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幻想再帰のアリュージョニスト  作者: 最近
第4章 傷つけるのはハートだけ、口づけるのは頬にだけ

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終節:急『Escape from The Family』








 その幻からは知らない血の香りがした。

 コズエと同じ、がらくたの腐臭だ。

 これではがらくた嫌いのラクルラール先生に叱られる。

 端末から現れた見知らぬ男性のデフォルメ幻像は、けれど不思議なことにコズエにしか見えなかった。

 彼女が肩に乗せて連れ歩いても誰ひとりとして気づけない、妖精のような存在。


「あなたはだれですか」


「俺はツールだ、コズエ。役割に意思を乗せる教導者だ」


 誰もいない保健室で、コズエは気まぐれに端末に妖精を紛れ込ませた。落とされたのは不思議なアプリ。

 コズエには、自分の行動がよくわからない。


「学院の規則では、暴力は管理されねばならないとあります。公認アプリケーションである『ラクルラール・ドールアーツスクール』以外のものを使用するのは認められていません。暴力は大人である教師、そして父兄のものです」


 誰にも聞こえないほど小さく、コズエは見知らぬ違法アプリに搭載されたナビゲーター・『ちびアキラ』に話しかけた。小さな立体幻像が音声入力に反応する。


「ユーザー・コズエの管理者はコズエだけだ。どうか俺という暴力を管理してくれないか。それがツールである俺の役割であり望みなんだ」


 奇妙な幻だった。霊長類型人類の特徴を削ぎ落としながらデフォルメしたような、印象に残らないようで逆に違和感だけを強烈に突きつけられるおかしな個性。そこにあるはずの顔がよくわからないという理屈に合わない不可視が実現してしまっている。これは、誰なんだろう。


「シナモリアキラ。さあこちらの宣名は済んだぞ。あとはコズエが宣名をすればユーザー登録が完了する」


「私は」


 暴力の管理をしろとシナモリアキラは言う。けれど、教師に保護されている生徒にそんな大それたことができるものだろうか。

 学院の生徒はみな子供だ。

 優秀な人形であるトウコやクルミ、誰より素晴らしい輝きを持ったヒメでさえ、強い子供としての性質を持つ。

 教師たちは常々こう言っていた。


「お前たちの自我は脆く未成熟だ。社会に砕かれて心臓が止まってしまわないように、学院という殻で守る必要がある」


 だからこそ、学院は、教師は、生徒たちを管理できる。

 管理とは守ること。守るとは、戦うことだ。生徒たちはいずれ来る戦いの時、巣立ちの瞬間に備えて、戦争の準備をし続ける。


「時間は無い。戦いはじきに始まる。だが、不信の中でせかしても仕方がない。この話はまたにしよう」


 シナモリアキラはそこで僅かに笑みのような表情を作って見せた。笑ったのではない。表情筋の操作だ。

 コズエには、それが理解できる。


「無料お試しキャンペーン実施中だ。体験してから判断するのも悪くないだろう? 安心して欲しい、期間終了時に継続の手続きをしなければ自動的に退会する仕組みになっている。悪質な請求なんかは一切なしだ」


 コズエはその押しつけがましい怪しさに、不思議な懐かしさを感じていた。

 そして日常は続いていく。

 奇妙な同居人を付け加えた奇妙な日常が。


「コズエ、いいことあった?」


 ある時、ヒメがそんなことを訊いてきた。

 こちらをのぞき込む美しいかんばせ。

 コズエを映す、鏡のような瞳。

 とりたてて何も。どきりとしつつもそう答える。どうしてそんなことを言ったのか、コズエにはわからない。幼い頃から一緒だった半身。ひとみに映る小さな人形。ひとみはかがみ。光が生み出した至高の幻こそがヒメだ。


「ふーん。けど、さいきんのコズエはとっても良く笑っているし、楽しそうだよ。すっごく、アイドルっぽい」


 それは偽り。

 コズエは唯一の親しい相手にそのことを告白することができなかった。

 詐術の悪魔は気にするなと言う。


「形式と反復。技術にとって重要なのは中じゃなくて外だ。それっぽい形があれば、笑顔には喜びがついてくる」


「ヒメに嘘は吐きたくありません」


「心を体の上位に置くな、コズエ。両者は等しい。嘘も、笑顔も、心も、魂さえも体得可能な技術だ」


 シナモリアキラの言葉はラクルラールの呪術指導や道徳教育とはかけ離れた異端の教えだった。特権的な魂を貶めるような悪魔の囁きにコズエはぶるりと震える。


「さあ、表情筋のトレーニングで七色の表情を身につけるんだ。そうすれば、無数の仮面は感情に等しいと実感できるだろう」


「欺瞞――」


 文句を垂れつつも、コズエは『道場』の指導を受け入れる。シナモリアキラの教えは彼女の感性に合っていた。

 そうしてコズエは徐々にアイドルとしての才能を開花させていった。

 あの『目立たない方の転校生』が、冬至の祝祭で行われる競技会の頃には強豪アイドルたちと並んで注目アイドルの一人として数えられるほどになっていたのだ。


「ウズメちゃん、こっち向いてー、もっと脱いでー!」「ラっちん巻き付いて! 息が止まるほど強く!」「トウコ様、蔑んで、退屈そうになさって、いっそ私を見ないで!」「邪魔よ有象無象ども、リル殿下の登場に併せて弾幕流すんだから消えなさい撃ち殺すわよ!」「にあ!」


