5
5
港町サンクの近海に近づくと近海を警戒していた巡視艦が近づいてきた。
事前に報告してあったので先導してくれるらしい。
バーミリオン号を追うようにして5隻の商船が続く。
俺はといえばブリッジでそれを眺めていた。
魔力を溜めているのだ。じきに船から離れるためその準備に入っていた。
魔力はすでに十分溜まっているのだが今溜めているのは予備の魔力だ。
予備の二つ目を完了しようとしていた。
「予備魔力セカンド充填完了しました」
「この後俺たちが下船後、予定通りの行動を取り待機せよ。後は追って連絡をする」
「は。了解しました」
やがて港町から調査官が船に来るとの報告があった。
おれはブリッジを出て甲板に降りる。
港に着いたので裏口と甲板に通じる階段が港にかかる。
高さも大きさも自在なバーミリオン号は時折、規格外の大きさと高さになるため跳ね橋も専用のものが掛かるのだ。
裏口からは乗組員が往復し物資等を運ぶのに適した入り口で甲板直通の階段は貴人用の階段になる。
つまり覇王もこの階段からの移動ということ。防備も設置されている特注階段だ。
調査官が階段を上ってきた。
「我がエリル皇国の港町サンクへようこそ。身分証明をご提示お願いいたします」
なかなか切れ者そうな中央の男がそう言ってきた。
「ああ」
おれは収納からカードを出し手渡す。例のオリハルコン製のカードだ。
調査官は受け取りじっと見つめて背後のお付きの持っていた道具にカードを翳すと道具は一瞬光りやがて緑の色に変化した。
カード専用の調査道具だった。
不正も多々あるのでこのようなものがある。
「ありがとうございました。ようこそ覇王様。我がエリル皇国へ歓迎いたします」
うやうやしくカードを返してきた。
「ああ」
調査官が下船していった。
「降りる準備を整えろ」
「了解!」
すでに船内は降りる準備であわただしいのだが意思表示は大切だ。
港町のほうを見やるとどうやら人が集まってきているらしい。
赤い船というのは珍しいのだ。
船に塗装を施すのならそれよりも防備をと考えるほうが妥当だからだ。
「早速集まっているようですね」
「ああ」
「仕方ないわね。赤い船はどうしてもバーミリオン号が思い浮かぶもの」
「そうか」
「まだ覇王専用艦と気がついていないようだわ」
「降りるなら今のうちか」
「そうですね。おりますか」
「せっかく到着したのだから降りないとな」
「船はお任せくださいリュウ様」
「ああ、後を頼むジーク」
「了解です。いってらっしゃいませ」
深々とその場にいた船員たちが首を垂れる。
俺は階段を使い、船を降りた。
何気に注目を浴びたが気にしていると降りられないので気にしないように船から離れた。
降りたのは同行メンバーだ。
予定通りまずは依頼達成報告のためにこの町の冒険ギルドに向かった。
どこの町でも冒険ギルドはある意味で商業の中心にもあり得るので街の中心にあることが多い。この町もそうだった。港から続く大通りの中心地にギルドはあった。
酒場と併設されていることも多いので扉を開けるとそこは酒場であった。
時間は昼を過ぎた頃なので比較的人は少ないほうだった。
依頼カウンターには獣人の受付嬢がいた。
獣人は連合にもヴェリアスでも見かけたが獣人の国からは遠いので人口は少ない。
エリル皇国の東隣は獣人国なので多いのだろう。
うっかり猫耳に視線が行った。
その反応からステラは気がついた。
「リュウって獣人はあまり接触がないの?」
「ああ、間近では初めてだな」
「そうね。ヴェリアスでは少ない種族だから接触がなくても無理はないわね」
「ステラはそうじゃないみたいだな」
「父に連れられて何度か獣人国に行ったことがあるから」
「そうか。しかしああいう耳はモフりたくなるな」
「気になるんだ」
「前世では猫を飼っていたからな。モフりたくなる」
「猫?」
「ああ、ああいう耳を持った4本足の動物だ」
そういえば家で飼ってたシロはどうしたんだろ。実家が引き取ってたらいいんだが…
飼い猫が気になってしまった。
気を散らして受付嬢に声をかける。
「依頼報告をしたいんだが?」
「はい、依頼書と討伐証明部位はございますか?」
「ああ依頼書と部位はこれだな」
いって依頼書と冒険者カードをカウンターに出し鱗を収納から立てて取り出す。
周囲がざわついた。
鱗の大きさに驚いたのだろう。
「え…、あ、はい。依頼は船舶運航を妨害する大型魔物討伐…。Bランク依頼書ですね」
本来ならAランクでも無理に近い依頼書だがBランクと位置付けられたのは俺がCランクで依頼上限がBだったからだ。
「確かに依頼達成ですね」
