8-2
翌朝、ベッドの上でリューイに抱えられたままの状態で目を覚ましたリュウはこっそりと腕から逃げることに成功し階段まで移動してきた。下にはタテの存在を確認していた。
どうやって降りようか…
だがふと気がつく。全身の体がいまだに怪しい熱を持っていることに。
まずいな…昨日散々いじられたのに落ち着いていない。竜の涙の効果か
少し考えてヒューマに戻ることにしたリュウだった。
元の姿に戻ったリュウは巡っていた熱が少し落ち着いたのでほっとして服を着ようと取り出そうとして魔力がいまだに封じられていることを思い出した。
まじかよ。転身はスキルだから魔力は使わないからできたが弱ったな…
困り果てたがそれでも喉が酷く乾いていたので全裸のまま降りることにした。
降りた先にはタテがいた。
「リュウ様」
「すまない。何か覆うものを持っているか?」
「はい」
タテは心底ほっと安心したような笑みを浮かべた。
タテからタテの収納の中にある全身を覆い隠すことのできるマントを借りたリュウは椅子に座り差し出された水を飲み干して一息ついた。
「心配かけたな」
「安心しました。目を覚まさなければどうしようかと…」
「状況がどうなっているか知っているか?」
「一応は」
「教えてくれ」
「はい」
タテはリュウに魔物討伐がほぼ完了していることと台地の領地が覇王国領になること、キバがこの地に来ていることも報告した。
一通りタテから報告を聞いた後に目を覚ましたリューイがリュウを探して降りてきた。
「ベッドにいないから探したぞ」
背後から抱きすくめられる。
その感触から忘れていられた熱がぶり返す。
「……っ」
頬に熱を持ってしまうことは避けられなかった。
「離せよ」
「いやじゃ。それにわかっておろう。わらわと交尾せねばその熱は何をやっても消えん」
「………」
否定できなかった。
「タテ。悪いが先に村に戻ってくれるか?」
「わかりました。お邪魔のようですね」
「明日には村に戻る」
「心配せんでも魔封じは今消しておこう」
リューイは言ってリュウの両手足に施されてあった枷を消した。
見届けるとタテは一つだけの洞窟の開口部から背の羽根を出し飛び去って行った。
周囲が静かになるとリュウは立ち上がり借りていたマントを収納にしまう。
「どうすればいい?」
リューイから変身のやり方をレクチャーしてもらったリュウは転身を使い竜人に変化するとその姿は先の小型化したドラゴンになる。
リューイが竜化するので建物からでる。移動ついでに羽根で飛ぶ練習もした。
即時自動習得のおかげか一度でコツをつかむことに成功して少し離れたリューイを見つめているとリューイの周囲に纏わりつくように淡い光が現れる。
光が消えるとそこには赤い体躯をしたリュウのよりも大きな体を持ったリューイがいた。
「これがわらわじゃ。これくらいの大きさがなければ交尾はむずかしいぞ」
リュウは地面に降りると体内に集中した。
魔力操作とおなじコツだった。
集中すると胸の奥に力を感じたのでそれを少し解放してみた。
それだけでリュウの体はリューイよりも少し大きい体に変化したのだ。
「!」
リューイはさすがに驚いた。
「少し大きかったか」
「そんなことはない。十分じゃ」
そう言ってリューイは誘い方を知っているのか首筋をすり寄ってきた。
それだけで俺の熱は限界だった。
「…………!」
誘われるままにリューイの上に乗りその日リューイの体をむさぼった俺だった。
暴走する体をリューイは全力で受け止めたせいなのかリューイの意識は途切れた時点で人に戻ったのを確認すると自身も姿を教えられたとおりに人に転じる。二人して全裸のままリュウは彼女の体を抱える。
周囲には行為の跡がきつく残っていたので水魔法を使い痕跡を消し抱えたまま建物の中に戻りそっとリューイをベッドに横たえて自身も疲労からリューイを背後から抱きしめるように毛布をかぶって眠りに落ちた。
先に目を覚ましたのはリューイだった。
