終節:破『The Winddown Girl』
アイドルは心を撃ち抜く。
だから生徒たちは皆、この学院で射撃の訓練を受ける。カラフルなライフルを担ぎ、揃いの青い体操着に身を包み、闇を駆け抜ける『心』を狙い撃つ。
校庭から望む星の海を、また星が泳いでいく。
教師の合図と共に、少女たちは銃口からおまじないの火を迸らせた。
命のきらめき、死のはじまり。
闇の彼方で光が散って、すうと墜ちていく。
撃ち抜いた心は流星となる。アイドルたちの仕事はその星を観測することだ。占星術は『星見の塔』に魔女がいたころからずっと永遠の少女たちが果たすべき義務だった。遠い未来の今でもそれは同じ。
ラクルラール先生のそんな解説を聞きながら、コズエは何の気なしにライフルの銃把を指でなぞった。
校庭の隅、木造の弓道場と隣り合う無機質な射場。まるで悪趣味な部活と体育のパロディ、そして作業場のような閉塞感。少女にはこの場所は狭すぎた。
つまらない、とコズエの動きのない表情が語っている。
赤い髪は二つのお下げになって肩の前に流れている。個性を強調したアイドルたちの中にあって、髪色の明度は際だって異質だった。彼女の赤、そして瞳の緑は、クラスで、そして同年代で最も深く暗い色だったから。
陰気な子。暗い子。つまらなさそうな子。
暗色の姿はクラスに埋没する。
少女はクラスの底の底、辺境の地で銃をそっとなぞる。
伏し目がちな少女にはこの授業の真実が見えていた。どれだけリリカルに飾ったところでこれは殺しの訓練だ。軍隊のような鉄の臭い、戦士のような血の香り、墓場のような死の気配がそこらじゅうに漂っている。
「どうした、転校生。不満そうだな」
威圧的な教師の声。周囲から視線が集まる。生徒たちは優等生だ。規則を守り、リズム良く手順をこなして一緒に成長していく。
ラクルラール先生の授業は的確だった。個々人の資質に合わせた指導、助言、調整、管理。生徒たちは上達の実感を得て夢に近づけていると喜ぶ。
コズエは透明な視線を教師に向けた。不満なんてありません先生。台本をなぞるような台詞。証明しろと命じられて立ち上がり、球形学院の外部に繋がるワープ・ゲートと相対する。時間と空間を隔てた窓の向こうで、命ある星々が蠢いている。星々は命の元型だ。少女たちの夢を撃ち込まれることで生命となり、播種の墜死が闇底に触れる。
やがて星の種子は芽吹き、大樹となって世界の体系を形作る。大樹は幹に生命の環を、枝先に魂を、梢に知恵を、花に美を宿らせて森羅万象を分岐させていく。
「鉄の世界槍、天に至る塔は古びてしまった。世界は新たな瞳を求めている。はじまり以前の言理、世界樹を育むテテリビナの森を見つけろ」
コズエは五光年先の標的に照星を合わせ、引き金を絞った。この瞬間だけおとなしい少女の表情は少しだけやわらぐ。アイドルとして輝くことが苦手なコズエがゆいいつ得意とする射撃の実技演習。誰よりも正確な射撃が星を穿つ。
「見事だ。お前こそ私の理想そのままの生徒だよ、瓦楽天コズエ。そのまま我らのテテリビナを探すのだ」
ラクルラールは少女をほめたたえる。コズエはにこりともせずに言った。先生に教えられたことを実行しただけです。つまらない答え、退屈なやりとり。他の生徒たちが尊敬のまなざしを向けることもない。その隣で、より強烈な輝きを放つ恒星が一つの宇宙を花開かせていたからだ。
氷の少女。氷像のライフルを構え、氷晶の弾丸を撃ち出し、氷星を砕いて闇の中に透明な輝きを降り注がせる。墜ちた星が生み出す大樹は氷で出来たフラクタル図形。教師の指導を遵守するようでいて、自分だけの規則で逸脱していく問題児。
不快そうなラクルラールは、しかし何もいえなかった。最も優秀な生徒を叱責することは彼女の主義に反した。生徒たちは皆、ヒメの姿に憧れて自分たちを高めようと奮起するのだ。彼女たちの熱意に冷や水を浴びせることはできない。
