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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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30/32

第30話「近すぎる距離」

金曜日だった。


店内はいつもより人が多い。


笑い声が重なり、 グラスの音が響く。



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日高はカウンター席に座っていた。



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真白が隣に来る。



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「最近よく考え事してるね」



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そう言いながら、 真白はグラスを置く。



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距離が近い。



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肩が触れるわけではない。



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だが離れてもいない。



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その絶妙な距離。



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ふわりと甘い香りがする。



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日高は少しだけ落ち着かなくなる。



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「そんな顔してます?」



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真白は笑う。



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「してるよ」



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「最初来た頃よりずっと」



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日高は苦笑する。



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「変わりました?」



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「うん」



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真白は少し考える。



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「今の方が好きかも」



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その言葉。



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軽く言っただけのはずなのに。



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妙に胸に残る。



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奥では美玲が煙草を吸っている。



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こちらを見ながら笑う。



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「真白」



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「またそういうこと言ってる」



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真白は笑う。



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「本当のことだもん」



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日高は視線の置き場所に困る。



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だが嫌ではない。



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むしろ。



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少しだけ嬉しい。



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店内の照明は暗い。



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ネオンがグラスに反射する。



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会話は続く。



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だが内容はあまり覚えていない。



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気になっているのは、



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隣との距離だけだった。



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帰り際。



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真白が言う。



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「日高くん」



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「はい」



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「またね」



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たった三文字。



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それだけなのに、



---


日高はなぜか少しだけ足取りが軽くなった。



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第30話 終


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