6-3
翌朝目を覚ますと目の前にクリスが眠っていたのでひどく驚いた。
いつの間にかクリスが夜中にベッドに侵入してきたらしい。薄いナイトドレスを着て眠っていた。
身体的に疲労があったせいだろう俺は珍しく侵入に気が付かなかったようだ。無意識にクリスの腰を抱いていたらしい。
感覚的に姿が今のマリノスの姿に戻っていることに気が付いた。
一晩休んだことでスキルが落ち着いたようだ。
ほっとして腕の中で眠っているクリスを見ていた。
しばらくみているとクリスが目を覚ました。
「…あ…」
「……おはよう」
忍んできたくせに照れるのか微妙に頬を染めているクリスがおかしかった。
自然と笑みが浮かぶ。
「いつの間に侵入したんだか…」
腕枕をした感じになっていた右腕をクリスの首の下から引き抜く。
長時間下敷きになっていたせいで腕がしびれていた。
上半身を起こして右腕を軽く揉んでいるとクリスはじっと俺を見ていた。
「どうした?」
「勝手に部屋に入って怒ってない?」
「そんなことか。怒るわけないだろ。関係を持つわけにはいかなかったけど人肌は恋しかったのは事実だしな」
クリスはその言葉に笑みを浮かべた。
「それに侵入してもタテに咎められなかっただろ」
「え。そういえば…」
「タテは俺の使い魔でもあるから覇王城以外では完全に眠ることはないんだ。最低限の警戒という意味もあってな」
この城の警備を信用していないわけじゃなく覇王を守護するための使い魔スキルというものだった。
「タテたち使い魔とおれは繋がっているから俺が不快なことには敏感に反応するんだ」
クリスも起き上がるとベッドに胡坐をかく形で座っていた俺にもたれかかる。
「ちょっと残念ね。リュウからあの香りが消えてるのは」
「はは、あれは積極的なクリスには必要ないな」
「でもやっぱりほしかったかも。だってイブ神に選ばれし伴侶でしょう。それだけでも妃として箔が付くじゃない」
「クリスには要らない」
おれはむくれたクリスの口を自分のそれでふさいだ。
「…ん…」
ゆっくり唇を離すとクリスはほほを染めて俺から離れた。
「ばか…」
クリスは言い置いて立ち上がり部屋を出て行った。
その頬は真っ赤に染まっていたのは気のせいではないだろう。
その後魔力鍛錬をして身だしなみを整え食堂に顔をだすと他の王族たちが食事を終えていたのか俺の姿に注視していた。
「姿が変わっていたと聞いていたのだが戻っていて何よりだ」
そう言ってきたのは国王だった。
「ご心配かけましたが一晩休んで落ち着きました」
しばらく雑談をして予定を照らし合わせて食堂を後にするリュウだった。
その日の午後予定していた姉の家に立ち寄る。
覇王城との繋がるゲートを設置するためだ。
国王と姉エルナの許可をもらっていたのでエルナの家にある地下室の一室にゲートを作った。
ゲートと呼ばれる空間魔法は特殊な性質を持っており作った者の許可を持つ者以外には使用できない。許可を持たない者が使うには許可を持ったものが同伴していることが条件になる。
例えば国王が俺の許可を持っているとして兵士は許可を持っていないとする。
その場合は国王との随伴として許可されるのだ。一度限りという条件でだが。
この姉の屋敷にあるゲートを設置するにあたりゲート許可を国王一家と姉エルナに。そして許可証を持つ者と限定した。
この許可証、俺が複数魔道具で作ったので一枚は国王が持ちもう一枚はエルナが持つ。俺の魔力を内包している特殊なものだ。俺と会ったことがあることが条件になっていて初めて持つことができる上級の魔道具になる。
なぜこんなにも気を使ったかといえばゲート同士で行先を指定すれば何度も行き来できるので警備の関係で重要施設になることは予想できたからである。
なにしろゲート同士がつながればその距離はゼロになるから恐ろしいほどの移動革命が起きる。
それを拡散するには使い手がほぼいない現状きびしいのである。
ゲート呪文はロストスペルの空間魔法だからだ。
このゲート、実はヴェリアス王国の王城に一つ設置してある。
場所だけに高い警備用の魔道具も設置されてある城の中ということもあり設置には国王の許可も貰った。
設置場所は国王のプライベートエリアと公共エリアをつなぐ中庭に魔術建築で俺自身が作った祠に設置した。
もちろん国王以下近衛隊長らの立ち合いの元でだ。
祠自体はゲート維持のためなので人が入るような大きい祠ではないために入ることはできないが許可証を祠にかざすか許可された本人が手をかざせば行先を指定したゲートが祠前に開く設定になっている。
ただしこのゲートはまだ使用できない。ゲート本体は覇王城に設置予定なのでまだないため未開通なのだ。
ヴェリアス王国の王都を出た俺はその足で故郷の土を踏んだ。