背後にリュウの寝息が聞こえ腰に回された腕の重みを感じたリューイは下半身の鈍い痛みが逆にこれ以上ない幸福感をもたらしていた。
リューイは里を下りる前に里での一番の若手の女子ということもあり里の中でも有力なまだ若手の男子の相手をたくさんさせられ交尾された経緯がある。
なにしろ長の唯一の直系の後継ぎの女子である。後継問題はひっ迫していた。
だがどの男子もリューイを孕ませることができなかった。
リューイにとって交尾は義務の伴う痛みでしかなかった。
女子として淡い恋心を持つ前にすでに義務として存在していたのだ。
里で誰もできないのであればヒューマに番うしか法がないところまで行きついてしまった。秘宝の竜の涙を一つもち、里を出る許可を貰いリューイは野に降りた。
竜の涙はのませられる相手を選ぶ。
飲ませられない相手には何も反応のしない黒い小さな丸薬だ。だが飲ませられる相手には軽く輝くという。
野に降りて百年がたつにも関わらず、世界中を旅してまわったが涙は輝くことは一度足りとてなかった。
諦めて里に戻ることも考えていたリューイは人の街中で肖像画を見つける。
店頭に並んでいたその肖像画は美しい男子の絵が描かれていた。
竜にとって強者の意味合いを持つ黒の髪を持ったその男子に見とれてしまう。
そんなリューイに店番の女子が声をかけてきた。
「かっこいいですよねぇこのお方…。見とれるのも無理のない話です」
「知り合いか?」
「知り合いではないですが有名なお方ですよ。最近転生を果たされた覇王様です。噂を聞いたことはありませんか?」
「ああ、噂はきいいたことがあるのう…」
「おひとつ買っていかれませんか。これ位なら旅の邪魔もしないお手頃サイズですし」
「……もらおう」
「ありがとうございました」
その日買った肖像画をリューイは毎日見つめることが習慣になった。
その肖像画を見つめるとなぜか頬が熱を持ち胸の奥が苦しくなった。
自分を慕う村人の使い魔たちにそれを聞くと恋だと言われた。
実物を見たことなどない人物に恋をしているという事実に驚くが自覚してからは悶々と過ごした。
そんな中村人が我に結界の属性を魔属性に変えてくれと言い出した。
魔結界は状態異常を引き起こす最悪の結界だったからするわけにはいかなかったから初めは拒否した。
元々村を覆う結界は空間結界で周辺の魔物の侵入を防ぐために設置してあった。
村の周辺の魔物はかなりの強い魔物がひしめいており結界をしないと住めない地域だった。
だが村人は懇願してきた。
魔結界にして覇王様に来ていただくためだという健気な使い魔たちのやさしさに触れ折れた。
事情を知らない女性の村人を使い覇王様の元へおくった使い魔たちは徐々にその体力を奪われていく。リューイは塒に戻ってい欲しいと懇願され遠くで伺っていた。
さすがに黙っておくことができなくなったその日、村の外に黒光りする魔道具がやってきた。
リューイの敷いた結界は内部の生き物を観察できるのだがその日、魔道具から現れた者たちは結界内に入ってくることはなかった。
翌日再び魔道具から現れた一行は一部の者を村の外に残し村に入ってきた。
その姿にリューイは打ち震え下半身がキュッと震えた。
肖像画を抜け出したような美しさを持った覇王だった。
見られているのがわかるのか竜人さながらの警戒心に感服して見つめていると中央の結界の軛にやってきて自分の結界を犯すように簡単に聖結界に変えてきた。
その魔力の波動から傍にあった竜の涙が割れるような輝きを放つ。
それを見たリューイは我を忘れた。
自分の者にしたい欲求に負けたのだ。
竜人の性なのかもしれない。強者を求める竜人の性がリューイを暴走せしめた。
書き換えられた自分の結界をベースに反射するように空間結界を彼の周囲に張る。
張り終わる前に魔封じの呪文を放っていた。
ヒューマは全種族中もっとも弱い種族で魔封じを行えばそれだけで何もできなくなる種族だった。
それは覇王ですらも同じだった。だが彼の魔力抵抗はすさまじかった。
初めに無意識で行った魔封じは跳ね返され無害化されてしまった。
