二人の一大事。
「おはよう、ルディ」
眠い目をこすりながら薄明るい研究室にペタペタと出て行く。この人はまた徹夜したのだろうか?
「おはよう、じゃないよまだ夜中だ。」
「えっ、どうりで眠いはずだわ。」
そう言いながら机の端っこに邪魔にならない様椅子を持って行き腰掛ける。ルディはここ魔法省の研究室に籠って日に日に迫ってくる即位の儀の為の魔法を錬っている。本当なら自分がいるのは邪魔なんじゃないかなと、カリンは時々心配になるけれどドアの外でたまに会うオブリーや他の魔法師達が、
「術式の仕上がりが俄然速くて丁寧で繊細で強固で完璧!これもカリンさんのお陰ですっ、これつまらないものですがお二人でどうぞ!」
なんて言って食料やお菓子を差し入れてくれるからカリンも結局買い物に殆ど出ずに済んでいる。その状況に疑問を感じていると、
「いいんですよそれで。はいこれ、ウチで採れた野菜ですあと足りないものはないですか?」
と、ハース王太子付き秘書官までが食材を届けに来てくれそういうので「じゃあ、お言葉に甘えて」と、いう現況だ。そんな事をうつらうつら考えているとガツンと額に衝撃がきた。
「う〜っ、いった〜い。」
涙目になりながらおでこを摩っているとルディが飛んできた。
「ちょ、大丈夫カリン⁉︎」
「あたた。だ、大丈夫ごめんなさい邪魔して。」
「いや、いいよ。落ち着いて眠れないだろう?僕もそろそろ寝るよ、おでこ冷やそうか?」
うーん、迷惑かけてるなぁと思いながら額に冷たいタオルを押し当ててくれているその人に瞳を閉じたまま尋ねてみる。
「あのね?」
「うん?」
「私、邪魔してないかなぁって心配になる。」
「してないよ。」
「本当?」
「うん、みんなも言ってる通り君がいると仕事が正確に捗る。誰かに何かいわれたの?」
「ううん。ちがうの、ただこうやって寝ぼけて手間かけさせて悪いなぁって。」
そこでルディがハタと気づいた様にタオルを置き顎に手を当てる。
「そういえば君さぁ、小さい頃はこんな事なかったのにあの旅行に出た辺りから時々寝ぼけるよね。」
私はまだジンジンと痛む額にタオルを当て直し答える。
「そう?いつ?」
「ほら海にいた時にさ、寝ぼけて床の上で寝てただろう?あの後も何度かあるよ夜中起き上がってぼんやりすることがさ。寝言も言うし。」
「嘘っ⁉︎」
「いやホント、さっきも何か言ってたよ。」
「・・・」
「あれ、おーい、カリン?」
ルディの言葉に固まった私の目の前で彼の繊細ででも男の人らしい掌がヒラヒラと舞う。夢を見た・・・気がする。とっても幸せでふかふかの布団に包まってる様な気持ちのいい夢。
「うぅ、もぉ寝るっ。」
ペタペタと額をさすりながらまた寝室に帰り上掛けを頭から被る、枕に頭を乗せて考える。すごく大事な夢だった気がするんだけど、なんか大切なことを忘れてる気がするんだけど・・・。
「う〜ん、思い出せない・・・。」
上掛けがヒョイと持ち上がってルディが隣に滑り込んで来た。
「思い出せないってなにが?」
「わかんない、ってゆうかわかんないから困ってるのに何がって聞かれても・・・あはは。」
「あ、そうか。それもそうだね、はは。」
疲れが溜まってるなぁ。最近のルディは徹夜も当たり前にこなしている。腕枕をしてくれるその腕の中で自然と小さく歌を呟く様に歌う。それを聞きながら瞳を閉じたルディはもう夢の国に入ってしまった様だ、私も瞳を閉じる。明日は疲労回復メニューを作ろう。たまには、ゆっくりご飯を食べてもらおう。
翌朝、いつもより早起きし朝食の支度をしているところにルディが起きてきた。
「おはよう。今日は休むよ、久しぶりに外に出てみようか?」
驚いた顔で振り返ると彼は笑いながら、魔具の製作も予定より進んでいるしたまには休みを入れた方が効率もいいだろうからと言う。予定変更、簡単な朝食に切り替えて出かける準備をする。
「どこか行きたいところはある?」
「・・・えっと、一箇所だけあります。後は食材の買い物とかぐらいかな。」
「ふうん。どこ?その行き先。」
「・・・・・んー、後で話すね。」
食器を片付けて、簡単な掃除をしてから着替えをして出かける準備は完了。さて、なんと切り出そうか・・・忘れていた大切な事を思い出したが、その内容は二人にとってかなりデリケートな内容で現在最重要任務の最中の彼に話していいものかどうか・・・非常に迷う。
「あのね、ルディ驚かないで聞いてくれる?今のあなたの状況を考えると話すべきかどうか悩むんだけど・・・」
振り返って怪訝な顔をしながらも、彼が言う。
「確かに今の僕の立場は面倒だけれど、僕ら二人に関わることなら秘密は無しだよ。」
そばに来て椅子にカリンを座らせて、その目線に合わせて膝を折る。カリンは一大決心をして言葉を発する。
「あのね、その。忘れていたことを思い出したの。」
「うん。」
深呼吸をしゴクリと唾を飲み込んでその内容を告げる。
「それでね私、多分お腹に赤ちゃんがいる・・・と、思う。」
ルディは金の両目を見開いて、カリンの両肩にそっと手を添え震える声で問い返す。
「それ、本当?」
「うん、多分。ここ最近月のモノがないのを思い出したの・・・で、今日二人で出かけられるのならお医者さんに行こうと思うんだけど・・・」
ふわりと抱き締められる。
「うん、行こう。馬車を手配するよ、すぐに行こう。」
ルディはカリンを抱き締めたまま無意識に魔法省の入り口にと移動魔法を使っていた。そのまま窓口で外出の手続きを済ませ、同時に貴族クラスの馬車を借りる手配もする。カリンは普段質素なルディが借り出したシンプルだが内装が豪華な馬車に驚いてしばらく馬車を見つめたまま立ちつくした。




