6-1
6
一か月後、俺の姿はヴェリアス王国にあった。配下のタテを一人だけ伴って。
王都の城門前で衛兵に声をかける。
さすがに王城だけあり普通に入れるわけではないからだ。
「王に謁見をしたいのだけど取り次いでもらえるか?」
「国王陛下がお前のような一般人にお会いになるわけがないだろう。帰れ!」
「……。あのさ、確認もせずに追い返すのは無能者のすることだと思うぞ。これでもウイリアムズ覇王連合国の正式な使者なんだけどねえ…」
いうと俺はフィニアスに持たされた豪華な紋章付きの短剣を見せる。
衛兵はその紋章が本物であることを確認すると慌てて門の中に報告に入っていく。
しばらく待つと衛兵と共に見たことある人物が慌ててやってきた。
「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。どうぞ中へ」
「ああ」
城に入ると迎えに来たみたことある男が謁見の間に案内してくれる。
謁見の間を守る衛兵を見ると城浄化の際に案内してくれた衛兵だった。
「え、リュウ様?」
「ああ君か」
「なぜ…?」
「国王陛下に用があってね」
それだけいうと部屋に入っていった。
正面に国王ギルフォードが椅子に座り傍に初老の男がたっていた。
俺の姿を見ると国王ギルフォードは驚いて椅子から立ち上がった。
「リュウ君!」
「お久しぶりです国王陛下」
「連合国からの使者と聞いていたが貴殿が?」
「ええ、心配をかけているようなので顔を見せたほうがいいかなと思ったのでね」
国王はそばにいた衛兵にクリスを呼んでくるように言った。
「療養中と聞いていたから心配しておったのだ」
「ご心配をおかけしましたね。でもこの通りすっかり元気ですよ」
俺は言ってタテから箱を受け取り、国王陛下に近寄り一つの書類がはいった箱を手渡した。
「これをフィニアスから預かってきた。受け取ってもらいますよ」
「これは?」
「この間の親書の返事とおれの戴冠式への招待状です」
国王は快くうなずき、従僕が受け取ってくれた。
「クリスに会いにきただけなんですがどうせならと、持ってきたんですよ」
そこまで言ったとき、玉座の後ろにあった扉が豪快に開いた。
「リュウ!」
クリスだった。
肩が露出した蒼いドレスを着て俺を見るなり駆け寄ってきた。
声をかけようとしたがその前にクリスは俺めがけ飛び込んできた。
慌てて抱き留め抱える。
「大丈夫なのね?」
「大胆なのは相変わらずだな」
クリスを下ろす。
「療養中と聞いて心配したんだから…」
「心配かけてすまなかったな。姿を見せたほうが安心すると思って」
「それで来てくれたの?」
「ああ」
「うれしい…。しばらく滞在できるの?」
「ん?ああ2・3日はゆとりがあるが…」
言って国王たちを見た。
「せひ城に滞在していただきたい。クリスティーナも喜ぶ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
「彼は部下かな?」
「はは、フィニアスが従僕を一人でもいいから連れて行けというもので。お気になさらず」
「タテと申します。覇王様の専属執事を務めさせていただいております」
タテは深々とお辞儀をして見せた。
クリスに連れられて貴賓室に連れてこられた。
タテは隣にある従僕用の部屋に入っていった。
従僕用だけあっていろいろ設備が整っているからである。
貴賓室のソファで寄り添うように二人は座っていた。
「わたしね、リュウと一緒にいられるようにと思って頑張って魔術特訓してるのよ」
「そういえば術師だったな。適正属性はあるのか?」
「もちろんよ。炎と光と聖が適正なの。その術は上級まで覚えたの」
「上級まで覚えたのはすごいな」
「でも魔力が上がり難くて困ってるのよ」
「魔力?」
「ええ」
「………魔力鍛錬はしてるよな?」
「魔力鍛錬?」
俺はクリスが魔力鍛錬を知らないのに驚いた。基礎中の基礎な魔力鍛錬を知らないというのは術師として考えられなかった。
「まさか知らない?」
「魔力は使うことでしか上がらないでしょう。鍛錬なんて聞いたこともないわ」
「マジか…」
俺は考え込んでしまった。
「魔力鍛錬は術師として基礎中の基礎だ。賢者の知識にあるほど大切な鍛錬だ。それをやらないのは術師として才能が開花しないとまで言われるほどの大切な工程だ」
