4-2
やがて床の輝きは役目を終えたかのように聖印が光るだけになっていた。
森の上空に城が浮かんでいたのはさすがに驚きしかなかった。
「覇王城………」
「だな…。でもどうやって入るんだ?」
もっともな疑問だった。
それもこのあたりに答えがあるとにらんだ。
周囲を見回すと二つの燭台が目に入る。燭台には蒼い炎が灯ったままだった。
おれは、何気なくその燭台に触れた。魔力は纏っていない。
すると床がせりあがってきた。
「これだな。この床が入り口へ行くらしいな」
俺はフィニアスたちを見た。
それだけで意思疎通はできたので彼らも床に乗ってきた。
全員床に乗ったのを確認すると燭台に一番近いステラに声をかける。
「燭台に触ってみろ」
「え?でも私で大丈夫なのかしら」
「おそらく心配はいらんはずだ。先の霧と同じで末裔でも動かせるはずだ」
「入り口ですからな。さほど警戒レベルは低いのかもしれませんな」
「多分だが、末裔が最低の条件なのだろうと思うぞ」
ステラはそれを聞いて燭台に触れた。
すると床は無音のまま宙に浮き城の大きな扉のある広場の手前でつながるように固定された。
おれは扉に近づく。
おそらく初めは俺でないと開かないだろうと踏んでいた。
両手に魔力を纏い扉に右手で触れた。
扉に大きな魔方陣が現れ光る。扉の鍵が開く音が聞こえた。
その魔方陣の光は城全体に隅々にまでいきわたり大きく輝いた後役目を終えたように消えた。
「封印が解けたな。何が出るやら…」
俺は後ろを見た。フィニアスは頷き護衛たちは気を引き締めたようだ。
ステラは驚いていたが、やがて気を引き締め、杖を持っていた。
俺は扉に手をかけゆっくりと開けた。
内部は真っ暗だった。
入り口は警備の関係からか明かり用の窓一つなかったせいだろう。
明かり用の呪文でも使うか
そう思っておれは一歩、城に足を踏み出した。
一歩足を踏み出しただけで城中の燭台に炎がともった。
「!」
さすがに驚き見回す。
「さすがは覇王城だけありますな。何が起きてもおかしくはないということですか」
フィニアスは感心していた。
「まったくだな…」
「でもかなり広いわ。どこから調べる?」
「手分けしてもいいのですが今は分散しないほうがいいですな」
「ああ」
おれは考える。顎に指を置き周囲を見回す。
ふと、気が付いた。
自分に何も起こっていないことにだ。
窓を開けステータスを開けた。
リュウ=クドウ=マリノス
職業=賢者・王者
HP=1000
MP=1000
力=800
素早さ=1000
集中=2000
魔力=1000
魅力=2000
運=800
特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔力操作・魔道具作成=MAX〉
呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済〉
スキル〈鑑定・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納EX・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・魅了・完全防御〉
固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証(現在使用不可)叡智の結晶・覇王の覇道記(現在使用不可)・叡智の魔術記(現在使用不可)〉
おれはくまなく変化がないか調べた。
そんな窓を見てフィニアスは呟いた。
「ここまですごい窓は初めて見る。さすがは覇王様ですな」
「本当、レア特技だらけだわ。スキルもよくわからないものもあるようだし」
おれは頭を掻いた。
「褒められても何も出ないぞ…」
気を取り直して窓をしらべると気が付いた。
「あれ?魅力があがってる。この魅力だけはどうやって上がるのかがよくわからないんだよな」
むぅと顔をしかめた。
「まぁいい。何も変化がないしな。おそらくこの城で俺はまだ客人扱いなのだろうな」
「客人………ですか」