依頼書に済の判を押してカードを専用の機械に通して返してくれた。
「エリル皇国へようこそ《未完の貴公子》覇王リュウ様」
周囲がひと際その受付嬢の声でざわついた。
おれはその周囲の反応に呆れるように一息をつくと鱗とカードをしまった。
「あまり吹聴しないでもらいたい」
そう一言、受付嬢に言って依頼ボードを見た。
「依頼うけるの?」
「ん?」
ジッとボードを見つめつつ聞いてきたステラに答えた。
「強い魔物がいるようなら…な」
Bランクの依頼書まで確認して気になる依頼はなかった上に海上魔物討伐がほぼ占めていたので受けるのはやめたリュウだった。
「護衛と海上魔物がほとんどだな…」
「受ける?」
「いや、海の上はもういい」
「では移動しますかリュウ様」
「そうだな。なんとか今日中に首都入りしたいからな」
「帝には明日謁見なさいますか」
「おそらく入国は報告されているだろうし。そうしたい」
「じゃあ宿は首都でとるのね」
「そうなるな」
言いつつギルドを後にしてそのまま港町を出る手続きをした。
街の外に出ると収納から車《颯》を出した。
「せっかくだし気楽に運転するかな」
「気楽?」
「ああ、速さを出すとどうしても気楽には運転できないしな」
「首都までは馬車でも二時間の距離だそうだから時間は掛からないものね」
「私は前に乗るぞ」
一同は車に乗り込み出発した。目的地はエリル皇国首都エリル。
そこでエリル皇国帝オルフェウス=エリル=カルナバに謁見をする必要がある。
謁見でウルグ山脈のあるウルグ台地への通行許可を貰うためだった。
「ゆっくり行くからおそらく魔物が普通に遭遇するぞ」
「上等だ。腕が鳴る」
エルナは暴れ足りない様子だった。
どこまでもエルナらしさにリュウは苦笑した。
「車の防備に回るから魔物はよろしく」
気楽に景色を堪能しつつ移動していた。
やはり途中で何度か魔物と遭遇したのは速さがない分当たり前だった。
首都エリルに到着したころには艶やかな血色のしたエルナがいたのは言うまでもない。
「このくらいの速さでも馬車よりは早いな」
「適度に魔物も遭遇したのもいいな」
「………」
リュウは呆れるようにエルナを見た。
一息入れて入り口手前で車を収納した。
規格外の車はある意味目立つのだ。
「この後どうしますかリュウ様」
「二手に分かれよう。クリス達は宿を。俺とタテは城に行く」
「わかったわ。覇王様御一行らしく一流の宿をとるわよ」
「ああ」
「でもすぐにあえるものではないでしょう」
「それはわかってるさ。会えるように手を打つんだから早くても明日になるな」
「ではリュウ様も宿のほうへ行ってください。城への取次は私一人で十分ですので」
「いや…」
「一人で十分ですので。というよりも王がホイホイと出向くものではありません」
「……。そうだな、任せるよ」
そうして首都入りしたのだった。
首都エリルの最高級宿のスイートを一行はとるとその日は旅の疲れをゆっくりとったのだった。
首都に到着した翌日スイートの一室で目を覚ました俺は若干のけだるさを吹き飛ばすようにベッドに胡坐をかいた。
両隣には普通にクリスとステラが熟睡していた。
三人横になって眠ってもなおゆとりがあるベッドで胡坐をかくのは難しくはなかった。
隣室にある部下用の部屋にはエルナが、下僕用にはタテがいる。
高級宿のスイートだけあり豪華だ。
主寝室にはほかにも家族用にベッドはあるのだが二人は俺と寝ると言って聞かないので断る理由もないので好きにさせたのだがそれは少し後悔した。
知らぬ土地ということもあり警戒心が働いたのか深く眠れなかった。
程よく疲労が残ったままけだるさが抜けきらないのでいつものように魔力鍛錬をして体を起こした。
魔力鍛錬をするとある程度なら魔力の活性化から疲労が飛ばされ消えるのだが今日はうまくいかなかった。
ステータス窓を開け異常を確認するとしっかり疲労があった。
「ちっ…」
苦々しく収納から異常薬を取り出し飲み干す。
空き瓶を先ほどまで頭をのせていた枕に転がす。
実はリュウにとって疲労という異常は日常的に出やすく残りやすい。
というのも元の世界での警戒心が今世においても日常的に働き、体を使い疲労にさせてしまうのだ。疲労であって体力ではない。
リュウ自身、気まで休めるのは城や実家、もしくは家族の周囲くらいしかないので外に出ると異常薬〈オール〉は手放せない常備薬でもある。
気を休ませようとすれば一人寝で自身の周囲に結界を張るのがリュウの外での休み方だった。
それをよく知るエルナはステラたちの同菌には一応反対した。
言っても聞かなかったのだ。