 翼を広げたような対の校舎の狭間、学院中央の合同演習場に響くのは殺気だった生徒たちの応援だ。その中にぽつぽつと「コズエ」「転校生」「杖のエース」という呼び声が混じっていた。

 期待されている!

 教師からの評価はまだ無い。

 けれど、コズエの体は不思議と熱を感じ始めていた。

 と、新たな歓声が響く。


「王子最高! 男子とか雑魚でしょ!」「クルミ副部長ー、男子なんかに負けないでよねー」「言っとくけどね、うちの王子は宇宙バイアスロンなら生徒会ろくおうにだって負けないから!」


 男装して男子部の競技に混ざっているのは、ずっとコズエをいじめてきたクルミだった。最近はめっきり接触の機会も減ったが、時折視線が合うと何か目に見えない火花が散るような、不思議な幻が生まれることがある。コズエは、その幻には実体がある気がしていた。クルミとの関係性は、消えていないのだ。


 演技と舞踏において女子部随一の男子役適性を有するクルミは、尊敬と憧れを込めて『王子』と呼ばれていた。コズエとほぼ同時期にその才能、技術には更に磨きがかかり、今ではクルミこそ男子部のあらゆる英雄にすら勝る最高の王子だともっぱらの噂であった。


「コズエ、今回は自分の成果だけを見ていればいい」


「欲が無いんですね」


「俺は俺でアマランサスをぶつけてアレッテ・イヴニルの出方をみる。初回はイベントの経過を一通り確かめておきたい。男子部に送ったイツノから連絡が無いのが気になるが――」


 意味の分からない単語の羅列。

 コズエが不思議そうな顔をしているのに気づいた小さな妖精は、はっとしたように口をつぐみ、唇を尖らせて細く息を吹き出した。『吹けていない口笛』の仕草だ。幻像としては非常に芸が細かいものの、全くの無意味だ。


「説明なんてしても劇は進まない。ここはラクルラールが仕切る教育ドラマ、応用アプライドドラマの世界なんだから。今はまだ、な」


 時折、シナモリアキラはこういったわけのわからない物言いや誤魔化しをすることがあった。けっきょく彼が何者なのか、何が目的なのかもわからないままだ。

 それでも『コズエのためのツール』という言葉だけは真実だという確信がある。


 不思議な信頼は、コズエの技術を確実に向上させていた。アイドルとしての資質を試す競技会で、コズエの成績は上位十番以内に食い込むまでになっていた。

 トップは男子部の頂点、生徒会メンバーであり女子部最高学年の『エトワール』でもある『狂イシ影ノ王姫』すら圧倒したヒメで、それにクルミが続く形だ。


 意外だったのは女子部第二の『エトワール』ことトウコの敗北で、彼女は親友にしてライバルと目される紫鶏頭ムラサキケイトウヒユナとのライブ対決を前にして戦意を喪失、競技会を放棄してどこかに消えてしまったのだ。

 どうしてかシナモリアキラはこのことを悔しがっていたが、それはそれとして冬至の祝祭はつつがなく過ぎていった。コズエはヒメの躍進を祝福し、ヒメもまたコズエの成長を喜んだ。コズエが教師から褒められることは無かったが、ヒメの称賛より確かなものなどどこにも無かった。


 冬は深まり、ますます学院は冷え込んでいく。星の海を往く学院は、母なる大地からいよいよ決定的に離別しようとしていた。

 寂しさの寒波が押し寄せる中、浄罪の月を前にした学院は浮き足立っていた。一大イベントである次の競技会が始まろうとしていた。それは槍の訪れ、父兄が見ている前で行われる授業参観である。

 見られること。承認されること。

 呪術の真髄はそこでこそ発揮される。

 しかし、肝心のシナモリアキラはどうにも頼りない。

 

