7-2
翌日午前中は謁見でつぶれたリュウだったがその謁見中にクリスの乗る馬車が午後に到着する報告が来た。
せっかくなので迎えに行きたいとフィニアスに言うとそれは警備の関係上無理といわれた。
だが、しつこく食い下がると渋々城下の城入り口ならと許可を貰った。
城下の城入り口は城復活当初は森だったのだが東屋を中心に衛兵詰所関連の建物が俺の魔力で出現したため激変していた。
今では城内外の兵士詰所となっており覇王連合国各地からの志願兵及び仕官兵らの宿舎や訓練場などが完備されているので警備が行き届いているのである。
また正門前ということもあり、広く通路が確保されているのでデモンストレーションを行うにはもってこいの場所だった。
もちろんおれの戴冠の際にも民衆に戴冠とおれの存在を周知させるため専用馬車で街を回ることになるのだが出発点は式典会場の王都大教会で帰還は正門だ。
戴冠式を行う大教会にも触れておこう。
教会は各地にある創造神イヴを祀る教会で全世界中に教会を置く巨大な規模を誇る教会である。
このカイエルにある教会は創造神イヴの寵愛を受けし覇王のお膝元ということもあり世界屈指の教会だ。
とはいえ、教会にとっての聖地という場所もカイエルとは別にあり世界の中央に位置するカイエルより南東にある。
聖地エジャルナ、この場所にある教会の本部ともいえる場所なのだがおそらく世界最小の国家でもある。だが影響力はすさまじい規模を誇る。
世界中に点在する教会をまとめているだけありいわゆる不可侵領域扱いだ。
不可侵領域になっているにも理由がある。聖地扱いになる理由の最大の理由が創造神イヴ降臨の場があるためだ。
この降臨の場はイヴによって認められたものにしか立ち入ることができない神聖な場所なのだ。
当然だがおれは簡単に入ることができる。
前世覇王ウィリアムはこの降臨の場・イヴァースに頻繁に訪れていたという。
イヴァースに来る理由などイヴに会いに来る以外にはないのだがどうやらゲートを使い毎日のように通っていたらしい。
というよりも覇王伝説を語るには知っていて当然らしいのだが理由はこの間ウィリアムの思考に触れ、やっと気がついた。
先代覇王ウィリアムは創造神イヴを愛していたのだ。
他の女性が目に入らないほど一途に愛していた。イヴだけを。
それを知る人間は俺以外にはいないだろう。
イヴへの想いを紛らわせるためだけに存在したであろう百人の妾達。
哀れだとおもった。
体だけの繋がり、たくさんの妾の存在のせいでイヴへの想いが忠誠に近いものだと思われてしまった。
事実に気がついているのは少数だろうと思う。
俺には理解できないと思った。あんな機械じみた女性に愛しさを感じるなどおれには無理だ。
泣き笑い哀しみと怒りなどいろいろな感情と共に表情を見せてくれるからこそ愛しさも深くなると思うのに。
ゆくべき世界と指針を示してくれたイヴには信頼はもちろん感謝はしているし願いはかなえてやりたいとも思うがそれだけだ。愛情ではない。
だからなのだろう。浄化スキルを継承する子孫がいないのは当然のことだった。
浄化スキル継承には相思相愛が必須条件だ。
そして理解できないと思う俺だから今世に選ばれたのだろうとも。
そんなウィリアムのことに思いをはせつつおれは正門前に立っていた。
いでたちは玉座での謁見姿だ。
複数あるセット装備の一つで《覇者の覇軍》が戦闘用の公式装備ならこの服は謁見用の公式装備《覇王の玉璽》という名が付く。
玉座での威厳をフルに考えられているため覇軍よりも派手である。しかもセット装備なのでアクセまで装備されてしまうローブ型の装備だ。
覇軍が赤と黒と銀布に金刺繍なら玉璽は白と金と銀の布に赤と金の刺繍が施されてある。セット装備なのでアクセも外せない。アクセには首飾りとピアス。それと小さ目なサークレットだった。サークレットと例えたがほぼ冠だった。
「この姿目立つんだが…」
隣に立つフィニアスに苦情を言った。
「結構ですな。出迎えにふさわしいお姿です」
フィニアスは気にも留めていなかった。
「大丈夫。素敵よ」
にこにことステラが笑みを浮かべる。
「……」
誰にも気づかれない程度のため息をついて腹をくくった俺だった。
そうしていると遠くに見える噴水広場から一台の馬車がやってくる。脇に固めている騎士たちの服に見覚えがあった。
そうヴェリアス王国の近衛隊の服だった。
「来ましたな」
フィニアスのその言葉に背後と通路の脇を固める衛兵たちに緊張が走る。背後の民たちから歓声が上がる。
「ああ」
正門前にまで来たその馬車にも見覚えがあった。
クリスの母の形見だというあの豪華な馬車だった。
豪華だよな。なんであの馬車を見たときに王家のものかもしれないと気がつかなかったのかな。