「脱帽だ、お前は私の理解を超えた鬼才だよ白亡森ヒメ。これはこれで正解だろう。テテリビナに代わるお前だけの答えを見つけるがいい」
アイドルの卵たちにとって、ヒメはアイドルそのものだった。星も魂も、すべての視線がヒメに集まる。天性のファシネイターの輝きは他の光を隠してしまう。たとえばヒメの後ろに並ぶ紅紫の少女、塔瞳トウコ。古びてしまったかつての学院のアイドル。そして当然、ヒメと同時期にやってきた暗い少女を注視する者はいないーーいや、一人だけいた。
黄砂色の髪を高い位置で二つに括った人形の少女。疼巻羽クルミ。鋭い視線が、巻き付くようにコズエを追いかけていた。
季節外れの転校生、ヒメとコズエは学院に旋風を巻き起こした。小さな世界は一夜にして変貌し、当たり前だった秩序は変革を迫られてしまった。
かつての『星』であったトウコの権威は失墜し、外部からの来訪者ヒメが学院の話題をさらっていった。誰もが氷の少女の名を呼び、その美しさと朗らかさ、破天荒で強烈な個性を好ましく感じるようになる。
次の浄罪月、冬の終わりに行われる『星』選定の儀式ではトウコは頂点の座を次学年に持ち越すことはできないだろうと噂されていた。
トウコ本人は涼しい顔をしているものの、その周囲の取り巻きたちにはあからさまに落ち着きがない。特に、トウコの一番の親友で学年次席でもあったクルミの苛立ちは頂点に達しようとしていた。
さいきん、クルミは仲間たちの感情を束ね、ある行為に熱意を注いでいた。教室の宙を消しゴムの滓が飛ぶ。こつんとぶつかった先は、転校生コズエの後頭部だ。
誰も何も言わなかった。教卓の前にいる教師はおきまりの訓辞を垂れ、小言めいた注意を述べてその日の授業を締めくくろうとしている。
「巷では『誰でも簡単に技術が習得できる』などと謳った違法教育アプリが出回っているようだが、皆はそのような誘い文句に騙されることの無いように」
やがてホームルームが終わる。とたんにざわつく教室。世界の中心であるヒメは教室の外で待機していた上級生たちに囲まれて様々な部活の勧誘や助っ人の要請でもみくちゃにされながら引っ張られていく。ちらりと離れた席のコズエに視線を送るが、声をかけることはできない。ヒメが姿を消し、コズエが帰り支度を始めた頃、それはいつものように始まった。
「先生に教えられたことを実行しただけです(キリッ)」
落ち着いたトーンといい、低めに抑えた声の調子といい、あざけるような最後の抑揚といい、露骨な意図が透けて見える模倣。緑の視線が教室を横切る。クルミとその仲間たちが薄い笑みを浮かべていた。
嘲るような猿真似は今に始まったことではない。コズエの何気ない仕草、どうということのない言葉を繰り返すだけの無害な行動だ。
当初の、トイレの個室に外からバケツの水を注いだり、教科書を引き裂いたり、足を引っかけたりといった種類のちょっかいはヒメの介入によってすぐさま頓挫していた。しかしクルミたちは「先生がコズエを模範にしろと言っていたから」という言い訳を掲げて執拗にコズエの言動を真似することを始めた。
ヒメはそれを非難したが、担任教師ラクルラールはおろか学長ラクルラールや教育委員会ラクルラールもまたクルミたちの行いを認めた。教育者がいじめに荷担しているとしてヒメは徹底的に戦い抜こうとしたが、当事者であるコズエがヒメを止めた。理由はとるに足りないことだから。コズエが心底からそう思っていることは誰の目にも明らかで、ヒメもそれ以上は強く出られなかった。
そして、コズエのそうした態度は誰よりもクルミの弾けるような火に油を注いでいた。たしなめようとしたトウコの声も耳には入らない。「生意気な転校生に舐められているトウコのために」という名目もどこへやら、他の取り巻きたちが及び腰になるのもかまわずひたすらコズエの真似をし続けた。悪意ある嘲弄を込めて、精一杯の戯画化を図り、質の悪いエピゴーネンで尊厳を貶めようとするクルミ。
