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ステラは困っていた。
カイエルの自宅に帰って早々父から覇王捜索の手伝いを頼まれたからだ。
「一昨日入都した者の中で覇王様と同じ魔術師の一覧だ。印の入っているものについては調査済みとすでに調査のために人が派遣されている。一人二人でいいからこの中から選んで調査をしてくれ」
「選べっていわれても困るじゃない」
言いつつ一覧を流し見ると気になる名があった。
あら?リュウ=クドウ=マリノスって…彼のことかしら
先日オーガを共に討伐した彼が思い浮かんだ。頬が一瞬朱にそまった。
名しか聞いていなかったわね。彼も術師らしいから一覧にのるのね
「お父様。調査といっても何を調べればいいの?」
「この三日間覇王様はこのカイエルから一度も都の外に出てはいないのだ。結界の外に一度でも出ているのならその者は覇王様ではないことになるがそうでないのなら捜索用の専用魔道具が噴水広場に用意させているからそこに連れて行ってくれればいい」
「わかったわ。この方を調べるわ。先日知り合った人だし」
「すまんな、ステラ」
昼過ぎに帰ってきていたステラだったが落ち着く暇なくリュウを探しに家を出た。
もう一度彼に会いたいと思っていたステラにとって調査は渡りに船だった。
ギルド冒険者という話だったからまずはそこかな
ステラは早速ギルドに行ったがすれ違ったようでギルドにはいなかった。
そこで最後に聞いた言葉を思い出す。
確かカイエルには調べものがあるって言っていたわね。図書館かしら
ステラは王立図書館に向かった。
もうじき図書館というところで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「もう痛くないだろ?」
「うんお兄ちゃんありがとう!」
「気を付けて歩くんだぞ」
見るとリュウが小さな女の子の頭をなでていたのが見えた。
「うん。ばいばーい」
女の子は手を振って元気に噴水広場のほうへと歩いて行った。
ほほえましいものを見てステラは女の子を見ていた。
いけない。彼に声をかけなきゃ
とリュウに視線を移すとかれは立ち入り禁止区域の森の人気の少ないほうへ移動していた。
何をするのかと伺っていると彼は何を思ったか魔力球を手のひらから生み出し門扉の向こう側に向けて飛ばしたのである。
ステラは慌てた。
というのも門扉の向こう側すぐには覇王が作り出した空間結界が張っており結界に触れれば大きな衝撃と強力な結界ではじかれるのである。
ステラは衝撃に身構えたが一向に衝撃はこなかった。
不思議に思って門を見るといつの間にか門と囲いの壁ごと消えていたからである。
「え。うそ…」
驚いているとリュウはさも当たり前のように森に向かって歩き出した。
まさか、彼は…
思い当たる事実が心をよぎるが歩き出したリュウを追うのが先だった。
「まって!リュウ待って!」
慌ててステラは追いすがりリュウの右腕にしがみついた。
その時、ステラに衝撃が走った。
リュウはケガをした女の子に回復魔法をかけて傷を治すと女の子は嬉しそうに笑って広場に向かって歩きだしていった。それを軽く見届けてリュウは当初の予定通り森に向かって歩き出した。
俺の魔力を打ち込めばおそらく結界は消えるはずだ
図書館で調べたことを踏まえ、そう予想していた。
この森は元々覇王城があった場所だということは調べで分かっていることだった。
魔力球を作り出し森のほうへと飛ばしてみた。
たちまち魔力球は結界の中にかき消えてしまったと同時に囲われていた壁ごと門扉も消えてしまう。
やはりな。魔力判定か
リュウは森へと足を向けて歩き出したその時、背後から聞き覚えのある声がリュウを制するように聞こえてきた。振り返ったその時、左腕を掴まれた。
同時にリュウに衝撃が走った。同時に頭に声が掛かる。
【スキル《魅了》が発動しました】
「!」
衝撃をやり過ごし、聞こえてきたイヴの声をもやり過ごし左腕をつかむ彼女を見た。
起きた衝撃で息が乱れていたのは俺だけではないようで彼女も真っ赤な顔をして息を乱しているステラがいた。
おれよりも彼女のほうが強い衝撃だったようだな
そんな彼女、ステラを見つめていると胸が詰まった。頬が熱を持ってるのを自覚した。
その感情には覚えがあった。情愛の感情だった。