「えーと、世界の切り張りというのは、こう、ミシンをミームに当ててだな」


 幻の妖精は邪視の技を実演してみせるが、素人が習いたての技を再現してみせるかのように手つきがおぼつかない。教師が必要なのは彼ではないのか。


「身体性に関わる技術は認めますが、古典的呪術に関する理解は乏しいのですね」


「俺にだってオカルト知識はあるぞ。エーテルだろ、フロギストンだろ、カロリックだろ、あとクオリアに――」


「クオリアは志向性を持った表象を指す概念であって、ラディカルな物理主義で安易に否定するのはどうかと思いますが」


「つまり記号だ。言葉遊びはいい。毒矢が刺さってる時に治療より報復を優先するタイプか?」


 二人の会話は最初の頃よりも遙かに滑らかだった。

 噛み合っているかどうかはともかくとして、形だけでも進んでいることは確かで、重要なのは形式だった。

 すべては順調に進んでいた。

 来るべき時を迎えるべく、準備が整っていく。 




 果てしない闇の彼方へ、球形の檻が墜ちていく。

 卵形の監獄は幾重にも連なる天球の層を超え、遊星の軌跡を横切り、御使いたちの舞踏会に足を踏み入れる。

 最大の惑星ピアネータからおこるのは穢れを知らぬ麗しの炎天使たち。輝く翼に誘われ、球形の学び舎から活発な男子生徒たちが飛び出していく。紅顔の少年たちは無垢なる天使たちと手を取り合い踊り出す。性の未分化な者らは互いに役割を変え、くるくると暗闇に輝く二重星となる。幼い戯れを祝福するかのように世界に歓喜が満ちる。


 宇宙は感情を有する生き物だ。星の鱗を蠢かせながら闇に等しい巨躯が踊り、界竜ファーゾナーは小惑星帯の喉を震わせた。

 大気を揺らし、虚空を軋ませる竜の歌だ。

 この世界モデルにおいて創世竜は大気圏の楔で大地に縫いつけられてはおらず、宇宙は青空と同じように無限の大気とエーテルに満たされている。天使の翼は赤々と燃えさかり、可聴域を超えた振動で時空を歓ばせる。少年たちは楽しげに笑い、滑らかな喉から心地よいソプラノを宇宙空間に響かせている。

 

 正統な教えを学院の教科書は採用していた。子供たちは求められるまま、望ましい世界像を瞳の中に結んでいく。天を巡る星々と対応する神秘、神々、槍の理。どれだけ文明が発展しようと、世界はあるべき姿を厳かに維持し続ける。

 世界の進歩を示すように、果てのない宇宙を槍が飛んでいく。次元を穿つ長大な船は旧式の世界槍だ。槍の姿を認めた学院の表情が和らいだ。ほころぶような笑顔を浮かべ、まあるい姿態を花開かせる。幾つもの積層外殻が開くと、生徒たちを育む美しい箱庭の様子が外部にさらされた。校庭に出てきた生徒たちは、開放された空と彼方より来る槍に驚嘆の声を上げる。

 槍船は迎え入れるように『門』を開いた学院の中に、一気に穂先を挿入した。


 衝撃。世界が一変するほどの破壊と変革。

 天使たちは翼を散らしながら絶命し、少年たちは血にまみれた滅びの美を目の当たりにして最初のエクスタシーを感じる。通過儀礼を経た少年たちは喉に膨らみを宿し、朗々と響く低音の歌を響かせながら夜を泳ぐ。そうして、訪れた槍にそっと口づけては学院に戻っていくのだった。

 向かい合う女子校舎と男子校舎。その中間は混沌の坩堝だ。陰と陽が混じり合う合同演習場の中央に、巨大な槍がそびえ立つ。学院最大の校庭は悦びのあまり地面から噴水を放出し、空中には滴と虹が乱れ飛んだ。

 学院に来客を知らせるアナウンスが流れる。


「お知らせします。雄々しき父兄の方々が到着されました。猛々しくも勇ましいその雄姿を称えるため、生徒の皆さんで来訪をお祝いしましょう」


 学院に突き刺さった巨大な来訪者。

 その偉容が生徒たちに告げることはひとつ。

 父兄による授業参観が、間近に迫っているのである。

 審判の日。

 卒業の日。

 破壊と死体と崩壊の刻。

 

