待ち人来る
研究室の中ではルディが溜息をついていた。気になるのはカリンの事、招集はもうかかったのだろうか?折角の長期休暇も途中で終わりになり、これからゆっくりと元の生活に戻って行くはずだったのに可哀想な事をしてしまう。それだけが気がかりだった。
そこへ確かにカリンの気配が近づいてくるのを感じた。ノックの音がすると同時に、魔法で閉じられたドアを開く。するとそこにはしっかりとカリンの手を握りしめたオブリーと、アイマスク姿に魔法省への特別通行手形である銀のプレートを胸にしたカリンが立っていた。ルディはまずその繋がれた手を凝視すると身に纏う空気を変えた、それに気づいたオブリーが咄嗟に手を離しカリンを盾にする様に後ろに下がる。
「いや!これはっ、仕方のないことなんですよ⁉︎私は案内係でここまで連れて来ただけですからっ!落ち着いて下さいね〜、はいカリン。後は任せたよ、頼んだからね⁉︎」
そう言い残し、帰りは移動魔法で瞬時に逃げる様に消えたオブリーだった。
「え?あれ、もう着いたんですか。あら、いないのかなオブリーさーん・・・うあっ⁈」
暗闇の中、確かに覚えのある胸板に抱き締められる。そして、その人はカリンの肩に顔を埋めた。
「ルディ?」
「うん。」
「あの、私呼び出されてそれでこれから儀式までの間することがないの。」
「それなのに、連れて来られたの?酷いな。」
「そうなの、酷いの。でもね、その間一人で家であなたを待たなくてよくなったの。私の仕事はあなたの手助けなんだって、私お茶を入れるくらいしか出来ないけどいても邪魔じゃない?一緒に居てもいい?」
複雑な魔法を作り出すため集中力がいる。そのため拒絶、という道もあるので不安で声が震える。しかし、ますますぎゅうっと抱き締められさらに背中と膝の裏に手を添えられるとあっという間に抱き上げられた。そのままドアの中に連れ込まれると椅子に座らされ、呪文を唱えながらそっとアイマスクを外される。薄暗い研究室のなかでルディだけがボウッとぼんやりした光に包まれていた。その姿はいつもと変わらずまだ暴走をしていないようだ。カリンはホッとして微笑む。
「ここに来るまで怖い思いはしなかった?」
「はい。オブリーさんが防音魔法とアイマスクをしてくれたので。あ!あのっ、手を繋いでいたのは不可抗力であちらも以前みたいに抱きかかえて連れてくるわけには行かなくって・・・。」
「ああ、そうか・・・そうだよな。君が抱き上げられて登場してたら確かに彼は無事じゃ済まなかったよ。いくらオブリーさんが相手でも手を繋いでるの見たらさすがに嫌だったんだよ。」
「子どもの時ならまず抱き上げられてましたよ?」
「うん、でもそっちよりその・・・僕以外と手を繋いでいるのがさ、嫌だったんだ。それにしても、よく来てくれたね。」
「お邪魔じゃない?」
「うん、全然邪魔なんかじゃない。むしろ来てくれて嬉しい。」
薄明かりの中でもカリンの頬が紅く染まるのがわかった、ホッと息をつくのを感じる。
「でも、君どこか部屋は貰ってる?ここは魔法を錬るから薄暗いんだよね。」
「そういえば、部屋については何も言われてないわ。あの執務室で寝起きしてもいい?というか、ルディはどこで寝泊まりするの?」
「ん?僕はこの部屋から多分出ないよ。」
「寝る場所はあるの⁈食事はっ⁉︎」
「えーっと、眠くなったら気づいたら床とかで寝てる・・・食事はとりあえずここに入る前に保存食を買い込んだから・・・」
「駄目ですっ!こんな大事なお仕事を請け負ってそんな生活なんて。ここは調理できる設備はないの?」
「あー、うん。簡易の調理場にトイレに風呂場は一応付いてるけど。」
「なんでそれ使わないのっ!もう、私の仕事は解ったわ。あなたに健全な生活を提供しつつ魔力の安定を図る、じゃあ私お掃除勝手にやっていいかしら?」
「いや!待って、ここには開発中の魔具とかあるし得体の知れない魔法草なんかも生えてるからどんな影響があるかわからないよ。とにかく、僕が一度綺麗にするから。」
そう言うと杖を取り一振りする。それだけで魔法に使う道具があるべき場所に帰る。二振りすれば床の上や柱に絡みついた蔦などがきえる。三振り目で調理場などが綺麗になった。たった三振りでこれだけ綺麗になるのだ、常日頃から気をつければいいのにとカリンは目を細めてルディを見る。
「えーっとね、魔法に集中するとついつい億劫になるんだよ。さて、と生活空間もついでに作るかな。これはちょっと大きな魔法になるから下がってて。」
そう言うとルディはチョークで床に魔法陣を描きだし、呪文を唱える。ガタガタと軽い地震の様な揺れが続きそれが止まると調理場の奥に今まではなかった部屋ができている。
「すごい!」
「見て来てご覧。」
カリンが恐る恐る足を踏み入れた場所は懐かしい離れで使っていた自分の部屋と同じ作りになっている上に窓の外にも離れからの風景が見えた。
「ルディ⁉︎これって・・・」
「ちょっと懐かしくなったからね。作ってみた。空間を捻じ曲げてるから窓を開けたりしたらダメだよ、本物に影響が出るから。カリンはこの部屋で休むといいよ、買い物にも行ける様に後でしてあげる。」
「懐かしい・・・また帰れるなんて、ルディありがとう!」
満面の笑みで抱きついてくるカリンを受け止め額に口づけを落とす。
「僕も君が来てくれて嬉しいし助かるよ。あまり何度も引き離されると自分が人であることを忘れそうで怖いんだ。」
そう言ってカリンを抱き締めるルディの声は少し震えていた。