「賢者の知識?」
「ああ、大賢者のスキル知識だ。前々世の大賢者知識だから間違いない」
「それをやると魔力が上がる?」
「魔力どころか威力も上がる。毎日、継続鍛錬することでMPの最大値も上がっていく大切なものだ」
やり方を丁寧に教えた。
体内にある血液と同じように巡る魔力を感じ、内から外へ外から内へとイメージしていく。
魔力は想像力も必要なのでイメージできれば実際に魔力も早く巡るようになる。
早く巡るようになれば自然と体温も上昇する。運動と変わらない。
一日5分ほどで十分鍛錬になる。
俺は毎日寝起きに5分間やっている。
一か月毎日やれば効果はそれなりに出る。
魔力の上昇値しだいで一緒に旅ができるかもしれないな。
「なんだか体がポカポカしてきた気がするわ」
「うん。うまく鍛錬できている証だな。魔力鍛錬は運動と変わらないからな。うまくできていれば体内の魔力が活性化して体温が上昇するんだ」
「そうなの?」
「ああ、一日5分でいい毎日継続することが大事なんだ」
「リュウもやっているの?」
「もちろん。できる限りやるようにしている。俺は朝起きた時にやる習慣があるな」
「気が付かなかった」
「はは、それはそうだろうな。一人の時にやっていたからな」
「マスターのお好きな紅茶がありましたのでどうぞ」
タテはそう言って二人分を用意してきた。一緒にこの紅茶に合う菓子まで添えてきた。
「ああ」
手に取って一口飲んだ。
この紅茶は、色はともかく味が緑茶によく似ていて落ち着くことをタテは把握しているらしかった。
しかも菓子までいつの間にか好みが把握されているのか甘いものが好きではない俺に合わせてあるのか甘さはかなり抑えてある菓子だった。
「すっかり好みを把握したなタテは…」
「ありがとうございます。それが仕事でもありますので」
「仕事…ね」
「もちろん生きがいでもありますよ」
「この紅茶ってまずいことで有名な東部産の紅茶じゃない。よく飲むわね」
「ん?まずいのかこれは」
「マスターの飲み方は紅茶の飲み方ではありませんからね。紅茶として入れるとおいしくはないですね」
「ああ、そうか。紅茶じゃないからなこれは」
「そうなの?」
「わたくしもマスターに教えていただくまで入れ方を知りませんでしたから無理のない事ですね」
「リュウは良く知っていたわね」
「いや、俺も正確に入れ方を知っているわけじゃないさ」
「え?」
「似てるんだ。前世でよく飲んでたお茶に」
「そうなのですか?」
「ああ」
一口飲んで懐かしい味にほっとした。
「たけど、入れ方は間違ってはいないと思う。これはお茶であって紅茶じゃないから砂糖もミルクも入れないんだ。入れるとまずくなる。そういう飲み物だ」
クリスは恐る恐る一口飲んでみたようだ。
味が意外だったのか一口では終わらなかった。
「おいしいわ。入れ方でこんなに違うなんて思わなかった」
「味は控えめだけどだからこそどんな料理や菓子にも合うんだ。俺はね、これを飲んだ時安心できるんだ」
「故郷の味というわけですか」
「ああ。だからこそこれが原産地の東部には一度は行ってみたいと思っているんだ。鎖国なのがとても残念だよ」
「独自の文化があるっていうものね」
「そうらしいね」
しばらく無言になった。
おれはクリスを真摯な目で見つめた。クリスにステラのことを報告しなければならないのは気が重かった。そのせいだろうクリスも俺の醸す空気が変わったのに気が付いたのか声をかけてきた。
「どうしたの?」
「ああ、クリスティーナに言わないといけないことがある」
「?」
「二人目ができた」
俺はその言葉しか出せかなった。
その言葉でクリスは理解できたようでさらに聞いてきた。
「どんな人?」
「もしかしたらあったことがあるかもしれない。なくても名は聞いたことがあると思う」
おれはそう前置きをしてステラの身元をクリスに報告した。
お互いがまだプラトニックな関係であることと共に即位と同時に二人を城に呼ぶことにも触れた。
当然この国の国王からの輿入れの話があることにも触れることになった。
クリスは納得できたようだった。なぜ俺がこの国に訪問したのかを。
その後しばらくクリスと雑談して別れた後、城にいた姉エルナに会うと開口一番手合わせに練兵所に連れられてしまったことは予想済みだった。




