第19話「店の外で、自分が空っぽだと気づく」
土曜日だった。
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珍しく休日に予定がない。
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以前なら、昼過ぎまで寝て、パチンコへ行っていた。
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でも最近は違う。
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日高 恒一は、昼前に目が覚めた。
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静かな部屋。
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カーテンの隙間から入る光。
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冷蔵庫の音。
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それだけ。
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スマホを見る。
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通知はない。
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少しだけ落ち着かない。
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(何するかな)
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以前の自分なら、
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何も予定がない休日に安心していた。
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でも今は違う。
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“何もない時間”が少し苦しい。
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コンビニへ行く。
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弁当を買う。
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帰宅。
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動画を見る。
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でも集中できない。
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ふと時計を見る。
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まだ15時。
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(長いな)
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休日が“長い”と感じる。
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その感覚に、自分で驚く。
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以前は、
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休日が一瞬で終わるくらい何もしていなかった。
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なのに今は。
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“夜になるまで”を待っている。
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その事実が妙に重い。
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夕方。
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外へ出る。
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駅前。
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人が多い。
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カップル。
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友達同士。
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笑い声。
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その中を歩きながら、
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ふと思う。
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(俺、ここにいる意味あるのかな)
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特に行く場所もない。
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会う人もいない。
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以前はそれが普通だった。
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でも今は、
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“誰かがいる空間”を知ってしまった。
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そして。
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一度知ってしまうと、
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孤独の輪郭がはっきり見える。
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気づけば、
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日高の足は自然に駅前のビルへ向かっていた。
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(また来てる)
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少しだけ苦笑する。
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でも止まらない。
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エレベーター。
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一人。
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数字が上がる。
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その時間だけで、
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少し安心している自分がいる。
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扉が開く。
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音。
光。
空気。
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その瞬間。
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胸の奥が少し軽くなる。
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真白が気づく。
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「こんばんは」
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その声を聞くだけで、
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“戻ってきた”感覚になる。
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「こんばんは」
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真白は少し驚いた顔をする。
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「今日早いね」
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「休みだったので」
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「そっか」
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それだけの会話。
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でも、それだけで安心している。
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奥の席。
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美玲が煙草を吸っている。
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こちらを見て言う。
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「休日に来るようになったか」
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その言葉が少し刺さる。
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日高は笑って誤魔化そうとする。
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「たまたまです」
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美玲は小さく笑う。
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「みんな最初そう言う」
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そして少し間を置いて続ける。
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「でも本当は、“ここ以外で何していいか分からなくなる”んだよね」
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その言葉に、
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返事ができなかった。
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図星だった。
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店の外では、
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何をしても時間が余る。
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何をしても落ち着かない。
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でもここでは違う。
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誰かがいる。
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話し声がある。
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自分の存在が薄くならない。
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その感覚が、
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少しずつ必要になっている。
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席に座る。
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笑い声。
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近い距離。
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ゆるい会話。
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その空気に溶け込みながら、
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ふと思う。
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(店の外の俺、何もないな)
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その考えが、
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思った以上に苦しかった。
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帰り道。
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夜風。
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スマホを見る。
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通知はない。
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部屋へ帰れば、一人。
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でも今は、
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“ここがある”から耐えられている。
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その感覚が、
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静かに危険だった。
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第19話 終




