分かち合う哀しみ
意識を手放したカリンが後ろに倒れこむ瞬間何人かの魔女が集まり、まるで大切な宝物を扱う様にふわりと受け止めた。
「カリン‼︎」
先に倒れたエリカをオブリーとアニエスに任せルディがカリンに駆け寄る。魔女たちが厳かにカリンをルディに託す、その間にも他の魔女たちが集まってきて皆がカリンに手をかざす。カリンは呼吸をしていない様に見えた、まるで時間が止まったかの様に倒れたまま動かない。ルディが狂った様に名を叫ぶ中、魔女の輪を掻き分けて少尉がカリンからルディを引き離す。
「落ち着け!なんか知らんがこの魔女さん達に任せておけっ。」
再びカリンは魔女達に囲まれる。皆が杖を出しカリンの上にかざす。そこから金色の光が出てカリンを包んでゆく。
「ガウス様!カリンさんは大丈夫です生きています‼︎」
輪の中からルリの声が聞こえた。
「は・・・ぶ、じ?」
「な?良かったな!無事だってよ‼︎」
「はい、ご無事でございます!ただ、意識が・・・あ、カリンさん!気がつきました?分かりますか⁈」
「あのこ・・・どこ?」
「あの子?あの錬成された子ですか、あの子は・・・」
「ルリさん、後は僕が。」
少尉の脇をすり抜けルディが輪の中に向かう。
「ありがとう、みんな。後は僕がやるから・・・。」
輪が二手に分かれルディを通す。
「慈しみを持つ娘に平和が訪れます様に。」
「哀しみを知る娘がこれ以上哀しまなくて済む様に。」
「優しさに溢れた娘に幸福が訪れます様に。」
ルディがカリンを輪から出すまでの間、魔女達は口々に幸福を願う言霊をカリンに投げかけた。
「私達の友の妻に穏やかな日々が訪れます様に。」
彼女達はたった一人で禁断の魔女に立ち向かったカリンの勇気と、子を成したくても成せぬ魔法師の哀れを知るカリンに深く共感し感謝を感じていたのだった。
「帰ろう、カリン。」
腕の中でか細く呼吸するカリンが一瞬目を開けた。
「ルディ、あのこは?」
「うん、居るよ君と僕の中に。安心してお眠り。」
それを聞くと薄く笑ってスウッと、眠りに落ちた。
「少尉、すみません先に帰ります。お願いがあるのですが、この後の処置をうちの養母に連絡してもらえますか?」
「お、おぅ解った。」
少尉の返事を聞くとルディはかき消す様に移動魔法で家に帰った。
残された会場内は色んなものが壊された凄まじい惨状だったが、余力のある者は修復魔法でそれらを戻し怪我を負った者には癒術が施された。エリカ・ペインは重症ではあったが命は取り留めていて魔法省の役人に連れて行かれた。
どんな仕掛けが残されているかわからず、会場となった建物は魔法省による調査が終わるまで立ち入り禁止となり避難していた王太子らは王宮で報告を待っていた。
「で、カリンは大丈夫なのか?」
報告に上がったオブリーらが最初に問われたのはエリカの事ではなくカリンの身の安否だった。オブリーがことの詳細を話し終えると、アルベリヒは難しい顔をして言った。
「そうか・・・またあの二人を犠牲にしたのだな、申し訳ない事だ。それで予後はどうなんだ?」
オブリーが険しい顔をする。
「なんだ?いつもなら二人が交流とやらをして目を覚ますだろう⁉︎」
エリカ討伐からルディによって家に運ばれたカリンはやはり目を覚まさなかった、今のカリンは一人静かに眠っている。
「そうか。ああ、エリカ・ペインはどうなった?」
「暗部の者により思考と記憶を覗いていますがなかなかに強情で、これまでの中で一番手を焼いています。下手をすれば廃人になりかねませんし、事は慎重に行われる予定です。」
「本当に赤ん坊は出来ていたのか?」
それにはクラーク夫妻が答えた。
「はい、アレを赤ん坊と言うのならば確かに人の体は成してはいましたがとても正視できる代物ではありませんでした。まず私が抱きましたが重さなどは確かに人の子並にありました、次に妻が身体を視たのですが・・・。」
「はい、私が主人から受け取り身体を確かめました。髪はエリカと同じ金麦色、瞳は片方がやはりエリカと同じ青でもう一方は黒でした。顔に出ていた斑点は身体中あちこちにもあり・・・泣いてはいるのですが脈がありませんでした。その後魔法省職員の方に預けたのですがその方の衣服にエリカが火を付け弾みでソレを落としてしまいました。普通ならば無事ではないでしょうにソレは傷一つなく、しかも確かに私達が抱いた時には生後間も無い姿でしたが驚く速さで成長し立ち上がりました・・・本当に恐ろしい事でございます。」
「そして、どうやらその成長速度はエリカも予想外だった様で失敗作と見なされ消し去られたと言うわけです。」
3人の報告を聞いて王太子は顔をしかめた、なんとも薄気味悪い話しである。しかもその後の報告を聞けば、次はエリカ自身の体内で錬成させるつもりだったらしいと聞けば余計に吐き気と怒りがこみ上げてくる。
カリンから渡されたデザートを検証した結果、カリンが手をつければ惚れ薬になるが他人が手を付ければ害はないという巧妙な手口でありオーランドが会場内で何かしら口にすればそれもたちまち惚れ薬になったのだろう。カリンが銀の短刀でケーキを切った際には毒々しい煙が上がったらしいが、魔法師が普通にフォークで刺してもその状況にはならなかったのだから知らずに食べれば気づき様がない。全くややこしい禁術を使っている様だとアルベリヒはますます胃の辺りがムカついてくる。
それにしても、カリンを取り囲んだ魔女達は何を思ったのだろう・・・。話しによれば、カリンに労いとも感謝とも取れる様な言葉をかけていたらしい。
「あの、私思うのですがカリンさんお子様を亡くされたことがあるのではないのでしょうか?それを感じ取った魔女の方々が同じ哀しみを知るカリンさんに早い回復とこの先の祝福を願い言霊を投げかけたのでは・・・?」
「カリンがかっ⁉︎そんな話しはこの3年聞いたことがないぞ。」
「もしや、ルディも知らされてないのでは・・・」
「あり得ますね。あの子ならば早い段階でそうなった場合には気を使い、話さないで何事もなく振る舞うでしょう。そうか・・・いつの話かはわかりかねますが、それならばカリンのあの力の暴発も辻褄が合う。」
「・・・・・オブリー今回はお前に暇はやれんが代わりにツェツィーリアに毎日カリンの容体を詳細に報告する様に頼んでくれ、俺は陛下に報告してくる。皆、今日はご苦労だったすまんが明日からも忙しいと思う、今夜は下がってゆっくり休んでくれ。」
重たい足取りでアルベリヒは父王に会いに行った。