相思相愛……か。増幅は俺にも効果があるのか
「ステラ。大丈夫か?」
そう声をかけるしかできなかった。
「…あ。…う、うん」
そう声は聞こえたがとても大丈夫そうには見えなかった。足が震えているようだ。
「ご、ごめんなさい。変な衝撃が…」
「あ…いや、俺は平気だから…」
俺の声も少しいつもと違う声になったのはそれだけ衝撃が大きかった証でもあった。
しばらく無言だった。
声を出し、切り出したのは俺だった。
「俺に何か用があって声をかけたんだと思うんだが?」
「ええ、実はおとといから父が務める議会で大変な騒ぎが起きてるの」
「大変な騒ぎ?」
しがみつかれた腕は離しそうになかった。ステラはうつむくまま事情を説明しだした。
「おととい議会にある覇王様専用の燭台に火がついて転生されたであろう覇王様がこの都市にいらしてることが判明したの」
俺は驚いた。
そんなものがあるのか
「その捜索にわたしも駆り出されたの。おとといこの町に外から入国した魔術師の捜索」
「ああ、それで君が俺を調べることになったんだな」
ステラは頷いた。それでも俺を見なかった。
「一緒にお父様にあってもらえないかな」
その時ステラは初めて俺を見上げてきた。
視線がぶつかる。ステラは頬を赤く染めながらも俺を見つめていた。その顔は美しいと思った。
思っていたことは同じだったのかしばらく目が離せなかった。
それだけで相手が自分に悪感情を持っていないことは理解できた。
おれの答えは一つだった。
「君が願うならかまわない…」
俺はそう答え、笑みを浮かべた。
彼女は目を見開き驚いたようだった。
俺は驚かれたことに疑問を持って見つめると彼女は呟いた。聞こえるぎりぎりの呟きだった。
「私…あなたが好きよ…」
こぼれたような告白だった。
その言葉に俺は嬉しかった。頬がさらに熱を持ったが自然とその嬉しさが顔に出た。
だがステラは目を伏せた。
「やっぱり父には会うべきではないのかもしれないわ。貴方の意志を尊重したい。ごめんなさい変なこと言って…」
ステラはそう言って腕を解放してくれた。
「あなたの報告は該当しないと報告しておくわ」
そう言ってステラは震える体を抑えるように俺から背を向けて歩き出した。その言葉から彼女は俺の正体に気が付いているのだと気づく。
俺はそのステラの行動に感心していた。魅了スキルに抗っているのだから。
そんな彼女に俺は感情が抑えきれなかった。
歩き出した彼女を引き留めるように後ろから抱きしめる。
「そんなウソはつかなくてもいい。ステラにそんなウソつかせたくない」
「でも…」
「俺も君が好きだ…」
たとえ魅了スキルのせいだとしてもこの想いは嘘ではない。増幅であって植えられたものではない。
自分の想いだと信じたい
ステラは真横にあった俺の顔を見た。その顔は驚きの表情だった。
俺は右手をステラの首筋に這わせ顎に指をかける。
そのままステラの唇を奪った。
ステラは震えていた。
胸を抱いた俺の腕からステラの鼓動がとても速く打っていたのを感じた。
そんなステラは受け入れるように俺の腕に手を添えてきた。
時間はとても長く感じた。
名残惜しげに唇を解放するとステラはぽつりと語りだした。
「私の名はステラ=ルーシェ。父はフィニアス=ルーシェ」
「!」
おれは驚いた。この覇王国の最高権力者の元首の名だったからだ。
「父はとても厳格でただの冒険者ではきっと付き合うことを許してはくれないと思う」
「元首だからあってほしいといったのか…」
ステラは頷いた。
「父は男女交際にはとても厳格だけど決して頑固ではないわ」
「そうだな。覇王国の元首はとてもやり手だと聞いた。同時に情の深い人物とも」
「貴方のことも知ればみとめてくれる。認めてくれなくても私はあなたと一緒に居たい」
「………。俺は君一人の者にはなれない。それでもか?」
「覇王様と同じなのね。複数の妻を持たないといけない?」
「ああ。君は二人目だ。それでも?」
「そうなの。でもそれが何?貴方はとても魅力的な人だもの。当然のことよ」
俺は苦笑した。
「みんな強いな。おれが異世界の人間だから価値観が違うのか?」
「一夫多妻。一妻多夫なんて当たり前のことよ。子孫を残すためには必要じゃないの。リュウは違うの?」
「ああ、結婚は一人だけだったから複数の妻なんて白い目でみられるものだった」
