表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神をさがして―家に帰るため、わたし冒険者になります!―  作者: 仁 尚
第一章 異世界に来ちゃいました!
11/16

(1-11)

 部屋を飛び出し正面玄関から外へと出ると、すでにメルトさんとクリスさんが外に出ていて立ち上る土煙を見つめていた。


「っ!?セア様!ここは危険です、すぐ屋敷の中に!!」


 わたしが外に出てきたことに気が付いたクリスさんが、慌てて屋敷の中に戻そうとするとメルトさんが軽く右手を上げた。


「二人とも、私の後ろから出ちゃダメだからね」


 いつもと変わらない喋り方だけど、わたしはメルトさんの声に硬さを感じ、無意識に土煙の方へと視線を向けた。


 すると、土煙の向こうで何か影が動いたかと思った瞬間、土煙が爆発(・・)した。


「わっ?!」

 わたしは咄嗟に顔を下げようとしたけど、メルトさんが右手を前に出した瞬間、周りに薄い光の膜が現れ爆発の衝撃波や砂埃などを防いでくれた。


 これはメルトさんが持つ特殊な能力によって生み出された結界で、わたしたちのいるお屋敷周辺にもメルトさんの結界が張られていて、許可なく入ることは出来ないって聞いたんだけど……


 わたしはメルトさんから聞いた話を思い出しながら、土煙の中心を見た。


 土煙が晴れたそこには男の人が立っていて、ゆっくりとこちらへ歩き出した。


 近づいてくる男の人に、クリスさんが表情を強張らせ身構える隣で、わたしはジッと見つめていた。


 クリスさんよりも深い蒼い色をした短めの髪に、メルトさんと同じ金色の瞳。身長はたぶんお兄ちゃんと同じくらいの175センチ前後で、服装はアイヌの民族衣装に似た模様が入った服を着ている。


 ゆっくりと近づいてくる男の人を観察していると、メルトさんの目の前で立ち止まった。


 ……近くで見て気が付いたけど、男の人っていうよりわたしと同い年ぐらいの男の子じゃないかな?顔立ちとかが何処となく同級生の男の子たちみたいに見えるし、ダボっとした服装だから気が付かなかったけど体つきも少し華奢に見えるんだよね……

 

 そんな風に考えていると、突然男の子がメルトさんの前で跪いた。


「…お初にお目にかかります。ぼ…自分はハサンとティイの子、アズラクと申します。お会いできて光栄です、伯母上」


 あ、今この人、自分の事「僕」って言いそうになってた……


 いえ、確かに伯母上とか気になる言葉が多々ありましたが、わたし的にはその部分が一番引っ掛かってしまった。


 緊張してるんだろうけど、あれだけ派手な登場したんだからビシッ!と決めないとねぇ、男の子ならさ〜


 と、胸の内でアズラク君―メルトさんと同じ種族なら年齢はわたしよりも上なんだろうけど、年上の威厳を感じないので同年代対応ということにしておく―にダメ出しをしていると、背筋にゾクッと寒気が奔った。


「……あの愚弟の、息子ですって?」


 ……メルトさんの声が地獄の底から聞こえてきたように感じたのは、わたしだけ?


 恐る恐るメルトさんの様子を伺うと、見たことのない凶悪な笑みを浮かべてアズラク君を見下ろしていた!


 こわっ!?怖い!怖すぎます、メルトさん!!


「あのバカに嫁ぐ物好きがいるとは思わなかったけど、ティイねぇ……あぁ、思い出した。幼い頃から愚弟のことを心配してよく来ていた娘ね。全く、あの子の気立てならもっといい男を捕まえることも出来たっていうのに……」


 振るえ上がるような凶悪な笑みを浮かべていたメルトさんの表情が、どこか呆れとも悲しみとも取れるものへと変わる。

 

 う〜ん…事情はよく分からないけど、メルトさんと弟さんの仲があんまり良くないことだけは分かった、かな?