「パパ! パパ! 私を観て!」


「かみさま! プロデューサー! 愛して、愛して、私を承認して!」


 女神候補生の人形たちが絶叫する。

 神権は突き立てられた。

 これより父の裁きが始まる。

 嵐は少女たちの運命を微塵の容赦もせずに砕くだろう。生き残れる者は一握りもいない。過酷な生存競争が幕を開けるのだ。




 そして父兄参観が始まった。

 外敵の侵入を知らせる恐ろしい喇叭が鳴り響き、美しい学院の外装は剥落し、色とりどりの花壇や中庭の温室はことごとく枯れ果てた。

 父兄たちが、そして生徒たちが向かうのは劇場だ。

 体育館を兼ねた巨大な劇場、一つの世界を内包可能な大舞台で、参加型の授業参観が始まる。

 第一の刺客が登場する。

 教師に背中を押されたコズエもまた、操られるかのように舞台へやってくる。

 父兄と相対したコズエ。肩の上で妖精が叫ぶ。


「バル・ア・ムント! くそ、やはり気づかれていた!」


 すべての教師、ラクルラール人形たちが声を揃える。


「父兄参観の始まりだ!」


 赤い髭が燃え上がり、壮年男性が珊瑚の槍を振り回す。

 襲いかかる男性的な暴力、父権の象徴たる槍の一閃。

 コズエはいつの間にか手にしていたライフルを構え、牽制の射撃を行う。その手は震えていた。


「『弾道予報』だ、コズエ。カルカブリーナ・メソッドを使って、本当の身体的記憶を思い出すんだ!」


 コズエとシナモリアキラが培ってきた信頼、関係性の呪力が手の震えを止めた。小さな幻は、幾つもの機械弓や銃火器を背負った細身の若者に変貌している。照準器と同期したゴーグルが荒ぶる父親をまっすぐにとらえた。

 コズエの射撃は狙い違わず敵を撃ち抜いた。

 暴力への克服と勝利。

 得意の射撃技術を見せつけたコズエに、万雷の拍手が送られる。少女は生存競争に勝利したのだ。


 周囲では、敗北した少女たちが次々に廃棄人形として焼却炉に送られ、あるいは別の形にプロデュースされて学外に連れて行かれる。がらくたの山を運ぶベルトコンベア。だがラクルラールの酷薄な仕打ちに公然と口答えする者がいた。

 ヒメだ。死と敗北を粗雑に扱い、眠りと葬送を蔑ろにすることへの疑問を口にする彼女の視線は鋭い。

 たじろぐ教師。

 あまりの美しいまなざしに、世界は凍り付いた。

 舞台に現出した銀世界。

 それを見つけた父兄のひとりが、突然前に進み出る。


 その父兄のなんと巨大なことか。一言で言うなら青い糸に操られた鋼鉄の大魚、風を操って次元を泳ぐ終末の方舟。途方もなく大きな槍を担いだ怪物はゼルディーオと名乗り、自分こそがヒメの王子様だと告げた。

 

「僕は槍の系譜に連なる鈴国の英雄ゼルディーオ。ナプラサフラス、ポルポフォン、シェロン、ソルダ――幾多の英雄たちに転生を重ねてようやく巡り会えた。君こそ僕の花嫁、前世からの運命で結びつけられた最果ての恋人だ!」


「人違いです。私はあなたの恋人ではありません」


 突然の求婚を、ヒメはすげなく断った。

 それが男性の誇りを傷つけた。学院を来訪するための端末であった連絡船は恥辱のあまり自爆。大勢の人形を巻き添えにして学院に死を予告した。

 激怒したゼルディーオは連絡船からの屈辱信号を受け取るや否や、本国から六人の将を引き連れて学院を強襲。

 

 鈴国が誇る連珠の七将による学院の七門への侵攻が始まる。牙を剥く父兄たち。必死に抵抗する人形の生徒。

 迎え撃つのは学院筆頭、『星』を超えた『星』、幼き輝きのヒメとそれに付き従う六人の生徒会執行部。

 軍服でもある白い制服に黄金の飾緒、人外の美貌を誇る魔人たちは幼き姫君と轡を並べて外敵に立ち向かう。


 押し寄せる異獣の群。

 彼方より降り注ぐ流星、死に往く炎天使たちが鳴らす喇叭、おぞましきニガヨモギが大地を埋め尽くし、黒い冬が屍に血と泥の混じった雪を積もらせる。

 七つの門、七つの舞台での戦いは苛烈を極めた。

 不死にして再生する者と謳われた学院の最精鋭たちと言えど、永命にして長寿と称された大国の将たちには苦戦を強いられたのだ。

 永遠に続くかと思われた戦いだったが、やがて終わりは訪れる。ラクルラールは舞台の端でナレーターとして台詞を口にした。


「四つの将は『門にして鍵』に至れり」


 ゼルディーオ、罪貨呑む死海の大魚、大いなる風の方舟。幼き姫君を求めて押し寄せ、学院すべてを飲み込もうともくろんだ強欲なる大津波。

 槍の神より薫陶を受けし英雄の視線。大魚の目から放たれた荷電粒子砲の槍が、森羅万象を凍えさせる停止空間と激突する。


 世界と世界、邪視と邪視の激突により時空が震え、界竜が悲鳴を上げた。

 やがて時空は苦痛から開放された。

 ついに大魚の悪魔が投擲した長大な槍が、氷の少女の胸を貫いたのだ。だが、同時に少女の氷槍もまた大魚の眼球を穿ち操縦席の艦長に届いていた。


 ゼルディーオの操縦席から赤と青、二色の血が流れ出す。二つに括られた髪房がだらりと窓から垂れ下がり、直後に爆炎が機体を飲み込む。

 槍の力と外なる軍勢を得た青い糸の操り人形が、黒煙を吹き上げながら星々の海へと沈んでいく。

 総大将同士の壮絶な相打ちにより、双方の軍勢は同時に総崩れとなった。


「死んだ! 愛すべき生徒、守られるべき子供、幼き姫君は冥道をくぐることなく眠りについたのだ!」


 悲劇に涙を流すラクルラール。それにつられて観客にして兵士でもあった生徒、父兄一同が泣き叫ぶ。

 流れた涙は雨のように闇に散り、虹を生んだ。

 戦場に二色の虹がかかる。

 光と闇。白と黒。生と死。

 運命を分かつ残酷な天秤だ。

 

