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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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19/32

第19話「店の外で、自分が空っぽだと気づく」

土曜日だった。



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珍しく休日に予定がない。



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以前なら、昼過ぎまで寝て、パチンコへ行っていた。



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でも最近は違う。



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日高 恒一は、昼前に目が覚めた。



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静かな部屋。



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カーテンの隙間から入る光。



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冷蔵庫の音。



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それだけ。



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スマホを見る。



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通知はない。



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少しだけ落ち着かない。



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(何するかな)



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以前の自分なら、



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何も予定がない休日に安心していた。



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でも今は違う。



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“何もない時間”が少し苦しい。



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コンビニへ行く。



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弁当を買う。



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帰宅。



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動画を見る。



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でも集中できない。



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ふと時計を見る。



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まだ15時。



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(長いな)



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休日が“長い”と感じる。



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その感覚に、自分で驚く。



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以前は、



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休日が一瞬で終わるくらい何もしていなかった。



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なのに今は。



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“夜になるまで”を待っている。



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その事実が妙に重い。



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夕方。



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外へ出る。



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駅前。



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人が多い。



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カップル。



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友達同士。



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笑い声。



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その中を歩きながら、



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ふと思う。



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(俺、ここにいる意味あるのかな)



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特に行く場所もない。



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会う人もいない。



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以前はそれが普通だった。



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でも今は、



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“誰かがいる空間”を知ってしまった。



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そして。



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一度知ってしまうと、



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孤独の輪郭がはっきり見える。



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気づけば、



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日高の足は自然に駅前のビルへ向かっていた。



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(また来てる)



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少しだけ苦笑する。



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でも止まらない。



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エレベーター。



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一人。



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数字が上がる。



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その時間だけで、



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少し安心している自分がいる。



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扉が開く。



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音。


光。


空気。



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その瞬間。



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胸の奥が少し軽くなる。



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真白が気づく。



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「こんばんは」



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その声を聞くだけで、



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“戻ってきた”感覚になる。



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「こんばんは」



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真白は少し驚いた顔をする。



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「今日早いね」



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「休みだったので」



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「そっか」



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それだけの会話。



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でも、それだけで安心している。



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奥の席。



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美玲が煙草を吸っている。



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こちらを見て言う。



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「休日に来るようになったか」



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その言葉が少し刺さる。



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日高は笑って誤魔化そうとする。



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「たまたまです」



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美玲は小さく笑う。



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「みんな最初そう言う」



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そして少し間を置いて続ける。



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「でも本当は、“ここ以外で何していいか分からなくなる”んだよね」



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その言葉に、



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返事ができなかった。



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図星だった。



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店の外では、



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何をしても時間が余る。



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何をしても落ち着かない。



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でもここでは違う。



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誰かがいる。



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話し声がある。



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自分の存在が薄くならない。



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その感覚が、



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少しずつ必要になっている。



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席に座る。



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笑い声。



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近い距離。



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ゆるい会話。



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その空気に溶け込みながら、



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ふと思う。



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(店の外の俺、何もないな)



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その考えが、



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思った以上に苦しかった。



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帰り道。



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夜風。



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スマホを見る。



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通知はない。



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部屋へ帰れば、一人。



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でも今は、



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“ここがある”から耐えられている。



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その感覚が、



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静かに危険だった。



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第19話 終

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