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ふたりで紡ぐ物語  作者: にしのかなで
第二章
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再出発

カリンの快気祝いが終わってから二日後、二人はまた気分も新たに旅に出た。前日には腰まであった髪を背中の真ん中あたりでフェンリルに惜しまれつつも鋏を入れてもらい、その日の夜にルディとふたりだけで魔法の火を使い燃やしてしまった。ルディがかけたまじないのお陰か朝にはスッキリした顔で馬車に乗り込んだ。先だって旅に出た時の曇りのある表情はないが、か細く白い腕はまだ頼りなげだった。


「今度はどこに行くの?私、まだ聞いてないし知らないままなんて不安だわ。」


少し頬を膨らませ不満げに問いかけてくるカリンにそれは着いてからのお楽しみとはぐらかすと、それなら着くまで口をきかないとやり返される。


「わかったよ。実は少尉にウルリヒへ行けってしつこく言われたんだけど、国外へ出るには手続きが面倒だしこの前とは違う避暑地に行こうと思ってさ。」


「どこ⁉︎海?山?」


「海はこれから暑いから、今の君にはちょっと厳しいんじゃないかなぁ。そんなに気に入ったの?海が。」


「はい!夏には泳ぎにおいでって女将さんが言ってたし、私泳いだことないし。」


「は〜あ、僕が爵位を取ったら君は自由を奪われて怒るだろうね。名ばかりでも貴族が海水浴なんて大変だ。」


「まさか爵位を⁈」


「例え話さ、取らないよ。でもごめん、海は予定外で山の方だよ気に入ると思うけど。」


「え〜っ、海じゃないの・・・美味しいものあるかなぁ。」


そこで吹き出されてますます膨れるカリンを宥めすかして二人で馬車旅を楽しんだ。街を離れ村を通り幾つか町を通過して辿り着いたのは夜だった。はしゃぎ疲れて眠ってしまったカリンをそのままにして魔法の力で荷物を貸別荘に運び込み最後にカリンをなんとか起こすと馬車をコンパクトに畳み旅行鞄に入れる。


室内に明かりを燈すと暗がりで見えづらかったがこの建物が平屋建ての一軒家で窓から見える明かりから想像すると、前回の避暑地と同じく近隣とは程よく適度な距離があるのがわかった。自炊出来る様キッチンもあり寝室は一つに広めの居間があるシンプルな内装だが寝室の落ち着いた壁紙や家具、温かみのあるキッチンに可愛らしい小花模様の壁紙の居間にこれまたカリンの好みであるロココ調の可愛らしいソファなどの家具があり黒髪の魔法師は妻から感激の抱擁を受けた。


「素敵っ!私すっごく気に入ったわここ、ありがとうルディ‼︎」


さっきまでの眠気と疲れはどこへ行ったのか一転してはしゃぎ回るカリンを笑いながら横目に杖を片手に荷物を操る。洋服はクローゼットに暇潰しの書物は居間のテーブルにとそれぞれが定位置に付き落ち着いた頃にふと、妻が静かになっていることに気づく。


「どうかした?」


「お、お腹空いた・・・///」


吹き出しかけたがあまりに真面目に恥ずかしそうに言うカリンが可愛らしく、とりあえず抱きしめると荷物の中から最後に途中で買ったパンをテーブルに広げキッチンにあった薬缶でお湯を沸かしお茶を入れる。目の前のカリンは一通り準備できたので、後はお預けを喰らった子犬の様な顔で食事の合図を待っている。


(尻尾が見えそうだな・・・)


くすくす笑ってルディがさあどうぞと声を掛ける。すぐさま子犬から冬眠前のリスの様に口いっぱいにパンを頬張る姿を見るのは自分だけの特権だと、内心ほくそ笑む。


「?」


「なんでもないよ。ごめんね、今日はこんな夕飯なんだけど明日は町に出てみよう。」


ムグムグと口の中いっぱいのパンを咀嚼し終えるとカリンは首を振った。


「私こそごめんなさいっ。眠っててご飯のことすっかり忘れてた、何か食材買えばよかったのに馬車が止まったのも全っ然気がつかなくて。」


申し訳なさ気にカリンが言うがルディはそれで良かったのだ。この度の目的はカリンのリフレッシュが目的で、日頃の事は忘れてくれた方がいいのだ。


「でも、明日楽しみーっ!夏なのに窓開けたらこんなに涼しいし、山もいいね!明日はなに着ようかな〜。」


食べ終えた食器を鼻歌交じりで片付けながら明日を楽しみにするカリンをテーブル越しに眺めながらホッとする、肩の力が抜けて離れにいた無邪気な頃のカリンに戻った様だ。


連れて来て良かった。


そう思い最後の一口のお茶を飲み干すと自分も台所に入り片付けを手伝い始めた。


二人が訪れたこの地は首都アデーレから北にあり、高い山々に囲まれた小さな街の片隅だった。ハヴェルン三大避暑地の一つで、大きな湖にウルリヒ側からの雪解け水が豊かに流れ込んで来るこの地の名前はデアルスツ。現在の王家であるデア家の祖先が統治していた土地であるためか貴族の別荘も多く、王太子夫妻の新婚旅行先にも選ばれた。そう、今回はアルベリヒの計らいで二人にこの別荘が貸し出されたのだ。カリンがその話を聞かされたのは寝室でだった。


「え、殿下がですか⁉︎」


「そう、君の事を大層心配してね養母さんは一日に何度も殿下からカリンの容体を知らせる様催促されてたらしいよ。今回の事は随分と気に病んでるみたいだね。」


「うわ〜、申し訳ないですねぇ。」


「で、カリンが目覚めたらまた旅に出るだろうからってここを提供してくれたんだ。王室の持ち物ではないけどなるだけ静かに静養出来る様にって考えて下さった様だよ、王室絡みの物件じゃゆっくりできないだろうって。」


「殿下も私を労わる心があったんですね。私はてっきり面白いおもちゃの様に扱われていると思ってました。」


「はははっ、それはないよ酷いなカリン。」


「だって、今までの行いを振り返るとそれ以外考えられませんもの!って、でも良かったありがたいことです殿下にそんな風に思っていただけるなんて。お土産奮発しなくっちゃ。」


「そうだね、品物より君の土産話を聞く方が喜ばれると思うよ。帰ったら一度二人でお城に行こう、さあ明日からは王家所縁のこの地の観光に忙しくなるからもう寝ようか。」


「はい、おやすみなさい。」


「おやすみ。」


程なく旅の疲れから二人とも深い眠りに落ちた。


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