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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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18/32

第18話「“ここだけは失いたくない”と思い始めた」

金曜日だった。



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会社全体が、少しだけ浮ついている。



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「明日休み」という空気。



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以前の日高 恒一にとって、金曜はパチンコの日だった。



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負けても「週末だから」で済ませられる。



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それがいつもの流れだった。



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でも最近は違う。



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田辺が笑いながら言う。



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「今日混んでそうだな」



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平岡も頷く。



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「金曜ですからね」



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もう誰も“どこが”とは言わない。



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それでも全員通じる。



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岡本は缶コーヒーを飲みながら言う。



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「日高、最近完全に馴染んだな」



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「そうですか?」



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「最初のお前、マジで挙動不審だったぞ」



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全員が笑う。



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日高も笑う。



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その笑いが自然だった。



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会社で笑う時より自然。



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それが少し怖い。



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夜。



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駅前。



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ネオン。



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人混み。



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金曜の街は騒がしい。



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だが日高の足は迷わない。



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もう“選択”ではなく、



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“帰る方向”になっている。



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エレベーター。



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上昇。



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数字を見るたび、



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少しだけ気持ちが軽くなる。



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扉が開く。



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音。


光。


熱。



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いつもより人が多い。



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笑い声も大きい。



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だが不思議と落ち着く。



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真白がこちらに気づく。



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「こんばんは」



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「こんばんは」



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その挨拶だけで、



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“来た”という感覚になる。



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真白は少し笑う。



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「今日は人多いね」



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「ですね」



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「でも日高くん、もう普通に馴染んでる」



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その言葉に少しだけ胸がざわつく。



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馴染む。



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以前の自分なら、



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そんなこと絶対にないと思っていた。



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でも今は違う。



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ここにいる時の方が、



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自分が自然だった。



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奥では美玲が煙草を吸っている。



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こちらを見て、小さく笑う。



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「もう“居場所”になってるじゃん」



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日高は反射的に否定しようとする。



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でも言葉が止まる。



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否定できない。



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最近。



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疲れた時。



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孤独な時。



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仕事がしんどい時。



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真っ先に浮かぶのがここだった。



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それはもう、



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ただの遊びではない。



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席に座る。



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笑い声。



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誰かの会話。



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近い距離。



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その空気の中にいると、



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少しだけ“生きている感覚”がある。



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会社では、



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ただ時間を消化している感覚だった。



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でもここでは違う。



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誰かが名前を呼ぶ。



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誰かが話しかける。



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誰かが笑う。



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それだけで、



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自分が“存在している”感じがした。



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そして気づく。



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(ここだけは失いたくない)



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その感情が、



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想像以上に重かった。



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帰り道。



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終電前。



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ホーム。



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田辺が煙草を吸いながら言う。



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「お前、最近楽しそうだな」



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日高は少し考える。



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「……そうかもしれないです」



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その返事が自然だった。



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でも同時に、



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少しだけ怖かった。



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もしここがなくなったら。



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自分には何が残るんだろう。



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その問いが、



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初めて本気で胸に浮かんだ。



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第18話 終

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