第30話「近すぎる距離」
金曜日だった。
店内はいつもより人が多い。
笑い声が重なり、 グラスの音が響く。
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日高はカウンター席に座っていた。
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真白が隣に来る。
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「最近よく考え事してるね」
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そう言いながら、 真白はグラスを置く。
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距離が近い。
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肩が触れるわけではない。
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だが離れてもいない。
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その絶妙な距離。
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ふわりと甘い香りがする。
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日高は少しだけ落ち着かなくなる。
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「そんな顔してます?」
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真白は笑う。
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「してるよ」
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「最初来た頃よりずっと」
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日高は苦笑する。
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「変わりました?」
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「うん」
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真白は少し考える。
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「今の方が好きかも」
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その言葉。
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軽く言っただけのはずなのに。
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妙に胸に残る。
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奥では美玲が煙草を吸っている。
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こちらを見ながら笑う。
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「真白」
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「またそういうこと言ってる」
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真白は笑う。
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「本当のことだもん」
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日高は視線の置き場所に困る。
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だが嫌ではない。
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むしろ。
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少しだけ嬉しい。
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店内の照明は暗い。
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ネオンがグラスに反射する。
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会話は続く。
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だが内容はあまり覚えていない。
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気になっているのは、
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隣との距離だけだった。
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帰り際。
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真白が言う。
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「日高くん」
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「はい」
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「またね」
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たった三文字。
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それだけなのに、
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日高はなぜか少しだけ足取りが軽くなった。
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第30話 終