そんな彼女に、何を思ったかコズエが無言で近づいていく。今まで全く干渉しようとしなかった寡黙な少女。無機質な表情にトウコは僅かに驚き、取り巻きたちは怯えて身を引き、クルミは瞳にかつてないほどの光を灯らせた。
何かを言われたらそのままオウム返しにしてやろうと待ちかまえていたクルミは、しかしコズエが無造作に言い放った一言で凍り付いた。
「私のことが好きなら諦めてください。子供の恋愛に関わるつもりはないので」
周囲の取り巻きたちの顔面が蒼白となり、クルミの手が小刻みに震え出す。トウコは興味深そうに一歩離れて状況を見守っていた。コズエはそういった反応すべてに興味がない、というように淡々と言葉を連ねていく。
「あなたも授業で習ったはずです。模倣は演技の基礎。対象を理解するための最初のプロセスだと。あなたは私がわからないのですね。私を理解したいのですか? それなら指摘しておきますが、相手を自分の解釈にあてはめてほしいままにしたいという暴力的欲望だけが先行しているため、あなたの恋情は同一化の自己愛に等しい幼児――」
クルミはコズエがすべて言い終わらないうちに暗色の制服の赤いタイをぐいと引っ張った。コズエの長身がわずかに傾いたところで、下から伸び上がった拳が顔面に吸い込まれる。教室に鈍い打撃音が響いた。
この学院で喧嘩や暴力沙汰はひどく珍しい。ここよりも『お上品ではない』ことが美徳とされる別校舎の男子部でも荒事は滅多にないと聞く。それだけ育ちの良さが求められている環境なのだ。
だから場は騒然となった。
それは前代未聞と言えるほどに荒々しい喧嘩。
部品が砕け、ネジが飛ぶほどの激烈な衝突。
コズエが無抵抗ではなかったことが、その場の誰にとっても予想外な反応だった。鋭い打撃がクルミのツーサイドアップの髪房を左右に揺さぶり、ぜんまいばねの髪飾りが外れて床に落ちる。
トウコがあっと声を漏らし、クルミの表情がこれまでとは性質の異なる火に照らされる。嗜虐心や征服欲が爆発するような怒りで塗りつぶされたのだ。
互いに真っ赤な血を流して倒れた二人は、そのまま保健室に運ばれて保険医ラクルラールの介抱を受けた。そして目覚めたクルミは床に落ちた髪飾りの無事を開口一番問いただし、小さな傷がついていることを認めた途端に争いを再開した。
その日から、二人は顔を合わせる度に殴り合うようになった。周囲を驚かせたのは、殴り合いに付き合うコズエの態度だった。ご丁寧に格闘の真似事じみたファイティングポーズをとって様になった殴り合いや掴み合いを演じていく。そのことが相手をつけあがらせている、相手にしてもらえると勘違いさせているのだとヒメは怒った。ヒメがトウコに抗議したり決闘を申し込んだりという一幕もあり、新しい転校生と古い優等生たちの対決という構図は学院の生徒たちにとっての格好のトピックとなっていった。
ラクルラールの教師たちは互いに顔をつき合わせて話し込み、事態を憂慮していた。学院は徹底した秩序と教育ですばらしいアイドルを育成するためのシステムだ。広大な敷地には幾つものゲートが設置され、厳正な指紋、網膜、呪力波長のチェックを経た上でなければ移動すらままならない。人形を糸で操るがごとき生徒たちの徹底管理こそが総体としての生徒たちの質を高める。
しかし超級のクラッカーである転校生たちにその教育方針は通じない。近頃は模範生であったはずのコズエや、かつてはきちんとしていたトウコにクルミまでもが喧嘩や決闘といって自由気ままに振る舞っている。
「ゆゆしき事態だ。ゆゆしき時代だ」
「新しい世界に革新の風が吹き始めている」
「世界の裏側は既に異変を察知している」
「第一の指先にお伺いを立てるべきか。いやしかし」
ラクルラールたちが囁き交わす声に、答えを返すものはいない。
