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一方で書斎にいたフィニアスは深夜に時間が変わろうかという時間にようやく気持ちの整理が付き手渡された国王の親書に目を通す気になった。
家族はすでに就寝につきフィニアスだけが書斎で起きていた。
読み始めてフィニアスはその表情を徐々に険しい顔へと変化させていく。
読み終えた後、フィニアスはこの手紙をもっと早くに読むべきだったと激しく後悔したのだった。
その手紙はリュウの予想通りリュウの身元を保証するものだった。すなわち覇王のことが書いてあったのだ。
翌朝食後にフィニアスはステラを呼んだ。
「お父様なにか?」
「昨日の彼、リュウ君はどこに宿をとっているのか聞いているか?」
「ええ、ギルドの部屋を借りてるって言っていたけど、どうしたの?」
「…彼に昨日の件を詳しく聞きたくてね」
「なにかあったの?」
「ステラ、これを読んでみなさい」
そう言ってステラに手渡したのは昨日の親書だった。
ステラも読み終えた後、父の変化に納得したのだった。
「いつから知っていた?」
「お互いの想いを確認したときかな」
「そうか…」
「急ぎたいの?」
「できれば手遅れになる前に会っておきたい」
「手遅れ?」
「森の封印を解くと言っていただろう。森の封印とは覇王城の封印のことだろう」
「わかったわ。一緒に行きましょう。お父様」
二人は護衛を数名連れて屋敷を出た。
行先はリュウの滞在しているはずのギルドの宿だった。
だが、ギルド職員に聞いてみてもリュウは昨日から宿に帰ってきていないのだと言われた。
出会ったら渡してほしいと朝食のサンドウィッチのバスケットを手渡された。
受け取ったステラはギルドを出て途方に暮れた。
「行きそうな場所に心当たりはないのか?」
「そういわれても…」
ステラは少し考えて思い出した。
「森じゃないかしら」
「封印された森か」
「ええ。昨日、森の封印は彼が解いていたからひょっとすると」
「行ってみるか」
一同は森に急行した。
森の入り口には長年あった壁はなく、ただ青白い霧に包まれていた。
「霧かしら。それにしては青い霧なんて…」
「視界がわるいので気を付けてください」
護衛が声をかけてくれた。
霧の中をしばらく警戒しつつ進むと蒼い光が遠くから輝いていた。
「蒼い光?」
目印もないので誘われるように蒼い光にむかって歩き出した。
しばらく進み蒼い光が強くなる距離になったころ急に霧が晴れた。
驚いて後ろを見ると蒼い霧は相変わらず深く漂っていた。
光のほうに視線を向けると遠くの光源の近くに誰かが椅子に座っているようだった。
ステラは思わず駆け出した。
確信があったのだ。
ちかよるとやはりリュウだった。
リュウは深く意識がなかった。
椅子を深くに腰掛け両手のひらを腰のあたりで組み安堵するように眠っていた。
フィニアスにはリュウの座っている椅子に見覚えがあった。
議会にある覇王様専用の椅子とそっくりだった。
そばで灯っている二つの燭台も同じ燭台だった。その姿だけでフィニアスは確信した。
この方こそ伝説の覇王様の転生されたお姿なのだと。
それは護衛の者ですら気が付くには十分すぎる光景だった。
無意識にステラ以外が跪く。
「ステラ。起こして差し上げろ」
「でも…」
「妃の務めだろうが!」
ステラはハッとなった。
意を決して東屋に入ろうとしたその時、東屋は主を守るように大きく結界が現れステラをはじいた。
「きゃ!」
その結界の衝撃から、リュウは無意識からの警戒なのか、目を覚ましとっさに覇王の短剣を握り素早く立ち上がっていた。
「………。ステラ?」
その所作は一同に驚嘆をもたらしていた。一流の戦闘の動作そのものだったから。
「リュウ…」
茫然とステラはリュウを見つめていた。
リュウはステラが結界にはじかれたことをしると慌てて結界を解く。
東屋を出てステラに手を差し伸べる。
その手を取りステラは立ち上がると困った顔を浮かべた。
「こんなところで寝るなんて風邪ひくわよ?」
「あはは。ここが妙に落ち着くんでいつの間にか眠ってたみたいだな」
ステラはあきれ顔だった。
リュウはそんなステラを横切り跪いていたフィニアスたちの元にやってきてフィニアスの前にしゃがみ込んできた。
右手には覇王の短剣が握られていたが短剣の腹を肩にのせて敵意のないことを示す。
