金と銀の双璧〜鳶〜
あっさりとしたカミングアウトに軽いショックを受けながらも、カリンは少尉と会場に入った。王太子がどの様に上手く連れ出したのかは判らないがなるほど中は殆ど黒装束の集団だった。が、その中にこの場に居てはいけない異彩を放つ薄桃色のドレスが見える。
「っ!ルリ様・・・」
何故だろう皆に付いて行きそびれたのだろうか、ならば早く避難させなければと一歩進もうとすると片腕を少尉に軽く掴まれた。
「もしかしてクラーク夫人の心配なら問題ないぞ、さっき言った通りここはもう闘える奴等しかいねぇよ。」
「はっ?へ?え、じゃあルリ様ってまさか・・・」
「離宮時代から王太子に仕えている一番長い侍女だったってさ。筋がいいのをエンケル将軍当たりが見初めて鍛えたんじゃないの?薬草学も学んでて毒にも強いらしいし、とにかく歳は下でも俺の先輩。」
王太子付きの侍女なら確かに毒味役などもあるだろうし、離宮にいれば何かの拍子にその才を見抜かれてエンケル将軍の格好の餌食となり鍛えられるだろう。自分が歩んできた過去を振り返り納得するしかない、カリン自身ツェツィーリアに薬草学を学びアナスタシアから護身術としてのはずだった体術を学んでいるうちにいつの間にかエンケル将軍の弟子の様に扱われていた。だかしかし、つまりそれと同じ道を歩んでいるとすれば・・・。
「彼女の心配はいらないんですね。」
「そうゆうこと。で、そろそろ始まるかな。」
「何がですか?」
「鴉の中に鳶が一羽混じってるんだよ、ほら鳶と鴉って仲悪いじゃん?だからそろそろ乱入してくる手筈なんだよ。あ、俺らの鳶は仲悪くないからな、それどころか先頭任せていいくらいの最強の鳶だって皆信頼してる。」
鴉じゃなくて鳶・・・?カリンの脳裏に鮮やかな鳶色の髪を持つ、最強の攻撃の魔法師の一人が浮かび上がった。
「オブリーさんは鴉に属してないんですね。」
「うん、あの人あんたらの執事に集中してたし、公爵家絡みだから昔っからなかなかスカウトできなかったらしいよっと、おいでなすった。」
カリン達が使った部屋の隅にある目立たない扉ではなく、むしろ目立ちやすい扉からいつもの和かな表情で鳶・・・オブリー伯爵が入って来た。
「やあ、盛り上がっている様だね。私は皆さんの先輩で王太子付き魔法魔術師ニーム・エイナル・オブリー伯爵だ、突然お邪魔して申し訳ないが王太子殿下直々に余興を命ぜられてね。どうだろう、誰か私と魔法合戦をしないかな?私に勝てば殿下から褒賞が出るそうだが。」
にこりと笑ってサラリと言うが、攻撃に特化している優しげな魔法師に余興と言えど手を挙げる者はなかなかいない。
「おやおや、私じゃ役不足かな。仕方ない指名するよ?」
会場が一瞬騒ついた。
「ニーム・エリカ・ペイン男爵婦人」
「凄いなエリカご指名だ。」
「殿下からも目をかけられている証拠なんじゃないか?」
ルディとアニエスが口々に言う。エリカは一瞬怯んだが、真っ直ぐにオブリーを見据えて口を開いた。
「私など役不足ではございませんか?」
「いや、君がいい。近年爵位まで昇り詰める魔女はいないよ、殿下も多分立候補はいないだろうからその時は君をと望んでいらっしゃる。僕も同じ平民から爵位を拝命した立場同士、是非君の実力をしりたいね。」
あくまでも表情は爽やかに、しかし暗に野心家の実力を見せろと言っている。エリカは微笑んで答えた。
「褒賞はなんですの?」
「君の望みを叶えようと仰っていらっしゃるよ、もしかして僕に勝てば伯爵位も拝命できるかもしれないね。で、どうする?」
「まあ、そんなことは叶わないでしょう?でも、ささやかな望みがありますわ。喜んで受けて立ちます。」
椅子から立ち上がりエリカは前に進んだ。今頃、カリンは薬の効果で相手の男とどうにかなっているだろう。あとはオーランドに薬を盛ればいい、これは余興だ本気は出さないだろうし出されても今では禁術のお陰で互角に渡り合える自信がある。これはチャンス、オーランドに、ハヴェルン王室に自分の名を刻むチャンスなのだ。
二人は壇上に上がり魔法師の礼を取り杖を取り出す。
「覚悟はいいかい?ペイン男爵婦人。」
「はい伯爵、胸をお借りしますわ。」
「そうかい?じゃあ手加減しないけど怪我しない様にね。」
エリカが席を離れたのでカリンと少尉はルディの隣に近付いた。
「少尉⁉︎」
「訳は後で話すよ、さてと俺とかルリさんとか魔法師じゃないけどさちゃんと魔法から防御してくれるんだろうなアニエスさんよ。」
「はは、それは任せて下さい。オブリー伯爵の防御魔法も効いてる様だし、まず安心ですよ少尉。」
「アニエス、カリンさんは・・・」
「心配いらないよルリ。この人はルディ以外の魔法の影響は受けない、僕が防御してあげたくても無理なんだよ。」
「そ。そのうえお転婆娘・・あ、奥様か。ま、とにかくこの二人は放っといても大丈夫。一緒に戦った俺が保証するよ。」
「カリン、君の格好・・・」
「動きやすいお仕着せをお借りしようと妃殿下を訪ねたら、先を読まれてました。」
上目使いで叱られた子どもの様になる。
「はぁ、さすが妃殿下だ。じゃあ思いっきりやれるね?」
「はい!ケーキ食べ損ないましたし、今日はここでなにも口にしてません。食べ物の怨みがいかに恐ろしいか思い知らせてやりますっ。」
ぷっ、と周りの三人が吹き出す。そして、エリカ討伐の幕が上がった。