「それは効率の悪いことね。子孫が残せないじゃない」
「はは、俺の居た異世界には魔物はいないからな。人の脅威は人だ」
「そうなんだ。魔物がいない世界か。素敵な世界だけど、人の脅威は人なのはいやね。でもリュウの持つその変わった剣は異世界の物なの?」
「ああ、イヴが特別に持っていくのを許してくれてな。魔物討伐と回復効果に絶大な威力があるんだ。これがないと落ち着かない」
俺はステラを腕から解放した。
「さっきリュウは森に何をしようとしていたの?」
「あの森は何の森か知ってるか?」
「この都に住む人ならだれでも知ってる覇王城跡地。覇王様の結界が張られてあるのでこの千年立ち入ることができない場所」
おれは頷いた。
「覇王の魔力にのみ反応するようにカギになっていた。さっき鍵を解除したから誰でも入れると思うぞ」
「…城を封印から解くのね?」
おれは頷く。
「城の封印をとけばおそらく俺にかかった封印も一部だが解けるはずと思っている」
「封印?」
「ああ。俺には覇王の記憶はないからな。そのあたりが解放されるといいんだが、どうなるかわからん。それに俺自身そろそろ拠点が欲しいのもある」
「なおさら父にあうべきだわ」
「そうだな。つてがなかったから後回しにしていたが、ステラが会わせてくれるなら先に会うべきなのは確かだ」
「案内するわ」
頷いた俺は簡易的に森を覆うように結界を張った。現状維持のためだ。
ステラの家に向かう途中、ステラは先ほどの結界で俺の術師レベルが気になったようだった。
「リュウは術師としてどれだけの属性が使えるの?」
「気になるのか?」
「ええ、さっきの結界も聖属性じゃなく空間呪文でしょ?」
「ああ、さすがだな。よくわかったな」
「わからないと術者失格じゃないの」
俺はステラの言葉に笑った。
「意外と理解していない術者がおおいぞ」
「そうなの?」
俺は頷いた。
「俺の呪文はほぼ全属性の全て最上級で使える。使えない呪文のほうが少ない」
「え」
さすがにステラも驚いたようだった。
「前々世に大賢者の知識があるんだ。使えない呪文があるとしたら、俺自身がまだ賢者だから大賢者としての封じられた呪文くらいだろうな」
「でもそれだとかなり魔力消費がきついんじゃないの?」
「そうでもないな。スキルに魔力消費最適化があるから魔力切れはほぼ起こしたことはない」
「それで無詠唱でもあれば最強じゃない」
「はは、無詠唱も特技であるから使い勝手はいい」
「私なんて必要ないんじゃない?」
「それは違うぞ。人は一人でできることなんてそんなにない。たしかに俺は普通よりできることは多いがそれでも二人ですることより多いことはない。協力することは大事なことだ」
「そうね」
「それにな。俺の呪文は少し威力が大きいから使いどころに困る」
そこまで会話すると屋敷に着いたようだ。
周囲の屋敷と比べてもひと際大きな屋敷だった。
「さすが元首の屋敷だな。規模も城並みだ」
「広いだけよ。入って」
「さすがにちょっと緊張してきたな」
「どうして?」
「どうしてって…。君の父上じゃないか。緊張しないほうがおかしいだろ」
「あはは…」
そうだ。ヴェリアス王国の国王からもらった親書をだしておくか
俺は親書のことを思い出し道具収納からとりだし懐に入れた。
日も暮れようという時間だったがそれでも屋敷に入ると執事が出迎えてくれた。
ステラは執事から父の居場所が書斎と聞きだしていた。
書斎のドアをノックしてステラは声をかける。
中から声が聞こえるとステラだけが入っていった。
中から会話が聞こえてきた。
「お父様。実はあっていただきたい人がいるの」
「だれだ?」
「お父様が探していた方よ。リュウ入って」
俺は部屋に入ると壁一面に本が整頓されて並んでいた。正面には大きな明り取りの窓がありその窓を背に向けるように正面の中央に大き目の机が置かれてあった。その机に向かい座る男性かいる。歳は三十五前後といったところだが幾分若く見えるのでもう少し歳はありそうだった。ステラの父親と分かるほどに目元がステラにそっくりだった。
「初めましてリュウ=クドウ=マリノスといいます」
彼、フィニアス=ルーシェは怪訝な表情を浮かべていた。
おれは机に向かい懐から国王の親書を取り出し、彼の目の前に置いた。
「これをヴェリアス王国の国王陛下より貴方に渡してほしいといわれています」
