外伝 覇王という息子
補完的な外伝かと…
外伝。もっと女性陣を掘り下げてみたいです
外伝1 覇王という息子
覇王城の地下施設へと向かう階段に足音が響く。サンダルな為酷く音が響いているが音を響かせている人物は気にも留めない。むしろ機嫌よさげにスカートを翻していた。
階段を降りると少々広い廊下に出る。覇王城の地下施設には地下一階に兵士待機所と訓練室と鍛錬室、魔道具作成に必要な錬成室と魔術室そして作成室がある。地下二階には牢屋と宝物庫がある。
地下にあるにもかかわらず地下一階は1階とほぼ同じ広さを誇り強度も鍛錬室などがあるため屈指の強度さを誇る。
彼女はその地下にある施設の一部屋、錬成室へと入った。目的はこの部屋に入りびたりになって根を詰めすぎているこの城の主だ。
彼女は週の半分をこの城で旦那と過ごし半分は息子が治める領地で過ごす。
今日はこの城で過ごす日だった。
この城の主もまた彼女の息子であり気心の知れた間柄だった。
そんな彼女、エリアーナ=マリノスがなぜ地下施設に降りてきたかといえば彼は根詰めすぎて部下に助けを求められたからだ。
助けを求めたのは彼女の幼馴染でもある、フィニアス=ルーシェその人だった。
この覇王城の主である覇王をたしなめられるのは彼女が一番の適任者だからだ。
錬成室に入ると大小さまざまな魔石と鉱石が中心にある魔方陣を避けるように乱雑に置かれていた。
かれはこの部屋で魔道具開発を行っていた。
魔方陣の輝きが消えるとそこには魔方陣の中央に彼は立ち手には掌よりも大きい魔石が淡く輝いていた。
彼女は作業が落ち着いたのを見計らい、声をかける。
「リュウ君、根を詰めすぎってフィニアスさんから聞いたんだけどダメよ」
「母さん…」
彼は壁際に魔石を置いた。
その手首を握る。
「今日はもう終わりね。さぁ上がるわよ!」
強引に引っ張り錬成室から彼を出した。
「母さん!」
「クリスちゃんたちも心配してるんだからこの辺でやめなさい!」
「わかったから引っ張るのはやめてくれ」
「ダメよ。リュウ君は目を離すとまた籠るじゃないの!」
彼はその気になれば彼女の手くらい強引に引きはがせるだけの力があるが彼女にそれを絶対にしないことは彼女は知っているので彼を地下から引っ張り二階の浴室にまで連れ込んだ。
強引に服を剥き全裸にさせて浴室に送り出した彼女は手足を捲り素肌をさらして後に続くように浴室に入る。背後からはタテが彼女の後に続く。手には浴室のための道具を持っている。
この時間は彼のための時間なのでほかに入浴をしている男はいない。
息子とはいえ成人した男である。普通ならここは入ってこないものだが彼女は別だった。
彼を椅子に座らせ頭から湯をかける。
彼女は臆面もなく彼を全身洗いだした。
さすがに彼は羞恥が勝るのか時々制止の声を上げるが彼女は気にも留めない。
彼女の手には迷いはなく淡々と慣れた様子で洗っている。
彼女はこうなると彼でも止められないことは城にいる者は皆、知っていた。
全身を隅々まで洗われた彼はもう拒絶する気力を失っていた。
引きずられるようにして全裸だった彼はあっという間に寝具姿のローブ姿になった。
リビングに連れてこられた彼は背もたれのない椅子に座らされる。タテが水差しをくれた。
入浴で乱れた髪を彼女は丁寧に櫛で整える。
拒絶するだけ無駄なので彼はされるままだ。
彼女は気分がよくなったのか鼻歌を口ずさみだした。
そんな彼女らをそばで見ているのが側室のクリスとステラだ。
彼女らにとってはこの光景が酷く新鮮なのか注視していた。
エリアーナやリュウにとっては実家に居た頃からのなじみの光景だったのだがされるままの彼が新鮮だった。
「さ、終わったわよ。リュウ君はこのままお休みね」
「あ、ああ…」
そうしているうちに身綺麗にされた彼は再びエリアーナに手を引っ張られるように3階の自室に連れていかれる。そんな彼らの動作が気になるのかクリス達もついてきた。
「わかったよ。休むよ…」
ベットに押し込められてリュウは観念するしかなかった。
「母さんには負けるよ…」
「当然です。お母さんは誰よりもリュウ君のことを知っているのですからね」