理由はもろもろあるがゲートもその一つだ。
俺が覇王というのは世界に拡散されることは仕方ないのでともかく、少し調べればこの村で育ったことはすぐに知れるだろう。その為家族たちの警備はどうしても必要になってくる。
だがここは辺境にも近い。いくら両親が治める領地であっても辺境だ。治安に心もとない。
警備の関係から覇王城かもしくはカイエルに移転してもらうことにしたのだ。
その為に領地経営を王都の国王に相談もしていた。
その相談の結果、貴族位はそのままに領地経営を王都からの派遣という形で落ち着くことになった。もちろん家族全員が移転した場合だ。
その話をするために帰ってきた。
おれが村にある家に帰ってきたとき父は不在だった。近場に魔物が出たためだった。強い魔物ではなかったが村を守るのは貴族の義務でもある。
ただでさえ村と称する程度に小さな集落である。
兵士などという存在はおらず自己防衛ができる村人も多いので事足りるが父は率先して魔物を蹴散らしに行ったのだろう。昔からよくある光景だった。
そんな父が帰ってきたのは俺が昼に帰ってきてから数時間後、夕方すぎだった。
そんな辺境でも第二王女と恋仲になったというのはそれなりに伝わっているのか母にそのことを散々聞かれた後にやっと父と兄が帰ってきたのでやっと話題がそれる。
その間、一緒に来たタテは無言でおれの背後に立っていた。
夕食時間ということもあり話は一度中断することにした。
母は台所に立ち食事の準備に入る。
そんな母を手伝おうとしたのはタテだ。
そんなタテの協力を軽く断る母だったがおれが一言いった。
「遠慮なく使ってやってほしい。そいつはおれの警護兼召使いだから動いていたいんだよ。それが仕事であり生きがいだからさ」
「そういうことなら…」
母はタテと共に台所に消えた。
その夜久しぶりの母の手料理を堪能した俺だった。
食後に移転の話を終えた後、父は想定していたのか驚かなかった。
「お前が覇王ということを知ってからある程度は覚悟をしている。村長もそれは理解している。いずれはこの村を出ることになるかもしれないというのはな」
「そうね、私はエルドと一緒なら何処ででも行けるわ。それにすぐにここやエルナにもあえるように手配してくれているのでしょう?それなら問題はないわ」
母も驚きはなく父と共にあるならと同意してくれた。
その上で父は言った。
「移転としてもすぐにというわけにもいかん。向こう側に居を構えるにしてもそれなりに必要なこともある。しばらくはお前の作るという移動設備…ゲートだったか一瞬で行けるというのならそれを使ってカイエルに通うとしたいが?」
「もちろんかまわないよ。この家の地下にその施設を設置するつもりだしここにいる家族には常時通行できるように許可をだすから問題はない。向こうの拠点作りにしても融通はつける」
だが兄は違った。
「おれはここに残るよ。母の墓もこの村にあるし出て行きたくはない」
「兄さん…」
その顔で俺は意志が固いことを知る。
「それにここに設置するという施設を守らせてくれリュウ」
おれは兄エリックのその言葉に驚きはなかった。おそらくは残りたいというだろうことは予想していた。その為ゲートを作るように手配していたのだ。
おれは一息ついて言った。
「兄さんはそういうと思っていたよ。この村に残るとね。だからゲートを作る気だった」
「まさか俺のためだったのか?」
「まぁ、そうだな。兄さんが残ると言わなければ作る必要はないわけだし」
「そこまですることなのか?」
おれは頷いた。
「覇王の親族というだけで十分名が売れてしまう。なかには覇王に恨みがあるやつだっているかもしれない。警備の関係でゲートは必要だ。その許可は国王に貰ってる」
食後ということもありタテはみんなに飲み物を出してくれた。
俺はそれを一口飲む。
「移転の話もそうだけどおれは無理強いさせるつもりもないけど今の生活が気に入ってるというのなら無理に移転することもない。ただ、今までのようにもいかないことも覚えておいてほしい」
そこで俺の背後に控えていたタテが初めて口をはさんだ。
「残られるというのなら私と同じ立場の者がゲートを使い警備することになります。ゲートを使えば距離はありませんので問題はありません」
「わざわざ人を使ってまで警備してほしくないんだけど…」
エリックは呟いた。
おれはそれに首を振った。
「そういうわけにはいかない。警備はいる。そしてなにより彼らは俺の使い魔だ。いるだけで何かあれば俺に通じる。そして俺の使い魔なら許可は必要ないんだ。気にすることではない」
エリックはしぶしぶ納得したようだった。
翌日俺はさっそく地下を魔法で増設してそこにゲート魔法を設置した。




