物になりたくない…」

本音が出た。

立ち上がる気力をなくしていた。

そんな俺に追い打ちをかけるようにリューイが言った。

「大丈夫じゃ。そなたは十分化け物じみておるわ」

俺の胸はさくりとキズを負った気がした。

堪らなくなり目の前にいるステラを抱きしめてしまった。

ステラの肩に顔を埋めるように震えだし、泣きたくなった。



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