今にして思った。じっと見つめていると近衛隊の一人が馬車の扉を開ける。
優雅な仕草で馬車を降りてきた女性は間違いなく王女だった。
立派な王女の仮面をかぶってるなぁ
冷静に観察していたリュウは王女クリスティーナと目が合った。
お互いのいでたちに笑みを浮かべた。
お題目ならべるか
「ようこそ我が覇王連合国へ。姫のご到着お待ちしておりました。我が名はリュウ=クドウ=マリノス。覇王ウィリアム=ガルド=カイエルの正当なる後継者です。どうぞよろしく」
姫は深々と頭を下げドレスのスカートをすこし持ち上げる。
「お噂は聞き及んでおります。わたくしはクリスティーナ=フォン=ヴェリアス。末永くよろしくお願い致しますわ」
頭を上げ極上の笑みを浮かべた彼女におれは顔を左側にいたステラを見る。
「彼女はステラ=ルーシェ。姫と同じ立場の側室だ。仲良くしてほしい。隣の者は父君でこの国を預かる元首のフィニアス=ルーシェ殿だ」
ステラもスカートをつまみお辞儀をして見せる。
「ご紹介にあずかりました、ステラ=ルーシェと申します。よろしくお願いいたします」
「リュウ様との仲は伺っております。わが国で過ごされるにあたり不安も多かろうと思いますので遠慮せずにご相談ください。リュウ様の右腕を自負させていただいておりますゆえ」
フィニアスも軽く会釈して見せた。
「はい。よろしくお願いいたします」
「リュウ様。お供の護衛者たちはお任せください」
俺は頷いてクリスを見る。
「では城へ案内しましょう」
俺は言って右手を差し伸べた。クリスはその右手を取る。
その時遠巻きにいた民たちから大きな歓声が起きる。
俺とクリスは軽く民たちに手を振って笑みを浮かべた。
するとさらなる歓声が聞こえた。
向きを変えた俺の左手を握ったのはステラだった。
ふと、気がついた俺はそのまま移動しながら呟いていた。
「そういえば二人とも必ず同じ右腕と左腕だな」
二人はお互いを見つめて言った。
「利き腕を独占したいじゃない」
右手を握り言ったのはクリスだ。
「利き腕は開けておくべきでしょう?」
左手を掴んでいるのはステラだった。
面白い二人だと思った俺は表情に出ていたようだ。
「なに笑ってるのよ!」
右腕をぐっと引っ張られた。
「悪い。でも個性が出てるなと思ってさ」
「何よそれ。嫌味?」
「まさか、褒めてるつもりだが?」
雑談を繰り返しながらも歩き城の門に到着した。
立ち止まった俺に従うようにクリスとステラは立ち止まる。
クリスは宙に浮かぶ覇王城を見上げた。
「はぁ…。本当に浮かんでるのね。ゲートから来たときは外を見る時間がなかったから新鮮だわ」
「そうだな。浮かんでいるからこそ侵入者は限られる。覇王が持つ最大級の魔道具だ」
「魔道具なの?」
「ああ。覇王の魔力と生命力を感知して起動している。起動してしまえば周囲の魔素を取り込み魔力と変えて増幅し維持するんで何もしなくても宙に浮き、城中に張り巡らされた魔術で防御機能が働く自立型移動要塞魔道具。それがこの城、覇王城だ」
「自立型移動要塞って…、移動できるの?」
「もちろん。俺の意志しだいでいくらでも…な」
「すごいわね…」
「感心してないで上がるぞ」
おれは祭壇に上る。ステラとクリスは慌てて上ってきた。
俺は道具収納からネックレスを取り出した。
「クリス。この城は基本的に覇王か覇王の末裔しか入城できない仕組みになってる」
「え」
「それ以外の人間は末裔の案内なしでは入れないんだ。それを覚えておいてほしい」
「それだと…」
「例外がある。俺の、覇王の魔力を込めた魔道具を持っているものは例外に出入りできる」
おれは言って持っていたネックレスをクリスの首にかけた。
「不用意に城の外では外さないでほしい。無くすと大変な騒ぎになる可能性がある」
クリスは神妙な顔で頷いた。
おれは手のひらを床に翳すと床は光に包まれる。
「これじゃなくても以前に渡した通信用アクセでも同じ効果がある。俺の魔力が込められていることにかわりはないからな」
床の光は周囲を覆い周囲の景色を真っ白に変え元に戻るとそこには覇王城の扉があった。
リュウは扉に手を翳すと扉はそれだけで音もなく開いた。
扉の向こう側にいた人物におれは驚かされた。
「リュウ。両隣にいるのがお嫁さんお二人なのね!」
「あ、ああ」
いるとは思ってなかった俺は反射的に答えたがステラとクリスは驚いたままだった。
「今日来ると聞いてなかったけど、どうしたんだ、母さん?」
「だって今日リュウ君のお嫁さんが二人そろうって聞いてこれはぜひ会っておかないといけないじゃない」
「父さんから聞いたのか?」
「ええそうよ。今日はね母さんここでこの城のコックさんたちと一緒に料理を作るのよ。楽しみにしててね」
「ここで?」