俺にとって二人は守るべき存在であり、守られる立場だった家族とは違うので簡単には気が休めるようになるとは思えなかった。
例外は使い魔たちだ。彼らは俺の目でもあるので気は使わないで済む。
知り合って一年もたっていない上に城以外での同菌はこれが初めてなので仕方のない事だった。
その空き瓶の気配で二人が同時に目を覚ましたらしい。
目の前に転がされたオールの空き瓶に気がつき、二人はしっかり目が覚めてしまったらしい。
「オールの空き瓶よね?」
「空瓶がどうして?」
「ああ、飲んだからな」
「「え」」
驚いていた二人に隣室からエルナが当たり前のように言った。
「リュウは外では警戒心から結界を張らないと熟睡できない体質だからな。おそらく疲労でも付いていたんじゃないのか」
「ああ。体力は全快してるけど、どうしても結界を張らない以上、疲労は消えないからな」
「それでエルナは反対したのね」
エルナは頷いた。
「二人とも、首都で結界を張るわけにもいかないから気にするな。いつものことだから」
起き上がっていた二人をあやすように頬にキスを落とした。
「ひょっとしてカイエルの結界内で眠ってたのって…」
「ああ、あの時は安心できる空間に入って無意識に警戒が外れたんだよ。あんなことはめったにない」
「そうなんだ…」
「あの時はそれだけじゃなく、しばらく気を張りっぱなしで気が休んでなかったから警戒が外れた途端に一気に来たんだ」
「お起きになられましたかリュウ様」
タテが入ってきた。
「ああ」
おれはベッドから起きて立ち上がる。
軽く体をほぐし伸びをしてけだるさを吹き飛ばした。
そんな俺の姿は城でも同じ寝具用のローブ姿でローブの下は下着以外何もない。
「姉さん着替えるから」
「ああ、すまんな」
部下用の部屋に戻っていったエルナも寝起き状態だったのだ。
身支度を整えるのに戻ったのだろう。
クリス達は一人ずつ身支度を整えるのに脱衣所に消えていった。
タテは腕に着替え用の衣服をもって近づいてきた。持っている衣服がいつもの服ではないことに気がつく。
「それは?」
「フィニアス様がエリル皇室の方とお会いになられるときはこれをといわれておりますので」
見ると覇王用の衣服ではないが見覚えがあった。覇王連合国の軍服である。
フィニアスが用意した覇王用の軍服だった。
軍服であるので階級もある。
一般兵・隊長・兵隊長・兵将・大将・軍師・軍隊師である。
俺の階級はどれにも当たらない、連合軍隊師というものである。最上階級だ。
「……。余興ということか」
「仮とはいえウルグ台地への派遣という形ですので必要なのでしょう」
おれは息をついてローブを脱ぎ軍服に着替えたのだった。
その後衛兵を三名召喚してエルナと共に警護を任せると朝食を一階の食堂でとったリュウ達だった。
午後になり予定されていた皇帝に会うために皇室に向かう。
皇室とは言うもののその様相は城である。
ヴェリアス王国の城が某夢の国のような優美な洋式であるのに対しこの城は洋式に若干、砦のような厳つさがある。
ちなみに覇王城も洋式で優美な外観をしている。
美よりも実を取ったというような城だった。
エリル皇国は小国だ。時代の脅威にさらされたのだろうな
好感が持てる城だった。
首都を覆うように塀があったがこの城の周りにも塀があった。この塀は魔力を感じるのでただの塀ではなさそうだった。
ゲートをこの国のどこかに設置する予定ではあるがこのエリル皇国に言うつもりはないので首都を少し離れ隠せるようなところで設置する予定だった。
本当はクリス達を連れてくる予定はしていなかったのだが、今度は一緒に行くと言って聞かなかったので口を挟まず自己紹介だけで終わらせるということで折れた。
予定の時刻を待って城へと向かうと城を守る衛兵にタテが声をかけた。
「この時間に面会を予定している連合国の者だが話は通っていますか」
「話は聞いておりますが念のために身分証明をお願いします」
おれはタテにカードを渡す。
例のオリハルコン製カードだ。
このカードはほぼ世界共通となっていて仕様は冒険者カードと変わらない身分証明だった。
証明用の魔道具に通されたそれは本物であることを確認され返される。
衛兵は即座に扉を開けてにこやかに対応してきた。
「失礼したしました。わが国エリルは覇王様のご訪問歓迎いたします」
開けられた扉の奥から国の威厳を保つためなのか赤い絨毯が広いロビーを横断しその少し外を並ぶように兵たちが立っていた。
「……。いくぞ」
俺はといえば少し驚きはしたものの気にもせず歩き出す。
「「は」」
背後のタテや兵たちが応じる。俺の後を追うようにクリス達が続きエルナやタテたちが従うように続いた。