「そうだ。まだ所有者ではないということだ。王城だし玉座にでも行ってみるか」
「ねぇ、変化って封印のことよね?」
おれは頷いた。
「過去に覇王遺物を手にして所有したら非表示で今までなかったスキルが現れたんだ」
「そうなの?」
「ああ、その時はサークレット一つだったがこれだけの大きな城だ。かなり大きな変化がでるとにらんでる。それだけじゃない。俺自身なぜかスキルが現れると衝撃が来る。城となると意識が持っていかれるかもしれない」
「衝撃って…」
ステラは心当たりがあったのか頬が染まっていた。
「ああ、あの時はすまなかったな。あの時も条件設定されていた非表示スキルの条件が満たしたことで現れてしまったから該当条件だったステラにまで影響が出たんだ」
「そ、そうなんだ…」
フィニアスは広間の先にある階段を見た。
「玉座となれば階段の先でしょうな」
そう一同が階段に視線を移したときだった。
俺は誰かの気配を感じ修羅に手を置き気配のほうへ意識を向ける。
「誰だ。姿を現せ」
俺の声が聞こえたのか応えるように影が揺らめき、たくさんの人間が目の前に立っていた。
その数、百人ほどいそうだった。
「さすがは覇王様です。我らの気配にお気が付かれるとは」
「何者だ?」
「我らは魔人族。この覇王城の管理を任された者たちです。敵意はございません。ご安心を。新たなる覇王様」
魔人族と名乗った者たちはいっせいに跪き俺に首を垂れる。
「管理?」
「はい。先代覇王ウィリアム=ガルド=カイエル様よりこの城の管理を任されました」
「………。その話が本当ならこの城と共に封印されていたことになるな」
「その通りでございます。ここにいる者は皆、覇王様以外に仕えることを拒否した者たちばかりで、次代の覇王様にお仕えできる日を心待ちにしておりました。我らの身は全て覇王様の御為にある身。どうぞご命令を」
背後から視線を感じた。
ちらりとフィニアスを見た。その目は受け入れる覚悟の目だった。
「お前ならば俺がどこへ行くべきか知っているな」
「はい我が名はキバ。家令の任にあります。覇王様は玉座にてこの城の全権限をお持ちになることが最優先かと思われます」
「………案内しろ」
「承知」
「他の者は部署につきなさい。歓待の準備を。タテはともに。至急三階を使えるように整えなさい」
周囲にいた魔人族の彼らは二人を残し散っていった。
「三階?」
「三階は覇王様のご寝所でございます」
言ったのはタテと呼ばれた男だ。
「君は?」
「わたくしは覇王様専属の執事でタテと申します。どうぞよろしくお願い致します」
キバが案内を始めた。タテは俺のすぐ後ろに控えていた。
「どうして寝所が…?」
疑問に思ったのはステラだ。
「玉座にて覇王様がこの城の全権限を受けられるということは我ら全魔人族を使い魔としてその身に受けられるということ。また、御身に封じられし王者の証もその身に刻まれるのでご負担は計り知れません。ゆえに準備を」
俺はさすがにひきつった顔を浮かべてしまった。
「まじか………」
ステラは俺の左腕を握った。
「大丈夫?」
「ん。やるしかないしな…。ありがとう」
「ずっとそばにいるわ」
ステラはギュッと密着してきた。
階段を上ると正面に大きく豪華な扉が現れた。扉の前には小さ目のホールがあった。
階段と階下の広間とそのホールは吹き抜けになっておりかなりの豪華さがうかがえた。
「この先が玉座でございます」
「………ああ」
開け放たれた扉の向こうには謁見の間らしく大きく豪華な玉座が部屋の奥にあった。
ステラは組んでいた腕を離す。
不安そうな顔をしていた。
俺はステラの不安を和らげようと笑い頬にキスを落とした。
ステラから離れ扉の向こうを見る。
俺は覚悟を決め一歩謁見の間に足を踏み入れる。
すると一瞬で服が覇軍へと交換される。
おれはそれにはお構いなしに歩を進める。
他の一同はその変化に驚き動きを止めるが、俺はお構いなしに歩を進めるので間に距離ができる。
慌てて追っていく一同。
玉座に近づくと玉座には魔方陣が見えた。
俺は全身に魔力操作を行い、魔力を纏う。
「………」