リュウは彼らが、気が付いたのだと理解していた。
「俺はさ、俺でしかないんだよ。どんな前世があってもな。過去は過去。世界で唯一の王者職業をもって生まれていても俺はただの一人の人間なんだ」
肩にのせた短剣を腹でポンポンと軽く肩を叩く。
「そんな風に崇めてほしくない。人でしかないのに人じゃないみたくそんな風に跪かれても迷惑でしかない」
俺は立ち上がり彼らを見下ろした。
「俺のことを気遣ってくれるなら立ってくれ。たかが十五のガキに一国の元首が跪くものじゃないだろ。おれが欲しいのは信頼だ。崇拝じゃない」
俺は苦笑交じりに笑って見せた。
フィニアスはその言葉に自分がこの青年を畏敬していたのだと気が付いた。
神の御子のように人じゃないと無意識に線を引いていたのだと言われるまで気が付いていなかった。そんな自分に嫌悪した。
「すまなかったね。ただ理解はしていただきたい。我らは覇王様の臣下や末裔。幼いころより覇王様のことを聞かされ、やがて現れる覇王様の転生者を盛り立てるために教育を受けてきましたのでどうしても御子と捉える者もいます」
「わかってるさ。それくらいは…な。それだけの力をイヴからもらっているのも事実だ」
フィニアスはこの青年が普通の青年ではなく王としての教育がある程度されていることを直感で気が付いた。
そして思慮深く賢い瞳をしている。良い王になる。そう思ったフィニアスだった。
「それで、この森で何をしようとしていたんですかね?」
「まだ何もしてない」
俺は笑うしかできなかった。
「昨日、屋敷をでてからここに来たんだがこの東屋いがいにめぼしい場所がなかったんだ」
「椅子に座って考えてたら眠ってたの?」
ステラに言い当てられてしまった。
「そんなところだ」
頭を掻いた。同時に腹が鳴った。
ステラは笑った。
「仕方ないだろ。夜もほとんど食べてないんだぞ、俺は」
俺は短剣をしまい、道具収納から胃をなだめるためにあらかじめ用意していたボトル入りの紅茶を取り出す。一口飲むとそれを見てステラはバスケットを取り出した。
「ギルドの人が渡してくれって」
「ありがたいな。もらうよ。それまで周囲の調査を頼んでもいいかな。えっとルーシェさん」
「フィニアスで結構ですよ。リュウ様。もとより調査はするつもりでしたがね」
フィニアスは背後の部下たちに命令をだすと彼らは調査のために傍を離れた。
リュウはステラからバスケットを受け取り東屋に再び入り椅子に腰かける。
膝の上にバスケットを置いて開けるとサンドウィッチが入っていたのでたべる。
空腹だったのでひどく美味かった。
「腹減ってるとなんでもうまいな」
「ゆっくり食べてね」
「リュウ様はこの国に来たのは自分探しですかな?」
おれは頷いた。口に物が入っているのですぐにしゃべれないからだ。
「俺には前世覇王の記憶も前々世大賢者の記憶もない。知っているのは一般人とさほど変わらないからな」
言ってパンを口に入れる。
「しらべなかったんですか?」
俺は首を振った。口の中を落ち着かせてから喋る。
「調べようと思えば調べられたんだけど父さんが必要ないっていってね」
「なんで必要ないなんて言ったのかしら」
「父さんは自分のことなのだからいずれ必要なら知るだろうから今は必要じゃないっていったんだよ。それよりももっと勉強しろって言われてね」
「勉強ですか」
「ああ。辺境の村にありそうもない本を数冊渡されてね。これが全部身に着くまでは過去は知るべきではない。お前をどこに出してもおかしくはない立派な覇王に育ててやるって言われたよ」
当時を思い出しておれはため息をついた。
「りっぱな父君ですな」
「俺としては尊敬できる父だ。なにしろ辺境では手に入らない帝王学の本や経済、人心掌握術からマナーからダンスまで叩き込まれたからな。身に付いているかはわからないけどさ」
おれは気分を切り替えるのに最後のパンを頬張る。
「すごいわね」
「慧眼ですな。さすがは音に聞こえし救国の宰相エルド=イルラーシャ=フォア=マリノス殿だ」
「父を知ってるんだ」
「もちろん知ってますよ。もともと彼はこの国の臣民官の出ですからな」
「そうなんだ。父は自分のことを語らないから知らないことが多いんだ俺」
「そうでしたか」
「当時はやりすぎなんじゃないかと父を恨みそうになった。が、先を見越していたんだと思えるように今はなったよ。実際、あの勉強があったから今、役に立っている事実がある」
