3章ー3 「濃霧の謎」
━━━ビーーーーーーーーーッ!!!!!
赤黒い警告灯の光が、不気味にひかる。
鼓膜を聾する大音響の中、要塞の奥から迫り来る不気味な駆動音。ここが大乱戦の幕開けか━━そう蕾が身構えた、まさにその瞬間だった。
『さて、見つかっちゃったみたいだし、逃げるぞ!』
残像が見えるほどの神速の運筆でノートにそう書き殴り、蕾の目の前に突きつけてきた義姉。
しかも文末には、ちょっと可愛いフリーハンドのビックリマークまで添えられている。
「……戦うンじゃないのかよッ!!」
さっきの不敵な笑みは一体何だったんだと、ブザーの音以上の大声でツッコんだ。
だが、葉牡丹はノートを懐に引っ込めると、次の瞬間には蕾の襟首を子猫のようにひょいと掴み、霧のなかへと走り出していた。
「わ、わ、ちょっと姉さンっ!?」
『応戦したいとこだけど、さすがにアレは無理だ。ここにいると、蜂の巣にされちゃうからな!』
空中でさらに差し出されたノートの文字。
その言葉を証明するかのように、二人がさっきまで立っていたところに、「アレ」が姿を現した。
───ガガガガガガガガガガガガガッ!!!
現れたのは、無機質な金属音を立てて飛行する、数機の自動防衛ドローン。その下部に吊り下げられた銃身が、容赦なく火花を散らし、鋼鉄の壁に鋼鉄の弾丸を打ちつけている。
「うげッ……確かに、アレは御免だッ!」
そうして、大人しく逃亡に力を入れるのだった。
ーーーーーーーーーーーー
逃亡を開始して、しばらく経った頃。二人は洞穴を見つけ、そこでささやかな休息をとっていた。
「……さっきから思ってたンだけど……この霧、どうなってンだよッ?」
そう言って、首を傾げた蕾。
その疑問にありつくのは無理もない。
何故なら、この濃い霧は、大和領の城壁が見え始めた頃に、いきなり出現したのだ。瞬時に、これほどの濃度の霧を生み出せるはずもない。
『一応、突然発生する霧が無くは無いけど……』
『けど、こんなに範囲が正確に限定されていて、尚且つ、ずっと出現したままの霧なんてのは、自然現象じゃ生み出せないだろう。だから、人工的なものであるのは確定なんだが……確かにどうやってるのか気になるな』
「━━気候を調節してる、とかッ……?」
葉牡丹は心の中で思わず目を丸くした。
蕾の口から漏れたのは、あまりに非現実的な推測で、現実主義の彼にしては珍しい発言だったからだ。
しかし、もしそれが事実なら、この土地を支配する英雄一家は、大自然の法則すら手玉に取っていることになる。
『アハハ、もしそんなものがあるなら、この『大和領強奪作戦』が成功した暁には、エアコン替わりに使わせてもらおう!』
くすくすと笑うような文字を躍らせ、葉牡丹は感情の無い顔で蕾を見た。
どんなに周囲の空気が重くなろうとも、その顔に貼り付けられた無表情は微塵も揺らがない。だが、その指先はいつでもマントの裏の武器を抜けるよう、微かな緊張を孕んでいた。
「まったく、お気楽でいいよなッ、姉さンは!」
呆れてため息をつく蕾。
「━━これからどうすンの?ずっと逃げ回ってるわけにもいかないだろッ?」
『そうだな。……まずはあの銃やらセンサーやらを止めないと、現代武器ほぼゼロの僕らに勝ち目はない。』
蕾の金属製の暗器は、葉牡丹が特殊なルートで入手したものだが、さすがに銃火器などの危険物や、センサーやレーダーなどの高度な機械類は少量しか手にはいらなっかった。
『だから……それらを動かしているコンソール室。そこを潰す。』
「うン、了解。……でも、どこにあるんだよッ?そのコンソール室。」
『それは……………分かんない!』
文末には、舌を出しながらウインクをする絵文字が添えられている。
「はあ!?」
『おそらく、下手に見つからないよう、この領地の最奥にあるんだろうが……この霧だからな……』
周りを見渡せば、一面の白。十メートルほど先は何も見えない。
だから、自分達のいる位置はおろか、進むべき方角すらも分からない。そう言いたいんだろう。
「確かになッ……」
二人はうーん、うーんと唸りながら、どうしたものか、と思考する。しばらく、沈黙が続くと……
「━━それなら、オレが連れて行ってあげよっか〜?☆」
九歳児のあどけない声でもなく、十九歳児の鈴を転がすような声でもない。
妖艶で中性的な声が頭上から降ってきた。