 マラード、オルヴァ、ヴァージルらの肉体と領土もまた深く傷つき、彼らが率いた忠実なるしもべたちもほとんどが死に絶えた。

 彼らの魂は息絶えた幼き姫の屍の下に誘われ、千切れた眼帯、その中にあったがらんどうの眼窩の闇に吸い込まれていった。


「三つの将は『天にして闇』に在り」


 ラクルラールがそう言うと、今度は別の舞台に照明が当たる。パーン、アルト、カーティスはかろうじて勝ちを拾ったが、その有り様は不可逆に歪められていた。

 彼らは敵対していた外敵たちと因縁を結び、英雄たちだけの舞台を構築してその場を去っていく。

 外敵は去った。父兄参観は終わったのだ。

 とてつもなく大きな悲しみを残して。

 なにもできず、呆然とことの成り行きを見ていることしかできなかったコズエ。舞台に横たわるヒメの屍を呆けたように見つめ続けている。

 やがて、ラクルラールが残酷な命令を下す。


「これは学院からの命令だ。幼き姫の死を嘆くことは許されない。その遺骸に触れて葬ること、弔うことの一切を禁止する。野晒しにして捨て置き、野犬や鳥の餌食となるがままに任せ、世の見せしめとするのだ! これは校則である! 法に背く者には裁きが下ると思え!」


 コズエは目を剥き、教師にくってかかった。


「そんなのはどうかしている! ヒメは勇敢に戦い、学院を救った英雄なのに!」


「違う、出る杭は打たれるのだ。悪目立ちをする無謀な子供は社会に押しつぶされて透明になるしかない」


 突き飛ばされるコズエ。

 なおも反抗しようとする少女の前に立ちはだかるのは男装したクルミ。新たな生徒会の白い制服を身に纏い、コズエに冷ややかな視線を向けている。


「どいて」


 端的な敵意。表情の訓練がコズエになすべきことを教えてくれる。冷たい怒りがクルミを貫いた。感情の痛みに人形は笑った。この感情を待ちかねていたと頬を紅潮させてコズエを見据える。


「絶対に嫌。がらくたに触れたいのなら、力で私を押し退けてみせなさい」


「望むところだ!」


 いつのまにか、コズエの口調は感情のないものから激しい心の躍動を感じさせるものに変化していた。まるで物言わぬ幼き姫の魂が乗り移ったかのよう。

 ラクルラールは人形たちが感情をぶつけ合うのを見て高らかに笑う。両手を広げ、無数の髪の毛が絡みついた指先を蠢かせながら言った。


「王殺しの呪は成った。革命の天秤を掲げよ、運命の黒で虹を染め上げるのだ!」


 生き残った人形たちが動き出す。

 空席となった生徒会に新たな人形が補充される。

 形を似せた再演の道具。

 六王を繰り返すための英雄たちだ。

 教師たちは新しい学院のルールを提示する。

 生徒会メンバーにして男子部のトップアイドルグループ、通称『六王』らによる花嫁を巡る決闘。

 戦いに敗れた六将たちの屍人形によって再演される六王。彼らは内乱という人形劇を演じる舞台装置だ。

 コズエの肩で、シナモリアキラがつぶやく。


「ここに介入の余地がある。王権を巡る戦いはただの内乱ではなく諸外国も介入する百年戦争――否、千年紀戦争だ。終末の乱世を走り抜けるぞ、コズエ」


「望むところだよ。やってやろうじゃない、アキラくん!」


 コズエは自分が何を言っているのかもわかっていない。

 ただ、訓練によって修得した激情のままに前進しているだけだ。それらしい振る舞いをしているだけだ。

 暗転。場面転換。

 コズエの下へ召集令嬢がやってくる。

 瞳にだけ映る幻の人形から、冷たい指令が下される。


「世界の心臓を撃ち抜く女神、幼き雛鳥たちへ。冥道は開かれた。眠り深き刻、森の奥にて宿命と相対せよ」


 そして再度の暗転。決戦が始まる。




 ばちんと音がして、スポットライトの下に現れたのはニ体の小さな人形だった。騎士とまじない使いを模した、丸っこいフォルムには愛嬌がある。

 二体を糸で操る紅紫の髪をした少女、トウコが声色を使って二役を演じていく。


「ベルグくんと!」「ガルラくんの!」「なげやり人形劇がはっじまっるよー! わーわー!」


 どんどんぱふぱふー、と棒読みで口にするトウコ。

 発声は見事なものだが、名前の通りなげやりだった。

 人形たちはぴょんぴょんと飛び跳ねて言う。

 

