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短い時間とはいえリュウの覚醒は使い魔のタテに居場所を伝えるには十分だった。
リュウが連れ去られた後、一同は村人を問い詰め赤い竜がどこに向かったのかも聞きだしていた。
だが村人も正確な竜の塒は知らず、しかも足場もないため救出には困難を極めた。
エルナは一度城に戻ることも考えたのだがせめて正確な居場所を知っておくのが先決と城への報告は後回しにしたのだった。
やがて村人への尋問が進み村人全員があの赤い竜の使い魔だったことに驚かされていたがそれ以上に驚いたのは無理やりの使い魔ではなく全員が望んで使い魔になっていたことだった。
そして赤い竜が竜人姫と呼ばれる屈指の強さを持った竜人族ということも聞かされ竜人族の姫がなぜ里を出て人さらいをした事情も聴かされたのだった。
そんな時にタテがリュウの居場所を知った。
一同はとりあえず塒への道がないかを探すことにした。
道を探すこと三日。やっと安全に登れる道を探し出した。
一同は拠点にしていた車を小型させ撤収し塒へと歩を進める。
そんな中、タテは三日の間一度もリュウの意識が戻っていないことに焦りを覚えていた。
というのもそろそろ城にいるほかの仲間がリュウの異変に気がつくのも時間の問題だった。
一同は塒の入り口にたどり着きその大きな開口部と広い空洞に圧倒されていたがさすがは竜の塒だと感心した。
タテは主の気配を探し奥にその気配を感じ取った。
薄暗い空洞の奥へと進むと空洞の奥にあるにしては不自然なほどきれいな大きい建物があることに気がつく。
タテはその建物の中に主の気配を感じ歩を早める。エルナはクリス達の身の安全のために先頭ではなくタテの後に続くようにして背後のクリス達に意識を向けていた。
建物に近寄ると異様な建物だった。
窓は二階に一つだけ大きな開口部ともいえるようなものがあり扉の類は一つもなかった。
一階にある入り口に慎重に入ると正面に大きな階段があり右側には台所ともいえるような水場があった。覗くとテーブルと椅子が数脚置いてあった。
左側には倉庫なのか物が乱雑に置かれているのが見えた。その左側の入り口付近に修羅が立てかけてあった。
主が肌身離さず持っていた修羅がこんなところに乱雑に置かれてあるので不快な気分になったタテだった。
手に取り修羅を持ちながらも一階には誰もいないので階段の上を見る。
背後のエルナたちを見た。
エルナは頷きクリス達を兵たちに守らせ剣を鞘から抜きタテと共に階段をゆっくりと上がり途中にある踊り場で二階の様子を軽く伺った。
二階も扉はなかった。
静かな空間で物音一つしなかったのが不気味だった。
そんな時に二階から声が上がる。
「身の安全は保障するから上がってくるがよいわ」
女性の声だった。噂の竜人姫と思われた。
タテはそれでもなお主の気配があるのに意識がない事への危機感があがる。
ゆっくりとタテは階段を上がると正面に赤い髪の女性が大きなベッドに腰かけてこちらを見ていた。
部屋は一つだけだった。大きなベッドが部屋を占拠していた。
女性の腰掛けているベッドの背後には人一人分のふくらみがあった。
タテは女性に声をかける。ギリギリの間合いまで近寄ってからだ。
「主リュウ様はどこですか」
「主が心配かえ、従者のタテ殿は」
「当たり前です。連れ去っておきながら…!」
「おお、怖や怖や。さすがは伝説の魔人族よのう」
女性はそういうと背後の毛布を軽く捲った。
捲った毛布の下にはうつぶせになり手を枕にして眠る意識のないリュウがそこにいた。
捲られた毛布の下にいたリュウはなにも着ていない素肌の背中をさらしていた。
そのリュウの背中にはおびただしいほどの黒い鱗が現れており不気味な姿をしていた。
頭にも金色の角が二本生えているようで知らない者がみればリュウとは気がつかないほど変わっていた。
そんなリュウは毛布を捲られても傍で会話をしていても微動せずに眠っていた。
「リュウ様!」
思わず我を忘れて近寄ろうとするタテに声を荒げた者がいた。
