3章ー9 「戦力外通告ではない in葉牡丹」
「━━ご、ゴメン、姉さン。ちょっと、ぼーっとしてたッ。」
気まずそうに、けれど必死に虚勢を張ろうとする蕾。普段の彼からは、このような惨めな虚勢は滅多に見れない。
(……戸隠を発ってから、ろくに休息を取れてなかった。身体的にも精神的にも、相当、疲弊してるな。)
「━━━あとは僕に任せて、少し休んでいろ。大丈夫だから。」
葉牡丹はただ、蕾を護りたかった。限界を超えて張り詰め切った彼の心を、少しでも休ませてあげたかった。だからこそ紡いだ言葉だった。
しかし、彼女のその言葉を受けた瞬間、蕾の顔から一切の血の気が引いていた。
蕾は言葉を失ったように呆然と葉牡丹を見ていた。
その瞳の奥に広がっていたのは、純粋な『絶望』だった。
(……っ、しまった……!)
その時、自分が犯してしまったことに気づく。
蕾を労うつもりで、戦力外通告を出してしまったのだ。
いつだって隣に立ち、お互いを護る対等な存在でありたいと願っていた彼に対して、「お前はもう役に立たないから引っ込んでいろ」と言ったも同然の言葉を投げてしまった。
蕾の心が急速に崩壊していくのが分かった。
またやってしまった、姉さンの足を引っ張った、姉さンに失望された、捨てられる━━彼の頭の中を埋め尽くしているであろう恐怖が、目に見えるように伝わってくる。
「ヒュッ……、ハァ、ハァ……ッ」
突然、蕾が胸を押さえて激しく過呼吸を引き起こした。
「蕾!? 蕾、落ち着いて、僕を見るんだ! 違う、僕は君を━━!」
慌てて蕾の肩を掴もうとした。しかし、手足を拘束する鎖が邪魔で身動きが取れない。
(クソっ!これさえなければ……!)
「━━ごめん、なさい。母さン」
苦しみと恐怖に顔を歪ませ、ガタガタと全身を震わせながら、彼はかすれた声で呟いた。
「……え?」
それを耳にした瞬間、頭が真っ白になった。
なぜ、今、そう呼ぶのか━━━。
しかし、その疑問に答える間もなく、蕾の身体から完全に力が抜けた。グルン、と彼の青い瞳が上を向き、そのまま床へと崩れ落ちていく。
「蕾ッ!!」
尋問室に、引き裂かれるような叫び声が響き渡った。