「聞いた聞いた? こんなウワサ! 学院の裏には『死人の森』が広がっているんだって!」


「怖い怖い! とってもホラー! そこには禁断のお姫様が眠っていて、許し無く触れたら神々の裁きを受けるんだって!」


「けどけどー、決闘で心の花を撃ち抜けば神々も認めてくれるかも! お姫様の王権を受け継ぐのは誰だ! 君か? それとも君? 『エトワール』への道は、誰にだって開かれているよ!」


「さらにさらにー、決闘を勝ち抜いてお姫様を花嫁にすれば、試しのキスに挑めるんだって。口づけの恐ろしさも知らないで、男たちってバカだよねー」


「ほんと、ばっかみたい」


 とうとう演技を放棄して、自分で吐き捨てるトウコ。人形たちは主の表情をうかがい、それから二人で顔を見合わせてから声を揃えた。


「男子ってサイテー」


 暗転。愚にもつかない短い人形劇が幕を下ろす。




 天よりスポットライトが降り注ぐ、

 雲の切れ間から地上に降り注ぐ薄明光線。

 これなるはヤコブのはしご。隠された啓示の塔。

 端末に送られてきた地図に従ってコズエは歩いていく。たどり着いた学園の裏手、見下ろすと無限の宇宙が広がっている。天界の光は真下から降り注いでいた。


「階段の向こうに逆さまの大地が見えるよ。あれが決闘場?」


「そうだ。奈落へと続く逆位置の塔と、それを取り巻く螺旋階段。反転した重力がコズエを導いてくれる」


 シナモリアキラの言葉を受けて、コズエは進む。

 階段の前の門がコズエの瞳を探る。

 決闘者の虹彩を認証し、『自らの世界を持つ』と判断された女神候補生は前進を許される。門が開き、少女の足が階段を踏む。

 螺旋階段を一歩一歩進むごとに、周囲を炎が舞っていく。燃える天使たちに導かれ、少女は天に召されていく。

 遠くに見えるのは天体の層だ。大地は神が創造したすべての中心であり、学院からは最も遠くに見える。

 母なる加護は既に無い。

 世界は寒く、あの美しい半身のきらめきは失われてしまっている。宇宙は既に死を迎えつつあるのだ。

 螺旋を歩く。下っているのか、上っているのか、その区別は既に無かった。

 夜光天、幽冥天、精霊天、太陰天、太陽天、土塊天、火力天、水晶天、天堂天――天球の層を超え、全天を内包し天体の運行を決定する原動天に到達する。

 コズエの遙か頭上へと飛翔していく炎の天使たち。編隊を組む両性具有の幼子たちが集うと、空に輝く白薔薇が咲いた。あれこそは天球層の最果て、至高天。


「違う。天国なんてどこにも無い。あれは屍。死劫天のなれの果てよ」


 螺旋階段を登り切った先で待っていた少女が訂正する。

すると天空の薔薇はたちまち雪化粧を纏った冬の森へと姿を変える。

 逆さまの森はいまにも降ってきそうだった。

 事実、世界の終わりを告げるかのように冬の森からはしんしんと雪化粧が剥がれてきている。

 降りしきる雪の大地。

 それが決闘の舞台だった。


「アイドルは心を撃ち抜く。ねえ、心とは何かしら。魂、感情、それとも理解?」


 くるくる、くるくる。片足を上げ、舞うように回転するクルミ。棚引くマフラー、ひび割れたぜんまいねじの髪飾り、血に塗れた飾緒と雪を被った軍用制服。人形は己の言葉を強く否定する。


「いいえ。女神アイドルが穿つのは母なる海の底に沈んだ赤い宝石、愛の珊瑚」


「愛? そんなもの、もう無いよ。天国だって無いんでしょう」


 コズエの敵意に満ちたまなざしを受けて、クルミは歓びにうち震える。冷たい大気を吸い込み、ほほえみを作った。そう、二人の愛は既に失われた。

 華やかな英雄が去った寂しい舞台の上で、少女たちは雪上の決闘を開始する。そうすることしかできないのだ。


「世界の心臓を撃ち抜く。引き金はその為にある!」


「世界の心臓? それはどういう意味?」


「意味など無いわ、あるのは意思だけ!」


 クルミがそう言い放つや否や、足下の影から四つの小さな衛星が飛び出した。それらは光に包まれながら姿を変え、対のストックとスキー板が瞬時にクルミの手足に装着された。杖の石突きが呪いを撃ち出し、コズエの頬を掠める。雪原での狩猟と戦争を得意とするバイアスロン部の副部長、それがクルミに与えられた役回りだった。


