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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
三章 竜人姫と賢者
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7



リュウを持ち去った赤い竜は村から北にそびえる山の一つに用意していた塒に戻り持っていた結界をゆっくりと丁寧に塒の床に下した。

床に下された結界はその役目を終えるようにリュウを床に下して消えた。

リュウに意識はなくピクリとも動かなかった。

赤い竜は見届けるとホッとしたのかリュウを見つけ目を細める。

その巨体の二倍はあろうかという広い空間と天井のある岩の広間には竜が入ってきた出入り口のほかには入り口はなく奥に人が住めるような大き目の建物があった。

赤い竜はその巨体を徐々に縮め淡い光を纏ってヒト型になった。

否、人であった。

赤い髪を背中にまで結い上げた女性に変化した。切れ長の目を持ち目は竜らしく人にはない猫のような目を持った女性だった。

その体は成熟した女性の体で申し訳程度に衣服をまとった彼女はすらりと長い手足でリュウに近づく。

豊満ともいえる豊かな胸を主張するようにその下には細い腰と形の良い下半身かあり誰が見ても美女だった。

背も高くリュウと変わらないほどの高身長だった彼女はゆっくりと意識のないリュウに近寄りしゃがむと片手を使いリュウの上半身を起こす。

リュウの呼吸を確認した彼女は笑みを浮かべ軽々とリュウを抱き上げ奥の建物に入っていった。

その建物は竜の塒にあるようなものではなく立派な建物で人が住める設備の整ったものだった。

女性はあらかじめ用意していた二人用のキングサイズのベットにリュウをゆっくりと横たえる。

かなりの頑丈そうなつくりのベッドだった。

入り口に扉はないが開口部は広くとられており最上階なのか開口部からは周囲が見下ろせる窓一つない部屋だった。キングサイズのベッドが一つ置いてあるだけだった。

おもむろにリュウの衣服を全て身ぐるみ剥いだ。剥いだ衣服は床に落としたがその衣服は勝手にその姿を消した。否、リュウの道具収納内に収納されたのだった。

腰に差してあった修羅を彼女は鞘ごと手に取り建物の階下に降り奥まった部屋にしまう。

再びリュウの元にやってきた彼女は裸身をさらしていたリュウに寄り添うようにその体を温めるように覆いかぶさり密着してきた。

嬉しそうに頬をリュウの胸に当て手首をとる。

そこには鈍く銀に光る魔封じの腕輪があった。

意識のないリュウに声をかけた。

「申し訳ない。許して…覇王様…。わらわはどうしても其方が…」

女性は苦しそうな顔をしてしばらくそのまま過ごした。

リュウにかけた拘束呪文のダメージは深く、簡単には目を覚まさないことは知っていた。

しばらくして女性は立ち上がり再び階下に降り水差しと小さな包みに包まれた物をもって上がってくる。

口にその二つを含むとおもむろにリュウの上半身を持ち上げ口を開かせ口に含んだそれを口移しで飲ませた。

ジッと意識のないリュウを見つめていた。

徐々にリュウの眉根に深い縦しわが刻まれる。

リュウからうめき声が漏れた。


【竜の涙を摂取しました。竜人への転変に移ります】

そんなイヴの声がリュウの頭に響いた。

その声が合図だったかのようにリュウの意識は急浮上した。

 竜人…?

