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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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第2話「夜の扉の前で、少しだけ立ち止まった」

その場所は、ビルの間に埋もれていた。


看板は小さい。

光も弱い。

注意して見なければ気づかない。


日高 恒一は、その前で一度足を止めた。



---


「ここだよ」


田辺が先にエレベーターへ向かう。


平岡は慣れたように後に続く。


岡本は何も言わず、そのまま乗り込んだ。



---


日高だけが、少し遅れていた。



---


エレベーターの中は静かだった。


上昇する数字だけが、時間の流れを示している。



---


(本当に行くのか、これ)



---


そう思っているのに、誰も止めない。


止める理由もない。



---


扉が開く。



---


その瞬間。


空気が変わった。



---


音。


笑い声。


グラスの音。


距離の近い会話。



---


日高は一歩遅れて中に入る。



---


「お、来た来た」


田辺が笑う。


「ビビるなって」



---


平岡はもうカウンターにいる。


岡本は誰かと話していた。



---


日高だけが、完全に“外側の人間”だった。



---


「飲み物どうする?」


スタッフらしき女性が声をかけてくる。



---


一瞬、反応が遅れる。


普通の居酒屋とは違う空気。


距離感が分からない。



---


「えっと……」


言葉が出ない。



---


「緊張してる?」



---


振り向くと、女がいた。


白い服。


落ち着いた目。



---


さっきまでいなかったはずなのに、そこにいた。



---


「初めて?」



---


日高はうなずく。



---


「やっぱりね」


女は軽く笑う。



---


「真白って言うの。よろしくね」



---


名前を名乗られた瞬間、少しだけ空気が柔らかくなる。



---


「日高です」



---


「知ってる」



---


その返事に、少し驚く。



---


「さっき聞いたから」


真白は何でもないように言う。



---


その自然さが、逆に落ち着かない。



---


カウンターに座る。


周りはすでに“慣れた人間”の空気だった。



---


日高だけが、まだ観察者だった。



---


「こういう場所、苦手?」


真白が聞く。



---


「……よく分からないです」



---


正直な答えだった。



---


真白は少し頷く。



---


「分からないままでいいと思うよ」



---


その言葉が、少しだけ意外だった。



---


普通なら、


慣れればいい


楽しめばいい



そういう言葉が来ると思っていた。



---


でも違った。



---


「みんな最初は“分からない”から始まる」


真白は続ける。



---


その時、後ろから声がした。



---


「真白〜、また初心者捕まえてるの?」



---


振り向くと、女がいた。


黒い服。


煙草を指に挟んでいる。


目が鋭い。



---


真白は少し困った顔をする。


「美玲さん」



---


美玲と呼ばれた女は、日高を見る。



---


「その顔、危ないね」



---


「……え?」



---


「ここにハマる顔」



---


ストレートだった。



---


日高は何も返せない。



---


美玲は笑う。



---


「こういうとこってさ」



---


煙草を軽く揺らしながら続ける。



---


「現実がしんどい人ほど、居心地よく感じるんだよね」



---


その言葉に、少しだけ引っかかる。



---


(現実がしんどい)



---


否定できなかった。



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仕事。


パチンコ。


帰宅。


繰り返し。



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それが“普通”だと思っていた。



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でも、どこかで思っていた。



---


(これでいいのか?)



---


美玲は視線を外す。



---


「まぁ、すぐ分かるよ」



---


「ここが天国か地獄か」



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その言い方が妙に残った。



---


真白が話題を変えるように言う。



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「日高くん、パチンコするの?」



---


「します」



---


「楽しい?」



---


その質問に詰まる。



---


楽しいのか。



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勝てば少し嬉しい。

負ければイライラする。


でもまた行く。



---


「……分かんないです」



---


真白は軽く笑う。



---


「それ、正直だね」



---


その時だった。


奥で田辺が手を振る。



---


「日高ー!こっち来いよ!」



---


日高は少し迷う。



---


真白は何も言わない。


ただ見ている。



---


美玲も見ている。



---


その視線の中で、日高は立ち上がる。



---


(別に、ちょっと見るだけだ)



---


そう思いながら。



---


その一歩が、


まだ“軽い選択”だと信じていた。



---


第2話 終

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