エリカ・ペインの野望
王太子とルディ夫婦はあくまで自然にお互いが近づき、まずは王太子からルディに休みを楽しんでいるかと話しを振られた。
「長い休みを取りご迷惑をおかけして申し訳ありません殿下。しかしお陰様でゆっくりと休めており、ありがたく思っております。」
「そうか、ならいい。夫婦仲良くあちこち旅してくればいいさ、しかし今回はアレだなわざわざ同窓会の為に途中で一旦戻ったんだろう?カリンから聞いてるぞ。」
「はい、わざわざ戻ったのでそれなりの成果がなければどうも納得できない今宵でございます。留守中に何か変わったことがなかったかぜひ殿下にお聞きしておきたいのですが。」
夫婦揃って、アルベリヒにとってこの国で怒らせてはいけない最重要人物である、その二人がいま目の前で微笑を浮かべ詰め寄ってきていた。
「・・・は〜、わかったよ。防音魔法はかけてあるな?」
「勿論」
「ったく、準備のいい事だ。あのな、まず知りたいだろうカリンの方から話すぞ。まぁ、オーランドと共通して使われるのは惚れ薬だ。カリンが口にするものに含みタイミングを見計らって同じ薬を盛った何処かの誰か適当な奴を当て馬に持って来るつもりだ。で、オーランドだがなあいつも同じ薬を盛られてこちらはエリカに夢中になるわけさ、カリンにルディ以外の魔法は効かないって言いたいだろう?ところがこれが魔法ならいいんだが禁忌の術を使った秘薬になる、つまり呪詛に当たる。するとあれだ、古い話しだがブロワト事件以上にややこしい。アレは正統な魔法師の使う魔法ではなかったがそれでもお前達をあれ程に苦しめた、そして今回は正統な魔法師が学校で習う可愛らしい秘薬ではなく古の禁術を使う。幾らカリンが魔法の類を跳ね返すと言ってもどんな影響があるかわからん。しかも、あの女かなりの貪欲だな自分の血を王族に混ぜたいらしい。」
「でも、仮に上手くいったとしても魔法師が出産する確率はかなり低いじゃ無いですか。」
「そこなんだ。それなのに自信過剰にやって来ている、もし彼女が手に入れた方法が正当に懐妊できる方法ならば聞き出し今後の魔法師達に活かさねばならん。しかしどうも違うんだ、長年魔法省が研究しても成果の出ない出生率にまつわることをたった一人で簡単に解けるわけがない・・・魔法省はこれも禁忌の術、それも最悪の人体錬成で生み出そうとしているのではないかと睨んでいる。だからとにかく標的の二人とも今日はなにも口にするな。カリン、なにが起きるかわからない自分を過信し過ぎて後悔する事になってはいかんぞ。」
そこでルディから先に話して欲しかったとクレームが入り、言えばお前ら来ないかルディが平静じゃいないだろうと言う様なやり取りが始まったがカリンはぼんやりと考えていた。
あの時失った子どもの事を・・・。自分の懐妊に気づくか気づかないかの時だった、いくらハプトマンの祝福の加護を受けている娘だからとそう簡単に妊娠するだろうかと思案し、それでも慎重に生活していた。そして、その命は確かに自分の中に存在し運命にあがらえず流れて行った・・・あの時の事はルディは察している様だが自分からは何も言っていない、言えないほどの悲しみに今も苛まれているのだ。気がつくと両手の拳を握りしめ全身が震えていた、魔法師だけでなく誰もが愛する人との子どもを願っていてそれが叶わない・・・特に女性は悩み苦しんでいるのだ、それを人工的にそれも禁忌の技で作り上げようとしているエリカに吐き気がした。
「・・・人体錬成?馬鹿にしているわ・・・」
絞り出した声まで震えていた。アルベリヒとルディがただならぬ気配にカリンを見やる。
「生命をなんだと思っているの神をも恐れぬ冒涜、絶対許されない。」
「カリン⁉︎大丈夫かい、落ち着いて。」
「あなたは落ち着いていられるの⁉︎オーランド殿下が策に嵌められ、王室に穢れた生命が誕生するかもしれないのよ?しかも彼女かなり危ないわ、あなたも気づかない様にどうやってか解らないけどあのグラスにあの時確実に秘薬を盛っていた。手が滑ったと思っていたけれどあれは偶然じゃない、誰かが私の身を守ってくれたんだわ。誰か・・・あの時の女の子・・・?」
エリカに対する嫌悪感で頭痛がしてきた。ルディもアルベリヒもここまで激しく感情露わに怒っているカリンを初めて見る、その時カリンの両脇に子どもが二人現れた。
「ダメだなぁ。ちゃんと守ってあげないと爆発寸前じゃないか。」
黒髪の少年が言う。
「ね?おいすにすわりましょう。おちついていきをしてみて。」
先刻見た少女がカリンに椅子を勧める。カリンは言われた通り座り深く呼吸を繰り返した、その背中を少女は小さな手でさすっている。それをチラリと見てから少年がルディに進言した。
「貴方がしっかりと守ってあげないと、この人の能力が爆発したらこの会場ただじゃすみませんよ。全くもう・・・参ったなここ迄感情的になるなんて想定外だ。あの方に報告しなくちゃ・・・」
立ち去ろうとする少年に慌てて声を掛ける。
「待って‼︎君らは何者なんだい⁉︎」
「だからまだ何者でもないけど・・・ん〜まぁ、あの方に近いかな。」
「あの方・・・ハーヴェイ様かい?あ、あれ?」
二人は目の前からかき消す様に消えていた。
ルディはアルベリヒにオーランドを安全な場所に移す様進言し、カリンに近づく。カリンの周りには、ぼんやりと見たことも触れたことも無い気が纏わり付いていた。