目を開けると見知らぬ赤い髪の女性が俺を抱きしめていた。

さすがに驚き身じろぎをするが即座に激痛が走りうめき声が上がる。

「ぐっ……ア…」

「動くでない。動けば死んでしまう!」

息が上がるおれを心配するような目で赤い髪の女性は見つめていた。

全身が酷く重く鉛のように動かないのを実感していた。

出来たのは声を出すことだけだった。

「俺を拘束したのはお前か?」

「ああそうじゃ。そうするしかわらわにはできなかったのじゃ」

「何のために?」

「………。種の存続のためじゃ。許してたもれ」

全身が何も着ていないことも実感して知った俺はそれでもなすすべがない事も理解していた。

「種の存続とは…。お前竜人族か」

「!」

驚きの目で見つめられた。

「なぜ…?」

「竜の涙を飲ませただろう。それで気がついた」

「竜の涙を知っておるのか?」

「知っている。作り方も効果も誰が持っているのかさえな」

「作り方さえも知っておるじゃと?」

「俺の知識には大賢者の知識があるから知っているだけで作ったことはない」

「………さすがは転生する大賢者と名高い覇王殿じゃな」

「俺を知っているのか。人里には降りない竜人族が?」

「わらわは種の存続を打開するために人のつがいを探して人里に降りて百年経つ。それなりに人は調べた。どのようなものがつがいにするにふさわしいかを知るためにの」

「それでおれに目を付けたのか」

俺はこの竜人族からなぜ魅了の香りが香るのかというほうが問題だった。

「そうじゃ。すまぬと思うておる」

「………。百年もいれば他にもいただろうになぜ俺だ?」

彼女は少し頬を赤らめた。

「最初はだれでもよかった。転変に耐えられる器であればの」

「だったらなぜだ?」

「だがその器がなかなかおらなんだのじゃ。焦るわらわのもとに転生した大賢者が覇王として即位したと耳にした。そなたの肖像画も見た。そなたしかおらんと思った。大賢者の転生者である其方なら…と」