階段を上がり正面の大きな扉の前に進むと扉前にいた兵が深々と頭を下げる。
「帝がお待ちでいらっしゃいます。どうぞ」
彼は恭しく扉を開けた。
開いた扉の先には玉座と思われる椅子とそこに座る未成年らしき少年が座っていた。
すぐ横には理知的な様子の老紳士が立っていた。
このエリル皇室は最近帝が崩御したらしく後継者が十歳の未成年しかいないのだという。
エリル皇国は小国であり覇王連合の恩恵を受ける最たる国の一つで俺の訪問は無視できないことなのだ。
なにせ覇王連合の王たる俺の機嫌を損なえば国が傾く可能性もある。
玉座へと近寄ってきた俺に帝が声を上げた。
「我が国へようこそ覇王様。お会いできるのを楽しみにしておりました」
「先日は宰相殿が我が戴冠に来ていただき感謝します」
帝は大きくうなずいていた。
「本当は私が行きたかったのだが未成年の身では不都合ですので宰相に任せてしまい申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。未成年では致し方のない事ですので」
「そう言っていただき感謝します」
「早速なのですが今回の訪問の件でいろいろ伺いたいのですがね」
帝は大きくうなずいた。
「うん。詳細は申し訳ないですが宰相から報告をさせていただきますので別室をご用意しているのでご案内させます」
「はい。どうぞこちらです」
「ああ」
「では覇王様またお会いしましょう。楽しみにしています」
俺は頷いた。
隣の会議室らしき部屋へと案内された。
部屋にあった椅子に座ると向かい側に宰相が座り俺の両隣にクリスとステラが背後にエルナやタテたちが控えた。
最初に声を宰相にかけたのは以外にもステラだった。
「おひさしぶりです。聡明な先帝がお亡くなりなったことは残念です」
「ありがとうございます。お聞きになりましたが覇王様の側室になられたとか。お幸せそうで安心しました」
「ええ、ありがとう」
女官が飲み物を差し出してきた。
おれは一口飲んだ。毒等を気にしないのは指輪の性能のおかげだった。
毒が混ざっていれば即座に指輪が発動し異常を解除するので便利だった。
「それで早速ですが例の台地の領地問題の件なんですが、この国はどのように対応されるおつもりですか?」
「その件ですか…」
「ええ」
「その件に関して結果だけを申し上げれば台地に住む領主の意見次第ですね」
「と、いうと?」
「はい。この国からみるとあの台地は見捨てた領地になります。そこに住む住民の皆様さえ良いのであれば再び領地とすることも可能ですが…」
「難しいのかもしれませんわね」
口をはさんだのはクリスだった。
「クリスティーナ姫もそう思われますか」
「ええ、今回父に台地の件を聞いたところリュウ様が関わることになったのを聞いて領地から一切手を引くとおっしゃられたので住民が貴国を拒否してしまえば無法地帯になりえますわ」
「ヴェリアス王国方面では交通手段がありませんからそれも仕方のない事なのかもしれませんが…」
「教会から無法地帯化することだけは回避したいと聞いている」
俺は想定していることに事態がなっていることに腹をくくるべきかと思った。
「教会からはそれだけですかな?」
おれは首を横に振った。
「いや。万が一にも無法地帯化だけは許されざることだから二国で受領出来ない場合は我が国に受領してもらいたいと教会は言ってきている」
「そうですか…。いかがなさるおつもりで?」
「領地問題は私自身、率先して拡げるつもりはサラサラないのですが部下たちはそうではないので、ぜひといわれると受けざるを得ないでしょう」
「そういえば貴国では遠距離を短縮する魔道具が開発されたとか聞いておりますが真実はどうなのですかな?」
おれは一息をついた。
その話題も実は想定内だった。
「事実ですが警備の観点から我が国限定と絞っています。その魔道具のこともあり部下たちは固辞する理由はないとの判断をしております」
「その魔道具ですが我が国にも導入はできるのでしょうか?」
「できないということはありませんがおすすめは致しませんよ」
「なぜとお聞きしても?」
「魔道具ではありますが俺の魔力で連動しているので俺には筒抜けになります。警備の観点からおすすめできません。他国では特に…ね」
俺は飲み物を一口飲んで一拍置いた。
「なるほど…それは確かに難しいですな」
「ええ、ですがもし台地を受領したときは台地に魔道具は設置することになると思います」
諸々の話を進め俺たちは城を後にしたのだった。
その日は宿に戻り翌朝出発することにしてゆっくり休んだ一行だった。