ステラはボトルの紅茶を預かっていた。最後に受け取り紅茶を飲んだ。
俺が食べ終わるころ部下達も戻ってきた。
「やはりリュウ様の言う通りこの小屋以外に変わったものはなかったですな」
「ああ、あの霧は結構気になるところだけど、多分だが俺がいるから守護でも働いているのかもしれん」
「さっきのこの小屋にあった結界と同じってことかしら」
「ああ」
「それだと我らが入れた理由がわからないですな」
おれは顎に指を当て考える。ふと思い当たる。
「この中に末裔はどれだけいる?」
「末裔?」
「ああ」
「全員、末裔ですよ。リュウ様」
「それだな。図書館にも末裔限定の書があったくらいだ。末裔で選別しているのかもしれん」
俺は霧から視線を東屋の天井に移し、何もないので足元を見た。
夜にはなかった線が浮かんでいた。
あれ?この形どこかで…
椅子から立ち上がり東屋から外に出て外から東屋の床を見た。
「リュウ、どうしたの?」
「うん。夜には床にあんな線はなかったんだがな」
「そうなの?」
「どこかで見たことあるような形なんだが…」
いまいち思い出せなかった。
「そういわれれば見たことあるような…」
「形がかなりいびつだが覇王の聖印ではないですかな」
フィニアスが、気が付いた。
「そういわれればそうだわ」
「聖印?」
「リュウは聖印を知らないの?」
「なんのことだかさっぱりだ」
「聖印って言うのはね…」
ステラはそういって道具収納から一冊の本を取り出す。
本の表の中央に印があった。ステラは指さして言った。
「これを覇王の聖印というのよ」
その印には見覚えがありすぎた。右手首に刻まれたあの紋章だったから。
「覇王様にはこの印がお体に刻まれていたゆえに聖印といわれているのよ」
「そ、そうなんだ…」
さすがに驚いた。こんなところでこの紋章と覇王が密接に関係するとは思ってなかったからだ。
「本当に知らなかったの?」
「いや、見覚えはあるさ。だけどそれが聖印なんて呼ばれているとは知らなかったよ」
俺は右手首につけていたアクセサリ・ソウルオブサマサを外してステラたちに見せた。
「これのことだろ?」
「それ………!」
「母から人前で見せるなって言われていてね。末裔に関係するものだとは知っていてもこれほど関係するとは思ってなかったから驚きしかないな」
「お母様もその印は持っていらっしゃるの?」
「ああ、母さんはこの印でろくなことしかあわなかったらしいから絶対にさらすなって言われたよ」
その言葉からフィニアスは確証を告げるように言った。
「その印を母親も持つということは血筋です。覇王様の正当なる血統の持ち主ということですな」
「お父様、どういうこと?」
「代々、元首に伝わることだ。その印を持つ者は正当なる覇王様の末裔。もっとも覇王様のお力を受け継ぐ直系の末裔にのみ現れる印だと聞かされている。いつのころからか行方知れすとなって久しい。覇王様が転生されるのならその血統から生まれるとまで言われていた」
「なるほどな…」
母も覇王にまつわる陰謀に巻き込まれたのかもしれないな
俺はアクセサリを再び腕にはめて印を隠すと改めて床の印を眺めた。
「どうして隠すの。そのままでもいいじゃない」
「隠さないと落ち着かない。それにあまり晒すものでないと思う」
もっとよく調べようと近づき椅子を動かそうとしたがびくともしなかった。
「ん?」
椅子は床の印と魔法でつながっているようだった。
「………」
おれは魔力操作で両手に魔力を流し椅子に触った。
すると椅子は青い光で輝きだした。
床が揺らめく。
それを見た俺は魔力を纏ったまま椅子を床に押した。
椅子は当たり前のように床に沈んでいく。
いや、収納されていくのだと気が付いた。
椅子が収納された後には完成している聖印が床に刻まれていた。
床の聖印が青い光につつまれる。
その時俺の右手首から激痛が走る。
「!」
思わず手首を抑え、顔をしかめた。
「共鳴……か」
床にあった蒼い光はさらなる輝きを放ちやがて大きく空へと聖印を投影させるまでに至っていた。
おれは身の危険を感じ東屋から飛びだした。
東屋は二台の燭台だけを残し床に消えていった。
それが合図だったかのように投影された空に大きな影が現れる。
その影は徐々に城の形を成していく。
しばらく茫然と見ていると城は完全に姿を現していた。




