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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
三章 竜人姫と賢者
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2



見捨てられた大地へと出発することを決めた翌日、試運転も完了した車の中に宿泊用の設備等の道具を入れるために覇王城ホールに置いていたのでそれを俺は道具収納へ格納する。

実はこの車、車内部を空間魔術で拡張してあり後部座席に該当する場所は運転席と違い二十人近くの人間が乗車できる空間が広がっている。

当然宿泊することもできるのでその為に寝具や簡易台所も常備している。

なぜそんな空間を作ったのかといえば初めはそんな空間を作る気はなかったのだがキバやフィニアスの意見を取り入れるうちに空間魔術で拡張することになったのだった。

空間魔術との兼ね合いで術師の俺以外では道具収納できない高ランク魔道具と化してしまったがその収納に関して言えば問題なかったりする。

というのも運転できるのが俺かもしくは俺の知識を共有できる使い魔のみだったからだ。

道具収納できない代わりに使い魔たちでも持ち運びできるように手のひらサイズの小型化にも成功させたのだ。

持ち運びができるのも俺の魔力のこもった道具を持っている人物か使い魔のみだったのである意味使い勝手は俺の身の回り以外では難しい。

しかも動かしていない状態の車はただの鋼鉄の塊。人が持ち運べる重さではない。

それも盗難防止になるのだ。

なぜホールに置いていたのかといえば準備のためだった。

宿泊用の寝具や非常用の食料。同行する騎士の予備の武器などが入るためだった。

一度車内部に入れてしまえば車の設備として道具収納に認識されるため道具収納で持つ以上に荷物が少なくなるので楽だったからだ。


今回俺と同行するメンツにも触れておこう。

まず、おれの護衛と身の回りの世話をするために使い魔としてタテが。

ステラとクリスの側室メンツ。

そしてクリスの護衛として姉エルナが同行する。

この四人が同行メンバーだ。だが状況によっては覇王の衛兵が同行することにもなりうる。なぜこんなにも少数なのかといえば使い魔召喚のおかげでもある。

俺の身に危険があれば使い魔たちに即伝わり必要な人員が強制召喚されるからだ。

先の依頼者である女性は故郷に報告と歓迎のために先に帰還していた。

今日待っていたエリル皇国とヴェリアス王国とで今回の件に関しての報告を受けたのでいよいよ明日には予定通り出発することになる。

エリル皇国経由での見捨てられし大地ことウルグ台地へのルートになる。

ヴェリアス王国経由では空路でもない限り不可能だからだ。

空路。飛行機も作ろうと思えばおそらくできるのだがいろいろ計算することも多いので面倒なのでしばらくは作る気はない。

専門外だが風魔法と空間魔法をつかえば何とかできそうだが今は必要に感じてはいない。

そう今は。


エリル皇国とウルグ山脈のある大陸は海で覇王国と隔たれているので一旦エリル皇国との窓口の港町まで移動した後、船を使い入国することになる。

カイエルにも海に面しており港もあるのだがあいにくとエリル皇国とその海は繋がっているのだがかなりの遠回りルートになるので少し離れた港町からの船旅だ。

今回、俺は非公式のエリル皇国訪問なのだが船は覇王城復活時に同時に出現し、いつの間にか俺の道具収納内に入っていたものでキバたち曰くこの覇王専用船とやらで向かうことになる。