その高い魔力にさらに引き付けられたリューイは意識的に魔封じを放った。
先ほどよりも数倍の威力を持たせた魔封じだった。
その威力はさすがの覇王も効いた。両手足に魔封じの証ともいえる自分の魔力腕輪がはまったのを見てリューイは涙が出た。
罪悪感からだった。ここまでしたからには後戻りはできなかった。
自身の恋にヒビがいったことを自覚した。
覇王様はきっと自分を嫌うだろう。
であるならば、連れ去りかの者の子を宿しそれを生きがいにしようと決めた。
結界から出ようとする一行を眺めつつリューイは意を固め意識を奪う拘束呪文を放った。
それは魔力という防御を持たない彼に効果的に効いてしまった。
彼の絶叫が響き渡り結界内の彼は倒れ伏し、たちまち意識が薄れていった。
結界を持ち上げリューイは竜化し彼を掌中に収めた。
この塒は元々番いに決めた男子を竜化させるために掘って作った場所で竜化するためのエネルギーなどに最適な場所だった。それだけでなく出産にも適した場所だった。
人の世界に残る可能性も視野に入れて人の姿でも最低限の生活が送れるように建物も作った。最上階に転変のための環境が整うようにつくったその場所に連れ去ってきた覇王様・リュウを横たえたときそれでも初めて見た実物のリュウに嬉しさがこみ上げたのは仕方のない事だったのかもしれない。
竜の涙を投与し徐々に竜化してゆくリュウのそばにいた数日間リューイにとって最も幸福な時間となった。
その時間の思い出さえあればこれから生きてゆけると思っていたリューイは最後の義務というべき交尾でさらに驚かされ翻弄されてしまった。
いろんな男子と関係を持ったことのあるリューイにとってそれは痛みでしかないと思っていた。
だがリュウに与えられたそれはリューイに初めて女の歓びをもたらした。
下半身に広がる違和感が受胎をしたことを感覚的に知った。
彼の寝顔を見たいと思い少し身じろぎ体位を変えるとそれだけで彼は目を覚ました。
「其方は不思議じゃのう。なぜ逃げなんだ」
「………。やり逃げは性に合わん」
「すまなんだ。わらわは…」
そう言って身を起こそうとするがそれはリュウに阻まれた。
「もう少し寝てろ。俺のほうこそ悪かったな。制御できなかった」
「美しい竜人じゃ…。これほどの強さと覇気を備えた竜人は里にはおらん」
俺の竜人姿を見たリューイの感想だった。
「わらわもう十分じゃ。今日のことは一生忘れん。子も貰ったしのう。里に戻っても子がいればそれで生きて行ける」
リューイはジッと俺を見ていた。俺の姿を刻むように。
「本当にそれでいいのか?」
俺もリューイを見ていた。
「許されると思っとらん。わらわはそなたにそれだけのことをしたのじゃ」
「……。おれは創造神イヴによって定められた使命がある」
急に話を変えたリュウの言葉を待った。
「その使命はお前と似たような使命でな。お前は種の存続のためなのだろうが俺の場合はお前よりも重い。なにしろ世界の存続が掛かっているのでな」
「世界の存続?」
「ああ」
沈黙が続いた。
「その使命を聞いたときおれは普通の結婚を諦めた。その代わりに決めたことがある」
「決めたこと?」
「俺を本気で想い愛してくれるなら拒絶はしないと受け入れて見せるとそう決めた」
腰に回った腕に少し力が入る。
「お前のしたことは許せることではないのかもしれん。だが俺にとってそんなことは些事だ。とうに許している」
「………!」
「俺にはその使命ゆえにイヴ神の定める条件に該当する相手には強く拒絶することができない。想われれば想われるほど相手の想いに引きずられるようになる。今回お前でそれを実感させられた」
「それは…。わらわはそのイヴ神の条件に該当しているということかえ?」
「そうだ」
リューイは嬉しかった。イヴ神に認められし番いということに。
「……お前さえ良いなら一緒に来ないか」
「………。是非もない…じゃがのう、わらわと番うということは竜王にも等しいことを覚えてたもれ…」
リューイは嬉しすぎて涙を流した。




