贈り物をあなたに
日中の国民への挨拶行事も終え、王家の主だった人間は国王の会議室に集まっていた。行事とこの後に行われる夜会の僅かで貴重な時間を割いて話し合われるのは勿論、今朝降って湧いた王弟オーランドの結婚についてだ。結論から言えば神が与えた許可以前に父母兄妹から異論はなかった、彼等は皆オーランドの実らぬ恋を不憫に思っていたのだから。だが、昼間の賊を考えるとヨハンナ・ベルの待遇をどうすべきかが問題であった。オルボアに帰すわけにもいかないし、かといって実家が安全とも言い切れない。
「あら、それではヨハンナ嬢にこのまま王宮に部屋を与え魔法省の警護のもと早々に婚約をしたらどうかしら?」
そう発言したのは前王妃キアラである。ねぇあなたと、前国王カルスティンを見やる。
「そうだな、ここ以上に安全な場所はないだろう。大事な花嫁を今日の様な危険な目に合わすわけにはいかん、どうだろう陛下?」
「・・・父上・・・今わざと呼びましたね。」
「仕方なかろう、今日からお前が王なのだから。で、どうする?」
「問題ありません、ヨハンナ嬢はこのまま城内預かり待遇とさせていただきます。さて、オーランドお前達に渡したいものがあるとカリンが言っているらしい。夜会までの間に会ってやれるか?それからファンテーヌ、この先ヨハンナ嬢にドレスが必要になる。似合うドレスを仕立てるよう手配を頼む、予算などは侯爵家と相談してくれ。オブリー、カリンとオーランド達が会えるよう手配をそれから侯爵家の警備の方も手配を頼む。さて、今日最後の大仕事が控えている僅かな時間だが休むとしよう、では解散。」
女性陣は化粧と衣装替えに各々の部屋に散り、オーランドはオブリーと共に部屋を出た。アルベリヒは隣室のソファへと移動し行儀悪く足を投げ出している。
「あー、疲れた。父上は部屋で休まれなくて良いのですか?」
息子と違い行儀良くソファに腰掛ける父に尋ねる。
「化粧や衣装替えが必要なわけではない、移動する時間が惜しい。それよりお前だらしないぞ、全くお前に任せて大丈夫なんだろうか自信がなくなってきた。」
頭を抱える父親にしれっと返す。
「だから前からオーランドにいつでも譲ると言っていたでしょう?しかし、今日は神から「否」が出るんじゃないかと緊張はしましたよ。」
「カーテローゼの弁護のお陰だな。お前あの娘には本当に頭が上がらないぞ、ルディを使いすぎるなよ。」
「はは、元々今までの所業のせいで頭は上がりませんよ。私の代では国王が恐れる妻以外の、唯一の女性ですから。」
新旧の国王が和やかに親子の会話をしている間オーランドの執務室にはカリンが訪れていた。
「カリン、今日はお務めご苦労様。お陰で兄上も立派に戴冠できたよ。で、僕らに渡したいものって?」
「はい、こちらを。今朝ハーヴェイ様がお帰りになる際に残していかれたものです。」
カリンが差し出した麦の穂を見つめ、オーランドは「ふむ」と片手を顎に当て考えてから話した。
「ね、それってさ君へのご褒美なんじゃないの?」
「いいえ。」
「じゃ、兄上への祝いとか?」
「それも違います。こちらは間違いなく殿下への贈り物です、陛下にはまだお見せしていませんが主人が触れようとしたら弾かれました。恐らく贈られた者以外が触れることは出来ないのです。」
「なんで君は持てるの?」
「私は今日の儀式の門の役目でしたから、正当な持ち主に渡すまで一時的に預かっているだけです。見てください、今朝からずっと見ていますが一向に萎れる気配もありません。あの、ところでどうなりましたかヨハンナ・ベル様とは。」
上目遣いで心配気に尋ねてくるカリンにオーランドは優しく微笑んだ。
「心配かけたね、彼女には無事に受け入れてもらえたよ。会いに行こうか?」
その言葉にカリンは心底ホッとした笑みで答える。
「はい、おめでとうございます殿下。」
執務室の隣室に急ごしらえで用意された一時的なヨハンナの部屋に二人は入る。
「っ、カリン⁈」
「ヨハンナ様、この度はおめでとうございます。先程殿下には説明をいたしましたが、こちらの麦の穂をどうぞ。ハーヴェイ様からの祝福です。」
ヨハンナは立ち上がりカリンに駆け寄ったが予想外な贈り物に驚いていた。
「これを、私達に?本当?」
「はい、間違いないです。どうぞお二人でお受け取りください。」
二人がそっと麦の穂を受け取る。その瞬間麦の穂は金色に輝き、二人の間に花弁か舞い始めた。
「え!ええぇっ⁉︎」
「嘘・・・」
神の祝福の為せる技に驚く二人に満足気にカリンは微笑った。
「ね、殿下。やっぱりお二人への贈り物だったでしょう?」
花弁はその後も止むことがなかった。侍女が迎えに訪れ、オーランドが廊下を歩く後ろには花弁が幾つも舞っては落ちていく。流石に一人で、それも兄の祝賀の場にこれではまずいと侍女に伝言を頼むとすぐにファンテーヌと侍女の一団が現れヨハンナに似合うドレスを見繕い髪を結い上げ化粧を施す。その仕上がりに満足すると新王妃は義弟に向かい宣言した。
「この祝福を受け、お義父様、お義母様そしてもちろん陛下からも許可を頂いています。儀式より先になりますが、ヨハンナ嬢を正式な王弟婚約者として今宵貴族の面々に紹介します。お二人ともそのおつもりで。」
そして、ソファに座るカリンに近づき労いの言葉をかける。
「今日はご苦労様でした、あなたは夜会は欠席だったわね?疲れたでしょう身体は大丈夫?ルディのところにすぐ案内させるわね。カリン、今日は本当にありがとう!私達はあなたに感謝しきれないほど沢山のことをしてもらったわ。あとはゆっくり休んでね。」
「いいえ、私はただお役目を果たしただけです。主人の居場所はわかりますので、私はこれで失礼致します。ファンテーヌ様もこれからますます重責なお立場になられますが、お身体にご無理をされない様お気をつけ下さいませ。」
そう告げたカリンがルディの元へ去った後も花弁の祝福は止まなかった。
「凄いわね、この機会にあなた達の邪魔を企む輩に思いっきり神の祝福の花嫁を見せつけてやりましょう!」
気合いの入ったファンテーヌの台詞にただ頷くしかない二人の姿があった。