 母なる大地から遠い寒々しい宇宙を進むためには、同じような極限環境を踏破したという実績のある呪具が必要だった。北方の英雄が使用していたスキーの道具とその技術を用いるクルミは雪原を、そして宇宙空間を滑走する。


 石突きから放たれる射撃、射撃、射撃。

 コズエもまた同様の武装を用いて空を滑る。

 いつの間にか両者の胸には一輪の薔薇が飾られていた。

 決闘を望む二人の心に咲く感情の形。互いの胸を狙って、二人のストックが火を噴く。火線が闇を裂き、新たな星を生んでいく。


 コズエの射撃は正確無比。

 学院に並ぶものはいないとまで言われた達人の腕前でクルミを狙うが、軽やかに雪原を舞う少女の影をとらえきれない。それどころか、クルミの弾丸は次々にコズエの手足を襲い、痛みの呪詛が作り物の肢体に黒ずんだしみを残していく。クルミの射撃はコズエのそれを凌駕していた。


「ありえない、俺はカルカブリーナと銃撃義肢を併用している、クルミの銃士適性では抵抗すらできないはずだ!」


 愕然として叫ぶシナモリアキラ。コズエのストック銃は彼によって制御されている特殊な義手だった。

 だがこれは正々堂々たる決闘だ。

 ニ対一という構図そのものが最初から成立しない。

 クルミの肩、マフラーの影で小さな幻が揺らぐ。


「対等な決闘なら、条件は同じであるべきだろう。違うかシナモリアキラ」


 低く、陰鬱な男の声。

 コズエはその声を知らない。

 テンガロンハットにガンベルト、薄汚れたコートにうっすらとした無精髭、荒野を放浪する無法者の姿を、記憶の隅にさえ留めてはいない。

 シナモリアキラは違った。

 焦ったように、呪文を唱える。


「撃て、『イルティエルト』!」


「撃て、『無力女王』」


 相手側の対応も全く同時、全く同質。

 二つの輝く弾丸は対消滅したが、そこに乗ったアイドルの輝きが片方を上回り、波となって相手を吹き飛ばす。

 コズエは低く呻いた。

 クルミの射撃は舞いのようだ。というより、舞いに組み込まれた射撃とでも言うべきか。フィギュアスケートにも似た雪上演技。ストックを支えとした三次元の縦回転はこのバレエスキーアクロに特有の躍動だ。芸術点をそのまま火力に変換して、クルミは回転しながら銃撃を行う。


 銃の扱いではコズエが上だろうと、そこに舞いの要素が加われば話は別となる。剣舞が刀剣を取り締まる法に触れないように、銃舞は銃規制の摂理には触れない。

 くるくると舞うクルミの姿に、コズエとアキラは目を奪われる。はじめて見るそのダイナミックな美しさ、鍛え上げられた技術の冴えに言葉を失っていた。


 おそらくコズエが『サイバーカラテ道場』によって鍛えられていたのと同じように、クルミも研鑽を積んでいたのだろう。見事な舞い、そして射撃の技だった。

 勝てない。冷徹な現実がコズエとアキラの前に立ちふさがっていた。二人の実力は、目の前の相手に及んでいないのだ。コズエの挑戦は愚かしく、身の程をわきまえない失敗だった。彼女の手が森の奥深くで眠っている半身に届くことはもう無いのだろう。


「それで終わり? やっぱあんたに女神は無理ね」


 クルミはそう言って銃口をコズエに向けた。

 照準はぴたりと胸の花に合わせられている。

 雪がゆっくりと落ちてくる。コズエは敗北までの一瞬を永遠のように感じていた。終わるのだと思うと、どうしようもなく悲しかった。

 悲しみを知らないコズエは、それを喜びの欠如だと感じていた。失われたものがある。それは輝き。ヒメが向けてくれた、全ての光。


「訓練を思い出せ、いまコズエを救えるのは形だけ、知っている動作だけだ」


 アイドルのレッスン、笑顔の練習。

 そんなものが、ここで役に立つとでも言うのだろうか。

 作られた偽りの仮面。

 それらしく真似をした、空虚な感情。

 あの笑顔、あの溌剌とした口調が、誰のものなのか。

 暗い色から明るい色へと変わるコズエの心。

 絶望に染められつつあったコズエの表情が、反復された形式をなぞって演技時の笑顔を作った。同時にクルミの銃弾がコズエの胸に到達。呪いが花を蝕み、枯死の結末を加速させようとする。

 