間に座る竜人姫ことリューイである。
「主を死なせたくなくば近寄るでない!」
「リュウ様に何をした!」
近寄るのをやめたタテだが珍しく声を荒げていた。
その声にこたえたのはリュウだった。
【落ち着け】
「リュウ様!」
【すまない、今は動けない。俺は大丈夫だから…】
そのリュウの共有に気がついたのはリューイだった。
「おぬし、使い魔か」
タテは無言のまま頷く。
「使い魔であれば近寄っても問題はないのう。心配せずともリュウは無事じゃ」
タテはリューイを警戒しつつもリュウのそばに近寄って状態を確認してさらに驚いた。
「竜の涙…ですか」
「ほう、さすがは魔人よのう。竜の涙を知っておるか」
背後のエルナたちが動き近寄ろうとする。
「いけません。それ以上は近寄らないでください!」
タテがエルナたちに言った。
「どういうことだ。竜の涙とはなんだ?」
「竜人族の秘宝と呼ばれる道具です。ヒューマ族を別の種族に変える力を持つ神の道具」
「投与して三日経つ。ようやっと転変の山が越えたとこじゃ。今までは状態が不安定であったがゆえにリュウの意識も戻らなんだが…」
リューイはリュウをいつくしむような愛おしむような眼で見つめリュウの後頭部をそっと撫でた。
「使い魔のおかげだのう。状態が安定に転じたようじゃ。意識も浮上したようだし、もう少しの辛抱じゃなリュウ」
【すまない…酷く心配をかけているようだ】
「彼女の事情は少し聞いて知っています。リュウ様は受け止めるおつもりなんですね」
【ああ】
「わかりました。彼女らにはわたくしが説明いたします。一階を借りますよ」
「好きにせい」
水場のテーブルを整えて兵以外が座るとタテがテーブルの中央に手を置いた。
「手に触れていただけますか。触れていただければリュウ様と会話ができるようになりますので」
皆がタテの腕に触るのを確認してから始めた。
【リュウ様。体のお加減は大丈夫なのですか?】
【実はあまりよくないんだ。体を動かすことはできるが少しでも動かすと激痛が走ってな。今は動けない】
「リュウ。竜の涙とはなんだ?」
【竜の涙か。簡単に説明すると一回きりの変身機能の持った特別な薬だ。三日前に俺の意識のない間に飲まされてしまってな。気が付いたらもうこの状態だった】
「元に戻れないの?」
不安な声でステラが聞いてきた。
【それは問題ない。俺にはスキルの転身があるからヒューマには戻れる。それはリューイにも説明をしてある】
「リュウはあの竜人姫とかいう女をどうするつもりなの?」
【どう、とは?】
「あの女はリュウの体目当てなんでしょう」
【……。彼女から一度でもいいから子供が欲しいと言われたよ。それだけじゃなく好きだと告られた】
「竜人族は繁殖能力の低い種族ですからね。定期的にヒューマの繁殖能力を借りないと種族として維持できないのですよ。しかも聞くところによるとこの千年ほぼヒューマとの交流を持ってなかったようですし滅びに瀕しているんでしょうね」
リュウの言葉を補足したタテだった。
【ただ、彼女からは魅了のスキルの恩恵が働いているから一度の子供で済むかはわからないな。彼女次第だから】
「そう。彼女は本気なのね。本気でリュウを必要としているのね」
【………。すまない。おそらく三人目になると思う。彼女には俺の事情を話せるほどの会話はできなかったから、こんな強硬な手段をとった自分は俺にはふさわしくないと思っているようだ】
「だから一度でいいと?」
【ああ。彼女がどうするかはともかくとして俺は完全に竜化した後、今の彼女が繁殖期である以上は彼女の願いは叶えるつもりだ。ドラゴンとしてな】
【リュウ様。城には報告しないわけにはいきません。ただ秘密裏にキバとフィニアス殿とで協議する必要があります】
【そうだな。それは任せるよ。ただ、台地の魔物狩りのことだが城の兵たちを使って討伐しておいてくれ。復活したら浄化を台地にかける】
【わかりました】
【悪いな疲れてしまった。少し長く話過ぎたようだ。迷惑をかけてすまない…】
【私はリュウ様の元におります。いつでも呼んでください】
【あり…が…とう…】
リュウとの共有が切れた。皆、腕から手を離した。