この船も城同様に伝説化されていたものだ。

大きな魔道具だけあり俺の魔力で動く仕組みなので使えるのも俺が乗船しているかもしくは事前に魔力を注いでいる必要があるので使い勝手は微妙だ。

ちなみに大きいとはいえ魔道具の船なので俺のみ道具収納することができる。

あまり実感したことがなかったのだが一般人と比べて俺の道具収納はかなりのキャパがあるらしく船も平気で収納できるから驚きだ。

近くに海や深めの河などなかったのでどんな船なのかまだ見てない。

だがウィリアムが作った船なのである程度予想はできる。

きっと派手だろう。

港に着き次第、船を浮かべれば設置されているゲートを使い、城とつなぐ予定になっている。

なぜか。

それは船の調査と動作確認などあるからだ。

ゲートを使えば港へはすぐだがそれではいろいろとまずいらしいのでおとなしく旅をすることに。

とはいえ、覇王城と同じで封印されていた魔道具である以上動作は大丈夫だろうと考えている。

先行して港には乗組員が集合しているはずで後は俺という船待ちだったりする。

乗組員の中には城の衛兵という使い魔も数名混じっている。

前世で同じ船の運航をしていた者たちだった。

勝手知ったるなんとやらで志願してきた彼らに船の管理を任せることにした。

使い魔なので俺の許可と魔力さえあれば俺がいなくても動かすことができるのだ。

非公式とはいえ専用船を使った来訪は先方にも目立つのでエリル皇国の海岸付近に船を停泊させることになる。

その許可や諸々の予定で一週間ほどかかったのだ。


また、見捨てられし大地の件は教会や当事国のエリル皇国とヴェリアス王国にとっても目の上のコブのように腫れもの扱いのようで微妙な問題なのだ。

そんな折に当事国ではなく第三国の覇王連合に話が来たこともまた微妙だった。

今回、非常に魔素状態が酷いようであるならば大規模な浄化も視野に入れていて

魔物の勢力が落ち着くようであるならば事情が変わってくることもあり綿密な事態収拾も必要になってくる。

なので当事国の二国には詳細な状況を報告する必要もある。

だが今回の件でヴェリアス王国は事態の収拾具合によっては教会より受けた領域を放棄する意向もあるという。

元々台地に行く手段がないヴェリアス王国にとって領地扱いではないのだ。

そうなるとエリル皇国が受領しない限り無法地帯となる可能性もありいろいろなことを視野に入れる必要がある。

そう、最悪、我が覇王連合国で領地扱いになる可能性もあるのだ。

教会はヴェリアス王国が放棄し無法地帯と化した場合、覇王連合で受領してもらいたい意向を示している。

降ってわいた領地問題は俺がいないときは強固に固辞したらしいのだが俺が帰還したことで状況が変わってきているのだ。

そう、俺がゲートを作れるからである。それも魔道具設置型のゲートを。

元々各国の許可さえあれば簡単に作れ、移動できるので距離は関係なくなる。

この戴冠までの時間で版図内のゲート設置を進めるため率先してゲート用魔道具を作ってきた甲斐があり版図内は徐々にゲート設置が進んでいた。

各地の領主たちが簡単にここカイエルに来ることができるのである。

反対に俺の許可さえあればカイエルから兵などを派遣することもできるので持ちつ持たれつだ。

といっても覇王国が認めた領主のみ許可されている上にゲート自体害意のある者や不審な道具を持ったものは通過できないので警備上の問題もなかったりする。

そういう経緯もありフィニアスは受領満々である。

この千年、先代覇王の時代より様々な理由から徐々に版図を縮めてきた覇王連合国は、領地拡大には地味に根強い問題だ。

それも仕方ない事だろうと思う。

一度は世界統一を成し遂げた唯一の国だからこその誇りがあるのだろう。

しかも覇王が帰還したということもあり、守りに入っている理由もないというのもある。

俺自身は積極的に版図を広げようという気はさらさらないが必要であるならばそれも手の一つと考えている。


そうして出発の日がやってきた。

船を下ろす港町ブルーヴェル。カイエルより北にある海に面した港町で覇王国の海軍拠点のある町の一つだ。そこまではこの車[颯]での移動になる。

「ではリュウ様お早いお帰りを」

「ああ、急ぎの場合はキバに連絡を取ってくれれば俺につながるから」

「大丈夫です。よほどのことなどそうありませんのでこちらのことは気にせずに道中お気をつけてください。何かあれば遠慮なく兵たちを使ってください」

「そうか?」

「はい。むしろ覇王様の元で働ける日を待っている猛者たちばかりですので」

「覚えておくよ。後は頼む」

後ろにいたステラたちを見る。

「行くか。後ろに乗ってくれ」

「私は前に乗るぞ。リュウ」

エルナがそう言い切る。

俺は頷く。

「遭遇した魔物は任せるよ姉さん」

皆が乗り込んで俺は運転席に乗る。横の窓を開けた。

フィニアスがのぞき込んできた。

「いってらっしゃいませ覇王様。お早いお帰りをお待ちしています」

「ああ、いってくる」

城下にある城出入り口を出発した。

独特の姿をしているので覇王専用車両というのは城下の兵たちにも知られているのでフリーパスでカイエルを出た。

ひとまず向かうのは港町ブルーヴェルだ。

カイエルの北口を出てしばらく北上してから運転席に設置してあるマッピング機能を起動させる。

バイクにも搭載されているミドルサーチの機能の持った板のことだ。

エルナが感心してきた。

「これがサーチ呪文の上位ミドルサーチの機能のある板か。ミドルサーチは確か周囲の地形も表示されたんだったか」

視線と意識を前方に向けつつ俺は答えた。

異世界に来てからの運転だったが忘れていないものだなとほっとした。

「ああ。魔物と地形がある程度表示されるものだ。魔物は足の遅い奴なら見つかっても振り切れるはずだからそういう魔物は赤くは表示されないようになってる」

「ほう」

「座るのが疲れたら後ろの扉から中に入るといい。ある程度の広さがある上に別空間だから立って歩ける程度はできる。トイレと台所もあるから気分直しには事欠かないはずだ」

「わかった。だがこの早い景色を見るのは新鮮だ」

「そうか…」

バイク同様早い移動なので普段の馬車なら1日かかる港町への道のりだが3倍ほどの速さのおかげで予定では6時間ほどで到着するのではと予測を立てていた。

「異世界の技術とやらはすごいものだなとつくづく思う」

エルナは感心していた。

「そうか?」

「このような乗り物が馬車のようにあるのだろう?」

「そうだな。向こうの世界はこの世界より幾分文明が進んでいるのも事実だ。こんな車は一般市民で買える国も確かにあるからな。俺もよく乗っていたからこうして運転出来ているのも事実だ」