そんなふうにして職員室で頭を抱える教師たちを、反対側にある男子部校舎の屋上から見張る姿があった。長い髪をなびかせた長身の少女、陽下のキモノを纏い、流動する水の義手を有するその姿は、一瞬だけゆらめいたかと思うと幻のように消え去った。
その日もまた、コズエとクルミは保健室にかつぎ込まれていた。開戦はよりにもよって射撃訓練の真っ最中で、互いに銃口を向け合う寸前まで行ったのだ。ヒメやトウコの制止がなければどちらかが命を落としていた可能性すらあったが、周囲の心配にも構わず二人は傷つけあうことを止めようとしなかった。寝台の上に横たわる二人はあちこちの部位がひび割れ、スクラップ寸前の有様だった。
「いいざまね。これじゃきっとくず鉄屋にだって売れないわ。私たちの価値は切り売りすらできないほどズタボロってわけ。だっさ」
嘲笑するクルミ。そんな彼女をコズエは不思議そうに見る。いつものように、前置きも無く核心に踏み込んだ。ずかずかとした言葉の刃がクルミを切り裂く。
「あなたはいつも、私を攻撃することで自分自身を傷つけているように見えます。それはなぜですか」
人の心を知らぬ人形のように、無垢な瞳がクルミをまっすぐに貫いていく。しばし無言のままうつむいていたクルミだったが、やがて何もかもがばかばかしくなったように短く息を吐いた。それは笑いだったのかもしれない。
クルミは寝台の上、薄汚れた膝を立ててコズエを睨む。
短いスカートの中、太股が露わになり、コズエの視線が吸い寄せられる。コズエがそれを指摘しようとして口を開く前に、
「変態」
というクルミの糾弾がコズエに投げつけられた。
コズエがクルミの顔をまじまじと見ると、なぜか彼女は勝ち誇ったような表情をしていた。まるで初めての勝利を噛みしめるかのような瞳。ようやく相手を思い通りにできたという実感に唇の端がつり上がっている。
「ね。私が春をひさぐための人形だと言ったら、驚く?」
クルミのささやくような言葉に、コズエは首をひねった。売春など、この管理された学院でできるものだろうか。彼女は舞踏のパ・ド・ドゥで男子部の学生と合同の授業を受けているから異性と接触する機会が無いわけではないだろうが、それにしたって現実味が無さすぎる。コズエにとって、クルミの唐突な言葉はそれほど突飛な非現実だった。けれど、クルミにとってはそうではない。
「女神候補生なのよ、私たち。性を商品化することなんて日常茶飯事。性玩具としての人形、商品価値の証明。体の美しさの切り売り。写真撮影は私たちの魂を切り取って、安売りしていく」
ああ、とコズエは納得する。
クルミがじっさいに異性と交わるような行為をしているかどうかはわからないが、アイドルにそうした一面があることは確かに否定できない。
性欲は汚く醜い。アイドルは清く美しい。
相反する二つは、しかし両立してしまう。
学院は個人の資質に応じたプロデュースを行う。セルフプロデュースなどと声高に主張するヒメはともかく、クルミがグラビアアイドル、それもポルノグラフィーじみた過激なイメージビデオの被写体となるような方針で教育されているのなら、彼女の屈曲も自然なことかもしれない。
「これは偏見でしょうか」
「いいえ、正しい分析でしょうね。いつも通り、あんたは憎らしいほど私をわかってる。私はつまんない内面してるのよ。あっさりと見透かされるほど底が浅い、悩みもくだらない、それが私」
その言葉すら何かに対する攻撃だった。
クルミはひっかき傷だらけの顔、明日にはきれいに修復されて商品価値を取り戻すであろう美しい顔でコズエをにらみつけた。
「けどさ、商品なのはあんたも同じ。わかってるでしょ、賢いコズエ。銃は戦争の道具だわ。闘争と性交は最も原始的な欲求のあらわれ。傭兵と娼婦は最古の職業のひとつ。生と死。エロスとタナトス。リビドーとデストルドー」
とりとめのない詩のような言葉。
死のような嘆き。
コズエは静かにその言葉に耳を傾けた。
「あんたはお得意の銃でなにを殺すの」
私がセックスのおもちゃなら、あんたは何?