 メルトさんの態度から複雑な家庭事情があるのかな?と何となく考察していると、メルトさんの表情が再び妖艶で怖い笑みへと変わった。


「それで、カワイイ(・・・・)甥っ子が一体私に何の用かしら?まさか、顔も知らない伯母にただ会いに来たってわけじゃないでしょ?」

 甥っ子の来訪に思うことがあるのかメルトさんが問い正すと、アズラク君は一瞬身体を強張らせて立ち上がるとゆっくり頷いた。


「はい。父…いえ、族長ハサンよりメルトセゲル(・・・)様に伝言を言付かり、お伝えに参りました」


 アズラク君の言葉にメルトさんの顔から表情が消え去り、クリスさんは大きく息を飲んでメルトさんの方を見つめていた。


 場の雰囲気から、アズラク君が何かしらの地雷を踏み抜いてしまったのは分かった…けど、それよりも気になったのがメルトさんの名前。メルトセゲルって言うのが正式な名前なんだよね?何で、隠してたのかなぁ?フルネームで呼ばれるのが嫌とか?


 そんなことを考えながら成り行きを見守っていると、メルトさんがスッと目を細めた。


「……聞きましょう。愚弟は何て?」

「はい……族長ハサンからの伝言を伝えます。里の危急存亡につき、メルトセゲルは即座に里へと帰還し、役目を果たすべし。これは族長命令である……以上です」


 この時、わたしは初めて世界が止まる瞬間を目の当たりにした。




 ……はっ!い、今時が止まった!?この中に、スタ○ド能力者がいたの?!


 そんな馬鹿な事を考えていると、クリスさんが一歩前へと踏み出した。


「何て恥知らずな!……よくもその様な言葉を「クリス、黙りなさい」ご主人様?!」


 怒りのあまり表情が人形へと戻りながらも、アズラク君に詰め寄ろうとしたクリスさんをメルトさんが制する。


「ですが!」

 それでもクリスさんは収まりがつかないのか声を荒げるけど、メルトさんは穏やかな表情で首を横に振った。


「貴女が怒らなくていいのよ。これは、私の問題なんだから……今の言葉、あいつから聞いたまま話したの?」

「え?…は、はい。一言一句、間違いなく族長の言葉のままお伝えしました」


 アズラク君の言葉を聞いて、メルトさんは腕を組んで考え込み始める。


「なるほどね……そういうことか」 

 少しして、何か答えを導き出したのか笑みを浮かべると、アズラク君へと視線を戻した。


「貴方……父親に捨てられたわね」


 あまりに衝撃的な言葉に、わたしを含めた全員が言葉を失う。


 はい?父親に捨てられた?…どゆこと?


 事情を全く知らないわたしにはメルトさんの言葉の意味が全く理解できなかったが、アズラク君を見ると当の本人も混乱しているのか狼狽えていた。


「な、何を…仰っているのですか、伯母上?父上が、僕を捨てた……?何を根拠に、そのような……」

「そんなの簡単よ。この数千年、何の音さたもなかった里からいきなり使者がやってきて、その使者が持ってきた伝言は、私が間違いなく激怒し……怒りのあまり使者を殺しかねないほどの内容だった。そしてその使者が、英雄と呼ばれた私の祖父によく似た(・・・・)甥っ子……そこから愚弟の性格を考えれば、答えはすぐに出るわ。あいつは、息子である貴方を自分の存在を脅かすと考えて、私を使って始末しようと画策したってね。さすがは、族長の地位欲しさに私に罪を被せて里を追い出した最低野郎。数千年経っても性根は腐ったままね!」


 メルトさんの説明に、アズラク君はあまりにショックだったのか顔色が真っ蒼になっている。


 えーっと……誰か事情を説明してくれませんか?なんか、わたし一人だけ置いてけぼりを食らってるんですけど……


 事情を知らないまま一人取り残されてしまっていることに耐えられなくなったわたしは、目の前で起こっているシリアス展開について行くため、クリスさんにこっそり話を聞こうと横に移動しようとすると、メルトさんが声を発した。


「それよりも、ティイは何をやってるのかしら?あの子の性格を考えれば、自分の子供を危険にさらすようなことを容認するはずがないんだけど……母親は、今回の使者の件に対して何も言わなかったの?」


