5
5
リュウが玉座の間で意思を失ってから一週間がたった。
だが一週間たったがまだ目を覚まさなかった。
さすがにステラは心配になってきた。
この一週間でステラもこの覇王国も世界中が大混乱に陥った。
いきなり覇王城が出現したことで議会も荒れた。封印されていた森跡には迎賓館や兵士待機所と訓練所、宿泊施設などが出現し混乱を深くした原因となった。また、現世に転生を果たした覇王の詳細がヴェリアス王国出身としか伝わっておらず人物像においても錯綜した。
それも落ち着きを取り戻しかけた頃ヴェリアス王国からの親書が届いた。
リュウの容態を気にかける内容と第二王女の輿入れについての協議に二国間で話し合いがもたれていたが肝心のリュウが目を覚まさないことには何も進まなかった。
ただただ、転生なされた覇王様が覇王城を復活させ、その影響から現在療養中と全世界に向けて発表されるにとどまっていた。
そんな激動の一週間だったのである。
ステラといえばそんな一週間ずっとリュウのそばにいた。
ベッドに常設された魔方陣のおかげで生命維持に必要なエネルギー等は常時リュウに注がれており、またベッドの魔道具効果で清潔に整えられていたためステラは本当に傍にいただけだった。
この一週間で変わったことがあるとすれば着衣が自動収納されリュウは下着姿で寝かされているくらいだろう。
そんなリュウが目を覚ましたのはステラがちょうど昼食のため部屋にいないときだった。
ぼんやりと思考が働かない状態でベッドの魔方陣を見ていた。
ゆっくり上体を起こす。
すると寝すぎたのか一瞬だけめまいを起こした。
反射的に手をこめかみに充てる。
ふと、自分が下着姿で眠っていたことに気が付く。
道具収納からいつものアンダー服を自動装備する。
なにしていたんだっけ…
ベッドで片膝を抱える。
玉座で意識を持っていかれたんだっけ…
そこまで思い出し自分の状態が気になり窓を出した。
リュウ=クドウ=マリノス
職業=賢者 Lv24・王者Lv20
HP=12574
MP=15891
力=1800
素早さ=1800
集中=2000
魔力=5000
魅力=12000
運=8500
特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔力操作・魔道具作成・使い魔召喚・使い魔疎通・使い魔共有=MAX・覇剣術=初級〉
呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済・召喚呪文=中級〉
スキル〈鑑定・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納EX・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・魅了・完全防御・魔物浄化〉
固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証・叡智の結晶・覇王の覇道記(現在使用不可)・叡智の魔術記(現在使用不可)〉
「……」
使い魔か。ちょうど百あるな。この城にいるやつらのことか。魔物浄化ってなんだ?
調べると使うと対象の魔物の魔素を浄化し理性を持たせ使い魔とすることができるスキルだった。
そこで思い立った。
なぜ彼らがこの城で封印されていたのかを。その理由を知った。
その時ちょうどタテが部屋に入ってきた。
「お目覚めになられたのですね。よかった」
「ああ、心配かけたな」
窓を消した。
「一つ聞かせてくれないか?」
「なんでしょうか?」
「…お前たちは全員元魔物か?」
「……。いえ、この城の兵の半数は元魔物でございますが我々のように覇王様の身の回りをお世話させていただく者たちは全員元から人でございます」
「そうなのか?それはすまない」
「いえ、そう思われても仕方ないほど我ら魔人族は魔物と共存しておりましたので…」
「共存……ね。それはさぞかし人と軋轢があるだろうな」
「はい。我ら魔人族はそれゆえに滅びる寸前でございました。千年前に」
「………。そうか。前世の俺がそれを浄化という形で保護したということか」
「その通りでございます。故に覇王様以外ではお仕えが難しかったのでございます」
「恐れられたか。人と違うことは恐怖につながるからな」
「我が君も我らが恐ろしく思われますか?」
「いや、恐怖はない。というよりもそれはあり得ないな」
おれはなぜか確信があった。
「お前たちは絶対に俺に危害を加えられない。裏切ることもない。ちがうか?」
タテは深々とお辞儀をした。
「その通りでございます。我らは我が君の手足。忠実なる配下。しもべでございます」
そこまで会話した時だった。
階段を上がってくる足音と共に扉が開いた。
そこにはステラがいた。