「事情は理解できたがそれではなぜリュウに近寄ってはだめなんだ?」
「竜の涙の特性のせいです」
「特性って?」
「竜の涙を使った転変中は生命に負担がかかっています。魔力は本来異常を回復する機能があります。転変する先の種族の者以外の魔力があれば命と精神に働き元に戻ろうとするので相反する魔力で深刻なダメージを受けます。近寄っただけでも影響が出るので竜人に転変中のリュウ様に近寄れるのは同じ竜人のみなのです」
「近寄るとどうなるの?」
「軽くても死ぬまで目が覚めない眠りにつきます。最悪の場合は死です」
「しかしタテ殿は近寄れただろう?」
「それは私がリュウ様と魔力と生命でつながっている使い魔だからこそです。先ほどの会話もリュウ様の魔力ではなく私の魔力を使っての会話だったのでつながったんです」
「魔力厳禁なのね」
「はい。ですからリュウ様に魔封じを施したのでしょう」
「これからどうする?」
「私はリュウ様の元に残ります。今はリュウ様自身での共有ができないので意思疎通のためにも私が共有の基準になりますので兵たちを報告のために城に返します」
「車にゲート用の魔道具があるからここに設置しようか?」
「いえ、リュウ様に近寄れる者が限られる以上ここには設置しないほうがいいでしょう」
「これまで通り、車から使うほうがいいわね」
「先ほどの共有と会話は城にいるキバにも送っていたのであちらには話が通っているはずです」
「わかった。一旦車を預かって村に戻りそこに拠点を作るか。魔物討伐もあるしな」
「村には其方らのことを伝えた。手伝いをするように伝えたから協力してたもれ」
入り口にリューイが立っていた。
「リュウ殿から魔物討伐をしてくれると聞いたのじゃ。是非もない」
「リューイ殿。この地方は人にとって無法地帯扱いになっているがそれは見過ごせないことでな。リュウの国の領地に入るか元の統治国であるエリル皇国に戻るか選択してほしい。村人はリューイ殿の選択に従うと言っていたので考えておいてほしい」
「ふむ。あの村の者たちはエリル皇国から虐げられて居場所を失った者たちが我を慕い集まってできた村でな。かのエリル皇国には憎悪の念を抱くものも多いのじゃ」
「それでは…」
「うむ。リュウの国に入りたいと思うであろうな」
「わかりました。ではそのように手続きをするように伝えます」
「頼む」
「それよりも貴女、リューイといったわね。私たちに言うことはないのかしら?」
「クリスさん!」
「ステラだって怒ってたじゃないの。同意もなしで連れ去っていきなり番いなんて聞かされて。堪ったものじゃないわ!」
「すまぬ。言い訳はせん。すべて事実じゃ…」
「クリス…」
ステラはクリスを宥めるように声をかけた。
「しかもリュウに転身スキルがなければそのまま竜人の里に連れていくはずだったそうじゃないの。それだけはどうしても許せないのよ!」
「すまん」
リューイは頭を下げた。
「気持ちはわからないでもないです。同じリュウに恋する女として独り占めしたい感情は誰にでもあります。でもこんな強硬手段に出る必要はなかったんではないですか?」
「そうね。事情を説明して相談してほしかったわ」
「私たちはリュウが複数の妻を持つことに納得して傍にいます。悪いようにはしなかったのに」
「リュウは優しいからきっと貴女のことももう許してるわ。だからこそあなたに聞きたいのよ」
「何をじゃ?」
「子供がもらえれば…用が済めば、本当にさよならする気なの?」
「わらわはあの者のそばにいるにはふさわしゅうない。それだけのことをしたのは重々承知しておる。そばを離れることが我にできる贖罪じゃと思うておる」
クリスはその言葉を聞いて席を立ちリューイの頬を平手で叩いた。
小気味よい音がしてクリスは肩を震わせていた。
「そんなのは自分勝手な自己満足でしかないわ!」
クリスは肩を震わせ下を向いて呟いた。
「…私だって似たようなことをリュウにしたわ。薬を盛って既成事実を作って、そばに置こうとしたのだもの…」
「……!」
さすがにリューイは驚いた。
