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ふたりで紡ぐ物語  作者: にしのかなで
第三章
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祝福の女性(ひと)

華やかな夜会が幕を開け新国王アルベリヒの挨拶も終盤に入った。


「さて、この良き日に皆にもう一つ王家の慶事を報せようと思う。今朝、私の即位の儀の場にて降臨された主神ハーヴェイ様より、新しい家族を迎え入れる様話があった。その者は自身には関係のない母親の罪を償うために侯爵令嬢という地位を捨て、市井に身を置き貧しい子どもらに無償で読み書きを教会で教えながら熱心な信仰心と気高い志を持つ女性だ。主神は彼女こそ我が弟、オーランド・アーベル・フェル・デアの花嫁に相応しいとお使い下された。我が王家はこれを喜ばしく光栄に思いこの女性を受け入れることとした、今から祝福の女性を紹介しよう、ヨハンナ・ベル・フォン・ウェスティン侯爵令嬢だ。」


控えの間にいたヨハンナがオーランドにエスコートされ壇上に上がる。見事な艶のある赤茶の髪はセンス良く纏め上げられ真珠の飾りを散りばめている、急な話ではあったが流石ファンテーヌの見立てだけありサイズも丁度であるしオーランドの着ている濃紺の衣装に馴染む薄紫のドレスが彼女の白い肌と赤い髪を際立たせていた。二人が揃って壇上に上がるや大多数の貴族から盛大な拍手が起きる。何しろヨハンナが歩く度にこの国では見られない花弁が何もない宙から舞い落ちるのである、そしてそれは客人らの髪や肩に触れると淡雪の様に消えていく。初めは魔法の演出かと思っていたが壇上のヨハンナがその手に金色の麦の穂を持っているのを見つけた誰かが最初に口火を切った。


「シュヴァリエ公爵令嬢の時も・・・」


「そうだ、確かに麦の奇跡があった。」


「ではあれは本当に主神の祝福?」


「見ろ金に輝いている、魔法師は金を作るべからずだ!」


ざわめきと溜息とその後に盛大な拍手で迎えられたヨハンナはオーランドを見上げて微笑んだ。続けてアルベリヒが話す。


「彼女は今日オルボアの町から王宮に迎え入れた、だが憂うことに途中どこの者とも知れぬ賊に襲われるという危険な目に合っている。首都アデーレでこの様なことが起きるとは全く遺憾に思う。まさかわざわざヨハンナ嬢を襲ったとも考えたくはないが、しかし今回ばかりは相手が悪かった。捕らえた賊は尋問にかけている、皆も道中昼日中でも気をつけて出かける様にな。さあ、では宴を始めよう!」


軽やかな音楽が始まりアルベリヒ夫妻、前国王夫妻に続けてオーランドとヨハンナがダンスの輪に加わる。そこへ双子の妹姫がそれぞれ親戚になるシュヴァリエ公爵家の息子二人を相手に踊り出す。

シュヴァリエ家の上の息子ディルクがパートナーを務めるのは双子の姉のヒルデガルドだ。年の差が大分ある二人だがそれでも絵になる、ディルクと二人の弟は当に結婚しておりいくら絵になるからと言っても下手な噂は立ち様がない。


「ヒルダはまだお相手が決まらないのか?」


「ええ、ディルク兄様。良い方がいらしたら紹介していただきたいわ、それにしてもオーランド兄様羨ましい・・・でも良かったわ、長年の想いが実って。」


「アナスタシアから少し聞いてはいたが、そうかやっと想いが実ったのか。」


「そうよ、後は私達だけ。どの国に嫁ぐことになるのかしら・・・」


「・・・」


もう17歳の二人には縁談が国内外から来ている。父や、兄らと違い彼女らには相手を選ぶ権利があまりないのが哀れに思えた。


「やーねぇ、なに辛気臭い顔してるのよヒルダ。私達だってきっと素晴らしい方がお迎えに来てくれるわよ。」


隣り合って踊る末娘らしい楽天的な発言をするのはヘルツィーナだ。


「あなたは本当に楽天的ねぇ。」


呆れながらもクスリと笑う、そっくりな双子姫は気分も新たにその後2曲踊り壇上に戻った。

その頃、いつもの様に階上の部屋から見取り図に集中しているルディは身重の妻を気遣っていた。カリンは今ルディの魔法で運び込んだベッドに横になっている。


「本当に大丈夫かい?無理していない?」


「ありがとう、でも大丈夫よ。きっとあの麦の穂のお陰ね、ちっとも辛くないの。でも、そうね少し疲れたかも。」


「僕の仕事は気にしないで寝てていいよ。終わるのは深夜だろうし、今夜はここに泊まる様言ってあるから。」


「うん・・・ありがとう。じゃあ、お休みなさい。」


「おやすみ。」


カリンが眠ってしばらくしてから来客があった。近衛の仕事をしているウィレムだ。


「よぉ、お疲れさん。入ってもいいか?」


「やぁ、お疲れ様どうぞ。あ、でもカリンが寝てるから静かにね。」


「ああ。な、聞いたんだけどそのカリンが妊娠してるって話本当か?」


「耳が早いな、本当だよ。」


「へぇ〜、いやぁ良かったなおめでとう。さっき、義兄上から聞かされたんだよ、そしたら姉上がちゃんと確認して来いって言うもんだからさ。うわぁ、なんだろなんか凄い嬉しいんだけど俺。」


ルディは普段の金の瞳に戻って親友を見た。彼は自分より僅か先にカリンに出会い、それから妹の様にずっと可愛がってきた。その言葉は本心からだろう。


「ありがとう、ウィレム。君に喜んでもらえて僕も嬉しいよ、あとごめん。報告が遅くなって。」


「ばーか、気にすんな。俺は正直まさかお前に取られるとは思っていなかったから結婚の話を聞いた時には一発ぶん殴りたかったけどさ、やっぱりカリンにはお前じゃないと駄目だと思う。お前ならカリンを守ってくれるだろう?頼むぜ、あと話が遅れたのは多分みんな気にしないよ。デリケートな話題だからな、慎重になるのは仕方ないさ第一お前には仕事があったんだし周りも解ってくれるさ。じゃ、俺仕事に戻るわカリンによろしく言っといて。」


友人が去り静まり返った部屋で再び見取り図に目をやる。赤い要注意人物は随分と減り大分黒幕も絞れてきた。


「一発殴られなきゃいけなかったのか・・・それは嫌だなぁ。でも、祝福されて良かった。」


片方の頬を手で摩りながら呟く。さて、あと一踏ん張りだ集中して見張らないとな・・・この夜、最後まで赤い点で要注意人物とされたのは何れも伯爵から侯爵位にある人物らだった。後に彼等はそれぞれ尋問を受けることになる。

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