彼は手に取り裏を見ると国王陛下の押印が押されてあるのを確認していた。
「本物のようだな。君はかの国の使者か?」
「いや、使者ではありません。かの国王陛下は義理の父のような間柄ですが…」
「ほう…。それで要件はこの手紙だけかね?」
俺は首を振った。
「事後報告よりも事前報告のほうがいいと思いましてね。要件は二つあります」
「二つ?」
「ええそうです。一つ目はこの都の中心部にある森の封印を解くので元首の貴方は知っておくべきと判断したんです」
「封印?」
彼はピンと来なかったようだ。
それはさておき俺は言葉を続ける。
「二つ目はあなたのお嬢さんとお付き合いさせていただいているということの二つの報告ですかね」
おれはさらりと爆弾発言を彼に落としたようだった。
彼は目を大きく見開いた。
「ステラ。どういうことだ。彼は既婚者ではないのか?」
「違うわ。彼は独身よ。でも彼は相手を一人に絞ることができない理由があるの。私はそれもわかっているし覚悟もしてる。大丈夫」
「………。お前が覚悟してるのなら私は何も言わん。が、いいのだな?つらい選択だぞ、それは」
ステラはしっかり頷いた。
「君、リュウといったかね。娘を預けるということがどういうことか理解しているのかね?」
真摯な目で彼は俺を見ていた。値踏みされている。
「わかっています。覚悟はできています。俺も彼女に聞きました。俺はステラ一人の男にはなれないことも。二人目の相手だということもそうですが、これからも相手が増えることも彼女には伝えました」
「私はかまわない。彼以外考えられないから」
「彼女の意志を尊重したいと思っている。そのうえでおれは彼女と幸福のありかを共に模索したい気持ちは変わらない」
彼は椅子に寄りかかり深く座りなおすとため息をもらし言った。
「お互いが覚悟しているならおれは何も言わん。だが今日のところは引き上げてくれんか。心の整理をしたいのでな」
俺は頷いた。
「理解しているつもりですよ。貴方からすればおれはお嬢さんをさらっていく男だということくらい」
「すまんな」
俺は首を振った。
「いえ、では失礼させていただきますよ」
部屋を出た。
ステラが追いかけてきた。
「今日は家にいたほうがいい。おれは帰るよ」
「ええ。ありがとう」
ステラを軽く抱きしめ額にキスを落とした。
「リュウは宿をどこでとってるの?」
「ギルドの部屋をかりてる。長期滞在はかくごしているからな」
「そっか。この町は宿代も少し高いからそれがいいのかもしれないわね」
「じゃあな」
おれは手を振るステラを背後に屋敷を出た。
辺りはすっかり闇色に染まっていた。
どうするかな。本当は森を少し調べたかったんだが時間をかなりくったからな
おれは少しだけ調べることにした。
図書館のすぐそばにあった門扉跡から森に入った。
入ってすぐ遠くのほうに青い炎が照らし出されていた。
暗いのでめぼしい物もなく吸い寄せられるように歩いていくと蒼い炎の燭台が煌々と灯っていた。
そこには大きくもなく小さくもない屋根だけの小屋があった。
炎の灯った二つの燭台の間には森の中にあるには違和感しか出ないほどの豪華な椅子が一脚おかれてあった。
さすがに疑問がのぼる。
なんでこんなところにこんな豪華な椅子が一つだけあるんだ?
周囲を見回しても森の木々が生い茂るだけだった。
とはいえ、不思議なことに放置されていた森とは思えないほど雑草の類は生えていなかった。
綺麗すぎるな。結界のせいか。空間結界だったようだしな。だがそれにしては……
ひとしきり椅子を調べたが状態保全と限定持ち主のかかった術以外は普通の椅子のようだった。
その椅子に腰かけ一息ついた。
さすがに気疲れしていたのである。
椅子に座ったことで緊張の糸が切れたのかリュウはひどく体が重く感じていた。
ここの所、ヴェリアス王国から出てから警戒が解けていない気がする。いかんな
なんだかここは妙に安心できる気がした。
椅子に深く腰掛け警戒を意識的に解くつもりで目をつむる。
両手を腰のあたりに組んで後頭部を背もたれに預ける。
静かな時間が流れていた。
ふふ。無冠の玉座のようだな。今のおれと同じというわけだ
しばらく無心になっていた。
そしていつの間に意識が飛んでいた。というよりも疲れから眠っていたのである。
普段のリュウからは考えられない場所での睡魔だった。