「リュウ。目を覚ましたのね」
言うなりステラは駆け寄りおれに抱き着いてきた。
勢いあまって二人してベッドに沈んだ。
ステラは震えていた。
不安だったのだろう。
落ち着かせるようにステラの頭と腰を抱いた。
「ずっといたのか?」
ステラは頷くしかできなかった。
「ありがとう。すまなかった…」
ステラが落ち着くまで抱きしめていた。
しばらく抱きしめていたが落ち着いたようなのだが一向に離れなかった。
「…?」
大胆すぎて目が合わせられなくなったのだと気が付いた。
おれはそんなステラがいとおしくなった。
俺の口元のすぐそばにステラの耳朶があったのでいたずら心でやさしく唇で噛んだ。
その直後、ステラは全身で驚き硬直してしまった。
これは…。異性を知らないのか…
「ステラ。大胆なのは嬉しいが、俺は腹が減ってるんだよ…」
「あ。ご、ごめんなさい」
ステラは真っ赤な顔をしてやっとベッドから降りてくれた。
俺もベッドから降りて傍に無言で立っていたタテに聞いてみる。
「顔を洗うところは?」
「あちらでございます」
いうと腕を洗面所のほうへ向けて案内してくれた。
洗面所で軽く顔を洗うとタテがタオルを差し出してくれた。
タオルを返すと準備がいいのでローブを羽織らせてくれる。
袖を通しステラと部屋を出る。
階段を降りるとタテが階段下の右手の扉を開けた。
入ると広い部屋に長い豪華なテーブルに燭台が置かれた、大きな食堂があった。
奥のほうにメイドらしき女性が立っていた。俺を見ると深々とお辞儀をしていた。
「最奥へどうぞ」
「ああ」
勧められて椅子に座るとそばにステラも座った。
「こういうのは慣れてないせいか落ち着かないな」
ステラは笑った。
「大丈夫。リュウならすぐ慣れると思う」
「そうかな…」
すこし雑談をしているとさほど時間を待たずに食事が出てきた。
といっても一週間の断食明けなので重湯のようなスープだった。
ステラの前には紅茶だった。
食事はスープだったが十分だった。
食後にさらに右手にあったリビングルームらしき部屋でくつろいでステータス窓を見ているとフィニアスが部屋に入ってきた。
手には書類を持っていた。
「お加減はどうですかな?」
「すまない。心配かけたみたいだ。もうほとんどいつもと変わらないんだ」
苦笑を浮かべた。
「それはよかった」
「一週間も眠ってたと聞いて驚いたよ。そのせいで力が少し入りにくくてね。明日から鍛錬しないと…」
「そうでしたか。報告しても?」
「ああ、そのために来たんだろ?」
「ええ」
「城が現れたせいで町は混乱したんじゃないのか?」
「かなり偽情報が流れて混乱しましたが覇王様は療養中と報をだしてからは落ち着いていますよ」
「そうか…」
「それよりも、戴冠式を執り行う予定ですが2か月後でよろしいかな?」
「そのあたりは任せるよ。いろいろ準備もあるんだろうしさ」
「はい。ありがとうございます。ですがもう一つ報告が」
「?」
「ヴェリアス王国の国王より親書を預かりまして」
「親書?」
「ええ、第二王女クリスティーナ姫の輿入れを打診してきておりましてどうすべきかと」
「あー。言ってなかったかな。彼女、第二王女殿下は俺の恋人の一人だから立場的に体裁が整ったと向こうが思ったんだろうな」
「やはりそうでしたか」
俺は頷いた。
「戴冠と同時にステラと共に迎えられるように準備できるか?」
「それはかまいませんが。よろしいのですか?」
「先方には最初に付き合う時に結婚はできないと念を押してあるから向こうもそれは承知しているよ。ここが落ち着いたら一度ヴェリアス王国に飛ぶつもりでいるからそれまでに必要なものをそろえておいてくれるか?」
「わかりました」
「………。それと俺はこの国のことをよく知らない。これから知っていけばいいと思うが、でも今の体制で千年保ってきたこの国の自治は変える気はない。変えなくてもやっていける。そういう自治になってる。俺はこの国の王でもあるのかもしれないけど形だけの王者でもかまわないと思っているんだ」
「リュウ様」
「だからさ、君らの融通の利く範囲でいいんだ。俺という覇王をこの国に組み込むならな」
「ありがとうございます」
「それと、城にいた彼らには食事というものは必要としないことは覚えておいてくれ。彼らは俺の使い魔という立場だから必要としないんだ」
「それは…」
「とはいえ、彼らも自我もある人間だ。この城と俺という存在で全て完結してしまうがそれでも人間だということだけは心に留めておいてほしい」
「わかりました」
その後、フィニアスとともにステラを一度家に帰すとおれはいつもの服に着替え城を散策し、地下に鍛錬場を見つけた。
もちろんそこで軽く体を動かした。
そばで見ていた兵を捕まえて鍛錬相手にしたのは言うまでもないだろう。