問いに対し、コズエは無言だった。
答えを持っていなかったからだ。
少なくとも、今はまだ。
クルミは続ける。
「人形を抱くのと死体を抱くの、どちらがよりおぞましいでしょう。どちらがより美しいでしょう。いずれにせよ、どちらも冷たい情交だわ。ところでお前の可愛がっている犬はどちらの冷たさも夢想しているようだけど。ねえ、変態の飼い主は同じように変態なのかしら」
「犬? それは、また何かのたとえですか?」
クルミは笑うだけで答えない。
そのまま言葉は途絶えた。二人にとって話すべきことなどほとんど無いのだ。
とても長い時間が流れ、唐突に言葉が浮かび上がる。
「あの」
「何」
「髪飾り」
コズエの短い言葉に、クルミは目を剥いて反応した。
憎悪。本物の怒りがそこにあった。屈折や面倒な執着を抜きにした、それは純粋な『喧嘩の動機』だ。
コズエは冷静に事態を分析できていた。
だから、解決方法もわかっていたのだ。
「すみませんでした。あなたの大切なものを、壊してしまって」
沈黙。クルミはため息を吐いて、それから頭頂部に手を触れながら言った。
「許さないわ。トウコが作ってくれたものだから」
「そうですか。それでは仕方ないですね」
「いいの? 私、きっと一生あんたを憎む」
「私も、ヒメの瞳を傷つけられたら同じことを言うでしょう」
そうして会話は終わった。
二人にとっての理解可能な地点、共有可能な前提がそこにあった。だからそれでいい。怒りと憎しみはそのままに距離を保つという無言の約束が交わされたのだ。
これから二人がどんなアイドルとなり、どんな役柄を演じることになっても、この前提は変わらない。コズエがクルミを仲間と認めるような天変地異が起こっても、クルミが憎しみを性欲に置き換える驚天動地が待ち受けていても、二人の関係性はここが前提だ。
クルミはそのままふらりと保健室を去っていった。
いつも、先に出て行くのはクルミだった。勝手に抜け出したことをラクルラールに怒られてもそれだけは変わらない。ひとりきりになったコズエは、そのままぼんやりと支給されている形態端末を眺めるだけだった。
気ままに校内アストラルネットを漂うコズエは、ふと奇妙なアドレスを見つける。唐突な、前触れのない出会いはこのクローズドなネットワークでは珍しい。
「『誰でも明鏡止水』――これは、先生が言ってた違法アプリ?」
首を傾げるコズエ。模範的な優等生とされる少女は、しかしためらい無く怪しげなアプリケーションをダウンロードしていた。つまらない日常を淡々と過ごすコズエは、しかし満ち足りているわけではない。
アイドルとして、彼女には何かが欠けている。
ヒメのようにはなれない。それが、誰の目にも明らかな彼女の欠落だった。コズエもまた、それを自覚している。
だからだろう。少女は一歩を踏み出した。
途端、立体幻像が端末から飛び出す。
それが始まりの合図だった。
「ようこそ、『サイバーカラテ道場』へ。俺はナビゲーター師範代のちびアキラだ、よろしくな!」




