第三章 鹿香(かのか)家の秘密 〈6〉
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ちょうどその頃、駅向かいのファーストフード店『ジョセフィン・バーガー』2階で、笹原と鴨蔵がアイスシェイクに舌鼓を打っていた。
朝以来、スマートフォンに触れる時間のなかった笹原が、今日撮ったばかりの写真を確認していた。
「あ、ほら、サエちゃん、これかわいく写ってる。……あ、あの変態、なに撮ってんのよ」
後者はおれがふざけて撮ったふたりの胸のアップだ。笹原は笑いながらスマートフォンの写真をながめていたが、最後の1枚に表情が凍りついた。
「……なにこれ?」
「どうしたの?」
「え、あ、なんでもない」
笹原は最後の写真を鴨蔵からかくした。それは今朝、机にスポーツバッグを置いたおれにうしろから声をかけて撮った写真だった。
問題はふりかえったおれの姿ではない。おれの席に栗色の髪をしたジャージ姿の超絶美少女がふてくされた顔で座っていたことだ。
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「いらっしゃいませ。お客さま何名さまですかあ?」
「4人……、いや3人で」
「それでは禁煙席へご案内いたしますう。こちらへどうぞお」
おれたちは場所を移すと、ファミリーレストラン『あなすあくた』へきていた。
「……ちょっと待て。どう云うつもりだ、鹿香しのぶ?」
紀里香がすんごい目つきでおれをにらみつけていた。そんなににらむと瞳の毛細血管が切れるぞ。
「しょうがないだろ。ファミレスがいいと云ったのはのどかで、モヘナも賛同したんだから」
おれは悪役のふりも忘れて嘆息した。人気のない公園にでも移動しようと思っていたのだが、場所を移すと云ったらのどかが、
「ファミレスがいい! ファミレス行こっ!」
と云い出した。モヘナも、
「ファミレスってなんですか?」
と訊くので説明すると、行ってみたそうな顔をした。人間界の食事に興味津々なのだ。毎日弁当ばかりではモヘナも可哀想なので、少し時間は早いがここで夕食を摂ってもらおう。
奥まった4人席へ案内されると、のどかはメニューも見ずにウェイトレスさんへ云った。
「とりあえず、ドリンクバー3つ! のどかはアイス! ふたりは?」
のどかの言葉に紀里香がうなづいた。おれはモヘナに小声で説明した。
「飲み物。ホットかアイスを選べるんだ」
「それじゃアイスで」
「おれもそれで」
のどかには見えないモヘナの言葉を伝えると、
「アイス3つで」
とのどかがウェイトレスさんへうなづいた。注文を確認したウェイトレスさんが下がると、おれの正面に座した紀里香がドスの効いた声でくりかえした。
「どう云うつもりだ、と訊いている」
「とにかく話を聞いてくれ。さっきの戦いうんぬんは、おまえに話を聞いてもらうためのウソだ。おれは元よりモヘナも今は魔法を使えない。〈碧血〉なんて言葉も知らん。おれたちのことはすべて包みかくさず話すから、まずは黙って耳をかたむけてくれ」
ウェイトレスさんがお冷ややおしぼりと一緒にドリンクバー用のグラスを持ってきた。手前奥の席ののどかがグラスをうけとりながら紀里香へ云った。
「お姉ちゃん。お話聞いてあげなよ。悪魔の人が魔法を使えないのはホントっぽいよ」
「のどか?」
「のどか気づかなかったもん。魂精とかぜんっぜん感じられないし。もし悪魔の人に魔力があったら、ドクりんがすぐに反応するもん」
ドクりんって、あのブキミなドクロ杖のことか。魔力探知機だったとは。
「そう云うことは早く云わんかい! こっちはいつ襲われるかと冷や汗もんだったんだよ!」
紀里香がのどかのこめかみをゲンコツでグリグリしながら怒った。俗に云う〈ウメボシ〉である。
「痛いよ痛いよ、お姉ちゃん。だって、お兄ちゃん、最初からそう云ってたじゃん」
「悪魔とつれだって歩く人間の云うことなんて信用できるわけないだろうがっ!」
「お兄ちゃん、行き場がなくて困ってるのどかを助けてくれたんだよ。わざわざ部活休んで駅までおくってくれたんだよ。のどかが信じるお兄ちゃんをお姉ちゃんは信用できないの?」
「……そう云うあんたが世界で一番信用できないから、私がここまで出ばってきたんだろがいっ!」
「ひあああ!」
のどかが頭をかかえてうめいた。おまえどんだけ姉に信用ないんだ? なんかちょっと感動的なセリフだったのに、秒殺、全否定じゃねえか。
紀里香が軽く息をつくと、おれへ顔を向けた。
「わかった。とりあえず話だけは聞こう、鹿香しのぶ。ただ忘れるな。私はあんたを信用したわけじゃないからな」
「ねー、お姉ちゃん、メガネ貸して。のどかも悪魔の人見てみたい」
のどかが緊張感を殺いだ。紀里香のかけていた赤いフレームのメガネをななめうしろからとりあげると自分でかけた。
のどかと目のあったモヘナが微苦笑して軽く頭を下げる。この姉妹のテンションについていけないのだろう。おれもこの姉妹といるのは疲れる。
「わあっ! ねえねえ、この悪魔の人、ちょーキレイじゃん! お兄ちゃん、こんな美人と一緒にいたらドキドキするでしょ? ムラムラするでしょ? きゃー、もしかして、ひょっとすると、ふたりはつきあっちゃてたりする? もうチューとか一緒にお風呂とか入ったりした?」
「「やかましいっ!」」
おれと紀里香が同時に叱った。チューなんかしてないっつーの。……一緒に風呂は入ったけど。純情可憐なモヘナさんは、のどかのハレンチな質問に耳まで真っ赤にしてうつむいている。
「ね、ね、悪魔の人。ドリンクバー知ってる? 自分の好きな飲み物、何杯でもおかわりできるんだよ!」
「正しくは悪魔ではなく魔族です。私の名前はモヘナ・ペルセポナ・レメディオス・アキバ」
「モヘナちゃんって云うんだ。オモカワな名前だね」
「オモカワ?」
おもしろくてかわいいの略だ。意味がわからず目を白黒させるモヘナに頓着することなくマイペース(ハイペース?)なのどかがモヘナを誘って席を立った。
「ドリンクバーへ飲みもの選びに行こ! お姉ちゃんはなにがいい?」
姉のグラスを持ったのどかが訊ねた。
「私はダイエットコーラ」
紀里香の答えにのどかがうなづくと、モヘナにこっそり耳打ちした。
「お姉ちゃんのダイエットコーラにガムシロたくさん入れちゃうんだよ」
「のどか、聞こえてるよ」
「あうあう」
のどかはモヘナの手をとってドリンクバーへ逃げた。
「……えっと、話をしてもいいかな?」
「ああ、愚妹が迷惑をかけて済まない。はじめてくれ」