エリアーナはリュウの額に手を当てベッドに押し倒した。
流れ作業のようにリュウの額から瞼に下がり目を閉じさせる。
「おやすみなさい、リュウ君」
エリアーナはリュウの頬にキスを落とした。
「ん…」
しばらく無言でそのまま瞼を覆った状態での姿勢を続けたエリアーナは声をかけようとしたクリス達を制止するように開いた手で口元に人差し指をたてる。
沈黙を守れというのである。
五分ほど静止していただろうか。やがてリュウの寝息が聞こえてくるとエリアーナはそっと覆っていた瞼から手を離した。
離されたことにも気がついていないリュウはすでに熟睡していた。
音もなく立ち上がりベッドのカーテンをとじる。部屋を後にした。
リビングに降りてきたエリアーナはステラたちに感心されていた。
「リュウがあんなに簡単に寝付くところは初めて見たわ」
「うふふ。当然だわ。生まれてから10年間毎日ずっと続けてきたことだからね。リュウ君も体に染みついていることは理解しているのよ」
「羨ましいです。信頼されてるんですね」
「きっと貴女たちでも同じように瞼を覆えば眠ってくれるわ」
「眠ってくれますか?」
聞いてきたのはステラだ。
「ええ、大丈夫。リュウ君も貴女たちに信頼もしているし安心もしているから平気よ」
「そうですか?」
「ええ、ああして瞼を覆って眠ってくれるというのはよほどの信頼をしている人しかしてくれないから今は私以外では貴女たちだけでしょうね」
「10年間毎日していたんですか?」
「ええそうよ。あの頃は大変だったけど今はいい思い出だわ」
「そんなに手のかかる人だったんですか?」
「とてもそうは思えないけど…」
「そうね。今のリュウ君しか知らない人には信じられないでしょうね」
女官が談話を始めた一同に飲み物を持ってきた。
彼女らはそれを手に取り飲みだす。
「リュウ君はね、十歳になるまで生きたお人形さんだったからお世話がそれは大変だったのよ」
「生きた人形?」
「ええ」
「どういう意味ですか?」
「そのままよ。十歳になるまでリュウ君は人としての感情も記憶も動作もなかったのよ」
「よく意味が…」
「あの頃は本当に大変だったわ。なにしろ生まれたときから言葉も声も発しない子で怒っても反応しない。泣きも笑いも怒りもしない子だったから」
「無感情ってこと?」
「それだけではないわね。おおよそ人としての最低限の動作もしない子だったのよ。なにしろ自分一人では排泄もしない子だったから私が世話をするしかなくてね」
「え、排泄も…ですか?」
「ええそうよ。排泄という感覚を教えるのに苦労したわ。よくおもらししてね。放っておくといつまでたっても眠らないからああして瞼を覆って眠らせていたのよ、毎日ね」
「それは世話が大変では…」
「ええ、リュウ君が後で言っていた覚醒という言葉を聞いたときお母さん納得できたわ」
「覚醒?」
「ええ、リュウ君がいうにはね。自分の人格と記憶は普通の人以上の多さと知識があったから耐えられる体に成長するまで体が自己防衛をしていたんだろうって言ってたわね」
エリアーナはほっと息をついて手に持っていたカップの中の飲み物をかき混ぜる。
「十年間のお世話は今も体に染み付いているのよ。リュウ君もそれは理解していて今でもああやって母さんの好きにさせてくれるのよ」
翌日起きてきたリュウにエリアーナは朝食を出した。
「リュウ君、疲れは取れたのかしら?」
「ん、おかげさまですっかりいいよ」
「それは良かったわ。あまり根は詰めてはだめよリュウ君」
「わかってるんだけど、もう少しで基礎が組みあがるんだ。基礎が組みあがればひと段落つくんだ。それを思うとつい…ね」
「もう…。そういうところはエルドさんにそっくりだわ。似なくてもいいのに」
「これ、母さんが作った?」
「あ、わかる?」
「わかるよ、新作の味付け?」
「ええ、そうよ。エルドさんたちには好評だったのよ。どうかしら」
「おいしいよ」
「ふふふ、よかった」
エリアーナは席を立った。
「さて、お母さんは一度家に戻るわね。無理はだめよリュウ君」
「わかった。気を付ける」
そうしてリュウは再び車制作に没頭するのであった。
予定通り次回は新章・竜人姫と賢者 です