「あとで父さんたちも一緒に食べてもらうつもりなんだけどかまわないかしら?」
「キバたちに話が行ってて許可があるなら構わないけど…急だな」
「それは大丈夫。許可ならとっくに貰ってるわ。リュウ君を驚かせようと思ってね。秘密にしててもらってたのよ」
そこまで話が進むと固まっていた二人が動いた。
「リュウ、お母様なの?」
聞いてきたのはクリスだった。
「ああ。母のエリアーナ=マリノスだ」
「初めまして貴女がクリスティーナ姫ね。そちらはステラさんだったかしら。リュウ君が迷惑かけてないかしら。息子のリュウ君をよろしくね」
「クリスティーナ=フォン=ヴェリアスです。よろしくお願いいたしますわ」
「ステラ=ルーシェです。こちらこそよろしくお願いします」
「長旅で疲れたでしょうし、お部屋でゆっくりするといいわ。後で会いましょうね」
母さんは手を振ってパタパタとその場を後にした。行先を見ると厨房のようだ。
「母さん、気合入ってるようだな。久しぶりの母さんの料理は楽しみだな」
久しぶりの母さんの料理を思って顔が軽く綻んでいた。
「うれしそうね、リュウ」
クリスがぐっと右腕を掴んできた。
「当たり前だろ。久しぶりの母さんの料理だしな」
「それだけじゃなさそう」
ステラも負けじと掴んできた。
「母さんの料理はプロ級だからね。きっと厨房でも驚かれていると思うぞ」
「それは楽しみね」
「それに俺の好みを完全に把握してるのは母さんだ。期待するなというほうが無理だ」
言いながらも足取りは玉座のある謁見の間に入る。
この謁見の間にある玉座はだたの飾り椅子ではない。
座れるのも俺だけだがそれ以上に覇王城に関する重要施設でもある。
城に関する防衛や維持修復、城内部の改築など多岐にわたる設定と指示が可能で城維持のための最重要施設である。
当然、魔力供給もこの玉座でできる。
それだけでなく俺の体のスキャニング機能も搭載されていて俺の体調次第では防御機能が跳ね上がることもある。
この玉座と同じ性能が込められている施設は三階にある俺のベッドだけだ。
ベッドにはスキャニング機能と付随される形で回復魔法と状態保全が魔方陣に組み込まれており治癒機能も備わっている。
意識不明に俺がなってしまえばその機能が働き回復しつつエネルギー補給も状態保全で機能するので看護いらずだ。
このスキャニング機能の結果は家令のキバに筒抜けになっている。
城を管理しているのだから当然だった。
この謁見の間に来たのには理由がある。
各種防衛機能へのクリスの認識のためだった。
俺は玉座の前に立つとステラはそれだけで理解したのか握っていた腕をはずして解放してくれた。
クリスもそれに気がつき外してくれた。
おれは玉座に座りひじ掛けに右掌で握る。無意識に足を組んで玉座に座る俺の前に透明な板のようなものが現れた。
いわゆる情報盤である。コンソロールパネルというべきものだ。
先代覇王ウィリアムの時代にはこのようなパネルはなかったので俺が使いやすくするために改修したのだ。
各種設定をしつつクリスに質問をした。
「この城に残る部下の名を挙げてくれ。先に通達した通り女中含め五人だ」
先に輿入れの際に残れる部下は兵士含め上限五人と通達していた。
兵士は下の設備での限定になることも事前に通達してあった。
クリスは五人の名を告げ、三人が女中だった。
設定を終えるとちょうどそこにキバがクリスの連れていた衛兵たちをつれて部屋に入ってきた。
彼らを見たときおれは驚かされた。
「意外とよく似合ってるじゃないかリュウ」
その声の主が姉エルナだったからだ。
「同行してたのか」
「当然だ。覇王国に行かれるクリスティーナ姫の護衛責任者に任命されたからな」
「でも滞在部下に名はなかったが?」
「ああ、私は滞在しない。というよりここはもう一つの我が家のようなものだ。私が一番適任と満場一致だったんだよ」
その言葉でおれは納得していた。
滞在せずともこの城に身内設定されているエルナだ。ゲートも存在しているので気軽に行き来できるのだ。
「戴冠直前には国王陛下がゲートを使いこちらに来られる予定だ。よろしく頼む」
対外的には魔道具を使い跳んでくる設定になっている国王はゲートでの来訪予定は聞いていた。
魔道具という名のゲートというのには違いはない。
おれは頷き了承してクリスティーナ姫一行だけは特別に城滞在を許可していた。
というのも他の国からの貴人や護衛官で城下にある宿泊設備はいっぱいになる予定なのだ。
唯一、他国からの側室を迎える国の立場から特別待遇だった。
「了解している。城内にある貴賓室に滞在予定だ。期間中ゆっくりしていってくれ」
とはいえ他国の貴人も十分厚遇しているのだが。
その夜、禁欲生活をしていた俺にとってクリスとの熱い夜は激しいものになった。




