↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

2章ー5 「汚らわしい侮辱」

「━━出来るのにやらない。……そンなのは、合理的以前に、ただの『傲慢』だよッ!」


 そう咆哮し、義姉を深い青の瞳で睨みつけた。


「……」


 葉牡丹はその言葉で顔色は変えずとも、身体が怯んだ。


 その一瞬を蕾は見逃さなかった。

 蕾は押さえ付けられていた身体をひねって、うつ伏せから身体をひねり、仰向けに転じる。

 そして、手袋をはめていない右手に付いた『猫手』。そう呼ばれる、猫の爪のような形をした暗器で、葉牡丹の顔を引き裂こうとする。


(!、しまった!拘束中に準備していたのかっ!)


 それに後退を余儀なくされた葉牡丹は、蕾の拘束を解き、美しい軌道で飛び退く。


 蕾は飛び起き、全力疾走で、孤児院へと向かった。

 


ーーーーーーーーーーーー



(……どうして、こんな風にされなきゃならないのでしょう?)


 脳に与えられた強い衝撃によって、意識をとばしていた少女が、徐々に目を覚ます。


(……私が、何か悪いことをしたからでしょうか?)


 視界は泥のように濁り、激しい頭痛がこめかみを締め付ける。妙な生温かさと打撲の痛みが全身に伝わり、自分が土の上に這いつくばっているのだと気付いた。

 そして、どうにかこの暴力から逃げ出そうと踠(もが)く。


「クソが!勝手に動くんじゃねぇ!」


 頭上から降ってきたのは、獣のような男の怒声だった。


 頭皮に焼けるような激痛が走る。男の大きな手が、少女の髪を容赦なく掴み上げ、無理やり身体を引きずり起こしたのだ。その衝撃で頭の中でグワン、グワンと音が鳴る。


「う、あ……っ……」


 声にならない悲鳴が漏れる。


 視界の端で、男の凶悪な拳が振り上げられるのが見えた。抗う術などない。少女が恐怖に瞳を瞑り、訪れるであろう痛みに身をすくませた。その瞬間。


「その汚い手を離せよッ!」


 冷徹な声が響いた。

 衝撃音が炸裂する。少女の髪を掴んでいた男の手が、強引に引き剥がされた。


「ぶふっ!?」


 男の巨体が横ざまに吹き飛び、壁に激突して激しく崩れ落ちる。何が起きたのか分からず、少女が泥にまみれながら目を開けると、そこには一人の人物が立っていた。

 鋭い眼光で男を睨み据える、蕾の姿。


 絶望の淵にいた少女の目に、まるで希望の光のように映った。


「おい、大丈夫かよッ? 」


 蕾が少女の元へ駆け寄り、優しく声をかける。震える肩を労わるように自身のマントをかけてやった。


「な、なにしやがる?!」


 背後から、男の怒声が上がる。


「……なにするもなにも、アンタの暴力からこの子を助けただけだけどッ?」

(……一発、殴っても気絶しないとは、意外と丈夫だなッ。)


 そう蕾が告げると、男は一瞬驚いた顔をした後、下品な声で笑い出した。


「へっ……ヒーロー気取りかよ、おめでてぇな。でもなぁ、そんな事しても無駄なんだよ。」


 蕾が極寒の視線を向ける。


「なンでだよッ?」


「分かんねぇか?……まぁ無理もねぇ。お前みたいなお子様じゃぁなぁ。」


 蕾を嘲笑しながら男が、少女に人差し指を突きつける。


「……コイツはなぁ、親に売られたただの出来損ないだ。生きてる価値もねえ、ただの肉塊だよ。」


「━━」


「俺たちがどう扱おうが、誰も文句は言わねぇ。無価値のコイツに、俺のサンドバックっていう役職をくれてやってるんだ。」


「━━」


「━━というか、孤児院にいるガキなんざ全員ゴミだ。それが常識だ。だから、お前がコイツ一人助けたところで、意味なんかねぇんだよ。」


「━━」

(……耐えろッ。今、この男をどうにかしても、それこそ無駄じゃンかッ!)


 男の口から吐き出される、少女への侮辱と呪詛。

 それを聞き、ボロボロと涙を流す少女。


 それに、歯を食いしばって、理性がとぶのを耐える蕾。


「……あぁ、でも。━━」


 だが次の瞬間、蕾の沸点を限界突破する言葉が吐き捨てられる。


「━━そのガキはもう飽きたから、お前にくれてやるよ。」


「━━ ━━ ━━」

(……もし、あの時━━)


 三歳の頃、道端にゴミみたいに捨てられていた自分。 

 もしあの時、姉さンが俺を拾ってくれていなかったら。


(……俺だって、こいつの言う『無価値なゴミ』になって、泥を舐めて死んでたかもしれないじゃンかッ……!) 

 目の前で泥にまみれて泣いている少女の姿が、かつて捨てられた自分自身と、最悪な形で完全に重なってしまった。


(ふざけるな、クソ野郎。他人の命を、俺たちの存在を━━勝手にゴミだと決めつけるなッ!)


 自分と猫柳の尊厳を真っ向から踏みにじられたその刹那、少年の瞳から光が完全に消え失せ、底知れぬ狂気と殺意が宿る。


「━━ッ……黙れよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。