意を決して俺は魔方陣に軽く触れた。
魔方陣は大きく輝き俺の足元へ移動した。さらに輝きが強くなり俺の姿は光の中にかき消えそうになるほどの輝きだった。
輝きは数秒で収まったがそれだけでは終わらなかった。
俺の全身に大きな力の解放と共に衝撃と激痛が走る。
「くっ!」
うめいた俺は頭を片手で抑えるように目をつむり痛みにこらえているがこらえきれない。
立っていられなかった。玉座に倒れるように床に両膝を付けた。
痛みが増してゆく中、俺は気が付いた。俺の体の中で何かの力が発露し痛みという副産物を伴っているということに。徐々に痛みは圧迫感に変わりやがてひどく重い圧迫感が襲っていた。
圧迫感は意識をも圧迫していた。意識が持っていかれるのを自覚した。
抗うように左手を握り床に拳を数回打ち付ける。痛みで意識を維持していた。
両肩を誰かが握りうずくまっていた俺の上体を起こす。
「く、あ………!」
上体を起こされた動きで呻きが漏れた。
その時苦しい中視界が天井を映していたが俺にはそれよりも遠くを見ていた。無意識に覚えたばかりの召喚をしていた。
空に薄く金髪の女性が現れ、俺に向けてほほ笑んでいた。浮いたまま抱えられていた俺に近づくとおれの頬をひと撫でする。
《わたくしはいつでも共にある。貴方が呼ぶとき応えましょう…。今はお眠りなさい。安らぎと共に》
彼女イヴはそういうと軽く俺に口づけを施した。
「…………」
息苦しさと共に意識はそこで途絶えた。
魔方陣の輝きが収まるとリュウはうめき声をあげて両膝を床に落とし崩れ落ちそうになる。
頭を抱え震えるリュウを心配したその場にいた者たちだったが突然リュウは床を叩き始める。数回打ち付けたところで拳に血がにじむようになり床に血が付いてもなおリュウは叩く拳をやめないので慌ててタテはリュウの両肩を握り上体を起こして叩くのをやめさせるとリュウはうめき声をあげ、目を見開き天井を見ていたがその目はどこも映していなかった。
リュウの全身から淡い聖なる魔力がまとわりつきその魔力はリュウの見つめていた空に集まる。
桁違いの魔力に増幅したそれは光り輝く一人の金髪の女性へと姿を変えた。
一同はその桁違いの魔力とその存在に圧倒され身動きできなかった。
その女性がリュウの頬に触れて声をかける。
《わたくしはいつでも共にある。貴方が呼ぶとき応えましょう…。今はお眠りなさい。安らぎと共に》
そう言って金髪の女性はリュウに口づけをして消えていった。
一同は茫然としてしまったがリュウは意識を失い抱えていたタテにその身をゆだねていた。
驚きのあまり金縛り状態だった一同だったが初めに動いたのはタテだった。
リュウと変わらない体格のタテにどこにそんな力がと思うほどタテは軽々とリュウを姫抱きに抱えた。
キバが先を急ぐように玉座の向こう側の扉をくぐる。ステラたちも後から続いた。
扉を抜けると長い横に続く廊下の向かいには二つの扉とその扉に挟まれるように階段があった。
キバたちはリュウを抱えその階段を駆け上がる。
階段の先には扉が一つあったがキバが手をかざすと扉はカチャリと鍵の開く音が聞こえた。
部屋に入るとリビングらしき広い室内の右手にある扉にキバは入っていく。
扉を抜けた先には大きな特大サイズの天蓋付きのベッドが大きな部屋に置かれてあった。
そのベッドは大人三人横になっても余裕があるほど大きかった。
そのベッドにタテはゆっくりと慎重にリュウを横たえる。
意識を失ったリュウは苦悶の表情を浮かべたままだったがキバが手をかざし天蓋の天井にあった魔方陣を活性化させる。
その魔方陣からは癒しの効果があるのか柔らかな光がリュウに注がれていた。
その光の効果か苦悶の表情を浮かべていたリュウの顔は徐々に穏やかな表情になった。
それを確認してタテは布団をかぶせる。ステラはそんなリュウの手を握っていた。
「お妃さまはこのままご看病をなされますか?」
「ええ」
「おれは一度街に戻る。町は混乱しているだろうしな。ステラ、リュウ様を頼むぞ」
ステラは頷きフィニアスは同行していた護衛の半分を連れて街に戻っていった。