 メルトさんの問いに、アズラク君は表情を暗くし俯いていた。


「母は……五百年ほど前に病に罹ってしまい、そのまま……」

「そう……だったら、尚更あいつの思い通りになるのは、癪だわ……いいわ、見逃してあげる。私への伝言は終わったんだし、せっかく里の外に出たんだから、このまま戻らずに好きに生きてみたら?外の生活も、案外楽しいわよ」


 思いがけない提案だったのか、アズラク君は驚いた表情でメルトさんを見つめたけど、すぐに慌てて首を横に振った。


「そ、それは…できません。伯母上が里へ戻らないと言った場合は、実力を行使してでも連れて来るよう、族長から命令されていますので」

 アズラク君の言葉を聞いて、メルトさんの表情が苦虫を噛みつぶしたように歪む。


「あいつ、是が非でも私にこの子を殺させる気?……親とは言え、自分を殺そうとしている男の命令を本気で果たすつもり?例え私を連れ帰ったとしても、あの男なら何かしら理由を付けて、殺そうとするわよ?それでも?」

「……父上が、僕の事を疎ましく思っていることは何となく分かっていました。それでも僕は、自分に与えられた使命を全うします。ここで逃げ出せば、本当に父上は認めてくれなくなってしまうから!」


 そう宣言すると、アズラク君は本気でメルトさんと戦うつもりなのか、目つきを鋭くして身構える。


 その姿を見て、メルトさんは大きく息を吐いた。


「馬鹿みたいに真面目なのは、母親にそっくりね……どうしようかしら?」

 アズラク君とは対照的に、メルトさんは構えることなく呆れたように頭を掻くと、そのまま腕を組んで思案し始めた。


 臨戦態勢の相手を前にのんきだなぁ、とか思ってアズラク君の方を見ると、構えたまま何故か頭から滝のような汗を流しメルトさんを見ていた。


 あ、もしかして……隙あらばメルトさんに攻撃しようと思ったけど、一歩でも動いたら殺されるのを察知して動けない、とか?

 様子のおかしいアズラク君を見てそんな予測を立てていると、肩口からこちらを見たメルトさんと目が合った。


「……良い事思いついた!」

 そして、メルトさんは何か思いついたのか、ポンと手を叩いた。

 

 何だろう……嫌な予感がする……


「まず初めにはっきり言うけど、私は里に戻る気なんて毛頭ないわ」

「そうですか……」

 やはり戦うしかないか、と再び険しい表情で構えなおした。

 だが、メルトさんは右手を前に出してその動きを制した。


「早とちりしないでちょうだい。正直なところ私としても、折角訪ねてきた甥っ子と殺し合いなんて出来ればしたくはないの……でも、だからと言ってお互いに譲れないものがある……そこで、提案なんだけど、これから私からひとつ課題を出すわ。その課題を貴方が受けて、クリアできれば貴方の勝ち。私を好きにすればいいわ…ただし、クリアできなければ貴方の負けで、私の言うことを聞いてもらう…あ、先に言っておくけど、課題は私と戦うことじゃないから安心して。どう?受ける?」

 メルトさんからの提案を聞き、アズラク君が怪訝な表情を浮かべる。


 まぁ、内容は彼にとって魅力的なモノだけど、それを提案しているメルトさんの表情を見たら何か企んでそうだもんなぁ……それを証拠に、クリスさんが何処か遠い目をしてるし

 

「……本当ですか?」

「えぇ、私は冗談は言うけど、嘘はつかないわ。貴方にとっては悪くない提案だと思うわよ?格上の私と戦うより、使命達成の確率は上がるんだから」

 まるで悪魔のささやきのようなメルトさんの言葉。構えていたアズラク君が、腕を組んで受けるかどうか悩みだした。


「…分かりました、受けます」

 数分ほど悩みぬいたアズラク君が答えを出した。

 その答えを受けて、メルトさんは妖艶な笑みを浮かべる。


 あれ?なんか寒気が……


「いいわ。それじゃ、私からの課題を発表するわよ……課題は、ここにいるセアちゃんの攻撃に耐えることよ!」

「……はい?」 

 

 不意に襲われた寒気に身体を摩っていたわたしは、メルトさんの言葉をちゃんと聞いておらず、名前を呼ばれたと思って返事をした。


 すると、アズラク君が物凄い顔をしてわたしを見ていた。


次話更新は、六月一日午前〇時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