「それでも彼は私を許してくれたわ。『君の本気の想いを知ったから』って言ったのよ」
顔を上げたクリスはリューイを見た。
「その後に知ったのよ。彼は伴侶を一人に絞りたくても絞れない大事な使命があるって」
「わたしにも言われたわ。『俺は君一人だけの男にはなれない』と」
クリスはステラを見て頷いた。
「彼はこうも言ったわ。『今後私以外に好きな人が現れるかもしれない。だけど私を好きな想いは変わらない』ってね。彼はイヴ神様よりたくさんの妻を娶り子孫を残さなければならない使命を授かっているわ。だからこそ一人に絞れない」
「かれは優しいから貴女の決断を受け入れるでしょう。たとえ離れる判断をしたとしても。でも心は傷つくわ。私たちは彼に傷ついてほしくはないの」
「彼を好きなのなら、愛しているなら残される彼のことを考えて欲しいわ」
「なぜ傷つくと思うのじゃ。あの者はわらわを好きになどなっておらん」
「いいえ、わかります。彼はきっと貴女を大切にしたいと思っている。どんな形であろうとも縁は縁。彼は優しいから一夜の関係だけなどと割り切れる人ではないの」
「そうね。三人目と言い切ったものね」
「………!」
リューイはその言葉に驚き涙を浮かべた。うれし涙だった。
「わらわは許されてもよいのか?」
「リュウに直接聞きなさいよ。起きた後でね」
「リュウをお願い。そばにいられないのがとても残念なの」
「帰ってきたらしばらく貴女はリュウ禁止ね。独占しているんだもの当然の罰だわ」
「そうね。私たちだって寂しいのよ」
憤慨している二人をエルナは冷ややかに見ていた。
「女の戦いか。恐ろしいな…」
その後タテを残して山を下りた一行は村に戻ると早速車内にある魔道具を使い城と連絡を取った。
その結果として魔道具を使い、数人の兵と城の使い魔とキバがやってきた。
兵をエルナが、使い魔をキバが指揮を執りそれぞれが協力して魔物討伐を始めた。
クリスとステラも一緒に討伐に加わって強い魔物を殲滅していった。
なぜ加わったのかといえばレベルを上げ、もっとリュウの役に立ちたいという想いと体を動かして不安になる心を紛らわせるためだった。
その一方でカイエルではフィニアスがエリル皇国と協議をして領域問題に決着をつけていた。
そんな日が三日続き四日目の朝リュウの体に大きな変化が訪れる。
四日目ともなれば魔物討伐も佳境を迎えて村付近の拠点に人が集まるようになっていた時だった。
リュウが目を覚ましたのである。
竜人化がほぼ完了し姿はすっかりドラゴンと化していた。
四つ足に体の半分を占める太い尾と大きな頭部と広い口に牙と指先には鋭い大きな爪もあるので人には見えない姿で全身を覆う漆黒の鱗の上にその鱗を覆い隠すような真っ黒な体毛があり見た目には大きな耳の代わりに金色の角のある猫のような姿だった。
もっとも背中には全身の長さよりも長く大きい蝙蝠のような羽根があるのだが。
しかしその体は元のリュウの体格よりも半分のサイズしかなくリュウ自身驚いていた。
リューイに両脇を抱えられ軽々と持ち上げられると全身が宙に浮くのでなすすべがなく手足をばたつかせる。
「離せよ。持ち上げるな」
「随分と小型化したのう…」
「それがなんなんだ?」
「小型化しすぎると力を操る機能が弱くなるんじゃ」
「は?」
ばたつかせていた手足の動きを止めされるままになる。
「そなた…それが限界の大きさなのかえ?」
「…わからん。だが違うと思う」
「なぜそう思う?」
「なんとなくだが体の奥から力が凝縮している感じがする」
「ほう」
「多分だが人からの転身でダメージを最小限に抑えるためにこの大きさなんだと思うぞ」
「ふむ」
「だから離せ」
「このサイズでは交尾が難しいぞ」
さすがに直球すぎてリュウは羞恥が出た。
「露骨すぎる言い方をするな」
「事実じゃ。わらわの竜化は今のそなたの十倍はあるぞ」
「………」
「とにかくそなたの体を調べようぞ」
「は?」
嫌な予感がした。
「調べる?」
「うむ」
そのリューイの顔は酷く上機嫌だった。
その後リュウはリューイによって調査の名のもとにいいようにもてあそばれ翻弄されておいしく食べられたのだった。




