ふたりでみた夢
パタンとドアを閉め部屋の窓を開ける。四季のあるハヴェルンはこれから夏本番に向け暑くなるが、早朝の涼やかな風が窓から入りカーテンを揺らす。
ベッドの脇にしゃがみ込みカリンの目線になる。子どもの様に邪気のない顔で眠っているが、今朝起きた時と寝相が変わっている事に気づき本当に眠っているだけなんだと安心しながら顔にかかった髪を整えてから上掛けから出た手を握る。
ごめん、カリン。疲れたよね、辛かったよね?今までずっと僕中心の生活をしてきて、ちっとも我儘言わないで子どもらしい事をできてたのかな。なんだかいつも危険で面倒臭いことに巻き込まれて、それでも文句言わずについて来てくれて・・・。
「ああぁ〜。結婚してもすぐに三ヶ月も放っといたし、その後も忙しくって自分優先だったよなぁ・・・」
頭を抱え込んでベッドに突っ伏す。
カリン、カリン、カリン。大事な大切な僕のカリン、目を覚ますか僕を受け入れて交流しないと食事もせずに眠っていたら体力を消耗するだけだよ。細い体がますます細くなるよ。いろいろ考えながら突っ伏していたら頭に何かが触った。
「⁉︎」
「私、我慢とかしてませんよ。」
「カリン!目が覚めた⁉︎」
「夢、見てました色んな夢。ルディの赤ちゃんの時も見たし、それからなんだか色々。あの子達も出てきました、結局誰なんでしょうね?ほら、同窓会で出会った子ども。」
「ああ!いたね、そういえば。ハーヴェイ様のお使い?かなぁ。」
「あの子、お兄さんの方はルディの小さい時に似てるんです。ねぇ、ルディ私の話しを聞いて・・・」
「うん、話してくれるんだね。ちゃんと聞くよ。」
ルディが座り直しカリンのか細い手をしっかりと握ると、カリンも握り返してきた。
「あ、のね?アナスタシア様達がまだご出産される前だったの。あなたは仕事で研究室に詰めてて、しばらく私一人でいたある日にね湯浴みをしていたらお腹が痛くなってそうしたら真っ赤な血が流れて・・・駄目だったの。私、何と無く赤ちゃんができてる気はしてたのに、わかってたのに守れなかったの、選ばれなかったのあの子のお母さんになれなかったの・・・・・」
ポタポタと涙を零しながら苦しそうに話す。
「でも、まだ間に合うかもってお医者様にも行ったの。だけど、駄目だった・・・内を綺麗にしてくれてまだ形になる前だったって教えてもらったの。よくあることだって、それから私の責任じゃなくて誰も悪くないんだって、お母さんに選ばれなかったんじゃないから大丈夫だって・・・でも、でもこんな大事なこと今まで黙っていてごめんなさい・・・っ!」
枕元に置いてあった乾いたタオルを渡し抱き寄せた。
「謝るのは君じゃない、いつか話してくれると待っていた僕の方だ。一人で抱え込ませてごめん、僕から聞き出せばよかったんだ。」
ごめん、ごめんとルディは泣きながら抱きしめてくれた。やっと話せた、あの子のお父さんに・・・。
「ごめんなさい、ルディ。あなただってあの子のお父さんなのに、ちゃんと話さなくってごめんなさい。」
「うん、うん。もういい、もういいから。君が無事に元気でいてくれたら僕はそれでいいから。」
「う〜・・・・・っ・・く」
泣いて泣いてたくさん泣いて泣き疲れて二人ともそのまま眠ってしまった。そして、夢をみた。あの会場で見た女の子が笑っている。側にはカリンが会ったという僕とは違うサラサラの黒髪の少年がいる。僕らは夢の中で四人で走り回った。少し仏頂面の少年もすぐに笑顔を見せた。それから眩しい光の中に二人が入って行きながらこちらを振り返り手を振る、僕らも手を振り返す。不思議と別れの寂しさはない、カリンと僕は手を繋いで二人を見送った・・・。
パチリ
目を開けると養母が心配そうに覗き込んでいた。
「え?あれ、養母さん?」
「ああ、やっと目を覚ました。あんた3日も眠ってたんだよ。どうやら交流は上手く行った様だね。カリンもじきに目が覚めるだろう、顔色が良くなっているからね。さ、食事の用意をしてくるよ。」
「ん・・・おはようございます。」
「カリン!よかった、身体はなんともないかい?」
「はい、お義母さん。あ〜、お腹空きました。」
カリンの台詞に二人が笑うと彼女は真剣な顔で
「だって私、あの会場でも何にも食べてないんですよ!」
と、膨れるのでツェツィーリアがはいはいじゃあご馳走にしなきゃねと笑いながら部屋を出る。それからカリンはルディに向き直り
「心配かけてごめんなさい。あの私、皆とご馳走が食べたいです。」
「え、大丈夫?」
「はい。一人で眠っていた時に、周りの皆さんがどれだけ心配してくれてるか見えました。だから、早く元の生活に戻りたい、腫れ物扱いは嫌だもの。」
「わかったよ。じゃあ、皆に連絡しなくちゃね。」
「あ、クラークご夫妻も招待できますか?」
「きっと、喜ぶよ。」
窓を開けて使い魔の小鳥を何羽か放つ。そして、夜通し祝宴が開かれた。もちろん、カリンの快復を祝ってだ。子供達は先日渡したお土産を腕や首に飾りカリンに見せている。ルリは子ども好きな様ですっかりその側で打ち解けている。
ここもあと少し滞在したらまた二人で旅に出よう。
「今度はどこへ行くのよ?」
アナスタシアに問われる。
「ウルリヒは今の時期いいぞ。」
少尉が言う。うーん、ウルリヒか・・・色々あったからなぁ。まあ候補には入れておこうと、焚き火を見ながらぼんやり考える。
「留守中は私が手入れしておきますから、今度こそお二人でしっかり休んで来て下さいな。」
「ありがとう、フェンリルさん。」
話しているとアニエスが近づいて来た。
「招いてくれてありがとうルディ、ルリがすごく喜んでる。周りの環境も良さそうだし、空き家はないのかな?」
「え!引っ越してくる気かい⁉︎」
「ああ、いい物件があればね。」
「それなら少尉のお宅の隣があいてるでしょう?」
「ああ、そーだ聞いてみるよ。今から外回り見に行くか?」
「いいですねぇ。」
男二人が意気投合し見学ツアーに出た。
「ルリさんの意見はいいのかな?」
「彼女は筋金入りの子鹿会会員でしたから、カリンの側ならどこだっていいでしょう。それより、本当に大丈夫ですかカリンは。」
「心配おかけしました、オブリーさん。もう、大丈夫です。」
「昔から我慢強い子でしたからねぇ。」
「はは、そこに僕が甘え過ぎてました。反省しています。これからはなんでも話せる関係にならないと、今回の事件はまぁいい経験になりましたよ。」
「しっかり頼みますよ。私の妹、いや育てた娘の様な子ですから。」
「はい、すいません。」
ふふっと、二人で笑ってカリンを見る。楽しげに笑って・・・そう、あの夢の中の様に子ども達と駆け回っている。
さあ、次はどこへ行こうか。僕は考えながら彼女に近づいて行った。




