2章ー2 「性別差別」
━━二人がしばらく歩くと、盆地のような場所にたどり着いた。
「休憩がてら、町に立ち寄ろう!」
そう、快活に告げ、男装を始める葉牡丹を見つめながら、蕾は複雑な感情を抱いた。
葉牡丹は戦闘時と、蕾以外に人がいるところでは、男装をする。
だが本心を言えば、蕾は葉牡丹にそんな真似などして欲しくはなかった。
いつも表情豊かで、気さくで、太陽のように明るい大好きな義姉。男装時は、その姿が封じられる。蕾はそれがたまらなく嫌だった。
何より、男装という仮面を被っている間の彼女は、決して笑わない。
いつもニコニコと楽しそうに世界を寿いでいた彼女にとって、感情を凍らせるそれがどれほどの苦痛か、想像するだけで胸が詰まる。
それでも、やめて欲しいとはっきり言えないのは、
葉牡丹の、ある言葉が原因だった。
何年か前、なぜ男装をするのか尋ねたことがあった。
すると葉牡丹は、「男装は自分の身を守る『武器』だ。」と言っとのだ。
あのときはその言葉の意味が理解しきれていなかったが、今なら分かる。
この世の中では、生まれ持った性別で差別される。女であるだけで、悍ましい危機に晒される。
どれほど真っ当に生きようとも、望まぬ結婚によって人生を縛られる。
その枠から外れれば、今度は街の闇に潜む暴漢たちの脅威に晒される。
それが、この歪んだ国で女性として生きるということだった。
だから葉牡丹は、男装のことを身を守る武器と言ったのだ
なので、葉牡丹の男装も頭では理解している。
それでも、心が理解ってくれないのだ。
『それじゃ、行こうか』
目の前、突きつけられたノートに踊る文字と無表情の義姉を見る。
「……うン、行こうか姉さん。」
張り裂けそうな痛々しい感情を、喉の奥へと無理やり押し殺す。
それが、最愛の義姉を安心させるための欺瞞だったのか。あるいは、引き裂かれそうな自分自身を繋ぎ止めるための自己暗示だったのか。
蕾は、正体の分からない歪な微笑みを浮かべた。