「………」

おれは見つめるしかできなかった。

「違うな…。わらわは、そなたに恋をしたのじゃ。不覚にも竜人姫としての責務も忘れ只の女子としてそなたに一目ぼれしたのじゃ」

彼女はギュッと俺を抱きしめる力を込めて頬にキスを落としてきた。

それで気がつく。おれはこの女を嫌いにはなれないのだ。

誰だって想われればうれしいものだ。よほどの嫌悪感を抱く相手でない限りは。

 ああそうか、魅了とは条件にあった相手が深く俺を想えば想うほど効果を発揮して俺のガードを緩め効果を発揮することもあるのか


そんな思考にはまっていると彼女は俺の頬に涙を落とし謝ってきた。

「すまぬ、わらわはそなたを里に連れてゆかねばならんのだ。人でなくなる其方には最早人の世界にはいられぬ」

 竜の涙の効果のことをいっているのか

竜の涙は魔道具である。

キュアや異常薬と同じように回復薬の一種なので消費道具だ。

効果といえばとあるレアスキル効果を一度だけ発揮する。

一度だけ材料に含まれた種族に転身する効果がある。

例えば、竜人族の体液を材料に作られた竜の涙は投薬すればその者は一度だけ完全に竜人族に転身するのだ。

一度だけということは元の種族には戻れないということ。

竜の涙を使った場合は一度だ。だが先にも触れたが他にも同じ効果を持つスキルがある。

レアスキルだがこのスキルを持つ者は一度ではない。何度でも姿と種族を変えられる。


そのスキルは〈転身〉という。


そう俺の持つ〈転身〉スキルはなったことのある姿ならば何度でも変えられる。

俺がそのスキルを持っていることを知らない彼女は戻れない姿になることに謝っていた。

「謝るな。謝ることなど何もない」

おれは激痛が走る中、必死に片手を動かして震える手で彼女の頬に流れる涙に触れる。

彼女は俺の手を握ってきた。

「しかし、そなたは…!」

「心配はいらん。俺はヒューマに戻れる。気にするな」

さすがにその言葉に驚いたようだ。

「ど、どういう意味じゃ?」

「そのままの意味だ。おれは過去の自分ならばいくらでもいつでも姿を変えられるスキルがある。お前が泣くようなことなどない」

「ほ、本当かそれは?」

「ウソではない。だから泣くな。女に泣かれるほど困るものはない」

「ヒューマに戻れるのであれば是非もない。せめてわらわの願をかなえてたもれ」

「願い?」

「先も言ったがわらわは種の存続のためにもヒューマの高い生命力を取り込まねばならんのじゃ。そなたの子種が欲しい。一度でよい。わらわに子を授けておくれ」

さすがに驚き彼女を見つめる。

「授けてもらえればわらわは二度とそなたの前には現れん。そのためにそなたに貴重な竜人族の秘宝の竜の涙を使ったのじゃ」

「さっきから種の存続といっているが竜人族はそんなに少ないのか?」

「そうではないがそうでもあると言えるのう。竜人はわれが生まれてから七百年経つのじゃがそれ以降に生まれた個体はおらん。われが一番若い個体なのじゃ」

「………!」

睡魔に襲われている俺はこらえつつ聞いた。

「七百年経つにも関わらず子供が生まれていないというのか」

「そうじゃ」


竜人族は長命種である。短くとも千年生きる。エルフと同じで長命なかわりに生殖能力は弱くなかなか子ができない種である。故に繁殖期をもつ。

とはいえ七百年の長さは異常だった。

それを補うには定期的に生殖能力の高いヒューマと混じる必要がある。

 おそらくヒューマとまじっていないのだろうな

「お前らバカだろ。ヒューマを嫌うから疎遠になったのだろうがそれでは種は存続できない」

俺は呆れた。

「そういわれれば身もふたもないがそれだけではないのじゃ」

彼女はそう言ってそばの水差しを口に含んだ。

そして俺の顎に手を添えて上に持ち上げると唇を寄せてきた。

「!」

さすがに驚くが何も動かせないのでされるままに唇を奪われ口移しで水を飲まされる。

「転変中は酷く喉が渇くという。今のうちに飲んでおいたほうが良い。もう少し飲むか?」

されるままな上に全身何も着ていないことも思い出してしまい頬が赤く染まってしまう。

「い、いや水は要らないからせめて何か毛布でもくれないか。さすがにちょっと全裸をさらしたくないんだが…」

転変にあたり注意事項もしっていた俺は魔封じも必要なことも全裸にされた理由も理解はしていたがさすがに羞恥心が沸き起こるのだ。あまりにも倒錯的すぎる。

「ああ、すまなんだ。すぐ持ってくるのじゃ」

言って彼女は毛布を部屋の建具から取り出し俺にかぶせてくれた。

俺は少し安堵した。

そのせいだろう、こらえていた眠気が強く呼び覚まされる。

「じゃがの、リュウ殿の体はとても美しい体で素敵じゃぞ」

頬を赤く染めた彼女はそう言い切った。

「お前……、名前…は?」

睡魔に勝てずそれでも聞かなければいけないことだった。

「リューイじゃ。呼び捨ててたもれ」

彼女は意識が落ちそうになっているリュウにそっと寄り添い耳にそう耳打ちしてきた。

俺の意識は再び闇に落ちた。


リューイは意識を失ったリュウを見つめていると異変に気がついた。

首筋に黒い鱗が現れていた。

それに気がついたリューイは笑みを浮かべその首筋をそっと触れ鱗の中の何かを探していた。

竜人にはドラゴンに変ずることができる種族でドラゴンの特徴も竜人には備わっていた。

固い鱗を持つドラゴンには逆鱗と呼ばれる弱点がある。

竜人にもそれはある。その逆鱗はその者の本質を現し鱗の色にも内包する力の強さで色も変わるのだ。

自在に操れる属性が多ければ多いほど色は黒くなる。だが最強は金色だ。竜人族でも金の竜はほぼ見たことがないほど貴重な存在だった。

力の強い個体になればなるほどその逆鱗は見つけにくくなり他の鱗に隠されてしまう傾向がある。

鱗が現れて間がないにも関わらずリュウの逆鱗は見つけにくかった。

慎重に探していたリューイはリュウの逆鱗を見つけると目を見開き驚いた。

黒い鱗に隠されるようにあったその鱗は金色だった。

黒の鱗にも驚かされたリューイだったが金の逆鱗にはさらに驚かされる。

リューイは改めてリュウの寝顔を見つめて耳の斜め上の異変にも気がついた。

そっと触れると小さな角が生えていた。

竜の増幅器官の角は生えていない者のほうが多かった。そんな角さえも生えだしているリュウの強さに打ち震えたリューイだった。

「わらわの目は間違いなかったのじゃな…」





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