「やはりすごい」

「そうでもない。確かに科学文明は凄まじい技術があるけど逆に見えないモノや科学で証明できないことには弱い。魔法もないしな」

「魔法がないから科学で発達したということか」

「そう。だからこの世界に来て意識がはっきりしたときはある意味興奮したかな」

「興奮?」

「うん。向こうでは魔法なんて力。おとぎ話にしか登場しないから使ってみたくてうずうずしたよ」

「剣よりもか?」

「はは、剣というか刀は元から俺にとってあって当たり前のことだったから気にも留めないよ。まぁ俺の居た国では武器を許可なく持ってるだけで捕まる国だったからおれが特殊だったんだけどな」

「お前のその科学文明とやらの知識があれば他に想像もつかないようなものもできそうだな」

「それは否定しないかな。その気になれば弓よりも強く早い飛び道具も作れるし空飛ぶ乗り物も作れる。考えるのが面倒だから作る気は、今はないけどな」

「鳥のようにか?」

「そうだな」

そんな話を運転しながらしていた。

4時間ほど車移動していたがさすがに昼休憩をとることにした。

車を見通しの良い場所に停め外側にガード魔法を施し認識をずらす。

板の機能を内部通知に切り替えてから席を立ち後ろの扉から内部に入った。

「リュウ」

中に入った俺は座り疲れから軽く伸びをして体を動かす。そんな俺に声をかけてきたのはクリスだった。

「ついたの?」

「いや、いい時間だからな。昼を兼ねて休憩しにきた」

「表は大丈夫なのかリュウ」

「認識ずらしの魔法もかけてあるしサーチ効果も警戒音が鳴るから大丈夫」

「では何か作りましょうか?」

「ああ頼む。軽くでいいから」

「軽くですか?」

俺は近くの長めのソファに座ると待ってたとばかりにクリスとステラが両脇に座ってきた。

「ああ、軽くでいい。あまり腹にためると眠気が出て運転に支障が出るからな。あと二時間ほどで港町ブルーヴェルに到着できるだろうからそれからでも遅くはない」

俺はクリスの頭をそっと撫でていた。

「みんなは食べたのか?」

「ええ、さっき軽くパンを貰ったの。リュウも誘えばよかったわ」

ステラが答えてくれた。

「気にするな」

しばらくするとタテがパンとスープを入れてくれた。

パンを手に取ろうとなでていた手を止め前かがみになったがステラに奪われてしまった。

「ステラ?」

仕方なくカップに入ったスープを手に取る。

疑問に思いつつ一口飲んだ。

「はい、あーん」

ステラは臆面もなく言ってきた。

さすがにステラが何をしたいのか理解した俺はためらった。

「それは恥ずかしいんだけど…」

「一回やってみたかったの」

「……」

すっと目の前にもってこられた。

頬が少し朱に散った。

「………。一回だけだぞ?」

ステラは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「あーん」

言われるままパンを口に含んだ。

「私もやりたいわ!」

クリスも負けじと言ってきた。

俺の意志はどこへやら。パンが目の前から手渡される。

居心地が悪くスープを一口飲んだ。それでも羞恥から頬が朱に散ったままだった。

明らかに桃色空間が広がっていることを実感していた。

クリスも同じようにしてきた。

「はい、あーんして」

「……仕方ないやつらだな。まったく…」

言われるままパンを口に含んだ。

そしてこれ以上は御免だったのでクリスの手にあったパンをもぎ取る。

「おいしい?」

「……恥ずかしすぎて味なんか分かるかよ」

スープを飲んだ。

そして早々にパンを食べきる。ダラダラと食べていてはまたやりたいといいかねないからだ。

「もっとゆっくり食べなさいよ」

「…落ち着いて食べられるか。まだやりたそうな目で見ていたくせして」

「あはは」

「残念ね」

二人とも否定しなかったのでどうやら図星だったようだ。

「人に餌付けして何が楽しいんだか…」

手に持っていたスープを飲みきり机に置いた。

荒れていたお腹が落ち着いたと思ったら今度は軽く眠気が出た。

少し頭を振って眠気を飛ばすがうまくいかなかった。

 運転が久しぶりすぎて、気が張っていたかな。少し仮眠したほうがよさそうだな。

「タテ。三十分ほど仮眠するからきっちり起こしてくれ」

「床を用意しましょうか?」

「いや、そこまですることでもない」

「わかりました」

「悪いな。二人とも」

クリスは首を振った。

「四時間も休憩なしで来たのだもの」

クリスは席を立った。

だがステラは立ち上がらなかった。

代わりに俺の頭を抱えて膝にのせてきた。

「ステラ、かまわないから」

「やりたいだけ。気にしなくていいから」

ステラはそう言い俺の瞼に触れてきた。

「わるいな…」

後頭部に感じる温かさに睡魔が誘発された。

思いのほか疲れていたらしい。クリスが俺の体に毛布をかぶせてきた。

俺の意識はそこで途切れた。



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