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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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第10話「気づかないまま、線を越えている」

日高 恒一は、朝の電車で違和感に気づいた。



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それは体調でもなく、気分でもない。



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もっと曖昧なものだった。



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(昨日、何してたっけ)



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一瞬、思い出せない。



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会社に行って、仕事をして、帰って、そして──



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そこから先が、ぼんやりしている。



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記憶が曖昧なわけではない。



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むしろ“繰り返しすぎて区別がつかない”状態だった。



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田辺が隣に座る。



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「おはよ」



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「おはようございます」



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いつも通りの挨拶。



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田辺は少し日高を見る。



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「お前さ」



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「はい」



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「最近ほんと落ち着いたよな」



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その言葉は何度目か分からない。



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だが今回は少しだけ意味が違う気がした。



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昼休み。



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田辺がスマホを見ながら言う。



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「今日どうする?」



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その質問に、日高は一瞬だけ止まる。



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(今日?)



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会社の話ではない。



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分かっている。



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「いつも通りでいいです」



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そう答えた瞬間、



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自分でも少しだけ違和感があった。



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“いつも通り”



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その言葉が、どこを指しているのか分からなくなってきている。



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夜。



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ハプニングバー。



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エレベーターに乗る。



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一人ではない。



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田辺もいる。



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平岡もいる。



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岡本もいる。



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もう“誘い”ではない。



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“集合”になっている。



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扉が開く。



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音。


光。


人。



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真白が軽く手を振る。



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「こんばんは」



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日高も自然に返す。



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「こんばんは」



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その自然さが少し怖い。



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美玲が奥から言う。



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「もう完全に住人だね」



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日高は何も返さない。



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でも否定もできない。



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田辺が笑う。



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「ほらな、言っただろ」



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平岡も頷く。



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「慣れるもんだな」



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岡本は何も言わないが、落ち着いている。



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全員が“ここ”を知っている空気。



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日高だけがまだ、少しだけ外側にいる気がする。



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だがその“外側”も、薄れている。



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真白が飲み物を渡す。



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「日高くん、今日どうする?」



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その問いはもう確認ではない。



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形式になっている。



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「いつも通りで」



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日高はそう答える。



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その瞬間。



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美玲が小さく笑う。



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「それ言える時点で、もう境界ないよ」



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日高は意味を考えようとする。



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だが、深く考えられない。



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考える必要がなくなっている。



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席に座る。



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会話。


笑い。


流れ。



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すべてが“自動”に近い。



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そしてふと気づく。



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(俺、選んでないな)



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選択しているようで、



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ただ流されているだけ。



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でも不思議と嫌ではない。



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むしろ少し楽だ。



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帰り道。



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田辺が言う。



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「日高、お前もう完全にこっちだな」



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その言葉に、今度は笑えた。



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「そうかもしれないですね」



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自然に出た返事。



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その後、少しだけ沈黙。



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夜風。


ネオン。



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電車の窓に映る自分を見る。



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(どこからが“こっち”なんだ?)



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その問いは、もう答えを必要としていない。



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なぜなら、



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すでに線は越えているからだった。



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第10話 終

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