「あれは何?」


 勝利を確信していたクルミはわけもわからずに肩の幻に問いかける。しかし、男もまた状況を理解できていない。

 呪われたコズエの花。

 その心が輝いていた。作られた表情と一緒に、硬く鋭く、光を反射する透明な造花に変わっていく。


「心の花が姿を変えるなんて、そんなの知らない!」


 クルミが信じられないと指さすコズエの心は氷の睡蓮。

 彼女が望む、明朗な笑顔。

 その心を反映して花は転生を果たす。

 コズエは信じた。肩から助言をささやいてくれる知らないはずの幻を。幼い頃に夢見た瞳の中の小さな幻を。


「アキラくん。お試し期間、そろそろ終わるよね」


「ああ。コズエの正しい宣名が無ければ、正しく契約を結ぶことができない」


 成し遂げるべき事は解っていた。

 成し遂げたい事は決まっていた。

 世界の心臓を撃ち抜く。

 その意味がわからずとも、意思なら既にある。


「此が号は春の魔女、そのさがはきぐるみの魔女、熾る紀元はアンドロイドの魔女。キュトスの末妹、未来の女神、私の名は『鮮血のトリシューラ』!」


 それこそが彼女のまことの名。

 そして、世界の心臓を撃ち抜く銃の銘だ。

 閃光がクルミの左胸を貫いて花びらを散らし、背後の舞台裏を粉々に砕いた。

 青い糸が散る。長く伸ばされた髪の毛が千切れ、無数の教師たちが残骸となって辺りに散らばっていく。


「馬鹿な、馬鹿な、こんなことが!」


「こんな展開は台本には書いていない。第一の指先に指示を仰げ! 学院の、イエの呪力が崩壊してしまう!」


 混乱し、慌てふためく教師陣。

 彼女たちに向けて、シナモリアキラは鋭く戦意を向けた。コズエの攻撃は学院に対する銃の乱射。体制を崩壊させる、いじめっ子への激烈な憎悪の形式だ。

 彼女を唆した悪魔は学院の秩序を蝕み、世界を呪いで浸食していく。学院の構造に対する呪的侵入が始まった。シナモリアキラという巨大な外敵が、ラクルラールという巨大な守護者を脅かしているのだ。

 学院は古い師弟関係をモデルにしている。

 師弟は家族に等しい。教師と生徒は親子に等しい。

 イエの呪力をシステムとして運用し、制度化された家族という呪文を管理する巨大な機構。それがラクルラールだ。新しい形の師弟関係はラクルラールに対するウイルスとして働き、破滅をもたらす。


 ラクルラール=タイプ・マイクはことばをシグナルに変換。身体的な喉と大気の震え、物理現象を呪文的な記号に置き換えて最後の攻撃に変えた。対するシナモリアキラもまた宇宙を振動させて迎え撃つ。巨大な構造と構造がぶつかり合い、既存の宇宙がばらばらに砕けて混沌の亀裂へと真っ逆さまに落ちていく。


「砕けろラクルラール!」


「やめて、やめて、私の愛すべき楽園を奪わないで!」


 全てのラクルラールが叫びながら崩壊するのと同時に、コズエとクルミの決闘が終わりを迎える。

 雪が舞い落ちる速度で、侍女人形は雪の中に墜落する。

 崩れ落ちたクルミの表情は、どこか満足げに見えた。

 終演は近い。

 コズエは肩の上に乗った幻に柔らかく語りかけた。


「ねえ、届くかな」


「手を伸ばしてみないとわからない」


「じゃあ、一緒に行こうか」


 二人は同じ場所を見ていた。

 遙かな空に、消えそうな冬の森が見える。

 手を伸ばす。まだ届かない。つま先で立つ。踵が解放されているスキー板からめいっぱい体を伸ばす。まだ届かない。引き金を引く。世界の心臓には届いても、流れ出した鮮血を固めることは叶わない。


「遠いよ、あと何回勝てばいいの?」


 学院が崩壊していく。天使たちが泣き叫び、太陽は砕け、星々は枯れていく。旧来の秩序、古い世界モデルは教育現場の崩壊と同時に消滅しつつあった。

 破壊による革命は、寂しさに満ちた滅亡を生んだ。

 ここからつながるものは無い。


「だが俺たちは前に進んだ。今はそれでいい」


「うん。そうだね」


 何もない虚空の舞台に二人の声だけが響く。

 無限の寂しさ、永遠の終わり。

 それを紛らわすように、幻たちはささやきを交わす。

 くだらない戯れ、妖精の悪戯。

 それがこの舞台、瓦礫と雪の結末だった。


「次こそ眠り姫を起こしに行こう。あいつだってこんな役はきっと退屈だろうし、口づけを待ちかねてるに違いない」


「ね、アキラくん」


「どうした」


「今の台詞を真似して『キリッ』てしていい?」


「この舞台でそれ言えるお前を尊敬するよ」


 世界は終わる。舞台は砕け散る。

 そして、未来ある限り再演の幕は何度でも上がるのだ。









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