金と銀の双璧〜禁断の魔法〜
壇上では既に二人の魔法合戦が繰り広げられていた。歓声が上がる、会場内の魔女の胸元に赤い薔薇が一瞬で添えられたのだ。女性陣からオブリーに拍手が送られる。それに対しエリカが男性陣に白い薔薇を飾るとまたもや拍手と歓声が湧いた。皆、あくまで余興と思っているので楽しんで見ているがその影で近衛らの動きがあることに気づいていない。
何度かオブリーが出したものに対抗してエリカが似たものを作り出す事が交わされるうちにそれは起きた。
「きゃっ⁉︎」
小さな小鳥がオブリーの杖から生み出されエリカの周りを囲み飛び回る。最初驚いたエリカだが、この可愛らしい幻術の小鳥達に囲まれた姿は男性陣からの感嘆の溜息が漏れ聞こえてくることで気を取り直した。彼らが感嘆しているのは術だけでなく小鳥達がエリカの美しさを引き立てているとわかったからだ。しかしこれは何らかの合図であったらしい、クラーク夫妻と少尉に動きがあった。アニエスは前に近づき、ルリと少尉はカリンの前後を守る様にして立つ。
「随分と可愛らしいモノをお出しになるんですね。」
「物足りなかったかな?じゃあ、これはどうだい。」
次に出されたのは漆黒の烏の群れだった。ソレらはエリカに向かい周りにいた小鳥を消し去るとエリカを取り囲み攻撃の体制をとっている。
「⁉︎」
今までの穏やかなやり取りで不意をつかれたエリカは、それでもとっさに防御の体制を取り一羽の大きな鳥を作り出し烏を追い払う。
しかし、払えど払えど烏は湧いて出て来る。
「さあ、ここからは本気を出そうか。君も本気でかかってきたまえ。」
しかし、エリカは烏に取り囲まれ追い払うのが精一杯に見えた。あの作り出された大きな鳥も烏によってかき消されている、エリカは片足をダンッと踏み鳴らしたその爪先からオブリーの元まで亀裂が入る。
「ははっ、いいねぇ。でもこんなもんじゃないだろう?」
オブリーがそう言うと、手前のテーブルからナイフとフォークが浮かび上がり彼を目掛けて飛んでくる。それをオブリーがテーブルクロスで全て包み床に落とすと次のテーブルからまた同じことが起きる。
段々と見物していた魔法師らがざわめき始めた。
「なぁ、これいくらなんでもやばいんじゃないか?」
「エリカも負けを認めればいいのに。」
(負けを認めろですって?)
次は魔法師らに向かい刃物が浮かび上がる、咄嗟に皆が杖を抜いた。黒い塊の中にいるエリカは次々と魔法師らにも攻撃をかける。
「うわっ!」
「ちょっとこれ、余興じゃすまないよ。」
魔法師らも次々とかかる攻撃に応戦する。
「エリカ!止めるんだっ‼︎」
ルディが叫ぶと烏の群れを消し去りエリカの姿が現れた、その瞳には狂気が宿っている。
「止めないわ、私が勝つまで・・・⁉︎あなた、なぜそこにいるのっ。」
今度はカリンを凝視する、計画が成功していたと思っていたためにその驚きは大きかった様だがすぐにカリンに向かい真っ直ぐにナイフを飛ばす。しかし、カリンはそれを仕込んであったナイフで打ち落とした。
「すみません、折角のデザートをあんなに不味そうにされては食べる気も起きませんでした。」
しれっと話すカリンを見るエリカの表情は怒りに満ちていた。美麗な眉は釣り上がり瞳は怒りのためか狂気のせいか青味が増している。口元は悔しさに唇を噛み締め今にも切れそうであった。
「そう、私には美味しく感じたからあなたにももっと美味しくいただいてほしかったのだけれど・・・つまりあなたのその様子から見て私の計画はもうバレているのね?」
「の、様ですよ。私と主人は知りませんでしたが。」
返事をするとエリカから鋭い先を持つ鳥の羽がカリン目掛けて何枚も飛んできたが、これは既にルディが防御魔法をかけていたためカリンの目と鼻の先で舞い落ちた。
「エリカ・ペイン。民間人であり国の要人対象になっているガウス夫人に対する禁断の魔法術を使い、更に魔法攻撃を仕掛けた事を魔法省により罪人とみなし確保する。大人しく従った方がいいと思うがね。」
オブリーがそう声をかけたと同時に会場の魔法師全員がエリカに対し杖を向けた。
「罪人?私はハヴェルン王室に名を刻む資格のある魔法師よ、私の研究成果を理解すればこの会場のあなた達も子どもが持てるのよ⁉︎」
「僕は作り物の子どもは欲しくない。」
壇上正面まで近づいていたアニエスが言った。
「君が何を研究し何体か実験しているのは知っている。僕らが生まれ持ったこの力は私利私欲のために使うものじゃない、君は自分の成果を神の力とでも思っているようだがそれは違う反対だ。それは悪魔の力、禁断の魔術だ!」
「は、何言っているの?これでもう、子どもや妻を失うことに怯えることも無くなるのよ?誰もが必ず自分の子どもを持てるわ。ねえ皆、そうでしょう?あなた達も子どもを諦めなくてよくなるのよっ‼︎」
「エリカ、残念だけれど私達も禁術に頼ってまで子どもは望まないわ。」
「あなたは、女性として人間として間違っている。」
「私達をあなたと一緒にしないで!」
エリカの同窓生である魔女たちがエリカの発言に牙を向いた。
「あなたは生命を軽んじている。」
カリンが一歩前に出て言い放った。
「あなたは愛することも愛されることも授かる喜びも失う哀しみもしらない、可哀想な人です。」
「ふ、ふふ。何よ偉そうに侍女上がり風情がっ!喜びも哀しみも知らない?いいえ知っているわ、授かる喜びはね!」
エリカの前におくるみに包まれた赤ん坊がフワリと現れた。
「・・・もう成功していたのか・・・」
赤ん坊はエリカの腕に収まると声高に泣きはじめた。




